第9話 目立つな危険!

ー/ー



「フィーさん、できましらっ! あでっ!」
 我が屋敷の廊下に、ミモザの声が響く。
 そろそろ見慣れたミモザのドタドタ走りと、恒例のドテっと転倒を見届けたところで、とりあえず頭を撫でてやりつつも起き上がらせる。

「ふへへ……新しい素材いっぱい手に入ったので、現実の反射板(リアルミラー)もパワーアップしましたぁ。その名も真実を見る透鏡(トゥルーグラス)れしゅ」
 見たところ、新品のメガネのようだ。ミモザから受け取り、早速掛けてみる。

【ミモザ・アレフヘイム】(エルフ族)
 ≪LV:13≫
 ≪HP:43/76≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:疲弊≫

 おお、凄い。メガネを通して見たものの情報がスッキリくっきり文字列となって映し出されている。しかも、現実の反射板(リアルミラー)よりも情報量が多くなっている。

「名前と種族も出るのだな。これは一体どういう仕組みだ?」
「えぇと、さすがに名前の鑑定は難しかったので直に登録したものだけでふ。ので、見ず知らずの人をいきなり見ても名前を見ることはできましぇん。種族も似たような感じで、わたしの知る限りの知識は入れたつもりれしゅが、知らない種族の情報は分かりません」

 なるほど。そこんところは力業なのか。まあ、そんな詳細の情報まで見ただけで探れたならばもはや賢者だろう。ミモザの技術力は我が認めるほどに確かだが、世界のありとあらゆる万物を知り尽くしているというわけじゃない。

 ふと気になったので、メガネを掛けたまま、姿見で自分の姿を映してみた。
 メガネを掛けた銀髪の美少女がそこに立っている。

【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:21≫
 ≪HP:174/174≫
 ≪MP:82/82≫
 ≪状態:健康≫

 ううむ、ミモザの手作り感とその涙ぐましい努力が垣間見える。
 一応、ミモザには我の本名も明かしていないし、当然魔王であることも言っていないため、必然とこうなるだろう。



 あれからダンジョン探索を続けた我とミモザは順調に経験値稼ぎしていき、様々なお宝をかき集めることに成功した。
 さすがは群れをなす種族、ゴブリンの巣窟というだけあって、数も多く面倒だったが、そのおかげもあってレベルも大分上がった。

 また、ゴブリンたちが集めたにしては少々勿体ないくらいの素材も多く、ミモザとしても大収穫だったようで、帰ってからというもの、新しい魔具を作りたい放題やってもらっている。

「今回のも素晴らしい出来映えだ。疲れただろう? ゆっくり休むといい」
「えへへ……えへ……」
 それは笑顔ではあるものの、うつろな顔をしている。
 怠惰なる色彩(カラーチート)を付けているわけでもないのにミモザの髪も肌も汚れて黒ずんでしまっているし、心なしか油と泥を混ぜたみたいな臭いもする。
 相当休まずに作り続けていたのだろう。
 さらっとさっきも疲弊とか書いてあったし。

 魔具を作ってもらうのは助かるが、ミモザに倒れてもらっては我も困る。
 無茶のさせすぎもよくない。というか、日頃無茶ばかりしてるから疲労がたたっていつも舌っ足らずなんじゃないのか?
 ミモザは放っておくと勝手にそこらでのたれ死にそうな危うさがある。

「おい、ミモザを頼む」
 我の指ぱっちん一つでメイド数人に取り囲まれ運ばれていくミモザを見送りつつも、我は今後の計画について思索に耽ることにした。

 順風満帆かと思いきや、現状はそうでもない。
 ミモザの作ってくれた魔力の蓄積石(パワージェム)のおかげである程度の魔法も使えるようになり、経験値稼ぎなることにも精力的に励むことができている。

 が、正直アレは燃費が悪い。一発撃つだけでも魔力の蓄積石(パワージェム)が数個砕け散る。
 ゴブリンの巣窟でも実際、ギリギリだった。
 第一、以前の我なら鋼鉄巨神の黒弾丸(キャノンボーラー)くらい数百発と連発できた。それができていた当時にあの勇者に負けて心臓グサーってされたのだから、今のままでは勝ち目もへったくれもあるわけがない。

 正面からの交戦は最初からとっくに諦めている。だがせめて、不意打ちを決められるくらいには我自身も力を取り戻さなければどうにもならん。
 今の我がすべきことは、勇者を討つための必要最低限の力を蓄えることだ。

 もうしばらくはミモザの手を借りつつ、経験値稼ぎに勤しまねば。
 しかし、かといってこの屋敷を不在にしすぎればそれはそれで問題だ。

 いくら怠惰なる色彩(カラーチート)で正体を誤魔化したところで、我がいない期間が長すぎれば勇者どもに怪しまれてしまうからだ。不本意ながら、我もこのパエデロスでは相当目立ってしまったからな。これ以上は怪しまれたくはない。

 我の身代わり――例えばゴーレム――でも作れればまた違うのだろうが、さすがにアレは禁忌。ミモザに作らせるわけにもいかない。魔具とは規模が違う。
 当面は隠れて行動していくしかあるまい。

 この街で目立とうものなら、勇者が駆けつけてグサッ! なのだからな。

「フィーお嬢様、客人がお見えになりました」
 使用人に声を掛けられギクリとする。またか。
「分かった。我が応対する」

 ※ ※ ※

「おじゃましま~すっ」
 やっぱりダリアだった。

 ここのところ、我の家を巡回路にでもしているのか、頻繁に顔を見せに来る。
 さっさと追い返すのもいいが、相手は勇者の仲間。不審な動きがないことをアピールせねば、何を報告されるか分かったものではない。

【知らない人】(人間)
 ≪LV:89≫
 ≪HP:3444/3444≫
 ≪MP:4892/4892≫
 ≪状態:健康≫

 なんかとんでもない数値が見えてくる。そういえばミモザの作ったメガネを外すのを忘れてた。勇者じゃないのにこの数値はアカンて。

「あれ? そのメガネ、かわいいね。意外とオシャレさんなんだ」
 わざとらしいくらいにおべっか使ってくる。いらんわそういうの。
 とりあえず癪に障ったのでメガネを外す。

「なんで我の家にくるのだ。茶は出さんぞ」
「分かってる分かってるって」
 まーまー、となだめるように手を添えてくる。

「この屋敷は特に目立つからねぇ。ドロボウさんとかに狙われるかもしれないからこうやって見回りに来てるんだってば」
 そういう建前なのだろう? さすがに我にも分かるぞ、それくらい。

「ご覧の通り、警備も万全だ。屋敷に忍び込もうものなら袋叩きよ」
「そーゆー油断が一番ヤバいんだけどねー」
 ぐへへぇ~とヘンな笑みを見せてくる。それは一体何のサインだ。どういうリアクションを我に要求しているんだ。脅しか? 脅しなのか?

「ま、大丈夫ならいいよ。でも何かあったらすぐに言ってよね。勇者と一緒に駆けつけてくるからさ」
「ゆ、勇者など必要ないっ」
 勇者と聞くだけで心臓が痛む。くぅ~……。

「そんな勇者を毛嫌いしなくても……なんでロータスのこと嫌いなの? やっぱり子供扱いしたから? あはは、そういうとこが子供っぽいんだから」
 とか言いながらもダリアに頭を撫でられる。ぐぬぬ……。

 その顔面に魔法をぶち込んでやりたい。しかし、ここはガマンどころ。
 我が密かに力を蓄えていることを知れば勇者が来る。
 ここで目立ってはならぬ。目立つな危険!

「ああごめんごめん、つい撫でちゃった。もう、そんな顔真っ赤にして怒らなくてもいいじゃない。可愛い顔が台無しだって」
「怒っておらん! 用が済んだならとっとと帰れっ!」

「はいはい、おじゃましました~。今度くるときは菓子折でも持ってくるわね」
 とか何とか軽くいなすように、ダリアはそそくさと立ち去っていった。
 まったくダリアの奴め。毎度毎度、我をからかいにきているんじゃなかろうか。

 こう頻繁に様子見されたのでは、我の計画も前途多難だな。今さらだが。


次のエピソードへ進む 第10話 残念、MPが尽きてしまった


みんなのリアクション

「フィーさん、できましらっ! あでっ!」
 我が屋敷の廊下に、ミモザの声が響く。
 そろそろ見慣れたミモザのドタドタ走りと、恒例のドテっと転倒を見届けたところで、とりあえず頭を撫でてやりつつも起き上がらせる。
「ふへへ……新しい素材いっぱい手に入ったので、|現実の反射板《リアルミラー》もパワーアップしましたぁ。その名も|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》れしゅ」
 見たところ、新品のメガネのようだ。ミモザから受け取り、早速掛けてみる。
【ミモザ・アレフヘイム】(エルフ族)
 ≪LV:13≫
 ≪HP:43/76≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:疲弊≫
 おお、凄い。メガネを通して見たものの情報がスッキリくっきり文字列となって映し出されている。しかも、|現実の反射板《リアルミラー》よりも情報量が多くなっている。
「名前と種族も出るのだな。これは一体どういう仕組みだ?」
「えぇと、さすがに名前の鑑定は難しかったので直に登録したものだけでふ。ので、見ず知らずの人をいきなり見ても名前を見ることはできましぇん。種族も似たような感じで、わたしの知る限りの知識は入れたつもりれしゅが、知らない種族の情報は分かりません」
 なるほど。そこんところは力業なのか。まあ、そんな詳細の情報まで見ただけで探れたならばもはや賢者だろう。ミモザの技術力は我が認めるほどに確かだが、世界のありとあらゆる万物を知り尽くしているというわけじゃない。
 ふと気になったので、メガネを掛けたまま、姿見で自分の姿を映してみた。
 メガネを掛けた銀髪の美少女がそこに立っている。
【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:21≫
 ≪HP:174/174≫
 ≪MP:82/82≫
 ≪状態:健康≫
 ううむ、ミモザの手作り感とその涙ぐましい努力が垣間見える。
 一応、ミモザには我の本名も明かしていないし、当然魔王であることも言っていないため、必然とこうなるだろう。
 あれからダンジョン探索を続けた我とミモザは順調に経験値稼ぎしていき、様々なお宝をかき集めることに成功した。
 さすがは群れをなす種族、ゴブリンの巣窟というだけあって、数も多く面倒だったが、そのおかげもあってレベルも大分上がった。
 また、ゴブリンたちが集めたにしては少々勿体ないくらいの素材も多く、ミモザとしても大収穫だったようで、帰ってからというもの、新しい魔具を作りたい放題やってもらっている。
「今回のも素晴らしい出来映えだ。疲れただろう? ゆっくり休むといい」
「えへへ……えへ……」
 それは笑顔ではあるものの、うつろな顔をしている。
 |怠惰なる色彩《カラーチート》を付けているわけでもないのにミモザの髪も肌も汚れて黒ずんでしまっているし、心なしか油と泥を混ぜたみたいな臭いもする。
 相当休まずに作り続けていたのだろう。
 さらっとさっきも疲弊とか書いてあったし。
 魔具を作ってもらうのは助かるが、ミモザに倒れてもらっては我も困る。
 無茶のさせすぎもよくない。というか、日頃無茶ばかりしてるから疲労がたたっていつも舌っ足らずなんじゃないのか?
 ミモザは放っておくと勝手にそこらでのたれ死にそうな危うさがある。
「おい、ミモザを頼む」
 我の指ぱっちん一つでメイド数人に取り囲まれ運ばれていくミモザを見送りつつも、我は今後の計画について思索に耽ることにした。
 順風満帆かと思いきや、現状はそうでもない。
 ミモザの作ってくれた|魔力の蓄積石《パワージェム》のおかげである程度の魔法も使えるようになり、経験値稼ぎなることにも精力的に励むことができている。
 が、正直アレは燃費が悪い。一発撃つだけでも|魔力の蓄積石《パワージェム》が数個砕け散る。
 ゴブリンの巣窟でも実際、ギリギリだった。
 第一、以前の我なら|鋼鉄巨神の黒弾丸《キャノンボーラー》くらい数百発と連発できた。それができていた当時にあの勇者に負けて心臓グサーってされたのだから、今のままでは勝ち目もへったくれもあるわけがない。
 正面からの交戦は最初からとっくに諦めている。だがせめて、不意打ちを決められるくらいには我自身も力を取り戻さなければどうにもならん。
 今の我がすべきことは、勇者を討つための必要最低限の力を蓄えることだ。
 もうしばらくはミモザの手を借りつつ、経験値稼ぎに勤しまねば。
 しかし、かといってこの屋敷を不在にしすぎればそれはそれで問題だ。
 いくら|怠惰なる色彩《カラーチート》で正体を誤魔化したところで、我がいない期間が長すぎれば勇者どもに怪しまれてしまうからだ。不本意ながら、我もこのパエデロスでは相当目立ってしまったからな。これ以上は怪しまれたくはない。
 我の身代わり――例えばゴーレム――でも作れればまた違うのだろうが、さすがにアレは禁忌。ミモザに作らせるわけにもいかない。魔具とは規模が違う。
 当面は隠れて行動していくしかあるまい。
 この街で目立とうものなら、勇者が駆けつけてグサッ! なのだからな。
「フィーお嬢様、客人がお見えになりました」
 使用人に声を掛けられギクリとする。またか。
「分かった。我が応対する」
 ※ ※ ※
「おじゃましま~すっ」
 やっぱりダリアだった。
 ここのところ、我の家を巡回路にでもしているのか、頻繁に顔を見せに来る。
 さっさと追い返すのもいいが、相手は勇者の仲間。不審な動きがないことをアピールせねば、何を報告されるか分かったものではない。
【知らない人】(人間)
 ≪LV:89≫
 ≪HP:3444/3444≫
 ≪MP:4892/4892≫
 ≪状態:健康≫
 なんかとんでもない数値が見えてくる。そういえばミモザの作ったメガネを外すのを忘れてた。勇者じゃないのにこの数値はアカンて。
「あれ? そのメガネ、かわいいね。意外とオシャレさんなんだ」
 わざとらしいくらいにおべっか使ってくる。いらんわそういうの。
 とりあえず癪に障ったのでメガネを外す。
「なんで我の家にくるのだ。茶は出さんぞ」
「分かってる分かってるって」
 まーまー、となだめるように手を添えてくる。
「この屋敷は特に目立つからねぇ。ドロボウさんとかに狙われるかもしれないからこうやって見回りに来てるんだってば」
 そういう建前なのだろう? さすがに我にも分かるぞ、それくらい。
「ご覧の通り、警備も万全だ。屋敷に忍び込もうものなら袋叩きよ」
「そーゆー油断が一番ヤバいんだけどねー」
 ぐへへぇ~とヘンな笑みを見せてくる。それは一体何のサインだ。どういうリアクションを我に要求しているんだ。脅しか? 脅しなのか?
「ま、大丈夫ならいいよ。でも何かあったらすぐに言ってよね。勇者と一緒に駆けつけてくるからさ」
「ゆ、勇者など必要ないっ」
 勇者と聞くだけで心臓が痛む。くぅ~……。
「そんな勇者を毛嫌いしなくても……なんでロータスのこと嫌いなの? やっぱり子供扱いしたから? あはは、そういうとこが子供っぽいんだから」
 とか言いながらもダリアに頭を撫でられる。ぐぬぬ……。
 その顔面に魔法をぶち込んでやりたい。しかし、ここはガマンどころ。
 我が密かに力を蓄えていることを知れば勇者が来る。
 ここで目立ってはならぬ。目立つな危険!
「ああごめんごめん、つい撫でちゃった。もう、そんな顔真っ赤にして怒らなくてもいいじゃない。可愛い顔が台無しだって」
「怒っておらん! 用が済んだならとっとと帰れっ!」
「はいはい、おじゃましました~。今度くるときは菓子折でも持ってくるわね」
 とか何とか軽くいなすように、ダリアはそそくさと立ち去っていった。
 まったくダリアの奴め。毎度毎度、我をからかいにきているんじゃなかろうか。
 こう頻繁に様子見されたのでは、我の計画も前途多難だな。今さらだが。