竜宮城は、海の底に広がる、幻想的な宮殿だった。
真珠や珊瑚で飾られた壮麗な建築物は、海の光を受けて輝き、無数の魚たちがその周囲を優雅に泳ぎ回る。空気は清らかで、まるで陸上の世界とは異なる、別次元の空間だった。
太郎たちは、乙姫の導きで宮殿の広間へと通された。
広間の壁には、海の生物たちが描かれた絵画が飾られ、床には、まるで水面のように輝く真珠が敷き詰められていた。
天井からは、巨大な真珠がシャンデリアのように吊るされ、柔らかな光を放っている。
「太郎殿、そして皆さま。遠路はるばる、よくおいでくださいました。あなた方が来ることは、風神様と雷神様より、すでに伺っております。そして、先ほどの亀を助けてくださったこと、心より感謝いたします。それが、あなた方の真の優しさを示す、私からの最初の試練でした」
乙姫は、広間の中心で、優雅な動作で太郎たちを迎えた。彼女の言葉は、太郎たちの旅が、神々によって導かれていることを改めて示唆していた。そして、彼らが無意識のうちに試練を乗り越えていたことを明かした。
「乙姫様は、俺たちのことを……そして、あの亀が……乙姫様の試練だったとは……。まさか、そんな形で試されていたとは、思いもしませんでした」
太郎は、乙姫の言葉に、驚きと、わずかな戸惑いを覚えた。彼の瞳は、乙姫の深遠な眼差しに捉えられている。
「ええ。あなた方の旅路、そしてその絆の力、神々も深く注目しておられます。特に、太郎殿の覚醒した神力は、この世界の混沌を鎮める鍵となるでしょう。
そして、その力を使うに足る、清らかな心を持っているか、見極める必要がありました。あなた方は、見事にその試練を乗り越えられました」
乙姫の瞳は、太郎を真っ直ぐに見つめた。その視線には、深い期待が込められている。
乙姫は、この海域を長年苦しめている海坊主の存在について語り始めた。
海坊主は、鬼ヶ島へと向かう船を襲い、多くの人々を海の藻屑にしてきたという。
その存在は、竜宮城にとっても脅威であり、鬼ヶ島への安全な航路を阻む最大の障壁となっていた。
乙姫の声には、深い悲しみと、海坊主への憎しみが混じっていた。
「この海域を長年苦しめている海坊主は、鬼ヶ島へと向かう船を襲い、多くの命を奪ってきました。その存在は、竜宮城にとっても大きな脅威であり、鬼ヶ島への安全な航路を阻む最大の障壁となっているのです。
彼の邪気は、海の底深くまで広がり、海の生物たちをも苦しめています。海の民は、彼の恐怖に怯え、漁に出ることすらままなりません」
乙姫は、静かに、しかし悲痛な声で語った。その瞳には、海の民の苦しみが映し出されている。
「海坊主……! 鬼ヶ島へ渡るためには、避けて通れぬ道か……! この海に、そんな強大な鬼がいたとは……!」
太郎は、拳を固く握りしめた。彼の脳裏には、鬼ヶ島への使命が蘇る。海坊主は彼の直接的な仇ではないが、その存在が鬼ヶ島への道を阻むならば、討伐する他ない。
「乙姫様、その海坊主は、乙姫様のお力でも討ち取ることができないのですか? これほどの力を持つ乙姫様でも……。海の精霊を従える乙姫様ならば……」
黒鉄が、乙姫に問いかけた。彼女の瞳は、乙姫の持つ力を見極めようとしていた。
「私の力は、海の精霊を従え、海流を操ることはできますが、海坊主の根源的な邪気までは浄化できません。彼の体は、海の怨念そのもの……。私一人では、討ち果たすことは叶わないのです。
彼の邪気は、あまりにも深く、広がりすぎている……。海の精霊たちも、彼の邪気に怯え、私に力を貸すことができません」
乙姫は、悲しげに首を振った。その表情には、海の民を守れない無念が滲んでいた。
「くそっ……! そんな強大な鬼が……! だが、俺たちがぶっ飛ばしてやるぜ! な、太郎、いいだろう? 海の鬼だろうと、関係ねぇ!」
八重は、悔しげに呟き、豪快な笑みを浮かべた。そして、太郎に同意を求めるように、その瞳を向けた。
「ああ、当然だ。乙姫様、ご安心ください。必ず、海坊主を討ち果たし、この海に平和を取り戻します。それが、俺たちの使命ですから! この海に、これ以上苦しむ者を出さない!」
太郎は、八重の言葉に頷き、乙姫の願いを快く受け入れた。
海坊主の討伐は、鬼ヶ島への道を切り開くためだけでなく、この世界の混沌を鎮めるという自身の使命の一部でもあったからだ。
彼の瞳には、新たな決意の光が宿る。
「若様、お任せください! 若様が望むならば、この黒鉄、海坊主を討ち取って見せます! 若様の剣として、この命に代えても!」
黒鉄は、太郎の言葉を待たずに、力強く応えた。彼女の忠誠心は、若様の使命を果たすことへと向かっていた。
「へへっ, 面白くなってきたぜ! 海坊主か! ぶっ飛ばしてやるぜ! どんなデカい奴でも、俺の斧で叩き潰してやる! 海の底まで沈めてやる!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を握りしめた。
「お兄ちゃん、頑張って! 穂積も応援するよ! 穂積の小槌で、みんなを助けるから! 海の鬼なんて怖くないもん!」
穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、純粋な笑顔で励ます。
「乙姫様、ご安心ください。必ず、海坊主を討ち果たし、この海に平和を取り戻します。それが、俺たちの使命ですから! この力は、誰かを守るためにあるのですから! この世界に光をもたらすために!」
太郎の声は、力強く、迷いがなかった。その声は、竜宮城の広間に響き渡った。
「ありがとうございます、太郎殿! あなた方ならば、きっと……! この海の未来は、あなた方に託されました! 海の民も、きっと喜びます!」
乙姫は、安堵の表情を浮かべ、太郎たちに深々と頭を下げた。彼女の瞳には、希望の光が宿っていた。
乙姫は、海坊主討伐のための準備を手伝うことを申し出た。
彼女は、海坊主の弱点や、海での戦い方について詳細な情報を提供し、さらに、鬼ヶ島へ渡るための船を用意することを約束した。
その船は、竜宮の技術の粋を集めたような、見たこともないほど美しい船だった。
船体は真珠のように輝き、帆には海の紋様が描かれている。
「さあ、太郎殿。海坊主討伐の準備をいたしましょう。この竜宮の全てが、あなた方のためにあります。海の精霊たちも、あなた方を応援しているでしょう。海の民の希望を、どうか叶えてください」
乙姫は、優雅な手つきで、太郎たちを案内した。彼らの旅は、いよいよ最終局面へと向かうのだった。