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第十七話:風の竜姫の躾と、王の解放

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 風の竜姫セフィラとの盟約を締結し、城へと戻ったヒカルを出迎えたのは、即座にヒカルを独占しようとする三人の妻たち、そして一つの新しい混乱だった。

 セフィラは軽やかな風と共にヒカルの隣に着地するや否や、屈託のない笑顔で宣言した。

「団長、お帰り! さあ、私の番だ。今日から団長の躾(しつけ)をさせてもらうよ」
「躾、だと?」

 ヒカルが戸惑う間に、セフィラはヒカルの腕に抱きつき、その軽装のミニスカート姿でレヴィアたちを挑発する。

「そう! 団長は王の義務に縛られすぎだ。王の安全を確保するのも大事だけど、団長が楽しくなければ意味がない。だから、最高の冒険を教えてあげる。ほら、行くよ!」

 セフィラはヒカルの手を引き、そのまま城壁を駆け上がろうとする。その行動に、紅蓮の激情竜姫レヴィアの独占欲は瞬時に臨界点を超えた。

「待ちなさい、末妹! その男は私の(おっと)よ! 貴様のような奔放な子供に、王の義務を放棄させる権利はないわ! なぜ私との独占時間を優先しないの!?」

 レヴィアの体から噴き出す炎が城壁を焦がし始め、蒼玉の理性竜姫アクアは冷静に、しかし鋭く割って入った。

「レヴィア、感情的にならないこと。セフィラ。貴女の行動は非合理です。王の安全と軍の統制を脅かしかねない。シエル、セフィラの行動を阻止しなさい」

 深海の戦術師シエルが静かに一歩踏み出す。

 そして、磐石の守護龍テラが静かにヒカルの背後に立ち、優しく彼の肩に手を置いた。

「主(あるじ)。わらわは王の義務を優先します。王妃アクア様の懸念はごもっともです。しかし…」

 テラはレヴィアとセフィラの間を見据えた。

「王の疲労は、我々三龍が最も恐れるべき事態です。どうかご自身の心身の防御だけは怠らないでください。わらわの愛が、王の盾となることを信じています」

 ヒカルは再び三人の愛の奔流に晒され、頭痛を覚えた。

(【レヴィア:嫉妬:100%/怒り:90%】、【アクア:警戒:75%/不満:50%】、【テラ:献身:90%/不安:40%】…………このままでは、またユニゾンが暴走する)

 その時、セフィラの横に控えていた補佐竜、ゼファーが、中性的な精悍な顔立ちに冷徹な光を宿し、前に出た。

 セフィラの補佐竜ゼファーは、中性的で茶髪のポニーテール。白いフード付きのノースリーブジャケットを着用し、常に風のような軽やかさを纏う。その瞳の奥には、セフィラの遊び心を戦略的な優位性に変える冷静なビジネス感覚が隠されていた。

「お待ちください、王妃の皆様」

 ゼファーの声は、風のように静かだが、論理的な圧力を帯びていた。

「風の竜姫セフィラの行動は、王の心身のリフレッシュという軍務の最適化に必要不可欠と、参謀部隊(アクア様)が判断しました」

 アクアは眉をひそめた。

「ゼファー。私はそんな判断は下していない」
「いいえ、王妃アクア様」

 ゼファーは冷静に反論した。

「王は連日、三龍の感情の調律と、鉄壁の将(アイアン・ウォール)との戦闘以降続いている泥沼の小競り合い、そして内政的な課題により、精神的な疲弊が極限に達しています。この疲弊は、王の『戦場の視覚化』の正確性と、『絆の共感者』のユニゾン成功率に重大な悪影響を及ぼします」

 ゼファーはレヴィアに向き直る。

「激情竜姫レヴィア様。王の心身のリフレッシュは、貴女の激情という矛の切れ味を維持するための、最も重要な兵站です。王が倒れれば、貴女の独占欲を満たす夫は永遠に失われます。王の自由な活動は、軍務遂行率を最大化する王の義務であると、このゼファーが保障します」

 ゼファーの冷徹な「論理」は、アクアの警戒を解き、レヴィアの嫉妬を「王の安全」という名目の下に封じ込めた。テラはゼファーの主張に静かに頷いた。ヒカルは、ゼファーの能力に舌を巻いた。

(シエルに匹敵する、いや、それ以上に巧妙に感情を論理に変換する副官だ。彼女の存在は、この軍団の継戦能力を高める)

「分かったわ…………」

 レヴィアは唇を噛みしめ、涙目でヒカルを見送った。

「でも、陽が落ちる前に戻ってこい! 帰ってきたら、一晩中、私の愛で疲労を焼き尽くしてやる!」

(ひ、一晩中か。とはいえ、反故にすれば命がないからな……)

 ヒカルは覚悟を決めて、レヴィアに小さく手を振った。

「決まりだね!」

 セフィラは満足げに笑い、ヒカルを抱きかかえて巨大な風の竜と化した。

「さあ、団長。退屈な王の仮面は脱いで、最高の冒険を始めよう!」

 セフィラの竜体は、レヴィアの灼熱の炎やテラの重厚な土とは全く異なり、透明で軽やかな光の渦を纏っていた。それはヒカルを王の重圧から解放する、自由の象徴だった。

 渓谷を抜け、雲を突き破って青空を高速で飛び回る。ヒカルの髪は乱れ、体は風に叩きつけられるが、その心は不思議と穏やかだった。

(そうだ…………この感覚だ。人間社会で裏切られた後、常に逃げ惑い、全てを警戒していた。王になってからも、重圧と義務に縛られていた…………)

 セフィラの無邪気な愛は、ヒカルを追放者としての自由な感覚へと回帰させた。

「ねえ、団長!」

 セフィラが人型に戻り、ヒカルを抱きかかえたまま、雲の上に着地した。

「王の義務なんて、一時停止でいいんだよ。だって、私の団長は、私が作った最高の冒険のリーダーなんだから!」

 セフィラは、まるで子供のように屈託のない笑顔で、ヒカルの頬に無邪気ないたずらのキスを落とした。

「私が欲しいのは、王の命令じゃない。団長の冒険心と、私への単純な喜びだよ。ね、団長。私にもっと、大胆に愛情を返してよ」

 セフィラの単純で純粋な喜びは、ヒカルの心の奥底に眠っていた冒険心を呼び覚ました。彼女の愛は、王の孤独を包み込み、ヒカルがより大胆に、そして感情豊かに愛情を返すことを可能にした。

「ああ、セフィラ。ありがとう。君の言う通りだ。俺は王である前に、冒険を愛する団長だ」

 ヒカルはセフィラを強く抱きしめ、彼女の自由な愛に応えた。この瞬間、盟約軍は、偵察という戦略的機動力だけでなく、王の精神的リフレッシュという最大の兵站を確保したのだ。

【第18話へ続く】




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 風の竜姫セフィラとの盟約を締結し、城へと戻ったヒカルを出迎えたのは、即座にヒカルを独占しようとする三人の妻たち、そして一つの新しい混乱だった。
 セフィラは軽やかな風と共にヒカルの隣に着地するや否や、屈託のない笑顔で宣言した。
「団長、お帰り! さあ、私の番だ。今日から団長の躾(しつけ)をさせてもらうよ」
「躾、だと?」
 ヒカルが戸惑う間に、セフィラはヒカルの腕に抱きつき、その軽装のミニスカート姿でレヴィアたちを挑発する。
「そう! 団長は王の義務に縛られすぎだ。王の安全を確保するのも大事だけど、団長が楽しくなければ意味がない。だから、最高の冒険を教えてあげる。ほら、行くよ!」
 セフィラはヒカルの手を引き、そのまま城壁を駆け上がろうとする。その行動に、紅蓮の激情竜姫レヴィアの独占欲は瞬時に臨界点を超えた。
「待ちなさい、末妹! その男は私の夫《おっと》よ! 貴様のような奔放な子供に、王の義務を放棄させる権利はないわ! なぜ私との独占時間を優先しないの!?」
 レヴィアの体から噴き出す炎が城壁を焦がし始め、蒼玉の理性竜姫アクアは冷静に、しかし鋭く割って入った。
「レヴィア、感情的にならないこと。セフィラ。貴女の行動は非合理です。王の安全と軍の統制を脅かしかねない。シエル、セフィラの行動を阻止しなさい」
 深海の戦術師シエルが静かに一歩踏み出す。
 そして、磐石の守護龍テラが静かにヒカルの背後に立ち、優しく彼の肩に手を置いた。
「主《あるじ》。わらわは王の義務を優先します。王妃アクア様の懸念はごもっともです。しかし…」
 テラはレヴィアとセフィラの間を見据えた。
「王の疲労は、我々三龍が最も恐れるべき事態です。どうかご自身の心身の防御だけは怠らないでください。わらわの愛が、王の盾となることを信じています」
 ヒカルは再び三人の愛の奔流に晒され、頭痛を覚えた。
(【レヴィア:嫉妬:100%/怒り:90%】、【アクア:警戒:75%/不満:50%】、【テラ:献身:90%/不安:40%】…………このままでは、またユニゾンが暴走する)
 その時、セフィラの横に控えていた補佐竜、ゼファーが、中性的な精悍な顔立ちに冷徹な光を宿し、前に出た。
 セフィラの補佐竜ゼファーは、中性的で茶髪のポニーテール。白いフード付きのノースリーブジャケットを着用し、常に風のような軽やかさを纏う。その瞳の奥には、セフィラの遊び心を戦略的な優位性に変える冷静なビジネス感覚が隠されていた。
「お待ちください、王妃の皆様」
 ゼファーの声は、風のように静かだが、論理的な圧力を帯びていた。
「風の竜姫セフィラの行動は、王の心身のリフレッシュという軍務の最適化に必要不可欠と、参謀部隊(アクア様)が判断しました」
 アクアは眉をひそめた。
「ゼファー。私はそんな判断は下していない」
「いいえ、王妃アクア様」
 ゼファーは冷静に反論した。
「王は連日、三龍の感情の調律と、|鉄壁の将 《アイアン・ウォール》との戦闘以降続いている泥沼の小競り合い、そして内政的な課題により、精神的な疲弊が極限に達しています。この疲弊は、王の『戦場の視覚化』の正確性と、『絆の共感者』のユニゾン成功率に重大な悪影響を及ぼします」
 ゼファーはレヴィアに向き直る。
「激情竜姫レヴィア様。王の心身のリフレッシュは、貴女の激情という矛の切れ味を維持するための、最も重要な兵站です。王が倒れれば、貴女の独占欲を満たす夫は永遠に失われます。王の自由な活動は、軍務遂行率を最大化する王の義務であると、このゼファーが保障します」
 ゼファーの冷徹な「論理」は、アクアの警戒を解き、レヴィアの嫉妬を「王の安全」という名目の下に封じ込めた。テラはゼファーの主張に静かに頷いた。ヒカルは、ゼファーの能力に舌を巻いた。
(シエルに匹敵する、いや、それ以上に巧妙に感情を論理に変換する副官だ。彼女の存在は、この軍団の継戦能力を高める)
「分かったわ…………」
 レヴィアは唇を噛みしめ、涙目でヒカルを見送った。
「でも、陽が落ちる前に戻ってこい! 帰ってきたら、一晩中、私の愛で疲労を焼き尽くしてやる!」
(ひ、一晩中か。とはいえ、反故にすれば命がないからな……)
 ヒカルは覚悟を決めて、レヴィアに小さく手を振った。
「決まりだね!」
 セフィラは満足げに笑い、ヒカルを抱きかかえて巨大な風の竜と化した。
「さあ、団長。退屈な王の仮面は脱いで、最高の冒険を始めよう!」
 セフィラの竜体は、レヴィアの灼熱の炎やテラの重厚な土とは全く異なり、透明で軽やかな光の渦を纏っていた。それはヒカルを王の重圧から解放する、自由の象徴だった。
 渓谷を抜け、雲を突き破って青空を高速で飛び回る。ヒカルの髪は乱れ、体は風に叩きつけられるが、その心は不思議と穏やかだった。
(そうだ…………この感覚だ。人間社会で裏切られた後、常に逃げ惑い、全てを警戒していた。王になってからも、重圧と義務に縛られていた…………)
 セフィラの無邪気な愛は、ヒカルを追放者としての自由な感覚へと回帰させた。
「ねえ、団長!」
 セフィラが人型に戻り、ヒカルを抱きかかえたまま、雲の上に着地した。
「王の義務なんて、一時停止でいいんだよ。だって、私の団長は、私が作った最高の冒険のリーダーなんだから!」
 セフィラは、まるで子供のように屈託のない笑顔で、ヒカルの頬に無邪気ないたずらのキスを落とした。
「私が欲しいのは、王の命令じゃない。団長の冒険心と、私への単純な喜びだよ。ね、団長。私にもっと、大胆に愛情を返してよ」
 セフィラの単純で純粋な喜びは、ヒカルの心の奥底に眠っていた冒険心を呼び覚ました。彼女の愛は、王の孤独を包み込み、ヒカルがより大胆に、そして感情豊かに愛情を返すことを可能にした。
「ああ、セフィラ。ありがとう。君の言う通りだ。俺は王である前に、冒険を愛する団長だ」
 ヒカルはセフィラを強く抱きしめ、彼女の自由な愛に応えた。この瞬間、盟約軍は、偵察という戦略的機動力だけでなく、王の精神的リフレッシュという最大の兵站を確保したのだ。
【第18話へ続く】