表示設定
表示設定
目次 目次




第二部・第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜⑬

ー/ー



 もちろん、どんな風に考えるかは、彼女の自由だけど――――――。

「そんなに、きぃセンパイへの評価が高いなら……紅野センパイより、天竹センパイ自身が、きぃセンパイと付き合えば、イイんじゃないですか?」

 とくに、意識することなく、つい感想めいたことをなにげなく口に出してしまう。
 すると、意外なことに、カフェに入って来て以来、ずっと冷静な雰囲気で話しを続けていた文芸部の部長さんは、「えっ!?」とつぶやいたあと、

「な、な、な、な、な、な、な、ナニを言っているんですか!? わ、私が黄瀬くんと付き合うなんて、そんな!」

と、誰がどう見ても動揺した素振りで声を上げた。
 
(なんて、わかりやすい……)

 冷静さを失った人間を目の前にすると、心の落ち着きを取り戻すものだ。上級生の狼狽ぶりを眺めながら、

(天竹センパイにも、カワイイところがあるんだ)

そう感じつつ、苦笑をこらえながら返答する。

「いまのは、ワタシの素朴な感想ですから、そんなに、真に受けなくてもイイですよ」

「そ、そうですか……」

 やや不機嫌そうな声色で応答した文芸部の部長さんは、

「と、とにかく……黄瀬くんは、ノアとの方が相性が良いと、私は考えていますから! 二人のためなら、なんでもしようと思っています」

と、あらためて、きぃセンパイと紅野センパイを『推す』宣言を行う。

(カプ厨的な価値観を現実に持ち込むのは、色々な意味でし《・》ん《・》ど《・》い《・》ですよ……)

 口に出しそうになったつぶやきを、グッと飲み込んで、笑顔を作ったワタシは返答する。

「天竹センパイのお考えは、良くわかりました。こちらが困るようなことにはならなさそうですし……ワタシにも、できることがあれば、天竹センパイに協力させてもらいますよ」

 すると、目の前のセンパイは、穏やかな表情を取り戻し、

「佐倉さん、ありがとう……」

と、落ち着いた声で感謝の言葉を返してくれた。
 
 しかし――――――。

 ワタシが、

「でも、本当に良いんですか? 自分の気持ちには素直になっておいた方がイイですよ?」

と、自分でも、お節介と感じられる一言をつぶやくと、またしても、彼女は表情を固くして、こんなことを言ってきたのだ。

「それは、佐倉さん自身にも言えることではないですか? 黄瀬くんに話しを聞かせてもらったんですけど……中学校時代の校内放送では、ずいぶんと、黒田くんにヒドいことを言っていたそうじゃないですか? それが無ければ、いま頃は、あなたと黒田くんの仲も、もっと深まって――――――」

「か、か、か、か、か、関係ね〜し!」

 彼女の言葉が終わる前に、ワタシは声を張り上げていた。

 午前中の静かなカフェの店内に自分の声が響き渡る。

 ランチタイムが始まる前だったので、店内に、他のお客さんはそれほど多くはなかったけれど、そのうちの何人かの視線が自分に集まっていたため、

「すみません」

と、立ち上がって、小さく彼女たちに会釈をする。
 そして、あらためて、席に着いたワタシは、目の前の上級生に向かって、小声で伝える。

「ちょっと! くろセンパイとワタシのことは、いまは、関係ないじゃないですか!」

 こちらが取り乱してしまったせいか、今度は、彼女のほうが冷静になり、ワタシ自身が、もっとも気にしていることを、グリグリと的確に突いてくる。

「そうでしょうか? 佐倉さんは、同性の私から見ても魅力的だと思いますし……中学生のとき、普()()に《・》黒田くんとコミュニケーションを取っていれば、彼と良い仲になっていて、白草さんや、ノアの付け入る余地なんて、なかったんじゃないですか?」

「そ、それは、たしかに、そうですけど…………」

 繰り出される正論パンチに、反論の余地はなく、同意せざるを得ないがために、ゴニョゴニョと、口ごもるように返答すると、天竹センパイは、落ち着いた口調で、

「すみません……佐倉さんの個人的な事情に立ち入るつもりはなかったのですが……」

と、謝罪の言葉をかけてくれた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 もちろん、どんな風に考えるかは、彼女の自由だけど――――――。
「そんなに、きぃセンパイへの評価が高いなら……紅野センパイより、天竹センパイ自身が、きぃセンパイと付き合えば、イイんじゃないですか?」
 とくに、意識することなく、つい感想めいたことをなにげなく口に出してしまう。
 すると、意外なことに、カフェに入って来て以来、ずっと冷静な雰囲気で話しを続けていた文芸部の部長さんは、「えっ!?」とつぶやいたあと、
「な、な、な、な、な、な、な、ナニを言っているんですか!? わ、私が黄瀬くんと付き合うなんて、そんな!」
と、誰がどう見ても動揺した素振りで声を上げた。
(なんて、わかりやすい……)
 冷静さを失った人間を目の前にすると、心の落ち着きを取り戻すものだ。上級生の狼狽ぶりを眺めながら、
(天竹センパイにも、カワイイところがあるんだ)
そう感じつつ、苦笑をこらえながら返答する。
「いまのは、ワタシの素朴な感想ですから、そんなに、真に受けなくてもイイですよ」
「そ、そうですか……」
 やや不機嫌そうな声色で応答した文芸部の部長さんは、
「と、とにかく……黄瀬くんは、ノアとの方が相性が良いと、私は考えていますから! 二人のためなら、なんでもしようと思っています」
と、あらためて、きぃセンパイと紅野センパイを『推す』宣言を行う。
(カプ厨的な価値観を現実に持ち込むのは、色々な意味でし《・》ん《・》ど《・》い《・》ですよ……)
 口に出しそうになったつぶやきを、グッと飲み込んで、笑顔を作ったワタシは返答する。
「天竹センパイのお考えは、良くわかりました。こちらが困るようなことにはならなさそうですし……ワタシにも、できることがあれば、天竹センパイに協力させてもらいますよ」
 すると、目の前のセンパイは、穏やかな表情を取り戻し、
「佐倉さん、ありがとう……」
と、落ち着いた声で感謝の言葉を返してくれた。
 しかし――――――。
 ワタシが、
「でも、本当に良いんですか? 自分の気持ちには素直になっておいた方がイイですよ?」
と、自分でも、お節介と感じられる一言をつぶやくと、またしても、彼女は表情を固くして、こんなことを言ってきたのだ。
「それは、佐倉さん自身にも言えることではないですか? 黄瀬くんに話しを聞かせてもらったんですけど……中学校時代の校内放送では、ずいぶんと、黒田くんにヒドいことを言っていたそうじゃないですか? それが無ければ、いま頃は、あなたと黒田くんの仲も、もっと深まって――――――」
「か、か、か、か、か、関係ね〜し!」
 彼女の言葉が終わる前に、ワタシは声を張り上げていた。
 午前中の静かなカフェの店内に自分の声が響き渡る。
 ランチタイムが始まる前だったので、店内に、他のお客さんはそれほど多くはなかったけれど、そのうちの何人かの視線が自分に集まっていたため、
「すみません」
と、立ち上がって、小さく彼女たちに会釈をする。
 そして、あらためて、席に着いたワタシは、目の前の上級生に向かって、小声で伝える。
「ちょっと! くろセンパイとワタシのことは、いまは、関係ないじゃないですか!」
 こちらが取り乱してしまったせいか、今度は、彼女のほうが冷静になり、ワタシ自身が、もっとも気にしていることを、グリグリと的確に突いてくる。
「そうでしょうか? 佐倉さんは、同性の私から見ても魅力的だと思いますし……中学生のとき、普《・》通《・》に《・》黒田くんとコミュニケーションを取っていれば、彼と良い仲になっていて、白草さんや、ノアの付け入る余地なんて、なかったんじゃないですか?」
「そ、それは、たしかに、そうですけど…………」
 繰り出される正論パンチに、反論の余地はなく、同意せざるを得ないがために、ゴニョゴニョと、口ごもるように返答すると、天竹センパイは、落ち着いた口調で、
「すみません……佐倉さんの個人的な事情に立ち入るつもりはなかったのですが……」
と、謝罪の言葉をかけてくれた。