酒呑童子を倒し、一息ついた太郎たち。城の広間には、激闘の痕跡が生々しく残っていた。
砕け散った瓦礫、焦げ付いた床、そして酒呑童子の消滅によって清められたとはいえ、未だ微かに残る邪気の匂い。
彼らの全身は傷だらけで、疲労困憊だったが、父の仇を討ち果たした達成感と、長年の悲願を遂げた喜びに満ちていた。
「やった……!父上……!仇は、討ちました……!」
太郎は、息を切らしながら呟いた。彼は、これで鬼ヶ島に真の平和が訪れると信じていた。
「若様……! よくぞ……! 父と兄の仇を……! 本当に、よくぞ……!」
黒鉄は、太郎の傍らに駆け寄り、その無事を確認した。彼女にとって、酒呑童子の討伐は、全てが終わったことを意味していた。
「へへっ、酒呑童子も、たいしたことなかったな! 太郎兄ちゃん、これで鬼ヶ島も平和になるね! やったやったー!」
琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。鬼の城の瘴気が薄れていくのを感じ、安堵の息を漏らした。
太郎たちは、酒呑童子を倒したことによる達成感と、長年の旅の終焉を予感させる安堵に包まれていた。
彼らは、この鬼ヶ島が、やがて桃源郷のように清らかな場所へと変わっていくことを想像し、しばし勝利の余韻に浸っていた。
◆
その時、勝利の余韻も束の間、城全体が激しい振動に襲われた。地底から響くような重低音が、彼らの足元を揺るがす。広間の瓦礫が音を立てて崩れ落ち、天井には大きな亀裂が走り始めた。
酒呑童子の消滅によって、何らかの封印が解かれたかのように、島の奥底から、これまで感じたことのない、おぞましい魔力が噴き出し始めたのだ。
「うわー!地震!? なんだこれ!?」
琥珀が、悲鳴を上げた。
「若様、何が起こっているのですか!? この震動は、尋常ではありません!」
黒鉄が、太郎を庇うように前に出た。
「この震動……ただの地震じゃない……! もっと、大きな何かが……! この魔力……酒呑童子とは、まるで違う……!」
太郎は、槍を構え、周囲を警戒した。
地鳴りのような音が響き渡り、遠くの山々が崩れ始めた。
城の窓から見える空は、さらに暗く重苦しいものへと一変し、巨大な影が空を覆う。
それは、山そのものが動き出したかのような、圧倒的な光景だった。不吉な予感が、一行の心を締め付ける。
「なんだありゃあ!? 山が……崩れてるぜ!? まさか、まだ鬼がいるのか!?」
八重が、驚きに目を見開いた。
「この邪気……酒呑童子とは比べ物にならない……! 桁違いの魔力です……! まさか、こんな存在が、この鬼ヶ島に……!」
天音は、冷静な表情を保ちながらも、その瞳には、深い驚愕が浮かんでいた。
『まさか……まだ、何かが……!? この魔力は、この鬼ヶ島そのもの……!? 酒呑童子が、何かの封印を解いてしまったのでしょうか……!』
葛の思考が、太郎の心に響いた。
山の中から、八つの首を持つ巨大なヤマタノオロチが、その禍々しい姿を現した。
その圧倒的な巨体と、全身から放たれる邪悪なオーラは、太郎たちを絶望の淵に突き落とす。
それぞれの首は、異なる属性の光を放ち、まるで生きているかのように蠢いていた。その姿は、神話に語られる災厄そのものだった。
「ヤマタノオロチ……!? まさか、こんなものが……! この鬼ヶ島の、真の支配者というのか……! 酒呑童子を倒したことで……こいつが……!?」
太郎は、その巨大な姿に、息を呑んだ。酒呑童子との激闘で疲弊した体に、新たな絶望がのしかかる。
「なんて巨大な……! 城が、まるで小石のようだ……! こんなものが、この島にいたなんて……!」
黒鉄は、信じられないといった表情で呟いた。
「ひぃぃぃ!あれ、鬼なの!? こんなの、勝てるわけないよ~! もう、終わりだよ~!」
琥珀は、悲鳴を上げた。
「冗談だろ……! こんなデカい奴、見たことねぇぞ……! 酒呑童子より、もっとやべぇ奴じゃねぇか……!」
八重は、豪快な笑みを浮かべながらも、その瞳には、明確な焦りの色が浮かんでいた。
ヤマタノオロチの八つの首がそれぞれ、炎、毒、岩石、雷、氷、風、闇、光といった異なる属性攻撃を同時に放ち、城全体を破壊し始めた。その猛攻は、嵐のように降り注ぎ、太郎たちはその前に為す術がない。
「くそっ……!攻撃が多すぎる! 避ける場所がない……!」
太郎は、槍を構え、降り注ぐ属性攻撃を見上げた。
太郎は、この猛攻を前に、何とか活路を見出そうとした。八つの首全てを相手にするのは不可能でも、まずは一つでも減らせればと、狙いを定めた。
「くそっ、まずは一匹でも……! 【真槍・桃紋閃】!」
太郎は、ヤマタノオロチの炎の首の一つに狙いを定め、渾身の【真槍・桃紋閃】を放った。
槍から放たれる桃色の光が、炎の首を正確に貫き、その巨体を大きく揺るがす。首は断ち切られ、地面に落ち、邪気を放ちながら痙攣した。
「やったか……!?」
琥珀が、わずかな希望を込めて叫んだ。
しかし、その希望は、すぐに絶望へと変わる。
断ち切られたはずの首の根元から、おぞましい音を立てて新たな肉が隆起し、瞬く間に元の首が再生したのだ。
その再生は、あまりにも速く、完璧だった。
「な、なんだと!? 再生した……!?」
太郎の顔から、血の気が引いた。
「そんな……! どんな攻撃をしても、すぐに元に戻るというのか……!?」
黒鉄が、絶望に声を震わせた。
「この魔力……再生の力……! まさか……八つの首を同時に断たねば、意味がないというのか……!」
天音が、冷静な分析の中に、深い絶望を滲ませた。