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 ……〝四月二日の奇跡〟は、ユメラビファンにとっては有名な事件である。

 初の大型アイドルフェスに出演。

 ファンにとっても当事者たちにとっても、これからユメラビが飛躍出来るかどうかの試金石のように捉えられていたイベントだった。
  
 その大事なライブが控えているある日、夕山真希に声帯結節が出来てしまい、出演不可能になってしまったのである。四季真希姉妹は当時から人気があり、固定ファンも多かった。

 悪いのは咽喉なのでダンスだけならステージに出られないことはないし(フリップなどを使い)MCだけでも、という声もあったのだが声帯を休めれば治るのは確実なのだし、本人もそんな状態でステージに上がるのは辛かろうというので、運営が休演を決めてしまったのである。

 しょうがないこととはいえ、ファンたちの落胆は激しかった。

 『験を担ぐ』ではないが、よりによってこんな日に目玉の一つである四季真希の片割れが休まなければならなくなるなんて、という所謂〝持ってない〟イメージがついてしまったのだ。

 運営やアイドルを責める声こそ無かったものの、悲嘆の声はリアルでもネット上のファンコミュニティでも溢れていた。

 それがライブ2日前に、急に真希の咽喉が完全に治癒した、という発表がなされたのである。

 半信半疑ながらファンたちが会場に集まってみると、元気な真希の姿が舞台上に現れた。

それだけではない。本当に咽喉も治っており歌もダンスもMCも完璧にこなしたのだ。

 当然会場は爆発的な熱気に包まれた。

 今ディスプレイに映っているのは、その時の様子である。

 運営側も話題になるのを見越していたのか、先程の手振れ動画以外にも若干の撮影映像をアップロードしていた。

 〝運営〟自体はもう消滅してしまっているが、動画は残っているようである。

 怒号のように響き渡るファンたちの絶叫。熱狂が伝播し、泣き出してしまう壇上のメンバーたち。誇らしげな、心の底から満足げな姉妹……。

 事情を知らない者からすれば完全に狂気の集団だが、そこにはなにかしら〝奇跡〟と呼びたくなるモノが確実にあった。

「奇跡、また起こればいいですね」

 ぽつりと、目前の机の上に置くように雪枝は言った。

『四季のこと言ってんのかな? それともSNOWのこと?』

 おそらく四季のことだろう。問い返さないでおくことにした。

「……調査自体は上手くいってんだよね?」
「ええ。皆さんが優秀なので」 

 方針が固まってからは早かった。一つの神経で繋がっているように、各個人がやるべきことをこなしていく。

「後は伊都ちゃん対策か」
「ええ……こちらはモノがなければどうにもなりません」
「意外とチョロくないからなあ」
「一難去ってまた一難、ですね」

 言葉の割には、雪枝は何か嬉しそうに見える。

「明日だっけ? 葉子で良かったの? あの娘、十子さんとあんまり話したことないでしょ? 最近なんかメンタル弱ってるみたいだし」

 そこそこ喋ったことのある自分の方がまだ良かったのではないか? となりは思っている。いや、本来なら一番親しい雪枝が適任なのはわかっているのだが。

 土佐十子は〝良い人〟なのは間違いない。

 しかし、ちょっと独特な人物なので心が疲れている時だとしんどいかな、と思ったのだ。雪枝に言わせると『十子さんも昔とだいぶ変わってやわらかくなった』らしいが。

 なりは、正直尾鷹葉子とはあまり性格的に合わないと感じているのだが、一応弱っている時に心配する程度には嫌いではない。

「ええ……スケジュール的に合うのが尾鷹さんだけだった、ということもあるのですが、良い気分転換になればいいな、と思ったんです」

『そりゃ、あんたにとってはそうだろうけど』 

 雪枝にとっては十子は〝お世話になった大好きな先輩〟なのだ。

 まあやることは会って、モノを受け取って、持ち帰るだけである。

 自分が考えすぎているのだろう。多分。



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 ……〝四月二日の奇跡〟は、ユメラビファンにとっては有名な事件である。
 初の大型アイドルフェスに出演。
 ファンにとっても当事者たちにとっても、これからユメラビが飛躍出来るかどうかの試金石のように捉えられていたイベントだった。
 その大事なライブが控えているある日、夕山真希に声帯結節が出来てしまい、出演不可能になってしまったのである。四季真希姉妹は当時から人気があり、固定ファンも多かった。
 悪いのは咽喉なのでダンスだけならステージに出られないことはないし(フリップなどを使い)MCだけでも、という声もあったのだが声帯を休めれば治るのは確実なのだし、本人もそんな状態でステージに上がるのは辛かろうというので、運営が休演を決めてしまったのである。
 しょうがないこととはいえ、ファンたちの落胆は激しかった。
 『験を担ぐ』ではないが、よりによってこんな日に目玉の一つである四季真希の片割れが休まなければならなくなるなんて、という所謂〝持ってない〟イメージがついてしまったのだ。
 運営やアイドルを責める声こそ無かったものの、悲嘆の声はリアルでもネット上のファンコミュニティでも溢れていた。
 それがライブ2日前に、急に真希の咽喉が完全に治癒した、という発表がなされたのである。
 半信半疑ながらファンたちが会場に集まってみると、元気な真希の姿が舞台上に現れた。
それだけではない。本当に咽喉も治っており歌もダンスもMCも完璧にこなしたのだ。
 当然会場は爆発的な熱気に包まれた。
 今ディスプレイに映っているのは、その時の様子である。
 運営側も話題になるのを見越していたのか、先程の手振れ動画以外にも若干の撮影映像をアップロードしていた。
 〝運営〟自体はもう消滅してしまっているが、動画は残っているようである。
 怒号のように響き渡るファンたちの絶叫。熱狂が伝播し、泣き出してしまう壇上のメンバーたち。誇らしげな、心の底から満足げな姉妹……。
 事情を知らない者からすれば完全に狂気の集団だが、そこにはなにかしら〝奇跡〟と呼びたくなるモノが確実にあった。
「奇跡、また起こればいいですね」
 ぽつりと、目前の机の上に置くように雪枝は言った。
『四季のこと言ってんのかな? それともSNOWのこと?』
 おそらく四季のことだろう。問い返さないでおくことにした。
「……調査自体は上手くいってんだよね?」
「ええ。皆さんが優秀なので」 
 方針が固まってからは早かった。一つの神経で繋がっているように、各個人がやるべきことをこなしていく。
「後は伊都ちゃん対策か」
「ええ……こちらはモノがなければどうにもなりません」
「意外とチョロくないからなあ」
「一難去ってまた一難、ですね」
 言葉の割には、雪枝は何か嬉しそうに見える。
「明日だっけ? 葉子で良かったの? あの娘、十子さんとあんまり話したことないでしょ? 最近なんかメンタル弱ってるみたいだし」
 そこそこ喋ったことのある自分の方がまだ良かったのではないか? となりは思っている。いや、本来なら一番親しい雪枝が適任なのはわかっているのだが。
 土佐十子は〝良い人〟なのは間違いない。
 しかし、ちょっと独特な人物なので心が疲れている時だとしんどいかな、と思ったのだ。雪枝に言わせると『十子さんも昔とだいぶ変わってやわらかくなった』らしいが。
 なりは、正直尾鷹葉子とはあまり性格的に合わないと感じているのだが、一応弱っている時に心配する程度には嫌いではない。
「ええ……スケジュール的に合うのが尾鷹さんだけだった、ということもあるのですが、良い気分転換になればいいな、と思ったんです」
『そりゃ、あんたにとってはそうだろうけど』 
 雪枝にとっては十子は〝お世話になった大好きな先輩〟なのだ。
 まあやることは会って、モノを受け取って、持ち帰るだけである。
 自分が考えすぎているのだろう。多分。