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034

ー/ー



「……カオスのオッサン、って私らもっと接触しに行ったほうがいいのかなあ」

 葉子が難しい顔をして唸っている。確かに前述五人の内、他四人とは皆そこそこ打ち解け話せるようにはなっているが、Chaosとはなかなか機会が持てずにいる。

 無理にでも、もっと情報を取りに行くべきか?

「え~? でもあんまり危ないことはしないって方針じゃん」

 沙希が口を尖らせる。

「そりゃまあ、二人っきりで会うとかはしないほうがいいかもしんない……けど、見下してるって要はこっちのことナメてるってことでしょ? 案外自尊心をくすぐってやれば色々ペラペラ喋ってくれるかも……」

「な、なんか危ないことに誘われたりしたらどうすんだよ?」
「脅す材料が出来るじゃん」

 伊予がフンッと鼻を鳴らすと、沙希は両の腕を身体に巻き付け〝こわ~〟と嘯いた。

 二人の様子を見て、葉子は〝ヒヒッ〟と歯を剝きだして笑う。

「それってさあ、誰が猫に鈴つけにいくか? って話しだろ? 私はヤだよ」
「ああいいよ、私がやってやるよ」
「いやいやいや……何やってんのあんたら。やめなって」

 沙希は嘆息しながら、伊代と葉子の間に割って入った。この二人はこうなりがち……というか葉子は結構色んな人間とこうなりがちである。

「まー、二人きりは置いとくとしても、もうちょっとカオっさんと話せるようにしたほうがいいかもねえ」
「でもホント機会ないよね。音楽的なこととかだと、アドバイスみたいのは葉埼さんがしてくれるし……」

 葉埼は立場の割には、良くアイドルの様子を見に来る。

「普段はボイトレさんとか振付師さんで事足りちゃうからね」
「ていうかさあ、私もうレッスンやだ」

 珍しく葉子がいじけた顔をしている。

「すげー怒られるんだもん……いっつも」
「いや、みんなそんなもんだって。ね?」

 決して望むところではないのだが、この組み合わせだと最近沙希は間に入ってとりなす役になることが多い。

「まあ……そもそもあんまり出れないからね」

 講師からしたら他よりだいぶ遅れていて、しかも元々そこまで上手くもないグループが一番レッスンの出席率が悪いのである。文句の一つも言いたくなろうというものだ。

 家庭の事情や学業を言い訳にはしているのだが、限界が近づいてきているかもしれない、と皆感じていた。
 
「シミタツさんにも悪いなー、なんか」
「親身になって色々言ってくれる分、こう、罪悪感がハンパないよね」

 評判通りシミタツこと紙魚達夫は、新しく入ってきたSNOWに対しても色々気遣ってくれる。

 SNOWのメンバーたちが、プロジェクト内でなんとなく居心地が悪いのは元々この企画にヨネプロは絡んでおらず、バビレコと千代エーのものだったということにも原因がある。

 レッスンだの打ち合わせだのも全て千代エー主導で千代エーのビルでおこなっているのだ。

 もちろん〝調査〟の観点からいえば願ったり叶ったりではある。

 しかし完全アウェーなので針の筵とまではいかないが、足裏つぼ刺激マットくらいの座りの悪さはあるのだ。

「しっかし、してみるとすかいふぃっしゅさんはやっぱさすがだわ~」

 沙希の言った通り同じヨネプロ組のアイドル〝すかいふぃっしゅ(仮)〟の面々は、歌唱力、ダンス、コミュ力の全てで高水準のパフォーマンスを見せつけ、早くも一目置かれる存在になっていた。

 歳も芸歴もSNOWと同じくらいだが、元々彼女らはヨネプロの有望株であり次期主力候補と言われている存在である。掛け持ちのSNOWとは気構えも違うのだろう。

 元はといえばヨネプロで真っ先に選ばれたのは〝すかいふぃっしゅ(仮)〟であり、SNOWはバーターでプロジェクトに入ることになったらしい。

 それを言い出したのはバビレコ側で、急遽L⇆Right! の穴を埋めなければならなくなった時、かなり強引にねじ込まれたということだ。

 ヨネプロにとっては寝耳に水だが、断る理由はない。これを天与の機ととらえ、ありがたくお受けしたということである。

 SNOWの調査によると、L⇆Right! がああなる前からバビレコと千代エーとの間には亀裂が入っており、事件が起こって穴が空いたのをこれ幸いとバビレコがヨネプロを引き込んだ、ということらしい。 

 プロジェクト内の力関係がこれ以上千代エーに傾かないように調整したのだ。
 
 大物五人でいえば葉埼はバビレコ側でありChaos・紙魚は千代エー側。葉埼とChaosの対立はこんなところからも起因しているようだ。

 なお、ナミと大和はその辺りにはノータッチということである。

「ねえ、バビレコと千代エーの対立って、今回の事件に関係してんのかな?」

 葉子がぼそっと言うと、伊代と沙希は難しい顔になった。

「どうだろう? わかんないけど、直接的なことじゃなくても四季真希がそれに巻き込まれたってことはあるかも……」
「でも現状、特に何事もなく進んでるよね?」

 そこまで対立が激化していたとしたら、メインのアイドルユニットが消滅してまでしれっと共同でプロジェクトを進めようとするだろうか?

「わかんない……これだけ金かけてんのに今更止められるか、みたいなノリなのかも……資本主義怖い……」

 葉子の言は、冗談か本気かちょっとわからなかった。

「うーん。もうちょっと調べてみるしかないかな」

 二人とも伊代のまとめに首肯した。どっちにしてもまだ情報が足りないことは確かだ。

「ねえ、あのさ。真面目な話、今まで調べたこと総合してさ、大物五人さんの中で一番怪しいのって誰だと思う?」

 沙希が発言すると、
「ん~?」
 三人は何となし顔を見合わせてしまった。

「怪しいって言われたら、ちょっと何とも言えないんだけど……」
「まー、優先的に掘らなきゃいけないのはここっしょ」

 葉子はすっ、と迷いなくレポート中のある名前に指を這わせる。

「やっぱな~」
「だよね~」

 三人はお互いの顔見ながらヤケクソのように笑ったあと〝あ~あ〟と大きなため息をついた。


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「……カオスのオッサン、って私らもっと接触しに行ったほうがいいのかなあ」
 葉子が難しい顔をして唸っている。確かに前述五人の内、他四人とは皆そこそこ打ち解け話せるようにはなっているが、Chaosとはなかなか機会が持てずにいる。
 無理にでも、もっと情報を取りに行くべきか?
「え~? でもあんまり危ないことはしないって方針じゃん」
 沙希が口を尖らせる。
「そりゃまあ、二人っきりで会うとかはしないほうがいいかもしんない……けど、見下してるって要はこっちのことナメてるってことでしょ? 案外自尊心をくすぐってやれば色々ペラペラ喋ってくれるかも……」
「な、なんか危ないことに誘われたりしたらどうすんだよ?」
「脅す材料が出来るじゃん」
 伊予がフンッと鼻を鳴らすと、沙希は両の腕を身体に巻き付け〝こわ~〟と嘯いた。
 二人の様子を見て、葉子は〝ヒヒッ〟と歯を剝きだして笑う。
「それってさあ、誰が猫に鈴つけにいくか? って話しだろ? 私はヤだよ」
「ああいいよ、私がやってやるよ」
「いやいやいや……何やってんのあんたら。やめなって」
 沙希は嘆息しながら、伊代と葉子の間に割って入った。この二人はこうなりがち……というか葉子は結構色んな人間とこうなりがちである。
「まー、二人きりは置いとくとしても、もうちょっとカオっさんと話せるようにしたほうがいいかもねえ」
「でもホント機会ないよね。音楽的なこととかだと、アドバイスみたいのは葉埼さんがしてくれるし……」
 葉埼は立場の割には、良くアイドルの様子を見に来る。
「普段はボイトレさんとか振付師さんで事足りちゃうからね」
「ていうかさあ、私もうレッスンやだ」
 珍しく葉子がいじけた顔をしている。
「すげー怒られるんだもん……いっつも」
「いや、みんなそんなもんだって。ね?」
 決して望むところではないのだが、この組み合わせだと最近沙希は間に入ってとりなす役になることが多い。
「まあ……そもそもあんまり出れないからね」
 講師からしたら他よりだいぶ遅れていて、しかも元々そこまで上手くもないグループが一番レッスンの出席率が悪いのである。文句の一つも言いたくなろうというものだ。
 家庭の事情や学業を言い訳にはしているのだが、限界が近づいてきているかもしれない、と皆感じていた。
「シミタツさんにも悪いなー、なんか」
「親身になって色々言ってくれる分、こう、罪悪感がハンパないよね」
 評判通りシミタツこと紙魚達夫は、新しく入ってきたSNOWに対しても色々気遣ってくれる。
 SNOWのメンバーたちが、プロジェクト内でなんとなく居心地が悪いのは元々この企画にヨネプロは絡んでおらず、バビレコと千代エーのものだったということにも原因がある。
 レッスンだの打ち合わせだのも全て千代エー主導で千代エーのビルでおこなっているのだ。
 もちろん〝調査〟の観点からいえば願ったり叶ったりではある。
 しかし完全アウェーなので針の筵とまではいかないが、足裏つぼ刺激マットくらいの座りの悪さはあるのだ。
「しっかし、してみるとすかいふぃっしゅさんはやっぱさすがだわ~」
 沙希の言った通り同じヨネプロ組のアイドル〝すかいふぃっしゅ(仮)〟の面々は、歌唱力、ダンス、コミュ力の全てで高水準のパフォーマンスを見せつけ、早くも一目置かれる存在になっていた。
 歳も芸歴もSNOWと同じくらいだが、元々彼女らはヨネプロの有望株であり次期主力候補と言われている存在である。掛け持ちのSNOWとは気構えも違うのだろう。
 元はといえばヨネプロで真っ先に選ばれたのは〝すかいふぃっしゅ(仮)〟であり、SNOWはバーターでプロジェクトに入ることになったらしい。
 それを言い出したのはバビレコ側で、急遽L⇆Right! の穴を埋めなければならなくなった時、かなり強引にねじ込まれたということだ。
 ヨネプロにとっては寝耳に水だが、断る理由はない。これを天与の機ととらえ、ありがたくお受けしたということである。
 SNOWの調査によると、L⇆Right! がああなる前からバビレコと千代エーとの間には亀裂が入っており、事件が起こって穴が空いたのをこれ幸いとバビレコがヨネプロを引き込んだ、ということらしい。 
 プロジェクト内の力関係がこれ以上千代エーに傾かないように調整したのだ。
 大物五人でいえば葉埼はバビレコ側でありChaos・紙魚は千代エー側。葉埼とChaosの対立はこんなところからも起因しているようだ。
 なお、ナミと大和はその辺りにはノータッチということである。
「ねえ、バビレコと千代エーの対立って、今回の事件に関係してんのかな?」
 葉子がぼそっと言うと、伊代と沙希は難しい顔になった。
「どうだろう? わかんないけど、直接的なことじゃなくても四季真希がそれに巻き込まれたってことはあるかも……」
「でも現状、特に何事もなく進んでるよね?」
 そこまで対立が激化していたとしたら、メインのアイドルユニットが消滅してまでしれっと共同でプロジェクトを進めようとするだろうか?
「わかんない……これだけ金かけてんのに今更止められるか、みたいなノリなのかも……資本主義怖い……」
 葉子の言は、冗談か本気かちょっとわからなかった。
「うーん。もうちょっと調べてみるしかないかな」
 二人とも伊代のまとめに首肯した。どっちにしてもまだ情報が足りないことは確かだ。
「ねえ、あのさ。真面目な話、今まで調べたこと総合してさ、大物五人さんの中で一番怪しいのって誰だと思う?」
 沙希が発言すると、
「ん~?」
 三人は何となし顔を見合わせてしまった。
「怪しいって言われたら、ちょっと何とも言えないんだけど……」
「まー、優先的に掘らなきゃいけないのはここっしょ」
 葉子はすっ、と迷いなくレポート中のある名前に指を這わせる。
「やっぱな~」
「だよね~」
 三人はお互いの顔見ながらヤケクソのように笑ったあと〝あ~あ〟と大きなため息をついた。