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028

ー/ー



「やー、まあいよちんの主張もわからんではないよ。ユッキーの説も辻褄は合うんだけど辻褄が合うだけだからね」
「ただ今のところ、他に適当な説明がないっていうか」

 葉子と真銀が、なぐさめなのかなんなのかよくわからない言葉をかける。

 伊代は考えていた。

 そういえば、さっきあの状況下での千代エービルからの脱出について〝私たちSNOWなら出来るだろうが一般の人間は出来ない〟と一番強く主張していたのは自分なのである。完全に自縄自縛になっている。

 何か誘導されたような気もするが、気のせいだろうと思うことにした。気のせいなのだ。

「……わかったよ。一応今の段階では四季が私らみたいな仕事してた、って仮定をベースにして進めてみることに反対はしない」

 白旗ではないが片手をヒラヒラさせながら伊代は言った。室内のちょっとした緊張が緩んだ。

 雪枝の仮説自体については未だ半信半疑・六信四疑くらいなのだが、正直抗しきれない魅力のようなものがある。

 何より自分たち以外にアイドルで調査部のような仕事をしている者がいる、かもしれないという部分に惹かれてしまう。

 SNOWにとってはいつもよりも危険かもしれないが、単なる好奇心以上の興味が湧いてしまうのも当然かもしれなかった。

「ストップ」

 楔を打ち込むような、凛とした声が響いた。大江なりである。雪枝も葉子もまさか黙っているということはないと思うが、事ここに至ってはまず自分が声を上げるのが適任だろうと考えたのだ。

「なんか言いたいことがあったんじゃないの? 沙希。大騒ぎしながらこの部屋に入ってきたじゃない」
「あー……ああっ! おお! うん」
 
 妙な声を発しながら沙希は首肯した。

「あのさっ……ああ、いや、でもこれ言っちゃっていい流れ?」
「いずれ、っていうかすぐにでもわかることよ」
「こう、みんなの気が落ち着いたタイミングっていうか……」

「今よっ! 今がベストなタイミング!」

 自分たちはちょっと遅れはしたものの正規のルート、長尾伊都から聞かされたわけなので自分で言ってもいいのだが、なりは沙希の口から伝えることにこだわった。

「あの……ねえ、『NEO NECO!』って雑誌あるじゃん。アイドルの。知ってる?」
「いや、そりゃ知ってるよ」

 例の夕山真希の事件の時、七階にいた大物五人の内の一人、大和兎が責任編集を務めている雑誌である。

 主にアイドルを中心とした芸能関係の記事が大分を占めている構成の雑誌だが、本来の対象となるユーザー層以外にもパイを広げ、鎮静化しつつあったと言われる近年の群雄割拠アイドルブームに再び火を点けたと評価されている。

 最近では本当に珍しく紙の雑誌で発行部数も右肩上がり、業界への影響も少なくないとか。電子版も好調とのようでなによりである。

「あの~、あの雑誌とね、音楽ソフト小売の超大手『バビロンレコード』が組んで今度、アイドルの専門レーベルを立ち上げるんだって」

「バビレコ、ってあの〝NO MUSIC NO FUTURE〟の……」
「景気がいい話じゃないの」
「そんでね、大手芸能事務所である千代エージェンシーとヨネプロからアイドルグループが何組かそれ用に選出されることになったんだけど、その末席にウチらが入る予定なんだってさ」

「ウチら?」

 伊予は要領を得ない様子で鸚鵡返しにした。

「いや、だからSNOWがさ」
「すごい!」

 真銀が両手で拳を作り天に突き上げた。めずらしく激しめの感情表現である。

「それな~」

 数凪は難しい顔をして、腕を組んだ。

「どうすんのお前ら?」

「え……知ってたんですか?!」 
「知らないわけないだろ」

 数凪は、目を剥いている伊代に平然と答える。その後〝今は〟ですよね、と言う沙希に、まあな、と苦笑してみせた。

「やりましたね!」

 真銀は無邪気に伊代の手をぎゅっと握り、ぶんぶんと振った。

「いや、その、やったっていうか……え? どうするの?」

 これは雪枝に向けられた問いである。

「そうですね……まあ、えー、しばらくは一応両立という方向で進めていくのがいいかな、と私としては考えてるんですが……」
「……マジで? 出来んのそれ?」

「あーっ! わかった!」 

 真銀が唐突にパンッ! と手を鳴らし、みなが注目する。

「もしかしてL⇆Right! のメジャーデビューと大規模プロモって、そのプロジェクトの一環だったんじゃないですか?」

「お、おう、なんかそうだった、みたいよ?」

 数凪はぎこちなく真銀の発言を肯定した。

「そうよ。岡ちゃんの言う通り。元々四季真希のユニットを軸に千代エーから何組か選んで、新レーベルに所属させる。『NEO NECO!』も誌面で全面的にバックアップ。プロモーション開始と同時の所属アイドルたちの新曲発表。リリイベ合同ライブ。商品タイアップ、CM、TV番組……深夜だけど。まあ目白押しよ。要するにメインの一組だったL⇆Right! が抜けた大きい穴を塞ぐために、今度はヨネプロ所属も含めて複数のアイドルグループが新たに選ばれたってわけ」

「そこで、なんかの間違いで私たちに白羽の矢が立ったってことか……」
「ですよね! 普通に選出して私たちが選ばれるなんて絶対ないですもんね!」
「あの、そこはあまりはっきり言わないように」

 雪枝が押し止めるように言うと、真銀は〝ですよね〟と微笑んで応じた。しかしまだまだ興奮は冷めていない。

「じゃあもしかして、もしかしてですけど、年末の歌謡曲の賞も私たちにくる、みたいな可能性も、なくはないってことですよね!?」
「それはない。その枠はもう埋まってる」

 数凪の声が無情に響いた。

「なあんだ……いやでも、私たちよりそこに近い人たちが何かの形でいなくなっちゃえばあるいは……」

「怖いよ岡ちゃん!」
「道長かよ!」

 つっこまれると真銀は、慌てて両手と首をブンブン横に振った。

「い、いや、何も死んじゃえばいいって言ってるわけじゃないですよ!? 別にその、あるじゃないですか? 家族の都合で人気メンバーが脱退とか、病気とかゴシップとかでも……」

「あの、真銀さん、あなたは今墓穴を掘っている格好なので……」

 ファンの前というわけでもないのに真銀の発言を気遣うところは、雪枝もさすがリーダーといえるだろうか。

「まったく、お前さっきは〝最近は注目度が落ちてる〟とか言ってたくせによー」
「ごめんなさい……」

 雪枝と数凪に言われ、ようやく熱が冷めたようだった。



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「やー、まあいよちんの主張もわからんではないよ。ユッキーの説も辻褄は合うんだけど辻褄が合うだけだからね」
「ただ今のところ、他に適当な説明がないっていうか」
 葉子と真銀が、なぐさめなのかなんなのかよくわからない言葉をかける。
 伊代は考えていた。
 そういえば、さっきあの状況下での千代エービルからの脱出について〝私たちSNOWなら出来るだろうが一般の人間は出来ない〟と一番強く主張していたのは自分なのである。完全に自縄自縛になっている。
 何か誘導されたような気もするが、気のせいだろうと思うことにした。気のせいなのだ。
「……わかったよ。一応今の段階では四季が私らみたいな仕事してた、って仮定をベースにして進めてみることに反対はしない」
 白旗ではないが片手をヒラヒラさせながら伊代は言った。室内のちょっとした緊張が緩んだ。
 雪枝の仮説自体については未だ半信半疑・六信四疑くらいなのだが、正直抗しきれない魅力のようなものがある。
 何より自分たち以外にアイドルで調査部のような仕事をしている者がいる、かもしれないという部分に惹かれてしまう。
 SNOWにとってはいつもよりも危険かもしれないが、単なる好奇心以上の興味が湧いてしまうのも当然かもしれなかった。
「ストップ」
 楔を打ち込むような、凛とした声が響いた。大江なりである。雪枝も葉子もまさか黙っているということはないと思うが、事ここに至ってはまず自分が声を上げるのが適任だろうと考えたのだ。
「なんか言いたいことがあったんじゃないの? 沙希。大騒ぎしながらこの部屋に入ってきたじゃない」
「あー……ああっ! おお! うん」
 妙な声を発しながら沙希は首肯した。
「あのさっ……ああ、いや、でもこれ言っちゃっていい流れ?」
「いずれ、っていうかすぐにでもわかることよ」
「こう、みんなの気が落ち着いたタイミングっていうか……」
「今よっ! 今がベストなタイミング!」
 自分たちはちょっと遅れはしたものの正規のルート、長尾伊都から聞かされたわけなので自分で言ってもいいのだが、なりは沙希の口から伝えることにこだわった。
「あの……ねえ、『NEO NECO!』って雑誌あるじゃん。アイドルの。知ってる?」
「いや、そりゃ知ってるよ」
 例の夕山真希の事件の時、七階にいた大物五人の内の一人、大和兎が責任編集を務めている雑誌である。
 主にアイドルを中心とした芸能関係の記事が大分を占めている構成の雑誌だが、本来の対象となるユーザー層以外にもパイを広げ、鎮静化しつつあったと言われる近年の群雄割拠アイドルブームに再び火を点けたと評価されている。
 最近では本当に珍しく紙の雑誌で発行部数も右肩上がり、業界への影響も少なくないとか。電子版も好調とのようでなによりである。
「あの~、あの雑誌とね、音楽ソフト小売の超大手『バビロンレコード』が組んで今度、アイドルの専門レーベルを立ち上げるんだって」
「バビレコ、ってあの〝NO MUSIC NO FUTURE〟の……」
「景気がいい話じゃないの」
「そんでね、大手芸能事務所である千代エージェンシーとヨネプロからアイドルグループが何組かそれ用に選出されることになったんだけど、その末席にウチらが入る予定なんだってさ」
「ウチら?」
 伊予は要領を得ない様子で鸚鵡返しにした。
「いや、だからSNOWがさ」
「すごい!」
 真銀が両手で拳を作り天に突き上げた。めずらしく激しめの感情表現である。
「それな~」
 数凪は難しい顔をして、腕を組んだ。
「どうすんのお前ら?」
「え……知ってたんですか?!」 
「知らないわけないだろ」
 数凪は、目を剥いている伊代に平然と答える。その後〝今は〟ですよね、と言う沙希に、まあな、と苦笑してみせた。
「やりましたね!」
 真銀は無邪気に伊代の手をぎゅっと握り、ぶんぶんと振った。
「いや、その、やったっていうか……え? どうするの?」
 これは雪枝に向けられた問いである。
「そうですね……まあ、えー、しばらくは一応両立という方向で進めていくのがいいかな、と私としては考えてるんですが……」
「……マジで? 出来んのそれ?」
「あーっ! わかった!」 
 真銀が唐突にパンッ! と手を鳴らし、みなが注目する。
「もしかしてL⇆Right! のメジャーデビューと大規模プロモって、そのプロジェクトの一環だったんじゃないですか?」
「お、おう、なんかそうだった、みたいよ?」
 数凪はぎこちなく真銀の発言を肯定した。
「そうよ。岡ちゃんの言う通り。元々四季真希のユニットを軸に千代エーから何組か選んで、新レーベルに所属させる。『NEO NECO!』も誌面で全面的にバックアップ。プロモーション開始と同時の所属アイドルたちの新曲発表。リリイベ合同ライブ。商品タイアップ、CM、TV番組……深夜だけど。まあ目白押しよ。要するにメインの一組だったL⇆Right! が抜けた大きい穴を塞ぐために、今度はヨネプロ所属も含めて複数のアイドルグループが新たに選ばれたってわけ」
「そこで、なんかの間違いで私たちに白羽の矢が立ったってことか……」
「ですよね! 普通に選出して私たちが選ばれるなんて絶対ないですもんね!」
「あの、そこはあまりはっきり言わないように」
 雪枝が押し止めるように言うと、真銀は〝ですよね〟と微笑んで応じた。しかしまだまだ興奮は冷めていない。
「じゃあもしかして、もしかしてですけど、年末の歌謡曲の賞も私たちにくる、みたいな可能性も、なくはないってことですよね!?」
「それはない。その枠はもう埋まってる」
 数凪の声が無情に響いた。
「なあんだ……いやでも、私たちよりそこに近い人たちが何かの形でいなくなっちゃえばあるいは……」
「怖いよ岡ちゃん!」
「道長かよ!」
 つっこまれると真銀は、慌てて両手と首をブンブン横に振った。
「い、いや、何も死んじゃえばいいって言ってるわけじゃないですよ!? 別にその、あるじゃないですか? 家族の都合で人気メンバーが脱退とか、病気とかゴシップとかでも……」
「あの、真銀さん、あなたは今墓穴を掘っている格好なので……」
 ファンの前というわけでもないのに真銀の発言を気遣うところは、雪枝もさすがリーダーといえるだろうか。
「まったく、お前さっきは〝最近は注目度が落ちてる〟とか言ってたくせによー」
「ごめんなさい……」
 雪枝と数凪に言われ、ようやく熱が冷めたようだった。