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第5話 一年と変化

ー/ー



 無限の反復と肉体の最適化。それを初めてから、一年で少年はかなりの実力を手にした。そう一年がたったのだ。

「今日も来たぜー、いつも通りで良いか?」

 正確に数えたらもう何度目になろうか。少年は慣れた手付きで、滝の裏の広い洞窟、そこの壁に立て掛けられた剣を握り締める。
 
「ううん。昨日の時点で君は、私の知る技を全て体に馴染ませた。まだまだ浅いけど、一先ずは完成させた。だから、今日から当分は、死なないための知恵をつけて貰う」

 少女の急な言葉に一瞬、止まった時。しかし、少年の頭の中では、意味をしっかり捉えていた。

「そうか、そうするべきなら分かった。でも、俺はまだ技を覚えたとは思えない。昨日やった技だって、まだ腕の捻りが弱いって分かってる。その前の技だって……」

「でも君は、言われたらその技を私に見せれる」

 確かに少年は、これまでに少女に習った人間工学的にあり得る相手の動きへの対応、こちらから押すための攻め方、体の流し方、そう言った“技”を、何も見ずに再現していくことは可能だった。

「いま君が懸念している、技の足りない部分を改善するには、現状の君の知識、経験、肉体の成長度で同じように練習していても30年は掛かってしまう」

「そう、なのか……?」

 次に技を使う時にでも、解決できるだろうと思っていたことは想像よりも遥かに高い壁である。その事実に、少年は絶句しかけていた。
 それでも少女は、あくまでも質問に論理的に答えようと口を開く。

「ちよっとだけ、嘘。知識は私が少しずつ教えているし、あらゆる経験を水で見せることができる。それに、肉体だって、勝手に成長している。この時点で私の言った仮定は全て崩れるから、貴方はその問題を解決する」

 そこで話題を区切るように、少女は一度やや下を向いて思案する。

「やることを切り替えるにしても、技の練習はする、強度が下がるだけで。でも、それだけでは駄目。私が君にお願いしたこと、覚えてる?」

 少年は、自分のすることの大きさもあり、それを忘れたことは無かった。
 
「西の果てで魔王が誕生するのを防ぐこと」

「正解。君が行くべきところと比べれば、ここは遥かに東、それにやや南でもある。つまり、西に行く道中、こことは全く違う環境を、君は幾つも通ることになる」

「技だけでは通用しない?」

 少年が知ることは剣の使い方と小さな畑な扱い方だけであった。

「そう言うことになる。だからこそ、君には色々と知って欲しい」



 そうして少年達は、洞窟の外に出る。少年が帰るときとは違い、背後には雄大な滝が見えたままだ。
 
「まずは、食べれる物」

 少女は、歩きながらそこらに生えた、如何にも食べられなさそうな葉や茎を拾う。

「この森には、世界中……とまでは言えないけれど、一般的な森に比べれば数多くの山菜、果物、動物がいる。その中には、危険が伴う物もある。旅立つ日までにできる限り多く体験して欲しい」

 数分ほど歩き、小川が横を通る少し開けた空き地に出たところで足を止める。そこから少女は、集めた植物の中から一本を取り出してこちらを向く。

「例えば、これ。先っぽが三角形で、俗には悪魔の尾と呼ばれている。毒性を持っていて、接種すれば体力が異常に低下し、結果的に高熱を出す」

 少女のそんな説明に、少年は夢中だった。
 だが、早く次をと思う少年の前で、少女は口を噤み、少年が背負ってきたカバンの中から幾つか道具を取り出す。

「こんな物だけど、色々な事に使える。こうやって、水にさらした後、バケツに水と一緒に入れて茹でる」

 少女は、実際に見せるようで、二人の間にただ火を眺め続けるという少々辛い時間が始まった。それに対し、少年は

「強欲かも知れないが、何か他に、話をしてくれないか?」

 と知識を乞う。

「旅の退屈に慣れるといい」

 効率的に物事を進めたいだろうと思っていた少年に取って、この返答は予想違いだった。落胆しながらも、退屈なのは普段も同じかと気を取り直して、座り直す。

「冗談なのだけれど」

 少女としては、旅の仲間とするちょっとした雑談の楽しさを知って貰いたかったのだけれど、こうも本気で取られるのは、今までの自分の責任かと、少しだけ過去を後悔した。 


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 無限の反復と肉体の最適化。それを初めてから、一年で少年はかなりの実力を手にした。そう一年がたったのだ。
「今日も来たぜー、いつも通りで良いか?」
 正確に数えたらもう何度目になろうか。少年は慣れた手付きで、滝の裏の広い洞窟、そこの壁に立て掛けられた剣を握り締める。
「ううん。昨日の時点で君は、私の知る技を全て体に馴染ませた。まだまだ浅いけど、一先ずは完成させた。だから、今日から当分は、死なないための知恵をつけて貰う」
 少女の急な言葉に一瞬、止まった時。しかし、少年の頭の中では、意味をしっかり捉えていた。
「そうか、そうするべきなら分かった。でも、俺はまだ技を覚えたとは思えない。昨日やった技だって、まだ腕の捻りが弱いって分かってる。その前の技だって……」
「でも君は、言われたらその技を私に見せれる」
 確かに少年は、これまでに少女に習った人間工学的にあり得る相手の動きへの対応、こちらから押すための攻め方、体の流し方、そう言った“技”を、何も見ずに再現していくことは可能だった。
「いま君が懸念している、技の足りない部分を改善するには、現状の君の知識、経験、肉体の成長度で同じように練習していても30年は掛かってしまう」
「そう、なのか……?」
 次に技を使う時にでも、解決できるだろうと思っていたことは想像よりも遥かに高い壁である。その事実に、少年は絶句しかけていた。
 それでも少女は、あくまでも質問に論理的に答えようと口を開く。
「ちよっとだけ、嘘。知識は私が少しずつ教えているし、あらゆる経験を水で見せることができる。それに、肉体だって、勝手に成長している。この時点で私の言った仮定は全て崩れるから、貴方はその問題を解決する」
 そこで話題を区切るように、少女は一度やや下を向いて思案する。
「やることを切り替えるにしても、技の練習はする、強度が下がるだけで。でも、それだけでは駄目。私が君にお願いしたこと、覚えてる?」
 少年は、自分のすることの大きさもあり、それを忘れたことは無かった。
「西の果てで魔王が誕生するのを防ぐこと」
「正解。君が行くべきところと比べれば、ここは遥かに東、それにやや南でもある。つまり、西に行く道中、こことは全く違う環境を、君は幾つも通ることになる」
「技だけでは通用しない?」
 少年が知ることは剣の使い方と小さな畑な扱い方だけであった。
「そう言うことになる。だからこそ、君には色々と知って欲しい」
 そうして少年達は、洞窟の外に出る。少年が帰るときとは違い、背後には雄大な滝が見えたままだ。
「まずは、食べれる物」
 少女は、歩きながらそこらに生えた、如何にも食べられなさそうな葉や茎を拾う。
「この森には、世界中……とまでは言えないけれど、一般的な森に比べれば数多くの山菜、果物、動物がいる。その中には、危険が伴う物もある。旅立つ日までにできる限り多く体験して欲しい」
 数分ほど歩き、小川が横を通る少し開けた空き地に出たところで足を止める。そこから少女は、集めた植物の中から一本を取り出してこちらを向く。
「例えば、これ。先っぽが三角形で、俗には悪魔の尾と呼ばれている。毒性を持っていて、接種すれば体力が異常に低下し、結果的に高熱を出す」
 少女のそんな説明に、少年は夢中だった。
 だが、早く次をと思う少年の前で、少女は口を噤み、少年が背負ってきたカバンの中から幾つか道具を取り出す。
「こんな物だけど、色々な事に使える。こうやって、水にさらした後、バケツに水と一緒に入れて茹でる」
 少女は、実際に見せるようで、二人の間にただ火を眺め続けるという少々辛い時間が始まった。それに対し、少年は
「強欲かも知れないが、何か他に、話をしてくれないか?」
 と知識を乞う。
「旅の退屈に慣れるといい」
 効率的に物事を進めたいだろうと思っていた少年に取って、この返答は予想違いだった。落胆しながらも、退屈なのは普段も同じかと気を取り直して、座り直す。
「冗談なのだけれど」
 少女としては、旅の仲間とするちょっとした雑談の楽しさを知って貰いたかったのだけれど、こうも本気で取られるのは、今までの自分の責任かと、少しだけ過去を後悔した。