第12話 おっぱいといっしょ

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 ミモザが勇者どもに連れていかれてかれこれ数時間。一向に帰ってくる気配がない。今頃、アイツらに何をどうされているのか。不安でしかない。
 勇者のことだからミモザを悪いようにはしないだろうが、質問攻めでもしようものなら変なボロを出してしまいそうで、ソレが一番怖い。

 直接的に、我が魔王であることはミモザも知らない。
 だが、ミモザを連れ出してダンジョン探索に行ったことや、我の魔法のことをついうっかりポロっとこぼされたらさすがに勇者に怪しまれる。

 ミモザに沢山の魔具を作らせて秘密裏に練っていた計画のことまでバレてしまったら、どうなる? まずい、まずい、まずすぎるぅ!
 そもそも、ミモザが帰ってこなかったら、我はどうしたらいいのだ!

「フィーちゃん、何処か具合が悪くないですか? 先ほどの冒険者さんたちに意地悪されてしまいましたか? 痛いところがあったら言ってくださいね」
 と、マルペルが頻りに我の心配をしてくる。
 てか、なんで我の屋敷にいるんだ、コイツは。

 まあ、勇者の差し金なのは分かってる。
 パエデロスの市場で一騒動起こしてしまったし、その発端が治安を乱す冒険者たちに絡まれて、なのだからこうやって保護者をよこすのは理解できなくもない。

 だからといって、なんでよりにもよって我のところにマルペルをよこすんだ。
 割と我も強めに拒否したつもりだったのだが、この女、面の皮が厚すぎる。

「ミモザちゃんのことが心配なのですか? 大丈夫ですよ、お友達に悪いことなんてしませんから。私もよく分かっていませんけれど、ロータスさんなら安心です」
 お前にミモザの何が分かるというのか、この説教おっぱいめが。
 第一、我が心配しているのはミモザの安否なんかではない。我の安否だ。

 ミモザの発言一つで、我の今後の命運が変わるかもしれぬからな。
 魔王だとバレなかったとしても下手すればパエデロスを追放されるかもしれん。
 ひょっとすればミモザの魔具を我から取り上げられる可能性すらある。

 不覚にも、ダリアがあんな大衆の前でミモザの魔具の凄さを実証してしまった。
 アレのせいで、もう周知されてしまったことは間違いない。
 ダリアめ。どうしてあんなにも目立つようなことを……。

 我が魔王だとバレるか。ミモザの魔具を取り上げられるか。
 いずれにせよ、我にとって不都合なことばかりだ。
 まったく、どうしてくれよう。

 そもそも、我があのとき、怒りに身を任せて魔法使ったのがいけない。
 いや、だがしかし、ああでもしなければミモザはどうなっていたことか。
 くぅー……、今さら言っても仕方のないことだ。

「それにしてもフィーちゃんにもお友達ができたんですね。こんな街ですから、心配していたんですよ」
 ぁー、むず痒い。この女、なんでこんなに我の保護者面しているんだ。
 友達できてよかったね、などと、どの立場でモノを言っているんだか。

「我に友ができようとできまいと関係ないではないか」
 ツーンと突き放してみる。しかしこのマルペル、動じもせず、むしろ我との距離を詰めてくる。本当に一体なんなんだ、コイツは。

「この街、パエデロスは危険な街です。それは先ほどもフィーちゃんとミモザちゃんが見た通りです。色々なところから様々な人たちが集まってくるというのはこういうことなんです。こういう場所だからこそ、繋がれる人って大事なんですよ」
 ぅゎー、やめてやめて、説教うるさい。コイツ嫌い。

「それに、あの子、ミモザちゃんはエルフでしたね」
「それがどうした。アイツの種族にケチでもつけるのか?」
 人間どもはつくづくくだらないことを気にするものだ。

「いえ、エルフは本来、森の奥などで集団で行動する種族。森を離れても単独で行動することは稀なんです。だからきっと、ミモザちゃんには何か事情が……」
 変なところに勘づく女だ。

 確かに、ミモザはこのパエデロスでは独りだった。他に仲間のエルフがいたようにも思えない。だとすると、たった独りでここに流れ着いたということになる。
 ただ、その理由は分からないわけでもなかった。

「アイツは……ミモザは、潜在魔力がないのだ。エルフは自然と共に生きる種族。故に、魔力がないエルフはその自然から恩恵が与えられなかった異端なのだよ。ふん、アイツはそんなこと、一度も口にしていないから知らんがな」
 ミモザには潜在魔力の伸びしろがなかった。
 我と行動を共にして経験を積んでも、一向に魔力が成長していない。

 エルフとして、ミモザは異端だった。
 ずっと一緒にいたのだ。そのくらい知らいでか。

 だが、森に生きているから自然の恩恵があり、恩恵があるから生まれ持って魔力がある、などとは所詮は詭弁よ。

 魔素の高い環境で過ごせば魔力を得られる可能性はあるが、例外などいくらでもある。だが、掟だの戒めだの、古臭い風習を重んじる種族は往々にして例外を嫌うところがある。

 ミモザの過去に何があったのかは知らないし、聞く気もない。
 だが、アイツがずっと魔具の生産に一所懸命になっている様を見ると、自身が魔法を使えないことに強いコンプレックスを感じていることくらい容易に察せる。

「なんという……なんということでしょう……っ!」
 で、なんでコイツは勝手に涙を流しておるのだ。
 そして我に抱きつこうとするでない。

「フィーちゃんは、そんなミモザちゃんのことを知っていて、そばにいてくれたの。ミモザちゃんのお友達になってくれたのですね」
「むぎゅ~っ」
 ぐじゅぐじゅの涙顔で抱きつくな。鬱陶しい。そしておっぱいで締め付けるな。
 確かに諸事情は何となく察してはいたし、そこまで間違ったことは言っていないが、別に我はミモザが異端だから友になろうとしたわけじゃない。

 ミモザの持つ技術力を我の手元に置きたかっただけだ。他意はない。

「ちょ……、誰か助けろっ! 今すぐこの女を引きはがせ!」
 たまらず、そこら辺にいる使用人どもに助けを求める。

「フィーお嬢様はミモザ様とそれはそれはとても親密な関係でございます」
「日頃から仲睦まじく、何度もこのお屋敷にお連れし、戯れておりました」
「まさしくミモザ様はフィーお嬢様の親友と言って差し支えないでしょう」
 今はそういう感想はいらんから! いつもそんな目で見てたのか。
 何、キサマらまで涙流してるのっ!? ハンカチ湿らせとる場合か!

「フィーちゃん……なんて慈愛に満ちた優しい子なのでしょう……」
 ぐえぇーっ!!!! おっぱいに殺されるぅ!!!!
 やっぱりコイツ嫌い!!!!!! おっぱい大っ嫌い!!!!!!

「これからもミモザちゃんと仲良くしてくださいねっ!」
「うげぇぇ!!!! キサマに言われんでもミモザは我の親友だあぁ!!!!」

 ※ ※ ※

「それでは、今日のところはこの辺りでお暇させていただきますね」
 夕日を背に、マルペルが名残惜しそうに玄関先に立つ。
 とっとと帰れっ! 結局、ひたすら我に抱きついただけではないか。

 一体何しに来たのか分からん。
 我を保護にしきたのか、説教しにきたのか、おっぱいで締めにきたのか。

「フィーしゃあんっ!」
 呼ばれるその声に気付き、締めようとしていた玄関を開けば、ミモザがトテトテと走ってきて――

「あでっ!」

――そして転んだ。

「相変わらずお前は……」
「てへへ……」
 我は駆け寄り、ミモザを起こす。
 ついでにズレたメガネもクイっと直してやる。

「ふふふ……お友達は大事にね」
 去り際にニコリと笑いながら、マルペルはまるで自分がお邪魔虫であるかのようにしめやかに退散していった。


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 ミモザが勇者どもに連れていかれてかれこれ数時間。一向に帰ってくる気配がない。今頃、アイツらに何をどうされているのか。不安でしかない。
 勇者のことだからミモザを悪いようにはしないだろうが、質問攻めでもしようものなら変なボロを出してしまいそうで、ソレが一番怖い。
 直接的に、我が魔王であることはミモザも知らない。
 だが、ミモザを連れ出してダンジョン探索に行ったことや、我の魔法のことをついうっかりポロっとこぼされたらさすがに勇者に怪しまれる。
 ミモザに沢山の魔具を作らせて秘密裏に練っていた計画のことまでバレてしまったら、どうなる? まずい、まずい、まずすぎるぅ!
 そもそも、ミモザが帰ってこなかったら、我はどうしたらいいのだ!
「フィーちゃん、何処か具合が悪くないですか? 先ほどの冒険者さんたちに意地悪されてしまいましたか? 痛いところがあったら言ってくださいね」
 と、マルペルが頻りに我の心配をしてくる。
 てか、なんで我の屋敷にいるんだ、コイツは。
 まあ、勇者の差し金なのは分かってる。
 パエデロスの市場で一騒動起こしてしまったし、その発端が治安を乱す冒険者たちに絡まれて、なのだからこうやって保護者をよこすのは理解できなくもない。
 だからといって、なんでよりにもよって我のところにマルペルをよこすんだ。
 割と我も強めに拒否したつもりだったのだが、この女、面の皮が厚すぎる。
「ミモザちゃんのことが心配なのですか? 大丈夫ですよ、お友達に悪いことなんてしませんから。私もよく分かっていませんけれど、ロータスさんなら安心です」
 お前にミモザの何が分かるというのか、この説教おっぱいめが。
 第一、我が心配しているのはミモザの安否なんかではない。我の安否だ。
 ミモザの発言一つで、我の今後の命運が変わるかもしれぬからな。
 魔王だとバレなかったとしても下手すればパエデロスを追放されるかもしれん。
 ひょっとすればミモザの魔具を我から取り上げられる可能性すらある。
 不覚にも、ダリアがあんな大衆の前でミモザの魔具の凄さを実証してしまった。
 アレのせいで、もう周知されてしまったことは間違いない。
 ダリアめ。どうしてあんなにも目立つようなことを……。
 我が魔王だとバレるか。ミモザの魔具を取り上げられるか。
 いずれにせよ、我にとって不都合なことばかりだ。
 まったく、どうしてくれよう。
 そもそも、我があのとき、怒りに身を任せて魔法使ったのがいけない。
 いや、だがしかし、ああでもしなければミモザはどうなっていたことか。
 くぅー……、今さら言っても仕方のないことだ。
「それにしてもフィーちゃんにもお友達ができたんですね。こんな街ですから、心配していたんですよ」
 ぁー、むず痒い。この女、なんでこんなに我の保護者面しているんだ。
 友達できてよかったね、などと、どの立場でモノを言っているんだか。
「我に友ができようとできまいと関係ないではないか」
 ツーンと突き放してみる。しかしこのマルペル、動じもせず、むしろ我との距離を詰めてくる。本当に一体なんなんだ、コイツは。
「この街、パエデロスは危険な街です。それは先ほどもフィーちゃんとミモザちゃんが見た通りです。色々なところから様々な人たちが集まってくるというのはこういうことなんです。こういう場所だからこそ、繋がれる人って大事なんですよ」
 ぅゎー、やめてやめて、説教うるさい。コイツ嫌い。
「それに、あの子、ミモザちゃんはエルフでしたね」
「それがどうした。アイツの種族にケチでもつけるのか?」
 人間どもはつくづくくだらないことを気にするものだ。
「いえ、エルフは本来、森の奥などで集団で行動する種族。森を離れても単独で行動することは稀なんです。だからきっと、ミモザちゃんには何か事情が……」
 変なところに勘づく女だ。
 確かに、ミモザはこのパエデロスでは独りだった。他に仲間のエルフがいたようにも思えない。だとすると、たった独りでここに流れ着いたということになる。
 ただ、その理由は分からないわけでもなかった。
「アイツは……ミモザは、潜在魔力がないのだ。エルフは自然と共に生きる種族。故に、魔力がないエルフはその自然から恩恵が与えられなかった異端なのだよ。ふん、アイツはそんなこと、一度も口にしていないから知らんがな」
 ミモザには潜在魔力の伸びしろがなかった。
 我と行動を共にして経験を積んでも、一向に魔力が成長していない。
 エルフとして、ミモザは異端だった。
 ずっと一緒にいたのだ。そのくらい知らいでか。
 だが、森に生きているから自然の恩恵があり、恩恵があるから生まれ持って魔力がある、などとは所詮は詭弁よ。
 魔素の高い環境で過ごせば魔力を得られる可能性はあるが、例外などいくらでもある。だが、掟だの戒めだの、古臭い風習を重んじる種族は往々にして例外を嫌うところがある。
 ミモザの過去に何があったのかは知らないし、聞く気もない。
 だが、アイツがずっと魔具の生産に一所懸命になっている様を見ると、自身が魔法を使えないことに強いコンプレックスを感じていることくらい容易に察せる。
「なんという……なんということでしょう……っ!」
 で、なんでコイツは勝手に涙を流しておるのだ。
 そして我に抱きつこうとするでない。
「フィーちゃんは、そんなミモザちゃんのことを知っていて、そばにいてくれたの。ミモザちゃんのお友達になってくれたのですね」
「むぎゅ~っ」
 ぐじゅぐじゅの涙顔で抱きつくな。鬱陶しい。そしておっぱいで締め付けるな。
 確かに諸事情は何となく察してはいたし、そこまで間違ったことは言っていないが、別に我はミモザが異端だから友になろうとしたわけじゃない。
 ミモザの持つ技術力を我の手元に置きたかっただけだ。他意はない。
「ちょ……、誰か助けろっ! 今すぐこの女を引きはがせ!」
 たまらず、そこら辺にいる使用人どもに助けを求める。
「フィーお嬢様はミモザ様とそれはそれはとても親密な関係でございます」
「日頃から仲睦まじく、何度もこのお屋敷にお連れし、戯れておりました」
「まさしくミモザ様はフィーお嬢様の親友と言って差し支えないでしょう」
 今はそういう感想はいらんから! いつもそんな目で見てたのか。
 何、キサマらまで涙流してるのっ!? ハンカチ湿らせとる場合か!
「フィーちゃん……なんて慈愛に満ちた優しい子なのでしょう……」
 ぐえぇーっ!!!! おっぱいに殺されるぅ!!!!
 やっぱりコイツ嫌い!!!!!! おっぱい大っ嫌い!!!!!!
「これからもミモザちゃんと仲良くしてくださいねっ!」
「うげぇぇ!!!! キサマに言われんでもミモザは我の親友だあぁ!!!!」
 ※ ※ ※
「それでは、今日のところはこの辺りでお暇させていただきますね」
 夕日を背に、マルペルが名残惜しそうに玄関先に立つ。
 とっとと帰れっ! 結局、ひたすら我に抱きついただけではないか。
 一体何しに来たのか分からん。
 我を保護にしきたのか、説教しにきたのか、おっぱいで締めにきたのか。
「フィーしゃあんっ!」
 呼ばれるその声に気付き、締めようとしていた玄関を開けば、ミモザがトテトテと走ってきて――
「あでっ!」
――そして転んだ。
「相変わらずお前は……」
「てへへ……」
 我は駆け寄り、ミモザを起こす。
 ついでにズレたメガネもクイっと直してやる。
「ふふふ……お友達は大事にね」
 去り際にニコリと笑いながら、マルペルはまるで自分がお邪魔虫であるかのようにしめやかに退散していった。