第三部・幕間④〜彼女の想いで〜佐倉桃華の巻
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〜佐倉桃華の見解〜
『PR動画コンテスト』が終了し、広報部でのミーティング後のあと片付けを終えると、くろセンパイ、きぃセンパイのふたりが、ワタシと宮野さんを食事に誘ってくれた。
くろセンパイが言うには、
「壮馬の祝勝会とオレたちの残念会を兼ねた宴だ!」
ということだそうだ。
先月に続いて、広報部の親睦会という側面が強かったと思うが、(彼女を慕ってるらしい宮野さんには申し訳ないけど)あの忌々しい上級生がいなかったことで、ワタシは、このひとときを心から楽しむことができた。
同じマンションに住むセンパイと一緒に帰ってきて、彼と玄関の前で別れたワタシは、蒸し暑さを感じさせる室内に入るとすぐにエアコンのスイッチをオンにして、ヒンヤリとした風を浴びながら、買ったばかりの小さめの座椅子に腰掛けると、「フ〜」と息を吐き出した。
今回の『PR動画コンテスト』の企画は、久々にハードスケジュールで心身ともにダメージが少なくなかった。
客観的に見れば、病み上がりといっても良い下級生に対して、連日の取材活動とVtuberとしてのアフレコというタイトなスケジュールに帯同させるセンパイの鬼畜ぶりを糾弾するところだろうけど、当のワタシは、彼とふたりで行う活動が楽しくて仕方がなかった。
最初に、
「クラブ紹介を兼ねたVtuberのキャラクターを作ってみたらどうか?」
という提案をしたのは、ワタシ自身だったけど、くろセンパイは、自分のスキルを活かしてVtuberのキャラクターを演じてみたい、というコチラの意図をほぼ100パーセント正確に汲んでくれた上に、芦宮サクラのキャラデザやキャプチャリングをスムーズに行うために、美術部やコンピュータクラブの協力を取り付けたアイデアと行動力は、本当に頼もしく感じた。
自分の想いを理解してくれるだけでなく、期待以上のことを行動で示してくれるのは、中学生の入学直後に、色恋沙汰のイザコザから、クラスの女子に絡まれているところを助けてくれたときから、変わっていない。
壁のそばに置いた座椅子に背中を預けながら、数年前の想いでにひたる。
クラスの女子からの八つ当たり(という見解は、決して自分の主観だけではないと思う)から始まった嫌がらせを切り抜けたワタシは、入学してからの希望どおり、校内放送のメイン・パーソナリティを務めることができた。
それは、新入生であるワタシを抜擢してくれた(当時は放送部の代表だった)鳳花部長の洞察力によるところもあると思うけれど、やっぱり、放送の相方としてワタシのトーク・スキルを引き出してくれた、くろセンパイのフォローによる面が大きい。
毒舌と思われるギリギリのラインの発言を笑って聞いてもらえる内容にソフトランディングしてもらえたのは、校内放送でのくろセンパイが、ちょっと頼りない先輩キャラを演じてくれていたからだということを、ワタシは十分に理解しているつもりだ。
普段の放送では、彼の言動をイジることの多かったワタシだけど、くろセンパイが本当は頼りになる上級生だということは、自分だけが知っていれば良い、と思っていたし、彼の良さはワタシだけが理解できていれば良い、と考えて、他の女子が近づかないように、あえてセンパイを持ち上げるような発言をセーブしていた。
そんなこともあって、中学生時代のくろセンパイは、自分のことを非モテキャラだと思い込んでいたようだ。
その原因が自分自身にあることを申し訳なく思いつつも、自分自身がそうだったように、興味のない異性から好意を持たれる煩わしさに、彼を巻き込まなくて良かったと感じている部分もある。
だから、このひと月ほど、くろセンパイとともに過ごす時間は、中学生時代の放送部の活動の再現のようで、心身ともにクタクタになるようなスケジュールだったけど、その時間は、とても充実したモノだったと感じている。
そして、ワタシと、くろセンパイとのふたりだけの関係を考えれば、それで十分だったんだけど……。
中学を卒業し、先に芦宮高校に進学したセンパイは、短期間の間に、ふたりの同級生に告白(そして失敗)している。
その外的要素のことを考えると、ワタシの気持ちは塞ぎ込んでしまいそうになる。
(やっぱり、年下だと、くろセンパイには恋愛対象として見られないのかな……)
決して認めたくはないけど、普段はあえて考えないようにしているネガティブな思考が頭を駆け巡る。
今回の動画コンテストの結果として、(自分が言い出しっぺではあるけど)ワタシが、鼻うがいの披露という屈辱的行為を課されるピンチに陥って、くろセンパイにその罰ゲームを背負ってもらおうとしたところ、最初こそ、「ここは話し合いを……」と渋った彼は、
「ま、まぁ、女子にこんなことさせる訳にもいかないか……わかった……オレがやるよ」
と、頭をかきながら、提案を受け入れてくれた。
くろセンパイのことだから、ワタシたち三人の女子生徒に恥をかかせることはできないと考えているんだろうけど、その笑顔は、中学時代に三人のクラスメートに呼び出されたあと、彼女たちが退散した直後に、くだらない言い掛かりをつけてくる女子や、こっちの気持ちも考えずに告ってくる男子に対する本音をぶちまけたときに、
「やっぱ、面白いヤツだな、佐倉は……」
と、苦笑したときの表情と重なる。
そのときのことを思い出しながら、今までにないくらいの胸の痛みを感じたワタシは、この一ヶ月でたまった疲れを洗い流そうと考えて、お風呂の準備をしようと、大きく身体を伸ばしてから座椅子から立ち上がる。
その直後、バイブレーション機能をオンにしていたスマホが鳴動し、LANEのメッセージが着信したことを告げる。
スマホを手にして画面を確認すると、メッセージの送り主は、上級生の天竹さんだった。
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〜|佐倉桃華《さくらももか》の見解〜
『PR動画コンテスト』が終了し、広報部でのミーティング後のあと片付けを終えると、くろセンパイ、きぃセンパイのふたりが、ワタシと宮野さんを食事に誘ってくれた。
くろセンパイが言うには、
「壮馬の祝勝会とオレたちの残念会を兼ねた宴だ!」
ということだそうだ。
先月に続いて、広報部の親睦会という側面が強かったと思うが、(彼女を慕ってるらしい宮野さんには申し訳ないけど)あの忌々しい上級生がいなかったことで、ワタシは、このひとときを心から楽しむことができた。
同じマンションに住むセンパイと一緒に帰ってきて、彼と玄関の前で別れたワタシは、蒸し暑さを感じさせる室内に入るとすぐにエアコンのスイッチをオンにして、ヒンヤリとした風を浴びながら、買ったばかりの小さめの座椅子に腰掛けると、「フ〜」と息を吐き出した。
今回の『PR動画コンテスト』の企画は、久々にハードスケジュールで心身ともにダメージが少なくなかった。
客観的に見れば、病み上がりといっても良い下級生に対して、連日の取材活動とVtuberとしてのアフレコというタイトなスケジュールに帯同させるセンパイの鬼畜ぶりを糾弾するところだろうけど、当のワタシは、彼とふたりで行う活動が楽しくて仕方がなかった。
最初に、
「クラブ紹介を兼ねたVtuberのキャラクターを作ってみたらどうか?」
という提案をしたのは、ワタシ自身だったけど、くろセンパイは、自分のスキルを活かしてVtuberのキャラクターを演じてみたい、というコチラの意図をほぼ100パーセント正確に汲んでくれた上に、|芦宮《あしのみや》サクラのキャラデザやキャプチャリングをスムーズに行うために、美術部やコンピュータクラブの協力を取り付けたアイデアと行動力は、本当に頼もしく感じた。
自分の想いを理解してくれるだけでなく、期待以上のことを行動で示してくれるのは、中学生の入学直後に、色恋沙汰のイザコザから、クラスの女子に絡まれているところを助けてくれたときから、変わっていない。
壁のそばに置いた座椅子に背中を預けながら、数年前の想いでにひたる。
クラスの女子からの八つ当たり(という見解は、決して自分の主観だけではないと思う)から始まった嫌がらせを切り抜けたワタシは、入学してからの希望どおり、校内放送のメイン・パーソナリティを務めることができた。
それは、新入生であるワタシを抜擢してくれた(当時は放送部の代表だった)鳳花部長の洞察力によるところもあると思うけれど、やっぱり、放送の相方としてワタシのトーク・スキルを引き出してくれた、くろセンパイのフォローによる面が大きい。
毒舌と思われるギリギリのラインの発言を笑って聞いてもらえる内容にソフトランディングしてもらえたのは、校内放送でのくろセンパイが、ちょっと頼りない先輩キャラを演じてくれていたからだということを、ワタシは十分に理解しているつもりだ。
普段の放送では、彼の言動をイジることの多かったワタシだけど、くろセンパイが本当は頼りになる上級生だということは、自分だけが知っていれば良い、と思っていたし、彼の良さはワタシだけが理解できていれば良い、と考えて、他の女子が近づかないように、あえてセンパイを持ち上げるような発言をセーブしていた。
そんなこともあって、中学生時代のくろセンパイは、自分のことを非モテキャラだと思い込んでいたようだ。
その原因が自分自身にあることを申し訳なく思いつつも、自分自身がそうだったように、|興《・》|味《・》|の《・》|な《・》|い《・》|異《・》|性《・》|か《・》|ら《・》|好《・》|意《・》|を《・》|持《・》|た《・》|れ《・》|る《・》|煩《・》|わ《・》|し《・》|さ《・》に、彼を巻き込まなくて良かったと感じている部分もある。
だから、このひと月ほど、くろセンパイとともに過ごす時間は、中学生時代の放送部の活動の再現のようで、心身ともにクタクタになるようなスケジュールだったけど、その時間は、とても充実したモノだったと感じている。
そして、ワタシと、くろセンパイとのふたりだけの関係を考えれば、それで十分だったんだけど……。
中学を卒業し、先に|芦宮《あしのみや》高校に進学したセンパイは、短期間の間に、ふたりの同級生に告白(そして失敗)している。
その|外《・》|的《・》|要《・》|素《・》のことを考えると、ワタシの気持ちは|塞《ふさ》ぎ込んでしまいそうになる。
(やっぱり、年下だと、くろセンパイには恋愛対象として見られないのかな……)
決して認めたくはないけど、普段はあえて考えないようにしているネガティブな思考が頭を駆け巡る。
今回の動画コンテストの結果として、(自分が言い出しっぺではあるけど)ワタシが、鼻うがいの披露という屈辱的行為を課されるピンチに陥って、くろセンパイにその罰ゲームを背負ってもらおうとしたところ、最初こそ、「ここは話し合いを……」と渋った彼は、
「ま、まぁ、女子にこんなことさせる訳にもいかないか……わかった……オレがやるよ」
と、頭をかきながら、提案を受け入れてくれた。
くろセンパイのことだから、ワタシたち三人の女子生徒に恥をかかせることはできないと考えているんだろうけど、その笑顔は、中学時代に三人のクラスメートに呼び出されたあと、彼女たちが退散した直後に、くだらない言い掛かりをつけてくる女子や、こっちの気持ちも考えずに告ってくる男子に対する本音をぶちまけたときに、
「やっぱ、面白いヤツだな、佐倉は……」
と、苦笑したときの表情と重なる。
そのときのことを思い出しながら、今までにないくらいの胸の痛みを感じたワタシは、この一ヶ月でたまった疲れを洗い流そうと考えて、お風呂の準備をしようと、大きく身体を伸ばしてから座椅子から立ち上がる。
その直後、バイブレーション機能をオンにしていたスマホが鳴動し、LANEのメッセージが着信したことを告げる。
スマホを手にして画面を確認すると、メッセージの送り主は、上級生の|天竹《あまたけ》さんだった。