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第1楽章~アレグロ~➁

ー/ー



 午前7時30分を少し過ぎた頃―――。

 快速電車を下車したオレと壮馬の取材班を含めた吹奏楽部の一行は、乗り換えのために、うめきた地下ホームに降り立っていた。

 数年前に出来たばかりの地下ホームは、乗り場案内にデジタルサイネージが使用されていたり、壁の映像コンテンツにはタッチパネルが採用されるなど、近未来感にあふれている。なかでも、オレたちが乗車するくろしお1号が到着する21番ホームは、世界初というフルスクリーンホームドアを採用していて、ホーム上の転落防止用のドアが、列車のドアの数や位置に合わせて、自在に可動する仕組みになっている。

「おぉ〜、まるでSF映画の世界に来たみたいだな〜」

 うめきた地下ホームを初めて利用するオレが、高ぶる気持ちを抑えきれずにつぶやくと、そばにいた親友がビデオカメラを片手に撮影用の液晶画面をのぞきながら、

「たしかに、映像映えするロケーションではあるよね〜」

と言って同意する。小学生の頃から一緒に、アニメや映画の映像コンテンツに触れてきた壮馬とは、なんだかんだで、テンションが上がるシチュエーションや感性というのは似ているのかも知れない。

 オレたち男子が近未来を感じさせる世界観について感慨に浸っていると、21番ホームに特急列車が滑り込んできた。列車の前面にパンダの顔のペインティグが施された愛らしいデザインに、今度は、吹奏楽部の女子部員を中心に歓声が上がる。

「キャ〜! なにこれ?」

「めっちゃ可愛いんだけど!」

 すぐに、今回が合宿初参加の1年生たちが、スマホを取り出して撮影会が始まろうとするが―――。

「こらこら! 停車時間は短いぞ。さっさと、乗車すること」

 この駅から合流した吹奏楽部の顧問の一人である久川先生が、部員たちに注意をうながす。

「え〜、残念……」

「写真を撮れると思ったのに〜」

 女子生徒を中心に、部員の中には不満をこぼすメンバーもいたが、特急列車が出発を待ってくれるわけでもなく、合宿参加者一同は、次々に乗車を始める。
 
 ありがたいことに、オレたちが、吹奏楽部のメンバーとともに乗り込んだ指定席の4号車は、すべての空席に合宿参加者メンバーと顧問が座り、自分たちの貸し切りのような状態となった。そして、座席の頭部にあたるカバーは、パンダの親子のイラストになっていて、乗車したメンバーは、荷物を車両上部の網棚に置くと、先頭車両の写真撮影の機会を逃してしまったリベンジとばかりに、次々にスマホを取り出し、座席や車内の撮影を始めている。

 まるで、修学旅行の列車移動のような雰囲気に、さらに気持ちが高まっていくことを感じた。
 
 午前7時39分―――。
 
 定刻通りに駅を出発したくろしお1号は、しばらく地下の線路を進んでから地上に出て環状線と合流する。
 車窓には、都会のビルの間には真っ青な空が広がり、これからの活動の前途をあらわしているようだ。

 そして、自分たちが乗車した4号車には他の乗客が居ないことを確認してから、オレは壮馬に声をかけて、吹奏楽部の部員や顧問の先生にインタビューを敢行することにした。

 まず、最初に取材を受けてもらうのは、吹奏楽部の代表者でもある早見部長だ。

「早見先輩、ちょっと良いですか? 今回、吹奏楽部の強化合宿の密着取材をさせてもらうことになった広報部です。合宿所に向けて出発してばかりで申し訳ないですが、インタビューをさせてもらって良いですか?」

 オレの突撃取材に対して、先輩は「えっ、いまから?」と一瞬、躊躇するようすを見せたものの、

「あっ、でも今回の取材は、こっちからお願いしたことだもんね」

と言って笑顔を見せてから、快く返答してくれる。

「大丈夫だよ。 どんなことを答えれば良いかな?」

「ありがとうございます。壮馬、カメラの準備は出来てるか?」

「もちろん、OKだよ!」

 即答した親友の声に無言でうなずき、オレはインタビュアー・モードに入る。

 ―――まず、吹奏楽部の代表者である早見部長にうかがいます。今回の強化合宿の目的はなんですか?

「はい! 強化合宿の主な目的は、集中的な練習による技術向上と、24時間寝食を共にすることによるチームワークの強化です。具体的には、普段よりも長い時間をかけて集中的に練習することで技術力や表現力を高め、ミーティングなどを通じて課題を話し合い、チームとしての一体感を深めることですね」

 ―――こうした合宿は、毎年、行われているんですか?

「そうですね。吹奏楽部では、例年、関西大会が開かれる8月末に向けて、この時期に合宿をしてるんですよ」

 ―――強化合宿ということは、普段の学校での練習よりも厳しい指導があるんでしょうか?

「う〜ん、厳しいと感じるかどうかは人それぞれだと思うけど……それぞれのパートに、OBやOGの方々が指導者として付いてくれるので、より集中した練習ができる、ということは間違いないですね」

 ―――なるほど。この合宿のコンセプトが良くわかりました。では、最後に、今年の強化合宿に対する早見部長の意気込みを聞かせてください。

「え〜、そうですね。去年は銀賞に終わった関西大会ですが、今年は金賞と全国大会の出場を目標にしているので、そこに向けて演奏を仕上げて行きたいと思います。部員全員一丸となって、笑顔で合宿を終えることができたら良いと考えています」

 ―――突然のインタビューに答えていただき、ありがとうございました。

 こうして、電車内での一人目のインタビューが終了した。


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 午前7時30分を少し過ぎた頃―――。
 快速電車を下車したオレと壮馬の取材班を含めた吹奏楽部の一行は、乗り換えのために、うめきた地下ホームに降り立っていた。
 数年前に出来たばかりの地下ホームは、乗り場案内にデジタルサイネージが使用されていたり、壁の映像コンテンツにはタッチパネルが採用されるなど、近未来感にあふれている。なかでも、オレたちが乗車するくろしお1号が到着する21番ホームは、世界初というフルスクリーンホームドアを採用していて、ホーム上の転落防止用のドアが、列車のドアの数や位置に合わせて、自在に可動する仕組みになっている。
「おぉ〜、まるでSF映画の世界に来たみたいだな〜」
 うめきた地下ホームを初めて利用するオレが、高ぶる気持ちを抑えきれずにつぶやくと、そばにいた親友がビデオカメラを片手に撮影用の液晶画面をのぞきながら、
「たしかに、映像映えするロケーションではあるよね〜」
と言って同意する。小学生の頃から一緒に、アニメや映画の映像コンテンツに触れてきた壮馬とは、なんだかんだで、テンションが上がるシチュエーションや感性というのは似ているのかも知れない。
 オレたち男子が近未来を感じさせる世界観について感慨に浸っていると、21番ホームに特急列車が滑り込んできた。列車の前面にパンダの顔のペインティグが施された愛らしいデザインに、今度は、吹奏楽部の女子部員を中心に歓声が上がる。
「キャ〜! なにこれ?」
「めっちゃ可愛いんだけど!」
 すぐに、今回が合宿初参加の1年生たちが、スマホを取り出して撮影会が始まろうとするが―――。
「こらこら! 停車時間は短いぞ。さっさと、乗車すること」
 この駅から合流した吹奏楽部の顧問の一人である久川先生が、部員たちに注意をうながす。
「え〜、残念……」
「写真を撮れると思ったのに〜」
 女子生徒を中心に、部員の中には不満をこぼすメンバーもいたが、特急列車が出発を待ってくれるわけでもなく、合宿参加者一同は、次々に乗車を始める。
 ありがたいことに、オレたちが、吹奏楽部のメンバーとともに乗り込んだ指定席の4号車は、すべての空席に合宿参加者メンバーと顧問が座り、自分たちの貸し切りのような状態となった。そして、座席の頭部にあたるカバーは、パンダの親子のイラストになっていて、乗車したメンバーは、荷物を車両上部の網棚に置くと、先頭車両の写真撮影の機会を逃してしまったリベンジとばかりに、次々にスマホを取り出し、座席や車内の撮影を始めている。
 まるで、修学旅行の列車移動のような雰囲気に、さらに気持ちが高まっていくことを感じた。
 午前7時39分―――。
 定刻通りに駅を出発したくろしお1号は、しばらく地下の線路を進んでから地上に出て環状線と合流する。
 車窓には、都会のビルの間には真っ青な空が広がり、これからの活動の前途をあらわしているようだ。
 そして、自分たちが乗車した4号車には他の乗客が居ないことを確認してから、オレは壮馬に声をかけて、吹奏楽部の部員や顧問の先生にインタビューを敢行することにした。
 まず、最初に取材を受けてもらうのは、吹奏楽部の代表者でもある早見部長だ。
「早見先輩、ちょっと良いですか? 今回、吹奏楽部の強化合宿の密着取材をさせてもらうことになった広報部です。合宿所に向けて出発してばかりで申し訳ないですが、インタビューをさせてもらって良いですか?」
 オレの突撃取材に対して、先輩は「えっ、いまから?」と一瞬、躊躇するようすを見せたものの、
「あっ、でも今回の取材は、こっちからお願いしたことだもんね」
と言って笑顔を見せてから、快く返答してくれる。
「大丈夫だよ。 どんなことを答えれば良いかな?」
「ありがとうございます。壮馬、カメラの準備は出来てるか?」
「もちろん、OKだよ!」
 即答した親友の声に無言でうなずき、オレはインタビュアー・モードに入る。
 ―――まず、吹奏楽部の代表者である早見部長にうかがいます。今回の強化合宿の目的はなんですか?
「はい! 強化合宿の主な目的は、集中的な練習による技術向上と、24時間寝食を共にすることによるチームワークの強化です。具体的には、普段よりも長い時間をかけて集中的に練習することで技術力や表現力を高め、ミーティングなどを通じて課題を話し合い、チームとしての一体感を深めることですね」
 ―――こうした合宿は、毎年、行われているんですか?
「そうですね。吹奏楽部では、例年、関西大会が開かれる8月末に向けて、この時期に合宿をしてるんですよ」
 ―――強化合宿ということは、普段の学校での練習よりも厳しい指導があるんでしょうか?
「う〜ん、厳しいと感じるかどうかは人それぞれだと思うけど……それぞれのパートに、OBやOGの方々が指導者として付いてくれるので、より集中した練習ができる、ということは間違いないですね」
 ―――なるほど。この合宿のコンセプトが良くわかりました。では、最後に、今年の強化合宿に対する早見部長の意気込みを聞かせてください。
「え〜、そうですね。去年は銀賞に終わった関西大会ですが、今年は金賞と全国大会の出場を目標にしているので、そこに向けて演奏を仕上げて行きたいと思います。部員全員一丸となって、笑顔で合宿を終えることができたら良いと考えています」
 ―――突然のインタビューに答えていただき、ありがとうございました。
 こうして、電車内での一人目のインタビューが終了した。