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第三部・第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜④

ー/ー



 7月1日(金)

 〜黄瀬壮馬(きせそうま)の見解〜

 芦宮(あしのみや)高校では、金曜日午後の最後の授業は、「総合的な探求の時間」という時間割が当てられていて、外部講師を招いた出前授業など、さまざまな催しが行われることがある。
 今日は、その「総合的な探求の時間」に、我らが広報部と生徒会主催による『第1回芦宮(あしのみや)高校クラブ活動PR動画コンテスト』が開催される。
 
 このことからも、芦宮(あしのみや)高校での生徒会の権限の強さがわかるんじゃないだろうか?

 大講堂に学年単位で生徒が集合するのは、ボクたち広報部が活動のサポートを行ったクラブ紹介以来であり、一◯◯◯名近い全校生徒が集まる機会は、感染症がまん延して以降、初めてのことかも知れない。

 映像コンテンツの締切日である前日の午後5時に動画ファイルを提出して以降も、ボクの緊張は収まることはなくて夜もなかなか寝付けず、午前中と午後イチの授業は、気もそぞろの状態で受けることになった。

 なにせ、余裕たっぷりに自身のアカウントで宣伝活動を行っていた白草さんや、Vtuberの新規アカウントを準備していた竜司たちと違って、ボクたちのグループは、今日の本番で観賞してもらう一発勝負のスタイルなのだ。
 自分たちが創作した成果物に対する客観的な評価、事前の評判をまったく知ることができない、ということが、こんなにも心理的緊張を生むとは想像もできなかった。

 高校生になってからも、広報部の活動の一環として、各クラブの新入生勧誘のためのプロモーション・ビデオの撮影や編集に関わってきたけど、これまでは他人と競ったり、投票で順位付けが行われていたわけではないので、作品を完成させたあとは、自分には関わりがないことだと無関心でいることもできた(もちろん、映像のデキについて、誉められたり、感謝されたりすることは嬉しかったけれど……)。

 それが、今回は、自分たちの制作した動画が、どれだけ評価されたのか、全校生徒の投票によって判明するのだ。

 竜司と出会った小学生の頃から映像制作にノメり込んできたボクにとって、それが、どれだけ意識せずにはいられないことか――――――。

 他人から見れば神経質だと思われるだろうけど、結局、当日は一度も心が休まることのないまま、ボクは『クラブPR動画コンテスト』の時間を迎えた。

 大講堂は、熱気に満ちている。
 梅雨明け宣言こそされていないものの、真夏が近づいていることを感じさせる室内は、一◯◯◯名近い生徒と教職員であふれ、息苦しさを覚えるほどだ。

「全校生徒の皆さん、ならびに先生方、今日は、生徒会と広報部の合同企画である『第1回芦宮(あしのみや)高校クラブ活動PR動画コンテスト』に集まっていただき、ありがとうございます!」

 これまでと変わらず、堂々とした、そして、心の底から楽しげなようすで、生徒会長の寿(ことぶき)先輩が、開会の挨拶を行う。

 ボクと文芸部のみんな、竜司と佐倉さんに、コンピュータークラブの部員らしき数名の生徒、そして、白草さんと宮野さんの動画制作に携わったメンバーは、クラスごとに並んでいる観覧席から離れ、舞台上に登壇するための待機列で、今回のイベントに参加することになった。

 生徒会と広報部の先輩たちの告知が巧みだったためだろうか、一般の観覧場所で床に腰をおろしている生徒たちは、寿(ことぶき)先輩の言葉に大きな拍手を送っていて、今回のイベントに対する期待の高さがうかがわれる。

「表情が固いようですけど……まだ、緊張はほぐれませんか?」

 不意に、隣に立っている天竹(あまたけ)さんに声をかけられた。

「そうだね……正直、昨日から緊張しっぱなしなんだ……」

 周囲には聞かれないように、苦笑を交えて小声で答えると、彼女もボクと同じトーンで、

「実は、私もなんです……でも、黄瀬くんが緊張していると聞いて、安心して、少し緊張がほぐれました」

と、返答があった。

「えっ!? どうして?」

 引き続き、なるべく、声が漏れないようにたずね返すと、

「普段は、冷静沈着な黄瀬くんでも緊張するんだ、と思ったら、気持ちが楽になりました」

天竹(あまたけ)さんは、そう言って、クスリと笑顔を見せる。
 ボクが、普段、他の生徒からどんな風に見られているのか興味はないけど、それは、天竹(あまたけ)さん自身の評価にも当てはまるんじゃないかと思う。

 そう考えて、

(そっか……天竹(あまたけ)さんも緊張してたんだ……)

と、感じると、初めての経験である緊張感を共有できたことを認識できたためか、ボクの身体の(こわ)ばりも、少しほぐれてきたような気がする。

「そうなんだ……ボクも天竹(あまたけ)さんと話すことができて、ちょっとだけ、緊張がとけてきたよ。ありがとう」

 最後に感謝の言葉を付け加えると、文芸部の部長さんは、不思議なものを目にしたときのような表情を見せた。

「今回が、初めての試みとなる『動画コンテスト』ですが……初回から、どれも、ハイ・クオリティーな作品が揃ったことを事前報告させてもらいます! みんな、今日はめいっぱい楽しんでね!」

 壇上の生徒会長の言葉に、全校生徒から盛大な拍手と歓声が沸き起こる。

「それじゃあ、トップバッターは、新学期からの転入生と新入生のコンビ! 二年生の白草さんと一年の宮野さん! ステージ上にどうぞ!」

 くじ引きによって決まった発表順で一番目を引き当てた白草さんと宮野さんが、寿(ことぶき)生徒会長の言葉で、ステージへと歩いて行った。


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 7月1日(金)
 〜|黄瀬壮馬《きせそうま》の見解〜
 |芦宮《あしのみや》高校では、金曜日午後の最後の授業は、「総合的な探求の時間」という時間割が当てられていて、外部講師を招いた出前授業など、さまざまな催しが行われることがある。
 今日は、その「総合的な探求の時間」に、我らが広報部と生徒会主催による『第1回|芦宮《あしのみや》高校クラブ活動PR動画コンテスト』が開催される。
 このことからも、|芦宮《あしのみや》高校での生徒会の権限の強さがわかるんじゃないだろうか?
 大講堂に学年単位で生徒が集合するのは、ボクたち広報部が活動のサポートを行ったクラブ紹介以来であり、一◯◯◯名近い全校生徒が集まる機会は、感染症がまん延して以降、初めてのことかも知れない。
 映像コンテンツの締切日である前日の午後5時に動画ファイルを提出して以降も、ボクの緊張は収まることはなくて夜もなかなか寝付けず、午前中と午後イチの授業は、気もそぞろの状態で受けることになった。
 なにせ、余裕たっぷりに自身のアカウントで宣伝活動を行っていた白草さんや、Vtuberの新規アカウントを準備していた竜司たちと違って、ボクたちのグループは、今日の本番で観賞してもらう一発勝負のスタイルなのだ。
 自分たちが創作した成果物に対する客観的な評価、事前の評判をまったく知ることができない、ということが、こんなにも心理的緊張を生むとは想像もできなかった。
 高校生になってからも、広報部の活動の一環として、各クラブの新入生勧誘のためのプロモーション・ビデオの撮影や編集に関わってきたけど、これまでは他人と競ったり、投票で順位付けが行われていたわけではないので、作品を完成させたあとは、自分には関わりがないことだと無関心でいることもできた(もちろん、映像のデキについて、誉められたり、感謝されたりすることは嬉しかったけれど……)。
 それが、今回は、自分たちの制作した動画が、どれだけ評価されたのか、全校生徒の投票によって判明するのだ。
 竜司と出会った小学生の頃から映像制作にノメり込んできたボクにとって、それが、どれだけ意識せずにはいられないことか――――――。
 他人から見れば神経質だと思われるだろうけど、結局、当日は一度も心が休まることのないまま、ボクは『クラブPR動画コンテスト』の時間を迎えた。
 大講堂は、熱気に満ちている。
 梅雨明け宣言こそされていないものの、真夏が近づいていることを感じさせる室内は、一◯◯◯名近い生徒と教職員であふれ、息苦しさを覚えるほどだ。
「全校生徒の皆さん、ならびに先生方、今日は、生徒会と広報部の合同企画である『第1回|芦宮《あしのみや》高校クラブ活動PR動画コンテスト』に集まっていただき、ありがとうございます!」
 これまでと変わらず、堂々とした、そして、心の底から楽しげなようすで、生徒会長の|寿《ことぶき》先輩が、開会の挨拶を行う。
 ボクと文芸部のみんな、竜司と佐倉さんに、コンピュータークラブの部員らしき数名の生徒、そして、白草さんと宮野さんの動画制作に携わったメンバーは、クラスごとに並んでいる観覧席から離れ、舞台上に登壇するための待機列で、今回のイベントに参加することになった。
 生徒会と広報部の先輩たちの告知が巧みだったためだろうか、一般の観覧場所で床に腰をおろしている生徒たちは、|寿《ことぶき》先輩の言葉に大きな拍手を送っていて、今回のイベントに対する期待の高さがうかがわれる。
「表情が固いようですけど……まだ、緊張はほぐれませんか?」
 不意に、隣に立っている|天竹《あまたけ》さんに声をかけられた。
「そうだね……正直、昨日から緊張しっぱなしなんだ……」
 周囲には聞かれないように、苦笑を交えて小声で答えると、彼女もボクと同じトーンで、
「実は、私もなんです……でも、黄瀬くんが緊張していると聞いて、安心して、少し緊張がほぐれました」
と、返答があった。
「えっ!? どうして?」
 引き続き、なるべく、声が漏れないようにたずね返すと、
「普段は、冷静沈着な黄瀬くんでも緊張するんだ、と思ったら、気持ちが楽になりました」
|天竹《あまたけ》さんは、そう言って、クスリと笑顔を見せる。
 ボクが、普段、他の生徒からどんな風に見られているのか興味はないけど、それは、|天竹《あまたけ》さん自身の評価にも当てはまるんじゃないかと思う。
 そう考えて、
(そっか……|天竹《あまたけ》さんも緊張してたんだ……)
と、感じると、初めての経験である緊張感を共有できたことを認識できたためか、ボクの身体の|強《こわ》ばりも、少しほぐれてきたような気がする。
「そうなんだ……ボクも|天竹《あまたけ》さんと話すことができて、ちょっとだけ、緊張がとけてきたよ。ありがとう」
 最後に感謝の言葉を付け加えると、文芸部の部長さんは、不思議なものを目にしたときのような表情を見せた。
「今回が、初めての試みとなる『動画コンテスト』ですが……初回から、どれも、ハイ・クオリティーな作品が揃ったことを事前報告させてもらいます! みんな、今日はめいっぱい楽しんでね!」
 壇上の生徒会長の言葉に、全校生徒から盛大な拍手と歓声が沸き起こる。
「それじゃあ、トップバッターは、新学期からの転入生と新入生のコンビ! 二年生の白草さんと一年の宮野さん! ステージ上にどうぞ!」
 くじ引きによって決まった発表順で一番目を引き当てた白草さんと宮野さんが、|寿《ことぶき》生徒会長の言葉で、ステージへと歩いて行った。