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第九話:六龍姫の全貌と、軍団最大の弱点

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 ユニゾンブレスの訓練を終え、ヒカルは組織図の策定時に抱いた疑問を解消しようとした。

「アクアよ。レヴィアが三女、君が次女だと言っていたな。ということは、姉妹は二人ではないのだろう? 当然、長女はいるのだな?」

 ヒカルの問いに、蒼玉の理性竜姫アクアが冷静に応じた。

「我々、六龍姫は六人姉妹です、王よ。長女はヴァルキリア(闇)、末妹はセフィラ(風)。残りの四人も、それぞれ属性と居場所を持っていますわ」

 ヒカルは、自分の支配下に置くべき龍姫がまだ四人もいることに、改めて途方もない使命を実感した。

「な、なるほど……。ところで、この軍の最大の弱点はどこにある、シエル」

 ヒカルの直接的な問いに、深海の戦術師シエルは即座に分析結果を提示した。

「現在の二龍盟約軍は、紅蓮の激情竜姫レヴィア様を主軸とした『超攻撃型』です。しかし、これが最大の弱点です。レヴィア様の部隊は、敵の戦力を殲滅することに優れていますが、長期の防衛戦や鉄壁の要塞攻略において、必要とする耐久力と防御力が決定的に不足しています」

 ヒカルはシエルの冷静かつ的確な分析に感心し、目を細めた。

「貴様の戦況分析と判断の速さは、アクアに匹敵する、いや、それ以上かもしれん。もしかして、貴様は、かつてアクアの教育係を務めていたのではないか?」

 シエルは感情を動かさず、静かに事実を認めた。

「はい、王。僭越ながら、幼少期よりアクア様の理知的な思考の教育を担当させていただきました」

 ヒカルは深く納得した。

(なるほど。アクアの、あの常軌を逸した合理性と知性は、シエルという冷徹な頭脳の教育あってこそ、か。この二人が揃えば、確かに俺の軍団は強大な頭脳を手に入れたことになる)

 シエルはさらに続けた。

「長期間、敵の猛攻を耐え抜き、本陣を不動の要塞とするための強固な防壁となる部隊が、我が軍には存在しません。この弱点を放置すれば、敵の持久戦術により、我が軍は資源を枯渇させられるでしょう」

 ◇◆◇◆◇

 ヒカルは、シエルの分析に深く納得した。自身の復讐を達成するには、一撃必殺の火力だけでなく、不落の城となる防御が必要だ。

「強固な防壁が必要か。土の龍姫は、防御に特化しているのだろうか?」

 ヒカルの問いかけに、レヴィアが不満をあらわにしながらも、戦略的な必要性を理解した表情で口を開いた。

「四女のテラのことね。あの子は、私たち姉妹の中で最も防御に特化している。二つ名は『磐石の守護龍』。動かないことにかけては、あの理性の塊のアクアより上よ」

 ヒカルは、次の行動のために具体的な情報を求めた。

「では、テラの居場所と、我々が接触する上での注意点を教えろ。軍師(王)としては、無用な戦闘は避けたいのだが……」

 アクアが口を開いた。

「テラは現在、古代の遺跡が点在する『大地の迷宮』深部にいます。彼女は自身の領地を天然の要塞とし、外部からの接触を一切拒否しています。彼女と会うには、彼女の『領地を守りたい』という献身的な動機に訴えかける必要があります」

 レヴィアが、焦燥感を滲ませながら補足した。

「注意すべきは、あの子の『過剰な献身性』よ。テラは『主(あるじ)の役に立たなければ』という意識が強すぎるのよ。王が弱みを見せたり、過度に褒めすぎたりすると、過労死レベルで尽くそうとするわ。それと、あの子の私生活は非常に質素。派手な食べ物や贈り物は厳禁よ!」

 シエルが、戦略的な分析を付け加えた。

「テラ様の部隊は、防御力だけでなく資源の備蓄能力にも優れています。戦闘が避けられない場合、彼女の要塞は突破不可能と分析されます。接触は、交渉を最優先すべきです」

 ヒカルは、提供された情報を頭の中で瞬時に整理し、出撃メンバーを決定した。

「シエル、フレア。貴様らは本拠地の防衛に残れ。シエルはアクアの役割を引き継ぎ、本陣の経済と戦略的指揮を執れ。フレアは、その純粋な力でシエルを護衛せよ。貴様たちの属性は水と油だが、王の命令が貴様たちの絆となる」

 ヒカルは続けた。

「テラを刺激しないため、連れて行くのは最小限の精鋭とする。レヴィアとアクア、貴様たち二人だ」
「えー、我だけでも十分なのにぃ…」

 案の定、レヴィアが駄々をこねた。

「テラとの交渉には、最強の抑止力が必要だ。そして、最も献身的な愛を持つテラと交渉するには、貴様たち妻としての地位を競う二人の龍姫の存在が、テラにとって最も大きな刺激となる。この選択は、合理的だ」

 ヒカルの言葉を受け、無言を貫いていた爆炎龍将軍フレアが、鋭い視線で口を開いた。

「お待ちください、王よ」

 フレアは、強い口調で訴えた。

「我々爆炎龍将軍と深海の戦術師の組み合わせは、水と油です。仰る通り、この大穴の防衛を、激情と計算のみに委ねるのは、正気の沙汰ではない。しかし…………」

 だか、フレアは、ヒカルの決意を目の当たりにし、憎しみを乗り越えて忠誠を選んだ。

「王の命令とあれば、異論はありません。私の誇りをかけて、深海の戦術師シエル殿の理性と頭脳を守り抜きましょう。くれぐれも、ご無事で」

 一瞬、反対をされるかとヒカルは覚悟したが、フレアがあっさりと承諾したのは、ヒカルにとっても驚くことであった。

 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静な表情を崩さなかったが、口元に微かな笑みを浮かべた。

「そうよ、レヴィア。本来なら、私と王の知恵があれば十分。あなたは念の為の抑止力。何せテラの強さは私より上だから」
「分かったわよ。テラが暴れた時は、我の出番ってことよね…」

(テラというのは、アクアを凌駕する強さなのか……。そのための抑止力のレヴィアの機嫌を損ねたら命取りだな…)

「王の安全は私たちが確約いたしますわ。フレア、シエル。留守は任せました」
「…よ、よろしく頼むぞ」
「ご安心なされまし…」

 アクアはヒカルに満面の笑みを返した。

 レヴィアは、姉と夫のやり取りに我慢がならなかった。

「た、だ、し! テラに会って、あの子の献身的な愛に王が魅了されたとしても、正妻の地位は私だけのものよ! 私の妻としての地位は、アクアや他の誰にも譲らないわ! テラへの接触は、私とアクアも同行する!」
「わ、わかった。お前への愛は間違いないから安心しろ! で、では、テラに会いに行く。二龍盟約軍の最大の弱点を、愛の絆で埋めるぞ。直ちに出発の準備にかかれ!」
「うん、うん。我も愛しているわ、夫よー。では、行きましょ」

 レヴィアは最終的に上機嫌だった。

【第10話へ続く】


次のエピソードへ進む 第十話:磐石の守護龍と盟約軍の母


みんなのリアクション

 ユニゾンブレスの訓練を終え、ヒカルは組織図の策定時に抱いた疑問を解消しようとした。
「アクアよ。レヴィアが三女、君が次女だと言っていたな。ということは、姉妹は二人ではないのだろう? 当然、長女はいるのだな?」
 ヒカルの問いに、蒼玉の理性竜姫アクアが冷静に応じた。
「我々、六龍姫は六人姉妹です、王よ。長女はヴァルキリア(闇)、末妹はセフィラ(風)。残りの四人も、それぞれ属性と居場所を持っていますわ」
 ヒカルは、自分の支配下に置くべき龍姫がまだ四人もいることに、改めて途方もない使命を実感した。
「な、なるほど……。ところで、この軍の最大の弱点はどこにある、シエル」
 ヒカルの直接的な問いに、深海の戦術師シエルは即座に分析結果を提示した。
「現在の二龍盟約軍は、紅蓮の激情竜姫レヴィア様を主軸とした『超攻撃型』です。しかし、これが最大の弱点です。レヴィア様の部隊は、敵の戦力を殲滅することに優れていますが、長期の防衛戦や鉄壁の要塞攻略において、必要とする耐久力と防御力が決定的に不足しています」
 ヒカルはシエルの冷静かつ的確な分析に感心し、目を細めた。
「貴様の戦況分析と判断の速さは、アクアに匹敵する、いや、それ以上かもしれん。もしかして、貴様は、かつてアクアの教育係を務めていたのではないか?」
 シエルは感情を動かさず、静かに事実を認めた。
「はい、王。僭越ながら、幼少期よりアクア様の理知的な思考の教育を担当させていただきました」
 ヒカルは深く納得した。
(なるほど。アクアの、あの常軌を逸した合理性と知性は、シエルという冷徹な頭脳の教育あってこそ、か。この二人が揃えば、確かに俺の軍団は強大な頭脳を手に入れたことになる)
 シエルはさらに続けた。
「長期間、敵の猛攻を耐え抜き、本陣を不動の要塞とするための強固な防壁となる部隊が、我が軍には存在しません。この弱点を放置すれば、敵の持久戦術により、我が軍は資源を枯渇させられるでしょう」
 ◇◆◇◆◇
 ヒカルは、シエルの分析に深く納得した。自身の復讐を達成するには、一撃必殺の火力だけでなく、不落の城となる防御が必要だ。
「強固な防壁が必要か。土の龍姫は、防御に特化しているのだろうか?」
 ヒカルの問いかけに、レヴィアが不満をあらわにしながらも、戦略的な必要性を理解した表情で口を開いた。
「四女のテラのことね。あの子は、私たち姉妹の中で最も防御に特化している。二つ名は『磐石の守護龍』。動かないことにかけては、あの理性の塊のアクアより上よ」
 ヒカルは、次の行動のために具体的な情報を求めた。
「では、テラの居場所と、我々が接触する上での注意点を教えろ。軍師(王)としては、無用な戦闘は避けたいのだが……」
 アクアが口を開いた。
「テラは現在、古代の遺跡が点在する『大地の迷宮』深部にいます。彼女は自身の領地を天然の要塞とし、外部からの接触を一切拒否しています。彼女と会うには、彼女の『領地を守りたい』という献身的な動機に訴えかける必要があります」
 レヴィアが、焦燥感を滲ませながら補足した。
「注意すべきは、あの子の『過剰な献身性』よ。テラは『主《あるじ》の役に立たなければ』という意識が強すぎるのよ。王が弱みを見せたり、過度に褒めすぎたりすると、過労死レベルで尽くそうとするわ。それと、あの子の私生活は非常に質素。派手な食べ物や贈り物は厳禁よ!」
 シエルが、戦略的な分析を付け加えた。
「テラ様の部隊は、防御力だけでなく資源の備蓄能力にも優れています。戦闘が避けられない場合、彼女の要塞は突破不可能と分析されます。接触は、交渉を最優先すべきです」
 ヒカルは、提供された情報を頭の中で瞬時に整理し、出撃メンバーを決定した。
「シエル、フレア。貴様らは本拠地の防衛に残れ。シエルはアクアの役割を引き継ぎ、本陣の経済と戦略的指揮を執れ。フレアは、その純粋な力でシエルを護衛せよ。貴様たちの属性は水と油だが、王の命令が貴様たちの絆となる」
 ヒカルは続けた。
「テラを刺激しないため、連れて行くのは最小限の精鋭とする。レヴィアとアクア、貴様たち二人だ」
「えー、我だけでも十分なのにぃ…」
 案の定、レヴィアが駄々をこねた。
「テラとの交渉には、最強の抑止力が必要だ。そして、最も献身的な愛を持つテラと交渉するには、貴様たち妻としての地位を競う二人の龍姫の存在が、テラにとって最も大きな刺激となる。この選択は、合理的だ」
 ヒカルの言葉を受け、無言を貫いていた爆炎龍将軍フレアが、鋭い視線で口を開いた。
「お待ちください、王よ」
 フレアは、強い口調で訴えた。
「我々爆炎龍将軍と深海の戦術師の組み合わせは、水と油です。仰る通り、この大穴の防衛を、激情と計算のみに委ねるのは、正気の沙汰ではない。しかし…………」
 だか、フレアは、ヒカルの決意を目の当たりにし、憎しみを乗り越えて忠誠を選んだ。
「王の命令とあれば、異論はありません。私の誇りをかけて、深海の戦術師シエル殿の理性と頭脳を守り抜きましょう。くれぐれも、ご無事で」
 一瞬、反対をされるかとヒカルは覚悟したが、フレアがあっさりと承諾したのは、ヒカルにとっても驚くことであった。
 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静な表情を崩さなかったが、口元に微かな笑みを浮かべた。
「そうよ、レヴィア。本来なら、私と王の知恵があれば十分。あなたは念の為の抑止力。何せテラの強さは私より上だから」
「分かったわよ。テラが暴れた時は、我の出番ってことよね…」
(テラというのは、アクアを凌駕する強さなのか……。そのための抑止力のレヴィアの機嫌を損ねたら命取りだな…)
「王の安全は私たちが確約いたしますわ。フレア、シエル。留守は任せました」
「…よ、よろしく頼むぞ」
「ご安心なされまし…」
 アクアはヒカルに満面の笑みを返した。
 レヴィアは、姉と夫のやり取りに我慢がならなかった。
「た、だ、し! テラに会って、あの子の献身的な愛に王が魅了されたとしても、正妻の地位は私だけのものよ! 私の妻としての地位は、アクアや他の誰にも譲らないわ! テラへの接触は、私とアクアも同行する!」
「わ、わかった。お前への愛は間違いないから安心しろ! で、では、テラに会いに行く。二龍盟約軍の最大の弱点を、愛の絆で埋めるぞ。直ちに出発の準備にかかれ!」
「うん、うん。我も愛しているわ、夫よー。では、行きましょ」
 レヴィアは最終的に上機嫌だった。
【第10話へ続く】