第3話 金ならあるぞ!

ー/ー



 勇者の動向を知るために、我はパエデロス周辺の情報を探ってみた。

 大体は以前に調査したものと一緒で、このパエデロスの周囲には沢山のダンジョンがあり、冒険者やら盗賊やらが集まっているといったものばかり。

 どうにも開拓が進められている様子で、よくよく見ると街のあちこちでは新しい家がどんどん建てられようとしている。
 中には、冒険者たちの持ち帰った宝目当てで一儲けしようとしている商人や、酔狂な貴族たちもここいらに移住してきているらしい。

 このままでは人間どもが繁栄して、ここも立派な都市になってしまうのも時間の問題ではないか。
 しかも、その大部分を担っているのが、あの勇者たちだというのだから尚のことタチが悪い。盗賊や蛮族、ならず者に悪徳商人などなど、片っ端から成敗しちゃってくれちゃって、治安がどんどん良くなっていってしまう。

 ぐぬぬ、おのれ勇者め。

 我に力が残っていたなら欲深き人間どもをかき集め、悪意の渦巻くハーレムにしてやるというのに。そしてゆくゆくは第二の魔王城の建設も夢ではない。
 勇者さえいなければ、実に居心地の良い街だ。なんとしてでも勇者を討ち、このパエデロスを我が第二の故郷にしたい。

 だが、肝心の我はザコザコのよわよわ。そのせいで魔王軍からも追放された身。
 力も人望もない今の我に、一体何ができるのか。

「おい、そこの可愛いお嬢ちゃん」
「あん?」
 なんか声を掛けられたと思ったら、ガラの悪い男たちが我を取り囲んでいた。
 あれ? これってマズイのでは?
 普通に、平然と、何も考えなしにパエデロスをブラブラとしていたけど、治安が悪い土地だったよね。そら絡まれるよね。
 我、人間どもなんてどうでもいいと思ってたけど、これあかんのでは?

「ぐへへ……キレイな身体してるじゃねぇかぁ……」
「何処かのご令嬢さまか? 世間知らずっぽいアホ面しやがって」
「俺たちの縄張りに勝手に入ってきたんだから何されても仕方ないよなぁ?」

 あかん、死ぬ。死ななくてもなんかされる。エロいこともエグいことも全部!
 というか、なんで我、今まで気付かなかったの。我、ザコザコのよわよわなんだからこんな人間どもに囲まれたら詰むに決まっているではないか。

「ひぎぃぃぃ……、あ、あの、あっ! そうだ、金。金なら……金ならあるぞ!」
 尻餅をつきながらも何かないかと体を探り、金貨や銀貨を入れておいた袋を咄嗟に差し出す。こんなものでどうにかなるとは思ってはいないが、我も必死だった。

「うひょー! すげぇ! マジもんのお金持ちお嬢様じゃーん!」
「おいおい見ろよ、うーわ、なんだこれ金がずっしりだぜ!」
「こりゃしばらく遊び放題だな! あひゃひゃひゃ! じゃあな、お嬢ちゃん」
 は? なんかガラの悪い連中がそのまま帰っていったんだけど。
 我に何もしないの? 金を持っていっただけ?
 それはそれでちょっとショックなのだが。我、そんなに魅力ないのか?

「あぎゃっ!」
「ぶげぇ!」
「おごぉっ!」
 なんか呆然としていたら、向こうの方でさっきの連中が我の方に向かって奇声をあげながらズザァーとヘッドスライディングしてきた。何これ怖い。

「大丈夫かい?」
 ヒッ! ゴロツキの向こう側に立っていたのは、まさかの例の男。
 勇者ロータスとそのご一行だった。なんでこんなところに勇者たちが。
 ああ、そうでした。こういう輩をメッタメタにするためでした。

「あれ? キミは昨日、酒場にいた……」
 ギャア! 顔も覚えられてる! 詰んだ!
 勇者に一度貫かれた心臓がバクバクのバクで辛い。
 顔を見るだけで冷や汗が垂れ流しになる。

「これ、キミの財布でしょ? ダメじゃない。こんな野郎どもにホイホイとお金渡しちゃ。お金って大事なのよ?」
 女魔法使いダリアがそこらに転がってる男からソレを拾い上げて我に差し出してきた。これ完全にあれじゃん。暴漢から助けられた町娘じゃん。く、屈辱。

「この街もまだまだ発展途上。貧困にあえぐ人たちもけして少なくはありません。どうやらお嬢さんは他所からきたようですね。どうか、努々忘れないでください。自分の大切なものは簡単に手放さないことです」
 うわー、女僧侶マルペルにくどくどと説教までされてしまった我。
 確かに我、何もできなかったし、あのままだったら最悪の状況だったのは間違いない。何も言い返せることがないのがまた悔しい。

 ダリアもマルペルも我のことを子供としか見ていないようだ。
 勿論、勇者ロータスも。
 それは昨日の酒場の一件でもよぉく分かった。

「俺たちもなんとか頑張っているけれど、みんなを助けられる自信はないんだ。今日は怪我がなくてよかった。これからは気をつけるんだよ。それじゃあね」
 そういって勇者一行、さわやかに退散。正義の味方気取りめが!!!!
 我を葬り世界を平和にした名声で行う慈善事業はさぞかし気持ちいいのだろうな!!!! 毎日飯も美味かろう!!!! この勇者め!!!!

 どうしてこうなるのだ。ここまで悔しいこともない。
 あんな人間どもに囲まれて尻餅ついてるところまで見られてしまった。

 やはり、今の我は無力すぎる。そこいらの人間にすら敵わない。
 それは分かりきっていたこと。ならば考えるべきは、今の我には一体何ができるのかということだ。

 幸い、今、まさにたった今。大きなヒントを得られた。
 金。金だ。金、金、金。
 こいつには使いようがあるということを理解した。
 金を上手に使えば、人間どもを操ることができる。

 そうだ、ここは発展途上の街パエデロス。
 金に困っている輩も多い。ならばそういう奴らに金を差し出して、この街の情勢を悪い方向に持っていけば、勇者どもを疲弊させることもできるのでは?
 アイツらはこの街の治安維持のために今もこうやって巡回しているのだから、街の治安を壊せば壊すほど、勇者どもの仕事が増えるのだからな。

 ふははははははははははっ!!!!
 我、天才!!!!

 魔王城から持ち出した金品なら腐るほどある。換金した金貨や銀貨よりも遙かに高価な品々を我は持っておるのだ。
 大体、今持っている貨幣も我の宝石一個を差し出して手に入れたものだ。あんなちっこい宝石でこれだけのものになったのだから、もっともっと金は手に入る。
 人間どもの価値観は分からぬが、少なくともこのパエデロスで地位を手に入れられるくらいは造作もない。
 あるぞあるぞ、金ならあるぞ!

 なるほどな、金はこのようにして使えばいいのだな。
 人間どもの社会で考えれば、経済もバランスを整えるのが大変と聞く。ならばそれを暴落させてしまえばいい。我にはそれができる。
 なんと完璧な作戦だ。さすがは我。

 なんだったら金で冒険者どもをかき集めて勇者を打ち倒すこともできるではないか。ここにはお宝目当ての冒険者どもがわんさかいるのだからな。
 絶望的と思われたが、希望の光が――いや、勇者たちにとって絶望の闇が今見えてきたといっても過言ではないだろう。

 我を倒して有頂天になっている勇者どもが討たれたともなれば、この街も勇者の敗北した街、絶望の街パエデロスとして悪名が広がるに違いない。
 そうなれば、人々の悪意的な憎悪的な、なんかそういうものを糧にしている我にとっては好都合も好都合。
 きっと数百年と待たずに復活を果たすことができる。この我を魔王軍から追放したあのバカどもを見返し、再び我が魔王として君臨するのだ。
 全てが理想に向かっている。その確信が我にはある。

 我の復讐劇はまた一歩、また一歩と終幕へと向かっておるわ!
 ふははははははははははっ!!!!


次のエピソードへ進む 第4話 家が建ったぞ!


みんなのリアクション

 勇者の動向を知るために、我はパエデロス周辺の情報を探ってみた。
 大体は以前に調査したものと一緒で、このパエデロスの周囲には沢山のダンジョンがあり、冒険者やら盗賊やらが集まっているといったものばかり。
 どうにも開拓が進められている様子で、よくよく見ると街のあちこちでは新しい家がどんどん建てられようとしている。
 中には、冒険者たちの持ち帰った宝目当てで一儲けしようとしている商人や、酔狂な貴族たちもここいらに移住してきているらしい。
 このままでは人間どもが繁栄して、ここも立派な都市になってしまうのも時間の問題ではないか。
 しかも、その大部分を担っているのが、あの勇者たちだというのだから尚のことタチが悪い。盗賊や蛮族、ならず者に悪徳商人などなど、片っ端から成敗しちゃってくれちゃって、治安がどんどん良くなっていってしまう。
 ぐぬぬ、おのれ勇者め。
 我に力が残っていたなら欲深き人間どもをかき集め、悪意の渦巻くハーレムにしてやるというのに。そしてゆくゆくは第二の魔王城の建設も夢ではない。
 勇者さえいなければ、実に居心地の良い街だ。なんとしてでも勇者を討ち、このパエデロスを我が第二の故郷にしたい。
 だが、肝心の我はザコザコのよわよわ。そのせいで魔王軍からも追放された身。
 力も人望もない今の我に、一体何ができるのか。
「おい、そこの可愛いお嬢ちゃん」
「あん?」
 なんか声を掛けられたと思ったら、ガラの悪い男たちが我を取り囲んでいた。
 あれ? これってマズイのでは?
 普通に、平然と、何も考えなしにパエデロスをブラブラとしていたけど、治安が悪い土地だったよね。そら絡まれるよね。
 我、人間どもなんてどうでもいいと思ってたけど、これあかんのでは?
「ぐへへ……キレイな身体してるじゃねぇかぁ……」
「何処かのご令嬢さまか? 世間知らずっぽいアホ面しやがって」
「俺たちの縄張りに勝手に入ってきたんだから何されても仕方ないよなぁ?」
 あかん、死ぬ。死ななくてもなんかされる。エロいこともエグいことも全部!
 というか、なんで我、今まで気付かなかったの。我、ザコザコのよわよわなんだからこんな人間どもに囲まれたら詰むに決まっているではないか。
「ひぎぃぃぃ……、あ、あの、あっ! そうだ、金。金なら……金ならあるぞ!」
 尻餅をつきながらも何かないかと体を探り、金貨や銀貨を入れておいた袋を咄嗟に差し出す。こんなものでどうにかなるとは思ってはいないが、我も必死だった。
「うひょー! すげぇ! マジもんのお金持ちお嬢様じゃーん!」
「おいおい見ろよ、うーわ、なんだこれ金がずっしりだぜ!」
「こりゃしばらく遊び放題だな! あひゃひゃひゃ! じゃあな、お嬢ちゃん」
 は? なんかガラの悪い連中がそのまま帰っていったんだけど。
 我に何もしないの? 金を持っていっただけ?
 それはそれでちょっとショックなのだが。我、そんなに魅力ないのか?
「あぎゃっ!」
「ぶげぇ!」
「おごぉっ!」
 なんか呆然としていたら、向こうの方でさっきの連中が我の方に向かって奇声をあげながらズザァーとヘッドスライディングしてきた。何これ怖い。
「大丈夫かい?」
 ヒッ! ゴロツキの向こう側に立っていたのは、まさかの例の男。
 勇者ロータスとそのご一行だった。なんでこんなところに勇者たちが。
 ああ、そうでした。こういう輩をメッタメタにするためでした。
「あれ? キミは昨日、酒場にいた……」
 ギャア! 顔も覚えられてる! 詰んだ!
 勇者に一度貫かれた心臓がバクバクのバクで辛い。
 顔を見るだけで冷や汗が垂れ流しになる。
「これ、キミの財布でしょ? ダメじゃない。こんな野郎どもにホイホイとお金渡しちゃ。お金って大事なのよ?」
 女魔法使いダリアがそこらに転がってる男からソレを拾い上げて我に差し出してきた。これ完全にあれじゃん。暴漢から助けられた町娘じゃん。く、屈辱。
「この街もまだまだ発展途上。貧困にあえぐ人たちもけして少なくはありません。どうやらお嬢さんは他所からきたようですね。どうか、努々忘れないでください。自分の大切なものは簡単に手放さないことです」
 うわー、女僧侶マルペルにくどくどと説教までされてしまった我。
 確かに我、何もできなかったし、あのままだったら最悪の状況だったのは間違いない。何も言い返せることがないのがまた悔しい。
 ダリアもマルペルも我のことを子供としか見ていないようだ。
 勿論、勇者ロータスも。
 それは昨日の酒場の一件でもよぉく分かった。
「俺たちもなんとか頑張っているけれど、みんなを助けられる自信はないんだ。今日は怪我がなくてよかった。これからは気をつけるんだよ。それじゃあね」
 そういって勇者一行、さわやかに退散。正義の味方気取りめが!!!!
 我を葬り世界を平和にした名声で行う慈善事業はさぞかし気持ちいいのだろうな!!!! 毎日飯も美味かろう!!!! この勇者め!!!!
 どうしてこうなるのだ。ここまで悔しいこともない。
 あんな人間どもに囲まれて尻餅ついてるところまで見られてしまった。
 やはり、今の我は無力すぎる。そこいらの人間にすら敵わない。
 それは分かりきっていたこと。ならば考えるべきは、今の我には一体何ができるのかということだ。
 幸い、今、まさにたった今。大きなヒントを得られた。
 金。金だ。金、金、金。
 こいつには使いようがあるということを理解した。
 金を上手に使えば、人間どもを操ることができる。
 そうだ、ここは発展途上の街パエデロス。
 金に困っている輩も多い。ならばそういう奴らに金を差し出して、この街の情勢を悪い方向に持っていけば、勇者どもを疲弊させることもできるのでは?
 アイツらはこの街の治安維持のために今もこうやって巡回しているのだから、街の治安を壊せば壊すほど、勇者どもの仕事が増えるのだからな。
 ふははははははははははっ!!!!
 我、天才!!!!
 魔王城から持ち出した金品なら腐るほどある。換金した金貨や銀貨よりも遙かに高価な品々を我は持っておるのだ。
 大体、今持っている貨幣も我の宝石一個を差し出して手に入れたものだ。あんなちっこい宝石でこれだけのものになったのだから、もっともっと金は手に入る。
 人間どもの価値観は分からぬが、少なくともこのパエデロスで地位を手に入れられるくらいは造作もない。
 あるぞあるぞ、金ならあるぞ!
 なるほどな、金はこのようにして使えばいいのだな。
 人間どもの社会で考えれば、経済もバランスを整えるのが大変と聞く。ならばそれを暴落させてしまえばいい。我にはそれができる。
 なんと完璧な作戦だ。さすがは我。
 なんだったら金で冒険者どもをかき集めて勇者を打ち倒すこともできるではないか。ここにはお宝目当ての冒険者どもがわんさかいるのだからな。
 絶望的と思われたが、希望の光が――いや、勇者たちにとって絶望の闇が今見えてきたといっても過言ではないだろう。
 我を倒して有頂天になっている勇者どもが討たれたともなれば、この街も勇者の敗北した街、絶望の街パエデロスとして悪名が広がるに違いない。
 そうなれば、人々の悪意的な憎悪的な、なんかそういうものを糧にしている我にとっては好都合も好都合。
 きっと数百年と待たずに復活を果たすことができる。この我を魔王軍から追放したあのバカどもを見返し、再び我が魔王として君臨するのだ。
 全てが理想に向かっている。その確信が我にはある。
 我の復讐劇はまた一歩、また一歩と終幕へと向かっておるわ!
 ふははははははははははっ!!!!