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第1楽章〜アレグロ〜⑭

ー/ー



 同日 午後8時―――。

 夕食と少し早めの入浴を終えたオレは、寿先輩との待ち合わせより少し早く野外炊飯場に向かう。

 夕飯のカレーライスは、吹奏楽部のメンバーとともに作ったことと、屋外というロケーションもあってか、市販で値段もお高くないルウを使っているにも、いつも以上に美味しく感じられた。
 そして、施設の大浴場は、湯船に30人ほどが入れるほどの大規模なもので、もともと、オレと壮馬を含めても20人に満たない男子の参加者にとっては、ゆったり広々と入浴を堪能でき、一日の疲れも、すぐに吹き飛んでしまった。

 湯上がりの少し火照る身体をスポーツドリンクで癒やしたオレは、壮馬に外出することを告げてから、待ち合わせ場所を目指した。

 午後7時を過ぎた頃にようやく暗くなった上空は、満天の星空が広がっている。
 
 予定の時間よりも5分早く到着したにもかかわらず、野外炊飯場には、すでに寿先輩の姿があった。

「おっ、待ち合わせ時間より早いじゃん。女子を待たせないってところも好感度アップだね」

「お待たせして申し訳ありません。今日は、何度も寿先輩と話している気がするんですけど……大事な話しって、なんですか?」

「前置きなしに、いきなり本題か……そういうところは、女子的には減点対象だけど……まあ、今回は、私からお願いすることだから、大目に見よう」

 そう言って、ニカッと笑った生徒会長兼吹奏楽部の副部長さんは、本題を切り出すべく、「まあ、座りなよ」と、食事も行える炊飯場のベンチに着席をうながした。

「黒田くん、キミに話したいことは、二つある。まず、一つ目は、次の生徒会選挙と、その先の役員選考についてなんだ」

「はぁ……生徒会選挙、ですか……?」

 これまでの先輩の言動から、相談事というのは、なにかしら生徒自治に関係することなんだろう、とは思っていたが、まさか、生徒会選挙そのものに関する内容だとは思わなかった。なにしろ、選挙事態が、まだ3ヶ月も先の話だし、二学期が始まってからでも遅くはない、と個人的には思うのだが……。

 オレの想いをよそに、寿先輩は語り続ける。
 
「私は、次期生徒会長に、ウチの後輩ちゃんを推したいと思ってるの」

「後輩ちゃんって、紅野さんのことですか?」
 
「うん、そうだよ! でも、あの()って、責任感が強いでしょ? 頼みごとをされたら断れないタイプでもあるし、次の吹奏楽部の部長にもなっちゃいそうなんだよね。生徒会長と吹奏楽部の部長の兼務なんて、この私ですら荷が重いよ……もっとも、自分の場合は、サオリンが部長を引き受けてくれたし、生徒会には、花金鳳花(はながねほうか)って名前の()()()()()()が居てくれたから、なんとか一年間やってこれたんだけどね」

 後半に名前の上がったオレの良く知る上級生の存在をあえて強調しながら、生徒会長は、わざとらしく笑みを浮かべる。

「なるほど……紅野さんの支えになる生徒が居れば、先輩の心配のタネも消える、ということですね?」

 相づちを打つように、彼女の言葉にうなずくと、「さすが、黒田くん! 飲み込みが早いじゃん」と、満足したような表情を見せてくれた。

「そうなると……彼女と仲の良い天竹(あまたけ)さんとかですかね? あとは、吹奏楽部に信頼できるヒトが居れば……」

 あごに手を当てながら、思案顔でそう返答すると、彼女は、オレの目の前でチッチッチと、人差し指を振ったあと、「わかってないな〜、黒田くんは……」と、肩をすくめる。
 
 その言動の意図をつかみかねたオレは、

「えっ!? 何がですか?」

と、素直に疑問を口にした。

 すると、フフンと不敵な笑みを浮かべた生徒会長は、

「これは、話しておきたいことの二つ目とも密接に関わるんだけど……こういうときはね、公私ともに支えになってくれる異性の存在が、なによりもチカラになるものなんだよ」

などと断言する。

「う〜ん……公私ともに支えてくれる異性ですか……?」

 たしかに、紅野のように責任感の強い女子に相応しい相手が居れば、彼女のココロの支えになるのかも知れないだろうけど……。

(そんな相手が、校内で簡単に見つかるものなのか?)
 
 そんな疑問を感じながら答えたオレの言葉には、やや不満だったのか、生徒会長兼吹奏楽部の副部長は少し呆れた口調で、こちらが予想もしないことを口にした。

「ここまで言っても理解できないかな? 私は、その最有力候補がキミだと思ってるんだけど、黒田竜司くん!」

 オレにとって、斜め上を行くその回答に、これまでに無いくらい気の抜けた感じで声を上げてしまう。

「は? はい〜!? オレですか?」

「なに? そんなに驚くようなことを言ったつもりはないけど?」

「いや、いくらなんでもそれは……なにしろ、オレは、春休みに彼女にフラれてるんですよ?」

 その春休みの告白が失敗に終わった後、シロにそそのかされたこともあり、一学期が始まった頃に、ふたたび、紅野に告白しよう、としていたこともあったが、様々な事情により心変わりをしてしまったオレは、アドバイザーだったはずの転校生に告白し、見事に玉砕する、という苦い経験をした。

 それだけに、学級委員やクラブ活動に関してのことなら問題ないが、こと異性としての間柄に関して、オレは、紅野アザミという女子生徒に対して、強い罪悪感を抱いていた。

「それでも、キミは、まだ後輩ちゃんのことを憎からず想っているハズ……どう? 私の見立てが正しいなら、ちょっと、今の自分の気持ちに向き合ってみない?」


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 同日 午後8時―――。
 夕食と少し早めの入浴を終えたオレは、寿先輩との待ち合わせより少し早く野外炊飯場に向かう。
 夕飯のカレーライスは、吹奏楽部のメンバーとともに作ったことと、屋外というロケーションもあってか、市販で値段もお高くないルウを使っているにも、いつも以上に美味しく感じられた。
 そして、施設の大浴場は、湯船に30人ほどが入れるほどの大規模なもので、もともと、オレと壮馬を含めても20人に満たない男子の参加者にとっては、ゆったり広々と入浴を堪能でき、一日の疲れも、すぐに吹き飛んでしまった。
 湯上がりの少し火照る身体をスポーツドリンクで癒やしたオレは、壮馬に外出することを告げてから、待ち合わせ場所を目指した。
 午後7時を過ぎた頃にようやく暗くなった上空は、満天の星空が広がっている。
 予定の時間よりも5分早く到着したにもかかわらず、野外炊飯場には、すでに寿先輩の姿があった。
「おっ、待ち合わせ時間より早いじゃん。女子を待たせないってところも好感度アップだね」
「お待たせして申し訳ありません。今日は、何度も寿先輩と話している気がするんですけど……大事な話しって、なんですか?」
「前置きなしに、いきなり本題か……そういうところは、女子的には減点対象だけど……まあ、今回は、私からお願いすることだから、大目に見よう」
 そう言って、ニカッと笑った生徒会長兼吹奏楽部の副部長さんは、本題を切り出すべく、「まあ、座りなよ」と、食事も行える炊飯場のベンチに着席をうながした。
「黒田くん、キミに話したいことは、二つある。まず、一つ目は、次の生徒会選挙と、その先の役員選考についてなんだ」
「はぁ……生徒会選挙、ですか……?」
 これまでの先輩の言動から、相談事というのは、なにかしら生徒自治に関係することなんだろう、とは思っていたが、まさか、生徒会選挙そのものに関する内容だとは思わなかった。なにしろ、選挙事態が、まだ3ヶ月も先の話だし、二学期が始まってからでも遅くはない、と個人的には思うのだが……。
 オレの想いをよそに、寿先輩は語り続ける。
「私は、次期生徒会長に、ウチの後輩ちゃんを推したいと思ってるの」
「後輩ちゃんって、紅野さんのことですか?」
「うん、そうだよ! でも、あの|娘《コ》って、責任感が強いでしょ? 頼みごとをされたら断れないタイプでもあるし、次の吹奏楽部の部長にもなっちゃいそうなんだよね。生徒会長と吹奏楽部の部長の兼務なんて、この私ですら荷が重いよ……もっとも、自分の場合は、サオリンが部長を引き受けてくれたし、生徒会には、|花金鳳花《はながねほうか》って名前の|優《・》|秀《・》|な《・》|副《・》|会《・》|長《・》が居てくれたから、なんとか一年間やってこれたんだけどね」
 後半に名前の上がったオレの良く知る上級生の存在をあえて強調しながら、生徒会長は、わざとらしく笑みを浮かべる。
「なるほど……紅野さんの支えになる生徒が居れば、先輩の心配のタネも消える、ということですね?」
 相づちを打つように、彼女の言葉にうなずくと、「さすが、黒田くん! 飲み込みが早いじゃん」と、満足したような表情を見せてくれた。
「そうなると……彼女と仲の良い|天竹《あまたけ》さんとかですかね? あとは、吹奏楽部に信頼できるヒトが居れば……」
 あごに手を当てながら、思案顔でそう返答すると、彼女は、オレの目の前でチッチッチと、人差し指を振ったあと、「わかってないな〜、黒田くんは……」と、肩をすくめる。
 その言動の意図をつかみかねたオレは、
「えっ!? 何がですか?」
と、素直に疑問を口にした。
 すると、フフンと不敵な笑みを浮かべた生徒会長は、
「これは、話しておきたいことの二つ目とも密接に関わるんだけど……こういうときはね、公私ともに支えになってくれる異性の存在が、なによりもチカラになるものなんだよ」
などと断言する。
「う〜ん……公私ともに支えてくれる異性ですか……?」
 たしかに、紅野のように責任感の強い女子に相応しい相手が居れば、彼女のココロの支えになるのかも知れないだろうけど……。
(そんな相手が、校内で簡単に見つかるものなのか?)
 そんな疑問を感じながら答えたオレの言葉には、やや不満だったのか、生徒会長兼吹奏楽部の副部長は少し呆れた口調で、こちらが予想もしないことを口にした。
「ここまで言っても理解できないかな? 私は、その最有力候補がキミだと思ってるんだけど、黒田竜司くん!」
 オレにとって、斜め上を行くその回答に、これまでに無いくらい気の抜けた感じで声を上げてしまう。
「は? はい〜!? オレですか?」
「なに? そんなに驚くようなことを言ったつもりはないけど?」
「いや、いくらなんでもそれは……なにしろ、オレは、春休みに彼女にフラれてるんですよ?」
 その春休みの告白が失敗に終わった後、シロにそそのかされたこともあり、一学期が始まった頃に、ふたたび、紅野に告白しよう、としていたこともあったが、様々な事情により心変わりをしてしまったオレは、アドバイザーだったはずの転校生に告白し、見事に玉砕する、という苦い経験をした。
 それだけに、学級委員やクラブ活動に関してのことなら問題ないが、こと異性としての間柄に関して、オレは、紅野アザミという女子生徒に対して、強い罪悪感を抱いていた。
「それでも、キミは、まだ後輩ちゃんのことを憎からず想っているハズ……どう? 私の見立てが正しいなら、ちょっと、今の自分の気持ちに向き合ってみない?」