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SCENE035 いろいろうっかり

ー/ー



 一週間ぶりに衣織お姉さんがダンジョンにやってきた。

「やあ、瞬。元気にしているかな?」

「衣織お姉さん。僕は元気ですよ。モンスターになったせいか、病気なんてしないみたいです」

 僕はにこにこと質問に答えている。でも、なんだか衣織お姉さんの表情は元気がなさそうだ。どうしたんだろう。

「なあ、瞬」

「なに、衣織お姉さん」

「瞳に電話はしないのか?」

「えっ?」

 衣織お姉さんの質問に、僕はあっと思ってしまった。
 そういえば、携帯電話を持ってきてもらったのに、連絡をまったく入れてなかったんだ。

「ごめん。この携帯電話、ダンジョンの入口まで行かないと使えないんだ。でも、谷地さんたちから入口まであまり来ないように言われてるから、連絡ができなくて……」

 僕は正直に事情を話す。衣織お姉さんは僕の持っている携帯電話を確認する。

「ああ、確かにこれはダメだ。マナを利用して使える携帯に機種変更しておこうか。私と管理局がいえば、電話会社も対応してくれるだろう」

「えっ、いいの? でも、悪いかな」

「配信だけじゃ物足りないみたいだからな。直接話をしたいんだよ、瞳は。というわけだ、これは私が預かろう。家に寄って契約書をもらってくるから、機種変更して届けに来るよ」

「あ、ありがとう、衣織お姉さん」

 どうやら、衣織お姉さんが代理人として機種変更をしてくれるみたいだ。僕はダンジョンから出られないから、これはありがたいな。

「ああ、そうだ。途中にいたアリどもを倒してしまってすまない。まったく、ちゃんと教え込んでおかないと無差別に襲うようだぞ」

「ごめんなさい。気をつけるよ」

「面目ない、それは我の仕事ですからな。プリンセスに代わって、よく教え込んでおきますとも」

 僕が謝ると、バトラーも衣織お姉さんに謝罪していた。

「それはそうと、衣織と申しましたな」

「なにかな、蛇人間」

「はははっ、我にはバトラーという名前がありますぞ。それはそうと頼みがあるのです」

「なんだ? 横浜ダンジョンのことを、プリンセスに教えてあげて下さいませ。どうやらあちらさんがプリンセスのことを探ろうとしているようですのでな」

「どういうことだ?」

 衣織お姉さんの目つきが鋭くなる。僕は思わずその場にへたり込んでしまった。

「ああ、すまない、瞬。脅すつもりはなかったんだ」

「さすが我よりはレベルが低いとはいえ、熟練の探索者。レベルが一けたのプリンセスには厳しかったようですな」

「バトラー……」

 僕のレベルをばらしてくれるものだから、頬を膨らませてバトラーを睨み付ける。だけど、バトラーは平然と笑っていた。
 その僕たちの横で、衣織お姉さんがなんだか悩んでいるようだった。

「衣織お姉さん?」

「いや、すまない。横浜ダンジョンは、私のギルドが攻略中のダンジョンでな、今もずいぶんと手を焼いているのだ。あまり教えられることはないのだが……」

 衣織お姉さんはなんとも歯切れの悪い言い方をしている。けど、それでもいいからと僕は教えてもらうことにした。
 さすがに港町ということで、ダンジョンの中は水属性のモンスターが多いらしい。トラップも豊富で、結構死に戻りをさせられているんだとか。

「復活ポイントを設けてるってことは、私たちが苦戦して死ぬ様子を見て楽しんでいるってことだろうな。なんとも性格が悪いとしか言えん」

「まあ、そうですね。我々モンスターの頂点に立つ血筋に連なる方ですからね。横浜ダンジョンのマスターの母方のおじい様が、王様の弟君だったかと聞いております」

「あれ? ってことは、バトラーは横浜ダンジョンのマスターを知ってるってこと?」

「はい。そこの執事が我とは知り合いでしてな。その関係で出会ったことがございます」

 なんとも意外な話だった。そんなところにつながりがあるなんて、バトラーが強いのも頷ける気がするよ。

「執事の名前はシードラゴン。仕えるマスターはセイレーンでしたな」

「セイレーン。歌声で船を惑わせて沈めるっていうモンスターか」

「左様ですな。プリンセスと同じで、魅了系のスキルを持つモンスターでございます。水と風のスキルも多彩ですので、プリンセスと比べ物にならないくらいお強いですぞ」

「どうせ僕は弱小ダンマスだよ!」

 バトラーにはっきり言われちゃうと、僕は拗ねるしかないじゃないか。酷いな、バトラー。
 だけど、バトラーは笑ったままだし、衣織お姉さんの方が僕を慰めてきたよ。ぐっすん。
 話が終わったかと思うと、衣織お姉さんとバトラーがまた戦い始めた。僕には配信をしろって迫ってくるし、しょうがない人たちだと思う。
 とはいえ、探索者の中でも上位に入る衣織お姉さんとバトラーの戦いは結構人気なんだよね。仕方ないから、僕は配信せざるを得ないんだけど。

「やはり、強敵との手合わせはいいな。ちょっと成長した気がするよ」

「はははっ、それはよろしいですな。ですが、それではダンジョンの完全踏破などまだまだ難しいですぞ」

「ふっ、手厳しいものだな」

 バトラーからの評価に、衣織お姉さんは困ったように笑っていた。

 用事を終えた衣織お姉さんは、僕から携帯電話を受け取って、そのままダンジョンから去っていってしまった。
 あっ、衣織お姉さんに倒されたモンスターを補充しなきゃ。
 そのことを思い出した僕は、衣織お姉さんがダンジョンを立ち去った後に、キラーアント十体を再召喚しておいた。


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次のエピソードへ進む SCENE036 機嫌の悪いセイレーン


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 一週間ぶりに衣織お姉さんがダンジョンにやってきた。
「やあ、瞬。元気にしているかな?」
「衣織お姉さん。僕は元気ですよ。モンスターになったせいか、病気なんてしないみたいです」
 僕はにこにこと質問に答えている。でも、なんだか衣織お姉さんの表情は元気がなさそうだ。どうしたんだろう。
「なあ、瞬」
「なに、衣織お姉さん」
「瞳に電話はしないのか?」
「えっ?」
 衣織お姉さんの質問に、僕はあっと思ってしまった。
 そういえば、携帯電話を持ってきてもらったのに、連絡をまったく入れてなかったんだ。
「ごめん。この携帯電話、ダンジョンの入口まで行かないと使えないんだ。でも、谷地さんたちから入口まであまり来ないように言われてるから、連絡ができなくて……」
 僕は正直に事情を話す。衣織お姉さんは僕の持っている携帯電話を確認する。
「ああ、確かにこれはダメだ。マナを利用して使える携帯に機種変更しておこうか。私と管理局がいえば、電話会社も対応してくれるだろう」
「えっ、いいの? でも、悪いかな」
「配信だけじゃ物足りないみたいだからな。直接話をしたいんだよ、瞳は。というわけだ、これは私が預かろう。家に寄って契約書をもらってくるから、機種変更して届けに来るよ」
「あ、ありがとう、衣織お姉さん」
 どうやら、衣織お姉さんが代理人として機種変更をしてくれるみたいだ。僕はダンジョンから出られないから、これはありがたいな。
「ああ、そうだ。途中にいたアリどもを倒してしまってすまない。まったく、ちゃんと教え込んでおかないと無差別に襲うようだぞ」
「ごめんなさい。気をつけるよ」
「面目ない、それは我の仕事ですからな。プリンセスに代わって、よく教え込んでおきますとも」
 僕が謝ると、バトラーも衣織お姉さんに謝罪していた。
「それはそうと、衣織と申しましたな」
「なにかな、蛇人間」
「はははっ、我にはバトラーという名前がありますぞ。それはそうと頼みがあるのです」
「なんだ? 横浜ダンジョンのことを、プリンセスに教えてあげて下さいませ。どうやらあちらさんがプリンセスのことを探ろうとしているようですのでな」
「どういうことだ?」
 衣織お姉さんの目つきが鋭くなる。僕は思わずその場にへたり込んでしまった。
「ああ、すまない、瞬。脅すつもりはなかったんだ」
「さすが我よりはレベルが低いとはいえ、熟練の探索者。レベルが一けたのプリンセスには厳しかったようですな」
「バトラー……」
 僕のレベルをばらしてくれるものだから、頬を膨らませてバトラーを睨み付ける。だけど、バトラーは平然と笑っていた。
 その僕たちの横で、衣織お姉さんがなんだか悩んでいるようだった。
「衣織お姉さん?」
「いや、すまない。横浜ダンジョンは、私のギルドが攻略中のダンジョンでな、今もずいぶんと手を焼いているのだ。あまり教えられることはないのだが……」
 衣織お姉さんはなんとも歯切れの悪い言い方をしている。けど、それでもいいからと僕は教えてもらうことにした。
 さすがに港町ということで、ダンジョンの中は水属性のモンスターが多いらしい。トラップも豊富で、結構死に戻りをさせられているんだとか。
「復活ポイントを設けてるってことは、私たちが苦戦して死ぬ様子を見て楽しんでいるってことだろうな。なんとも性格が悪いとしか言えん」
「まあ、そうですね。我々モンスターの頂点に立つ血筋に連なる方ですからね。横浜ダンジョンのマスターの母方のおじい様が、王様の弟君だったかと聞いております」
「あれ? ってことは、バトラーは横浜ダンジョンのマスターを知ってるってこと?」
「はい。そこの執事が我とは知り合いでしてな。その関係で出会ったことがございます」
 なんとも意外な話だった。そんなところにつながりがあるなんて、バトラーが強いのも頷ける気がするよ。
「執事の名前はシードラゴン。仕えるマスターはセイレーンでしたな」
「セイレーン。歌声で船を惑わせて沈めるっていうモンスターか」
「左様ですな。プリンセスと同じで、魅了系のスキルを持つモンスターでございます。水と風のスキルも多彩ですので、プリンセスと比べ物にならないくらいお強いですぞ」
「どうせ僕は弱小ダンマスだよ!」
 バトラーにはっきり言われちゃうと、僕は拗ねるしかないじゃないか。酷いな、バトラー。
 だけど、バトラーは笑ったままだし、衣織お姉さんの方が僕を慰めてきたよ。ぐっすん。
 話が終わったかと思うと、衣織お姉さんとバトラーがまた戦い始めた。僕には配信をしろって迫ってくるし、しょうがない人たちだと思う。
 とはいえ、探索者の中でも上位に入る衣織お姉さんとバトラーの戦いは結構人気なんだよね。仕方ないから、僕は配信せざるを得ないんだけど。
「やはり、強敵との手合わせはいいな。ちょっと成長した気がするよ」
「はははっ、それはよろしいですな。ですが、それではダンジョンの完全踏破などまだまだ難しいですぞ」
「ふっ、手厳しいものだな」
 バトラーからの評価に、衣織お姉さんは困ったように笑っていた。
 用事を終えた衣織お姉さんは、僕から携帯電話を受け取って、そのままダンジョンから去っていってしまった。
 あっ、衣織お姉さんに倒されたモンスターを補充しなきゃ。
 そのことを思い出した僕は、衣織お姉さんがダンジョンを立ち去った後に、キラーアント十体を再召喚しておいた。