第8話 肉体改造するぞ!

ー/ー



「なんだとこのてめぇ!!!!」
「あぁん? やんのかコルァ!!!!」
 屋敷の廊下から窓の外を眺めてみると、愚かな人間どもが些細なことで諍いを起こしていた。それに駆けつけた野次馬どもが白熱した様子で眺めている。
 いいぞ、もっとやれ。これは飯が美味い。本当の意味で飯が美味い。
 ふと、徐にミモザお手製の鏡、現実の反射板(リアルミラー)を手に取ってみる。

 ≪LV:1≫
 ≪HP:12/12≫
 ≪MP:4/4≫

 うーん、これでこの程度なのか。以前見たときと比べ魔力が1増えてるが。
 このパエデロスに拠点を置いてからそれなりに経っていると思うのだが、人々の憎しみやら何やらを糧に魔力を得られる我の身体は一向に元に戻る様子もない。
 まあ、数百年掛かると言われたくらいだし、こんなものなのかもしれない。

 もっとこう、戦争が起こるくらいにならないとインフレも起きそうにない。
 一方で勇者どもは着実とこの街の治安を改善していっているようだし、このままボーっとしていたら増えるどころか減ってしまいそうだ。
 折角人が多くて治安の悪い街だったというのに、まるで逆効果だ。

 今進めている計画とは別に、少し我自身も鍛えるべきかもしれない。
 幸いにも、このパエデロスの周辺にはダンジョンも多く、冒険者たちが日夜挑戦し、腕試ししたり、己自身を磨いたりしている。環境としては最適だ。
 ならば、我もそこに参入して経験値を貯めていくのもいいだろう。

 少し前の我ならば大した武具もなく、無謀にしかならなかったが、今は違う。
 何故ならば、我のそばにはミモザがいるのだからな。

「フィーさん! 新しい魔具が完成しましたぁ~!」
 そんなことをふと思っていたら当の本人がドテドテと走りながら現れた。
「あぎゃっ」
 そしてお約束かのようにドテっと転んでくる。
 あまりに豪快に転ぶものだから、手に持っていたものも床に転がってしまう。

「慌てすぎだ。で、例のものはできたのか?」
 手を添えて倒れ込んだミモザを立ち上がらせつつ、ミモザは床に落ちたものを拾い上げ、確認する。片方は小箱、もう片方は何やら輪っかのようなもの。首飾りか何かだろうか。
「えへへ、しゅみましぇん。これです、これですよぉー」
 そういって手渡されたのは首飾りの方だった。
 ミモザから受け取ってみてもよく分からない。複雑な構造をしているということくらい。一先ず、ネックレスのように首につけてみる。
「名付けて、怠惰なる色彩(カラーチート)。フィーさんの注文通りに仕上がったと思いますれしゅ」

 窓に映った自分の姿を見てみると、驚いた。
 我の月の如く美しき銀髪がパンのような小麦色に、血の如く紅い瞳も空色になっていた。簡単に言うと別な色に置き換わっていたのだ。こいつぁすげぇや。
「うむ、素晴らしいではないか」
 これならパッと見、我だとはバレにくいだろう。
 我が元々予定していた変装も合わせればまさに別人。上手く使えば勇者どもの監視をかいくぐることだってできる。

「あと、これも」
 そういって脇に抱え込んでいた小箱の方も差し出してくる。中を開けてみると手のひらに収まるくらいの不揃いな水晶玉のようなソレ、魔力の蓄積石(パワージェム)がゴロゴロと。
 これだけあれば、魔力のない我でも魔法を使い放題だろう。グッジョブだ。

「感謝するぞ、ミモザ。これで我の計画も進むというものだ。ふはははっ!!」
「ぉ、おぉーっ……?」

 ※ ※ ※

 数刻後、パエデロスの街からそれなりに離れた位置にある森の中。その洞窟はポッカリと口を開けて冒険者たちを待っているようだった。
 我とミモザは、多少なり旅人っぽい身なりを整えて、そこに辿り着く。

「フィーさん、ほ、本当に入るんれしゅか?」
「おうとも。我も強くなりたいからな」

 常識的な話になるが、この世界に生きているものは誰しも戦いの中で成長していくもの。それを人間どもの俗物的な言い方をすれば経験値稼ぎとも呼ぶそうだ。
 地方の冒険者の組合や協会によって基準は異なるが、ある程度の成長度合いの指標のことをレベルと呼ぶらしいが、我はその辺りの細かいところはよく分からん。

 一般的には、力量を測る専門の鑑定士なる職業があり、組合や協会を通して申請することで自身のレベルを把握できるシステムが人間どもの社会にあるらしい。
 自分の力量が暫定的でも数字として可視化できれば無謀な戦いも避けられる。

 しかし、当然のことながら我はそんなものには縁はなかったし、仮にその鑑定士と会う機会があったところで、元々冒険者でも何でもない我では申請も通らん。
 というか、パエデロスにはそんな大層な機関自体がない。
 勇者の活躍次第では、いずれできるかもしれんがな。

 だが、ミモザの作った現実の反射板(リアルミラー)を使えば、我の現在のレベルなるものが把握できる。世の中にはミモザの手作りのものより精度の高いものも存在するらしいが、今の我にはこれだけで十分。どうせ他所の基準なぞ知らんし、分からんし。
 伸びしろだけでも把握できればそれでいい。

「ここで我も少しは強くなって、ついでにこのダンジョンで希少な素材を手に入れる。そうすればミモザもまた新しい魔具を作れるだろう?」
「それは嬉しいでしゅけど、わたしたちでこのダンジョンを攻略できるのかどうか」
 ミモザは我のレベルも自分のレベルも現実の反射板(リアルミラー)によって知っている。何処ぞの組合や協会と比較したら精度はよくはないだろうが、それでも数値として低いことには変わりない。
 しかしだな。所詮レベルは基準や指標に過ぎない。レベルが低ければ即ち弱いということでもないのだ。

「ふふふ、我にはミモザの魔具もある。心配はいらん。さあ、肉体改造するぞ!」
 そう強く意気込んで、洞窟へと足を踏み入れると、まるでお出迎えと言わんばかりに洞窟の奥の方から唸り声と生臭いソレが飛んできた。

「ぃひいぃぃぃっ!? なんれしゅかぁ?」
「ぐるるるるぅぅぅ!」
 ここのダンジョンの情報は調べてある。ゴブリンの巣穴になっているそうだ。
 ゴブリンは自分の縄張りの中に金品や珍しい鉱石を貯め込む習性がある。
 単体ならさほど強くはなく、駆逐できる戦力があるのならごっそりとお宝を総取りだ。まあ、ゴブリンは群れることでも有名で、むしろ厄介なのは群れの規模。

 我が魔王軍でもゴブリンを兵力に加えようと検討していたこともあるくらい、仲間意識が高いのだが、いかんせん知能が低すぎて扱いきれなかった。

「き、きましゅっ!」
 ザッと見たところ、この狭い入口に二十体くらいか。まだ奥の方に待機しているのもいるだろう。ま、分散していないなら都合は良い。

 我はその小さな水晶玉を構え――
鋼鉄巨神の黒弾丸(キャノンボーラー)!!!!」
 目の前に岩ほどの大きな魔法の弾を生成し、そのまま洞窟に向けて放つ。

 ドゴォーンと強烈な轟音を鳴り響かせ、弾丸はゴブリンの群れを一掃しながら洞窟の奥へと突き進んでいく。確認するまでもない、一網打尽だ。
 ちょっと洞窟の形を変えてしまったかな。ま、些末なことよ。

「はひぃぃ……フィーしゃんしゅごいれしゅぅぅ……」
 何故か隣にいたミモザがペタンとそのまま地面に座る。少し大げさな魔法を使ってしまったか? そんなことを考えていたら手元に構えたものどころか予備の魔力の蓄積石(パワージェム)まで幾つかまとめて砕け散っていた。
 ……魔法が使えると思って調子に乗りすぎた。

「ふぅ……ミモザ、お前のおかげで助かった。これで探索し放題だ。存分に目当ての素材を持ち帰ろうではないか」
 白々しく誤魔化しながらも、我とミモザのダンジョン探索が始まった。


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「なんだとこのてめぇ!!!!」
「あぁん? やんのかコルァ!!!!」
 屋敷の廊下から窓の外を眺めてみると、愚かな人間どもが些細なことで諍いを起こしていた。それに駆けつけた野次馬どもが白熱した様子で眺めている。
 いいぞ、もっとやれ。これは飯が美味い。本当の意味で飯が美味い。
 ふと、徐にミモザお手製の鏡、|現実の反射板《リアルミラー》を手に取ってみる。
 ≪LV:1≫
 ≪HP:12/12≫
 ≪MP:4/4≫
 うーん、これでこの程度なのか。以前見たときと比べ魔力が1増えてるが。
 このパエデロスに拠点を置いてからそれなりに経っていると思うのだが、人々の憎しみやら何やらを糧に魔力を得られる我の身体は一向に元に戻る様子もない。
 まあ、数百年掛かると言われたくらいだし、こんなものなのかもしれない。
 もっとこう、戦争が起こるくらいにならないとインフレも起きそうにない。
 一方で勇者どもは着実とこの街の治安を改善していっているようだし、このままボーっとしていたら増えるどころか減ってしまいそうだ。
 折角人が多くて治安の悪い街だったというのに、まるで逆効果だ。
 今進めている計画とは別に、少し我自身も鍛えるべきかもしれない。
 幸いにも、このパエデロスの周辺にはダンジョンも多く、冒険者たちが日夜挑戦し、腕試ししたり、己自身を磨いたりしている。環境としては最適だ。
 ならば、我もそこに参入して経験値を貯めていくのもいいだろう。
 少し前の我ならば大した武具もなく、無謀にしかならなかったが、今は違う。
 何故ならば、我のそばにはミモザがいるのだからな。
「フィーさん! 新しい魔具が完成しましたぁ~!」
 そんなことをふと思っていたら当の本人がドテドテと走りながら現れた。
「あぎゃっ」
 そしてお約束かのようにドテっと転んでくる。
 あまりに豪快に転ぶものだから、手に持っていたものも床に転がってしまう。
「慌てすぎだ。で、例のものはできたのか?」
 手を添えて倒れ込んだミモザを立ち上がらせつつ、ミモザは床に落ちたものを拾い上げ、確認する。片方は小箱、もう片方は何やら輪っかのようなもの。首飾りか何かだろうか。
「えへへ、しゅみましぇん。これです、これですよぉー」
 そういって手渡されたのは首飾りの方だった。
 ミモザから受け取ってみてもよく分からない。複雑な構造をしているということくらい。一先ず、ネックレスのように首につけてみる。
「名付けて、|怠惰なる色彩《カラーチート》。フィーさんの注文通りに仕上がったと思いますれしゅ」
 窓に映った自分の姿を見てみると、驚いた。
 我の月の如く美しき銀髪がパンのような小麦色に、血の如く紅い瞳も空色になっていた。簡単に言うと別な色に置き換わっていたのだ。こいつぁすげぇや。
「うむ、素晴らしいではないか」
 これならパッと見、我だとはバレにくいだろう。
 我が元々予定していた変装も合わせればまさに別人。上手く使えば勇者どもの監視をかいくぐることだってできる。
「あと、これも」
 そういって脇に抱え込んでいた小箱の方も差し出してくる。中を開けてみると手のひらに収まるくらいの不揃いな水晶玉のようなソレ、|魔力の蓄積石《パワージェム》がゴロゴロと。
 これだけあれば、魔力のない我でも魔法を使い放題だろう。グッジョブだ。
「感謝するぞ、ミモザ。これで我の計画も進むというものだ。ふはははっ!!」
「ぉ、おぉーっ……?」
 ※ ※ ※
 数刻後、パエデロスの街からそれなりに離れた位置にある森の中。その洞窟はポッカリと口を開けて冒険者たちを待っているようだった。
 我とミモザは、多少なり旅人っぽい身なりを整えて、そこに辿り着く。
「フィーさん、ほ、本当に入るんれしゅか?」
「おうとも。我も強くなりたいからな」
 常識的な話になるが、この世界に生きているものは誰しも戦いの中で成長していくもの。それを人間どもの俗物的な言い方をすれば経験値稼ぎとも呼ぶそうだ。
 地方の冒険者の組合や協会によって基準は異なるが、ある程度の成長度合いの指標のことをレベルと呼ぶらしいが、我はその辺りの細かいところはよく分からん。
 一般的には、力量を測る専門の鑑定士なる職業があり、組合や協会を通して申請することで自身のレベルを把握できるシステムが人間どもの社会にあるらしい。
 自分の力量が暫定的でも数字として可視化できれば無謀な戦いも避けられる。
 しかし、当然のことながら我はそんなものには縁はなかったし、仮にその鑑定士と会う機会があったところで、元々冒険者でも何でもない我では申請も通らん。
 というか、パエデロスにはそんな大層な機関自体がない。
 勇者の活躍次第では、いずれできるかもしれんがな。
 だが、ミモザの作った|現実の反射板《リアルミラー》を使えば、我の現在のレベルなるものが把握できる。世の中にはミモザの手作りのものより精度の高いものも存在するらしいが、今の我にはこれだけで十分。どうせ他所の基準なぞ知らんし、分からんし。
 伸びしろだけでも把握できればそれでいい。
「ここで我も少しは強くなって、ついでにこのダンジョンで希少な素材を手に入れる。そうすればミモザもまた新しい魔具を作れるだろう?」
「それは嬉しいでしゅけど、わたしたちでこのダンジョンを攻略できるのかどうか」
 ミモザは我のレベルも自分のレベルも|現実の反射板《リアルミラー》によって知っている。何処ぞの組合や協会と比較したら精度はよくはないだろうが、それでも数値として低いことには変わりない。
 しかしだな。所詮レベルは基準や指標に過ぎない。レベルが低ければ即ち弱いということでもないのだ。
「ふふふ、我にはミモザの魔具もある。心配はいらん。さあ、肉体改造するぞ!」
 そう強く意気込んで、洞窟へと足を踏み入れると、まるでお出迎えと言わんばかりに洞窟の奥の方から唸り声と生臭いソレが飛んできた。
「ぃひいぃぃぃっ!? なんれしゅかぁ?」
「ぐるるるるぅぅぅ!」
 ここのダンジョンの情報は調べてある。ゴブリンの巣穴になっているそうだ。
 ゴブリンは自分の縄張りの中に金品や珍しい鉱石を貯め込む習性がある。
 単体ならさほど強くはなく、駆逐できる戦力があるのならごっそりとお宝を総取りだ。まあ、ゴブリンは群れることでも有名で、むしろ厄介なのは群れの規模。
 我が魔王軍でもゴブリンを兵力に加えようと検討していたこともあるくらい、仲間意識が高いのだが、いかんせん知能が低すぎて扱いきれなかった。
「き、きましゅっ!」
 ザッと見たところ、この狭い入口に二十体くらいか。まだ奥の方に待機しているのもいるだろう。ま、分散していないなら都合は良い。
 我はその小さな水晶玉を構え――
「|鋼鉄巨神の黒弾丸《キャノンボーラー》!!!!」
 目の前に岩ほどの大きな魔法の弾を生成し、そのまま洞窟に向けて放つ。
 ドゴォーンと強烈な轟音を鳴り響かせ、弾丸はゴブリンの群れを一掃しながら洞窟の奥へと突き進んでいく。確認するまでもない、一網打尽だ。
 ちょっと洞窟の形を変えてしまったかな。ま、些末なことよ。
「はひぃぃ……フィーしゃんしゅごいれしゅぅぅ……」
 何故か隣にいたミモザがペタンとそのまま地面に座る。少し大げさな魔法を使ってしまったか? そんなことを考えていたら手元に構えたものどころか予備の|魔力の蓄積石《パワージェム》まで幾つかまとめて砕け散っていた。
 ……魔法が使えると思って調子に乗りすぎた。
「ふぅ……ミモザ、お前のおかげで助かった。これで探索し放題だ。存分に目当ての素材を持ち帰ろうではないか」
 白々しく誤魔化しながらも、我とミモザのダンジョン探索が始まった。