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119 女子も男子と同じ

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 夕食にたくさん作ったキャベコロを二つ、住み込みの及川頼子(おいかわよりこ)に紙袋に入れてもらい、藤城皐月(ふじしろさつき)は頼子と祐希(ゆうき)の母娘に見送られて家を出た。
 小百合(さゆり)寮の行燈(あんどん)が暗い路地に浮かんでいた。皐月は家の前の通りのような、街灯のない、月明かりに照らされた暗い夜道が好きだ。暗闇の中でこそ得られる解放感もある。
 だがそんな幽冥(ゆうめい)さも、少し歩けば商店街の照明にかき消されてしまう。それでも皐月は閉店後の寂しげなアーケード商店街も好きなので、解放感がなくなっても、高揚感は徐々に高まってきた。
 太陽の光の届かない世界にいると、家や学校にいる時とは別の自分になるような感覚になる。それは取り繕ってきたいい子の鎧が霧となって消えるような感じで、心が軽くなり、とても気持ちのいいものだ。
 皐月は栗林真理(くりばやしまり)の家に着くまでの数分間で、頼子や祐希に見せていた仮の姿を閉じた。真理には本当の自分を見せることができそうだ。

「ご機嫌さんだね。どうしたの?」
「真理に会えたからに決まってんじゃん」
 真理の腕が皐月の肩にかかり、二人は唇を重ねた。顔を合わせるなりキスをしたことで、急に照れくさくなった。皐月はまだ、こういう逢瀬に慣れていない。
「外は涼しくて気持ちいいぞ。真理も出てみる?」
「夜遊びか……したいのはやまやまだけど、私は今、勉強してたんだよ。それに今日はお母さん、早く帰ってくるし」
「お座敷、近場だもんな」
 玄関の掛け時計はもう8時を回っていた。宴席が8時までだとすると、あまりゆっくりとしていられない。
「コロッケ持ってきたんだけど、まだ食べられる?」
「もうお腹いっぱいだよ。でも家に置いておくわけにはいかないから、食べるけどさ……皐月も一つ食べるの手伝ってよよね」
「俺も腹いっぱいなんだけどな。さっきこれ10個食べたし」
「10個! バカじゃないの? 食べ過ぎだよ」
「美味しかったんだよ。だから真理にも食べてもらいたくなって持ってきたじゃんか」
「ふ〜ん。じゃあ食べなきゃだね」

 会いたかった気持ちを見透かされていると思った。それならまわりくどいことは抜きにして、玄関を上がると真理を胸元に引きよせた。学校でも真理とキスをしたいと思う時があったが、ずっと我慢していた。
 皐月は自分から情熱的なキスをした。舞い上がっていたせいでつんのめってしまい、バランスを崩してよろけてしまった。
「皐月、慌て過ぎだよ……」
 真理が妖しい笑みを浮かべながら首に手を回してきた。こんなに思いが募っていたのは自分だけかと思っていたが、真理も自分と同じだったようだ。もう一度、皐月から顔を寄せて、優しくキスをした。
「全部食べないで真理の分を残しておいたんだぞ。偉いだろ」
「全部食べちゃえばよかったのに」
「そんなことしたら家を出る口実がなくなくなっちゃうじゃん」
「理由がないと出られないの?」
「もう一人じゃないからな……」
 今度は真理からキスをしてきた。真理に舌を入れられると、キャベコロのことなんかどうでもよくなってきた。

 家に帰ると、頼子に風呂に入るように言われた。これは皐月にとって好都合だ。
 今日は前回よりも髪や服に真理の残り香が残っていたので、鼻のいい祐希にバレる前にさっさと湯船につかってしまいたかった。いつもなら面倒でやらないが、今日ばかりは洗濯物をネットに入れて証拠隠滅をはかることにした。
 お湯に口までつかりながら、二人で抱き合っていた時に真理の口から漏れた言葉を思い返した。
「もうこの後、勉強する気になれないな……」
 その時はただ愛おしいとしか思わなかったが、今思うと思いっきり真理の勉強の邪魔をしていたことになる。これでは夕食のおかずのおすそ分けを届けに行ったつもりが、真理の足を引っ張りに行ったようなものだ。真理は幸せそうだったが、さすがに受験生を誘惑するのは良くない。

 真理は「お母さんがお座敷に出る日はいつでも家に来て」と言っていた。しかし、行けば今日のように快楽に溺れるのが目に見えている。
 皐月は自分が情欲を抑えられないことをよくわかっている。そして真理もきっと自分と同じだろう。甘美な世界を知ってしまった二人はもう後戻りできない体になってしまった。
 二人でキャベコロを食べていた時に「学校でキスしたいと思った?」と真理に聞いてみた。真理は「思った」と恥ずかしそうに言い、それどころか「こっそりどこかに隠れてキスしようか」とまで言った。
 真理はすっかりディープキスが好きになっていた。こういう性欲は男だけしか感じないのかと思っていたので、真理も自分と同じように欲情していたとは思ってもみなかった。
 皐月は自分で仕込んでおきながら、エッチになった真理のことを思うと、嬉しいような、哀しいような複雑な感情になった。



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 夕食にたくさん作ったキャベコロを二つ、住み込みの及川頼子《おいかわよりこ》に紙袋に入れてもらい、|藤城皐月《ふじしろさつき》は頼子と|祐希《ゆうき》の母娘に見送られて家を出た。
 |小百合《さゆり》寮の|行燈《あんどん》が暗い路地に浮かんでいた。皐月は家の前の通りのような、街灯のない、月明かりに照らされた暗い夜道が好きだ。暗闇の中でこそ得られる解放感もある。
 だがそんな|幽冥《ゆうめい》さも、少し歩けば商店街の照明にかき消されてしまう。それでも皐月は閉店後の寂しげなアーケード商店街も好きなので、解放感がなくなっても、高揚感は徐々に高まってきた。
 太陽の光の届かない世界にいると、家や学校にいる時とは別の自分になるような感覚になる。それは取り繕ってきたいい子の鎧が霧となって消えるような感じで、心が軽くなり、とても気持ちのいいものだ。
 皐月は|栗林真理《くりばやしまり》の家に着くまでの数分間で、頼子や祐希に見せていた仮の姿を閉じた。真理には本当の自分を見せることができそうだ。
「ご機嫌さんだね。どうしたの?」
「真理に会えたからに決まってんじゃん」
 真理の腕が皐月の肩にかかり、二人は唇を重ねた。顔を合わせるなりキスをしたことで、急に照れくさくなった。皐月はまだ、こういう逢瀬に慣れていない。
「外は涼しくて気持ちいいぞ。真理も出てみる?」
「夜遊びか……したいのはやまやまだけど、私は今、勉強してたんだよ。それに今日はお母さん、早く帰ってくるし」
「お座敷、近場だもんな」
 玄関の掛け時計はもう8時を回っていた。宴席が8時までだとすると、あまりゆっくりとしていられない。
「コロッケ持ってきたんだけど、まだ食べられる?」
「もうお腹いっぱいだよ。でも家に置いておくわけにはいかないから、食べるけどさ……皐月も一つ食べるの手伝ってよよね」
「俺も腹いっぱいなんだけどな。さっきこれ10個食べたし」
「10個! バカじゃないの? 食べ過ぎだよ」
「美味しかったんだよ。だから真理にも食べてもらいたくなって持ってきたじゃんか」
「ふ〜ん。じゃあ食べなきゃだね」
 会いたかった気持ちを見透かされていると思った。それならまわりくどいことは抜きにして、玄関を上がると真理を胸元に引きよせた。学校でも真理とキスをしたいと思う時があったが、ずっと我慢していた。
 皐月は自分から情熱的なキスをした。舞い上がっていたせいでつんのめってしまい、バランスを崩してよろけてしまった。
「皐月、慌て過ぎだよ……」
 真理が妖しい笑みを浮かべながら首に手を回してきた。こんなに思いが募っていたのは自分だけかと思っていたが、真理も自分と同じだったようだ。もう一度、皐月から顔を寄せて、優しくキスをした。
「全部食べないで真理の分を残しておいたんだぞ。偉いだろ」
「全部食べちゃえばよかったのに」
「そんなことしたら家を出る口実がなくなくなっちゃうじゃん」
「理由がないと出られないの?」
「もう一人じゃないからな……」
 今度は真理からキスをしてきた。真理に舌を入れられると、キャベコロのことなんかどうでもよくなってきた。
 家に帰ると、頼子に風呂に入るように言われた。これは皐月にとって好都合だ。
 今日は前回よりも髪や服に真理の残り香が残っていたので、鼻のいい祐希にバレる前にさっさと湯船につかってしまいたかった。いつもなら面倒でやらないが、今日ばかりは洗濯物をネットに入れて証拠隠滅をはかることにした。
 お湯に口までつかりながら、二人で抱き合っていた時に真理の口から漏れた言葉を思い返した。
「もうこの後、勉強する気になれないな……」
 その時はただ愛おしいとしか思わなかったが、今思うと思いっきり真理の勉強の邪魔をしていたことになる。これでは夕食のおかずのおすそ分けを届けに行ったつもりが、真理の足を引っ張りに行ったようなものだ。真理は幸せそうだったが、さすがに受験生を誘惑するのは良くない。
 真理は「お母さんがお座敷に出る日はいつでも家に来て」と言っていた。しかし、行けば今日のように快楽に溺れるのが目に見えている。
 皐月は自分が情欲を抑えられないことをよくわかっている。そして真理もきっと自分と同じだろう。甘美な世界を知ってしまった二人はもう後戻りできない体になってしまった。
 二人でキャベコロを食べていた時に「学校でキスしたいと思った?」と真理に聞いてみた。真理は「思った」と恥ずかしそうに言い、それどころか「こっそりどこかに隠れてキスしようか」とまで言った。
 真理はすっかりディープキスが好きになっていた。こういう性欲は男だけしか感じないのかと思っていたので、真理も自分と同じように欲情していたとは思ってもみなかった。
 皐月は自分で仕込んでおきながら、エッチになった真理のことを思うと、嬉しいような、哀しいような複雑な感情になった。