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006

ー/ー



「いやいやいや……数凪さん」
「いやいやいやいや」

 みな口々に否定しようとしたが、数凪はきょとんとしていた。

「なんだよ。お前らなんか色々調べたりするの得意なんだろー?」
「それはどなたからお聞きに?」

「十子さんだよ。相談したら〝雪枝に頼れってみたら〟って」

 なるほど、と言ったきり雪枝は押し黙ってしまう。土佐十子は以前属していたアイドルグループの副リーダーであり先輩であり、雪枝の元直属の上司。今もつながりがある。

 断るにしても言葉を選ばなければならないな、と雪枝は考えている。

『それにしてもあの方は……』

 何を考えているのか。

 雪枝たちが前グループで調査部門を任されていたのは、同グループ内でも秘密であった。現在ヨネプロで同じようなことをしているのも、もちろん秘密だ。

 以前のアイドルグループの関係者だとその辺りのことを知っているのはリーダー・白楽(しらく)(ひのと)、副リーダー・土佐十子他限られた人間たちである。

『そういえば何故か乙女さんからも調べ物を頼まれたし』

 ついこの間、SNOWの面々は武音乙女という、これまた以前のグループからの知り合いに調査を頼まれたばかりだった。

 その件は簡単な不動産に関するものだったので大した負担にはならなかったが、今回はそうもいかないだろう。

「では、一応概要だけでもお聞きして……」

「ちょ、ちょっと! ユッキー!」 
「待って待って!」

 途端に周囲の者が割って入る。

「なにか?」

「ダメだよ、そんなのお聞きしたら。受けることになっちゃうじゃん!」

「え? いえ、数凪さんはそんな狭量な方では」

「そうじゃないよ! あんたの問題」

 仲間たちは、雪枝がお人好しなので事情を聞いたら引き受けてしまうだろうと思っているのだ。

「しかし……一応アイドル業界で起こった事件ですし情報自体は出来る限り得ておくべきかと」

 語っている雪枝の瞳になにかがちらついている。葉子は、そこに職務遂行上の義務感以外のものが瞬いているのに気付いた。

「ユッキー、あんた……」

「おまえらやっぱ面白いなー」

 闊達な笑い声が聞こえたと思ったら、数凪である。幼子を見るような目付きでSNOWの面々を見ている。

「私、あんまり話したことなかったけど、もっといっぱい話しときゃよかったな」

 もう二度と戻らない日々を懐かしむような言いよう。裏表のない朗らかな笑顔。

 そうだった。お人好しといえば、雪枝よりも数凪のほうが数段上なのである。

「……話せばいいじゃないですか。今からでも。たくさん」 
「えー、そう? 迷惑じゃない?」

 数凪は照れたように笑っている。

「うわあ……何か通じあっちゃってますよ」
「もうだめだ」

 大袈裟に頭を抱えている者たちもいた。それぞれのやり方で身の内の絶望を表現している。

「事情を聞かせてもらえますか?」

「あのー、双子の片割れがいなくなって疑われてる、って話なんでしたっけ? 今」

 尾鷹葉子が早速口を挟んだ。半ば諦めの心境であった。やりだしてしまえば、自分はやる気になってしまうのはわかっているので気が進まなかった面も大きい。

「うん……」

 数凪は素直に肩を落とす。

「警察はなんか疑ってるっぽい。しつこいんだよ。色々聞いてくんの。何回も答えてんのになー」

 あの事件の際、忽然と消えてしまった夕山四季は未だ見つかっていないのだ。

 巷間の噂でも〝四季が犯人なのでは?〟という意見が、少しずつだが自殺説を凌駕しつつあった。もちろん何の根拠もない素人の遊びのような推測にすぎないのだが。

「数凪さんご自身はどうお考えなんですか?」

「えー? 四季が犯人って? ちげーよ。んなわけないじゃん。真希が死んだ時私と一緒にいたもん」

 思わず〝えっ?〟と身を乗り出すSNOWの面々。

「……さらっと爆弾発言しませんでした?」

 ワンテンポ遅れて、真銀が口を出した。

「そんな情報、少なくとも公開情報には出てないよね?」
「と、思いますが……」

 アイドル絡みのことではあるし派手な事件なので、みな一応その後の動向はチェックしていた。

「それって警察には言ったんですか?」

 んーん、と数凪は首を横に振る。

「え~……」

「絶対面倒になるやつじゃないですかあ……」
 伊代が呆れたようにこぼすと、

「いや、違うって! 面倒じゃないんだってば! 聞いてくれよ!」
と、数凪は大袈裟な身振りで訴える。

「落ち着いて、状況を説明してください」

 うん、と頷き数凪は少々芝居がかった咳払いをした。

「真希さんが亡くなった時、というのは、その……窓から落下した時、ということでしょうか?」
「うん……まあ、多分」

「現場を見たんですか?」
「あ、いや、見てないんだけど」

「音かなんか聞いたんですか? ドサッみたいな」

「うわっ、生々し」

 思わず数人が眉をひそめる。

「音……うん、どうだったかなあ……聞いてない……気もするけど……」

「どうして真希さんが落下したらしい、とわかったんです?」

「あー……一階のラウンジで四季とダベってる時に……ああそう! 立木の枝になんかが当たる音が聞こえたんだよ! それで中庭に見に行ったら……」

「音聞こえてるじゃないですか」

「いっぺんに話すなー!」 

 とうとう数凪が爆発した。

「お前らのリアクションにいちいち付き合ってるから、よけいわからなくなるんだよ! ゆっくり喋らせろ!」

 〝ま、まあ……〟〝そうですね〟と口々に言いながらSNOWの面々は腰を落ち着けた。

 しかし、いつのまにかみな和んで緊張が解けている。

 雪枝以外あまり数凪のことは知らなかったのだが、話してみたら話しやすい人柄だということがわかってきた。


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みんなのリアクション



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「いやいやいや……数凪さん」
「いやいやいやいや」
 みな口々に否定しようとしたが、数凪はきょとんとしていた。
「なんだよ。お前らなんか色々調べたりするの得意なんだろー?」
「それはどなたからお聞きに?」
「十子さんだよ。相談したら〝雪枝に頼れってみたら〟って」
 なるほど、と言ったきり雪枝は押し黙ってしまう。土佐十子は以前属していたアイドルグループの副リーダーであり先輩であり、雪枝の元直属の上司。今もつながりがある。
 断るにしても言葉を選ばなければならないな、と雪枝は考えている。
『それにしてもあの方は……』
 何を考えているのか。
 雪枝たちが前グループで調査部門を任されていたのは、同グループ内でも秘密であった。現在ヨネプロで同じようなことをしているのも、もちろん秘密だ。
 以前のアイドルグループの関係者だとその辺りのことを知っているのはリーダー・|白楽《しらく》|丁《ひのと》、副リーダー・土佐十子他限られた人間たちである。
『そういえば何故か乙女さんからも調べ物を頼まれたし』
 ついこの間、SNOWの面々は武音乙女という、これまた以前のグループからの知り合いに調査を頼まれたばかりだった。
 その件は簡単な不動産に関するものだったので大した負担にはならなかったが、今回はそうもいかないだろう。
「では、一応概要だけでもお聞きして……」
「ちょ、ちょっと! ユッキー!」 
「待って待って!」
 途端に周囲の者が割って入る。
「なにか?」
「ダメだよ、そんなのお聞きしたら。受けることになっちゃうじゃん!」
「え? いえ、数凪さんはそんな狭量な方では」
「そうじゃないよ! あんたの問題」
 仲間たちは、雪枝がお人好しなので事情を聞いたら引き受けてしまうだろうと思っているのだ。
「しかし……一応アイドル業界で起こった事件ですし情報自体は出来る限り得ておくべきかと」
 語っている雪枝の瞳になにかがちらついている。葉子は、そこに職務遂行上の義務感以外のものが瞬いているのに気付いた。
「ユッキー、あんた……」
「おまえらやっぱ面白いなー」
 闊達な笑い声が聞こえたと思ったら、数凪である。幼子を見るような目付きでSNOWの面々を見ている。
「私、あんまり話したことなかったけど、もっといっぱい話しときゃよかったな」
 もう二度と戻らない日々を懐かしむような言いよう。裏表のない朗らかな笑顔。
 そうだった。お人好しといえば、雪枝よりも数凪のほうが数段上なのである。
「……話せばいいじゃないですか。今からでも。たくさん」 
「えー、そう? 迷惑じゃない?」
 数凪は照れたように笑っている。
「うわあ……何か通じあっちゃってますよ」
「もうだめだ」
 大袈裟に頭を抱えている者たちもいた。それぞれのやり方で身の内の絶望を表現している。
「事情を聞かせてもらえますか?」
「あのー、双子の片割れがいなくなって疑われてる、って話なんでしたっけ? 今」
 尾鷹葉子が早速口を挟んだ。半ば諦めの心境であった。やりだしてしまえば、自分はやる気になってしまうのはわかっているので気が進まなかった面も大きい。
「うん……」
 数凪は素直に肩を落とす。
「警察はなんか疑ってるっぽい。しつこいんだよ。色々聞いてくんの。何回も答えてんのになー」
 あの事件の際、忽然と消えてしまった夕山四季は未だ見つかっていないのだ。
 巷間の噂でも〝四季が犯人なのでは?〟という意見が、少しずつだが自殺説を凌駕しつつあった。もちろん何の根拠もない素人の遊びのような推測にすぎないのだが。
「数凪さんご自身はどうお考えなんですか?」
「えー? 四季が犯人って? ちげーよ。んなわけないじゃん。真希が死んだ時私と一緒にいたもん」
 思わず〝えっ?〟と身を乗り出すSNOWの面々。
「……さらっと爆弾発言しませんでした?」
 ワンテンポ遅れて、真銀が口を出した。
「そんな情報、少なくとも公開情報には出てないよね?」
「と、思いますが……」
 アイドル絡みのことではあるし派手な事件なので、みな一応その後の動向はチェックしていた。
「それって警察には言ったんですか?」
 んーん、と数凪は首を横に振る。
「え~……」
「絶対面倒になるやつじゃないですかあ……」
 伊代が呆れたようにこぼすと、
「いや、違うって! 面倒じゃないんだってば! 聞いてくれよ!」
と、数凪は大袈裟な身振りで訴える。
「落ち着いて、状況を説明してください」
 うん、と頷き数凪は少々芝居がかった咳払いをした。
「真希さんが亡くなった時、というのは、その……窓から落下した時、ということでしょうか?」
「うん……まあ、多分」
「現場を見たんですか?」
「あ、いや、見てないんだけど」
「音かなんか聞いたんですか? ドサッみたいな」
「うわっ、生々し」
 思わず数人が眉をひそめる。
「音……うん、どうだったかなあ……聞いてない……気もするけど……」
「どうして真希さんが落下したらしい、とわかったんです?」
「あー……一階のラウンジで四季とダベってる時に……ああそう! 立木の枝になんかが当たる音が聞こえたんだよ! それで中庭に見に行ったら……」
「音聞こえてるじゃないですか」
「いっぺんに話すなー!」 
 とうとう数凪が爆発した。
「お前らのリアクションにいちいち付き合ってるから、よけいわからなくなるんだよ! ゆっくり喋らせろ!」
 〝ま、まあ……〟〝そうですね〟と口々に言いながらSNOWの面々は腰を落ち着けた。
 しかし、いつのまにかみな和んで緊張が解けている。
 雪枝以外あまり数凪のことは知らなかったのだが、話してみたら話しやすい人柄だということがわかってきた。