ニーグディは、世界で1番大きな樹だった。
人類はこの樹のことを忘れかけていて、樹の根元に住む種族、ガレフの一族だけにその秘密が伝わっていた。
他の人類にとってこの樹は、大きな大きな樹であること。それだけしかわかっていなかった。
この樹がいつからあるものか、この樹が何を守っているのか。それを知っているのはガレフの民だけだった。
ある日大きな戦争が、ガレフの民を滅ぼした。
ニーグディは伝説からも姿を消した。
あれから百年経った頃、ついにニーグディも灰になった。
♢
「あれがかつてのガレフの里か……」
「けほっげほっ!おいおい!なんだってこんな場所に行かなきゃならないんだよ!」
「しょうがないだろ?任務なんだから……」
吹雪のように灰の舞う荒野を、2人の男が歩いている。
「おい、本当にこの先に大樹のあった場所があんのか?方角なんてもう全然わかんねえぞ!」
「うるさいな……僕だって前に進んでるのか戻ってるのかわかんないよ……」
「ふざけんな!げほっ!大体なんでお前だけマスクしてんだ!」
「お前の判断だろ?僕はこうなることくらいわかってた。あれだけデカい樹を燃やしたんだぜ?灰くらい予想しろよ……。あいにくガスマスクはこれ一つしかない」
「ちっ……覚えてろよお前!」
まるで雪原のように、足跡がついては消えていく。同じ場所を歩いていてもわかるはずがなかった。
「おい……おいおい……ほんとにヤバいんじゃねぇのか……?」
「いや……どうやらそうでもないらしい」
「なっ……何かあったのか?!」
「あれだ。大樹の切り株がみえる」
男の指さした先には、真っ黒に焦げた大きなドームのようなものが見えた。
「あれが……切り株……ほんとうに大きいんだな……」
「世界最大の樹。そりゃあ大きいさ。でも大きすぎて焼かれちゃうなんて、調子に乗りすぎたんじゃない?」
「違いないな」
男たちは巨大な切り株の目の前まできた。
「こりゃあ派手に焼けたもんだな。もうこの根元しかないみたいだ」
「よし、それじゃあ調査は終わりだな。あとは清掃班を呼んで大陸を清浄することができれば、人類はまた大きく発展する!」
「……ん?おい、あれ見ろよ」
「なんだ?」
「切り株の真ん中……あれ、動いてないか?」
「なにもないぞ……ん……?」
「な?ほらっ。動いてる」
切り株の中央には、ドーム状にこんもりと膨らんだ場所があり、動いている。
「なんだありゃ……こんな場所にいる生命体なんて……」
ぼこっ!
「おわっ?!」
灰が勢いよく噴き上がった。
「な……なんだ……?」
ぶぶぶぶぶぶ……。
「……羽音……?」
「おいっ……後ろ……っ!」
「なん……」
ザッ!
突然片方の男の首から上がなくなった。
「ひっ……なっなんだあれはっ?!」
大きな虫だった。黒い甲冑のような甲殻から伸びた長いツノには、男の首が刺さっていた。
「おいおい嘘だろ……や……やめてくれ……」
男は逃げようとした。
「おわっ!……ひぃ……っ!」
首の取れた男の死骸につまづいてしまったが。
「ん……?これは……っ!」
男の死骸にはレーザー銃が携わっていた。
「悪りィ……借りるぜ……っ!」
ぴゅんっ……!
虫の甲冑を貫きレーザーは飛んでいった。
ぶぶ……ぶぶぶ……ずんっ……
「や……やったか……?」
ずず……ずずずずずず……ずず……ん……
虫の身体はどんどん沈んでいき……そのまわりの灰も沈んでいった。
「な……なんだなんだ……?」
やがてドーム状の隆起を中心に切り株全体にその波は広がっていき……ぽっかりと大きな穴があいた。
「これは……どこにつながっているんだ……?」
人類未踏の世界、後に古の部族から名を継いで「ガレフ」と呼ばれる世界が見つかった。
人類は、大樹の隠していたものの大きさを知り、ここに新しい時代の幕開けを宣言する。
「解樹歴」がはじまった。