ヤマタノオロチが倒され浄化された鬼ヶ島は、数日のうちに生命の息吹を取り戻し、緑豊かに変貌していった。
かつて禍々しい瘴気に覆われていた大地は、清らかな土となり、枯れていた木々には若葉が芽吹き、色とりどりの花が咲き誇る。鳥がさえずり、清流が流れ、まるで桃源郷の一部が地上に現れたかのようだった。
太郎たち一行は、そこで穏やかな時間を過ごし、互いの労をねぎらう。
彼らの顔には、激闘の疲労の跡が残るものの、深い安堵と、この世界の平和を取り戻した喜びに満ちていた。清らかな風が彼らの頬を撫で、遠くで波の音が穏やかに響く。
空はどこまでも高く澄み渡り、太陽の光が降り注ぐ。この鬼ヶ島が、彼らの手によって真の桃源郷へと生まれ変わったことを、その景色が雄弁に物語っていた。
琥珀は、目を輝かせながら、一面に広がる花畑を駆け回った。その小さな体が、喜びでぴょんぴょんと跳ねる。彼女の茶色のショートカットが風になびき、満開の花々と同じように、彼女の笑顔もまた輝いていた。
「わ~!鬼ヶ島がこんなに綺麗になった~! 信じられない! まるで、夢みたい!」
彼女の声は、鳥のさえずりと混じり合い、喜びの歌のようだった。
穂積は、純粋な笑顔で、太郎の袴の裾を引いた。彼女の瞳は、咲き誇る花々に釘付けになっている。小さな指が、可憐な花びらをそっと撫でた。
「お花がいっぱい咲いてるよ~! お兄ちゃん、見て見て、綺麗だね!」
彼女の無邪気な声は、太郎の心を温かく包み込んだ。
八重は、豪快な笑みを浮かべ、肩に担いだ斧を地面に突き立てた。その顔には、心からの満足感が浮かんでいる。
「へっ、なかなかいい景色じゃねぇか。これなら、住めるな! 鬼の巣窟だったとは思えねぇぜ!」
彼女の言葉は、この地の変貌への驚きと、太郎の力への称賛に満ちていた。
天音は、静かに白い羽を広げ、清められた鬼ヶ島全体を見渡していた。彼女の瞳には、この奇跡のような光景への深い感動が宿っている。
「この浄化の力……まさに、神の御業。太郎殿の力は、この世界に真の光をもたらしました」
彼女の声は、普段の冷静さの中に、微かな震えを含んでいた。
葛は、穏やかな眼差しで、仲間たちの笑顔を見守っていた。彼女の思考が、太郎の心に響く。
『太郎殿の力は、破壊ではなく、創造の力。この鬼ヶ島が、その真の力を証明する場所となりましたね。皆さまの絆が、この奇跡を生み出したのです』
彼女の言葉には、深い洞察と、温かい祝福が込められていた。
黒鉄は、太郎の隣に立ち、彼の横顔をじっと見つめていた。
彼女の琥珀色の瞳には、この旅の全てを共にした者だけが理解できる、深い安堵と、そして揺るぎない愛情が宿っている。彼女の心臓は、太郎の存在に呼応するように、静かに、しかし熱く高鳴っていた。
「これも、みんなの力のおかげだ。俺一人では、決して成し遂げられなかった」
太郎は、清められた鬼ヶ島を見渡し、静かに呟いた。彼の瞳には、仲間たちへの深い感謝と、この世界の美しさを守り抜いた喜びが宿っている。
彼の言葉は、偽りない本心だった。
彼がこの旅で得た最大のものは、強大な力ではなく、かけがえのない仲間たちとの絆だったのだ。
その時、穏やかな空気が満ちる鬼ヶ島に、突然、神々しいオーラが彼らを包み込んだ。
空から眩い光が降り注ぎ、その光の中から、風神颯馬と雷神雷牙が、太郎の前に姿を現した。彼らの姿は威厳に満ち、その存在感は、大地を震わせるほどだった。
風神は静かに腕を組み、その白い衣は風もないのに微かに揺らめき、雷神は巨大な金棒を肩に担ぎ、その瞳は雷光を宿し、それぞれが太郎たちを静かに見据えている。
「太郎よ。よくぞ、ここまで来た。そして、見事、ヤマタノオロチを討ち果たしたな」
風神颯馬の声は、静かだが、その中に確かな威厳と、深い賞賛が宿っていた。彼の言葉は、広間に満ちる光のように、太郎の心に染み渡る。
「お前は、真の力を取り戻した。その絆の力、しかと見届けたぞ。まさか、我らが望んだ以上の成長を見せるとはな、太郎よ!」
雷神雷牙の声が、雷鳴のように轟き、鬼ヶ島全体に響き渡った。その声には、厳しさと、しかし太郎への深い期待と、満足感が込められている。彼の瞳は、太郎の成長を心から喜んでいるかのようだった。
「風神様……雷神様……!」
太郎は、その神々しい姿に、畏敬の念を込めて名を呼んだ。彼の槍を持つ手が、微かに震える。それは、恐怖ではなく、かつてないほどの神聖な存在を前にした、本能的な反応だった。
黒鉄は、太郎の前に一歩進み出た。彼女の琥珀色の瞳は、二柱の神の放つ神気を捉え、その圧倒的な力に戦慄していた。彼女の全身が、微かに震える。
「若様……」
彼女は、太郎を守るように、その身をわずかに前に傾けた。
二柱の神は、太郎に最後の選択を迫った。彼らの声は、天界の響きを持つ。その言葉は、太郎の心に、重く、そして決定的な問いを投げかける。
「さあ、太郎よ。選択の時だ。桃源郷に戻り、再び神としての座に就くか……」
風神颯馬の声が、静かに響く。その言葉は、太郎の心に、かつての神としての孤独な存在を思い出させる。
「……それとも、この地上に残るか。お前の選ぶ道が、お前の未来となるだろう」
雷神雷牙の声が、豪快に響き渡る。その言葉は、太郎の目の前に、人間としての温かい未来と、神としての厳かな使命という二つの道を提示した。