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92 将来と子供 ナギ視点

ー/ー



 みやびと駄菓子屋に入ったが、こういった店に入るのは久しぶりだ。
 子供の頃は親や祖父、そして友達らとよく来ていた。
 友達とは違う菓子を買って互いに交換しあって食べていた記憶がある。
 子供の時には友達が居なかったと言っていたみやびにもそういう思い出があるらしく、年上の男の子との話を少し聞いた。
 もっともその子の事は名前すらも覚えてないらしいが。
 若干嫉妬に駆られる。
 俺の知らないみやびを知っている男か。
 幾ら子供の時とはいえ、羨ましいな。

 その後、彼女の顔が曇ったのでもしかしたらあまり思い出したくない記憶も思い出してしまったのかもしれない。
 彼女の茶色の髪の毛は生まれ持った地毛だ。
 同年代の子供たちにとってはそれは奇異に映っただろう。
 父親のしれない、自分たちとは違う見た目の女の子に対してどういう態度をとったのかは察することが出来る。
 俺がその時傍に居たらそいつらから守れたのにと思いながらみやびの様子を伺う。
 そんな視線に気づいてないようで、尚も物思いにふけってるようだ。
 時折、眉間に皺が寄っている。
 ……この話題には、あまり触れない方がいいな。
 
 店内には所狭しと色々な種類があるが、俺が子供時代に食べていた菓子の内数種類がすでに販売終了となってるらしく見当たらない。
 そういえば以前ニュースで見たな。
 俺が好きだった駄菓子を彼女にも食べてもらいたかったんだが残念だ。
 若干の寂しさを抱きつつ、狭く歩きづらい店内を見て回るとプレミアムだというスナック菓子を見つけた。
 多彩な味が売りのコーンスナック菓子で、馴染みのある駄菓子だがプレミアムというのは初めて見たな。
「これ、ちょっと食べてみたいんだが、10本単位なんだな……」と手に取り呟く。
 子供の頃はともかく、今はもうあまり菓子は食わないので10本は多い。
 ざっと周辺の棚を見るが、これはばら売りされてないのか。
 俺が手にしたスナック菓子を見て「プレミアム味か。確かに気になるよね」とみやびも興味を持ったようだ。
「みやびも食べる?」
「1本くらいなら。せっかくだから普通の味と食べ比べてみたいかな」と、彼女はノーマル明太子味を籠に入れた。
 確かに、普通のものとどう違うのだろうか。
 俺も通常の味のものを1本籠に入れる。
「じゃあ買うか。残りは寮の多目的ルームに置いておけばすぐに無くなるだろ」
 うちの隊員らは飢えてるから、こういうのは即掃ける。
 共用の冷蔵庫に私物の食べ物を入れていても誰かに持っていかれるくらいだからな。
 名前を書いていてもまるで意味がない。
 みやびの作ったカレーを持っていかれた時には、流石に腹が立って「彼女の手料理」と大きく書いたらそれ以降は誰も持って行かなくなったが。
 そんなに食べたかったのなら一言言ってくれたら分けたのに。
 多分誰かが酒に酔った状態で、小腹が減ったからと持って行ったんだろうな。
 とはいえ、加賀宮とシオンのものには手を付けないでいたのは釈然としない。

「へ~、プレミアムって結構種類あるんだね。チーズ味もあるよ」
 みやびがコーンスナックが置かれているコーナーをぐるりと見渡して感心したようにつぶやく。
 自分はチーズ嫌いなのに、俺には勧めてくる。
 聞けば「蕩けるチーズとか見た目は美味しそうなんだよね。ピザとか」と言っていた。
 アレルギーではないと聞いていたのでダメ元で「ピザ食ってみるか?」と聞いたことがある。
 そうすると「やだよ。あ、でもチーズ使わないピザなら友達と食べたことある。ピザ初めて食べた、と言ったら「それはピザではない」と罵られたけどね」と返された。
 どんなピザだ。
 味の感想を聞いたら「トマトソースが乗った薄いパンみたいだった」らしい。
 うん、ピザじゃないな、それ。
 というか、他に具材が乗ってなかったのか? それ。

「チーズか、チーズは……ちょっとな」
 特別好きでも嫌いでもなく、普段なら問題なく食うが、みやびと一緒に居る時には食う気にはならない。
「あれ? 嫌いだったっけ?」
 記憶を探るように小首をかしげる。
 みやびのバイト先でチーズケーキを食ったのを思い出してるんだろう。
 嫌いではないが、切実な問題がある。
「みやびとキスできなくなるから。痛っ」
 言った途端に脇腹に軽く拳を入れられた。
 本気で殴られてはないから痛くはないが、思いっきり不意打ちをくらってしまった。
「こんな所で何言ってんの」と、やや怒ったように言われた。
「じゃあ、キスしていい?」
 他の誰にも聞かれないように、みやびの耳元で囁く。
「……チーズ食べた後はやだよ」
 ぷいっと音をたてるように横を向く。
 照れる姿も非常に可愛い。
 今この場で唇を奪ってしまいたくなる。
「ほら、やっぱりダメなんじゃないか」と茶化すように言うと脇腹をまた殴られた。
 さっきより力が入ってるようだが、気のせいだろうか。
「もう!」と軽く頬を膨らませている。
 そうかと思えば、本気で怒ったわけではないようで「ね、こっちは和風ステーキ味だって。最近の子供はこんなの食べてるんだ。なんかすごいね」と商品を手に取り、俺に見せつける。
「最近の子供」という言い方がなんだか面白い。
 みやびも俺と同じくまだ若いのに。
 彼女は2月生まれだから今は17歳。
 俺はこの間23歳になったから、俺とは6歳くらい違うか。
 そう考えると6歳差って大きいな。
「……その言い方、年寄りみたいだな」とわざと茶化すように言う。
「今日のナギはなんか意地悪だな。1週間接触禁止にするよ」
「すまない、俺が悪かった。それだけは許してほしい。一番辛い罰だ」
 最近はキスも抱擁も当たり前になっているので、彼女に触れられないなんて考えたくもない。
 必死に懇願すると、みやびは可愛らしくふふっと笑って俺の腕を取った。
 組まれた彼女の腕を通してじわりと体温が伝わってくる。
 暖かい。
 目が合うと満面の笑みを返してくれた。
 可愛い。
 
 結局、思い出の駄菓子や興味をそそられたものを数点購入した。
 魚肉シートを細かくカットした駄菓子を数種類勧められたが、みやびには酒飲みの資質でもあるのだろうか。
 聞けば子供の頃割と口にしていた記憶があるというが、なんだか記憶があいまいのようで昔の話をするたびに顔をしかめていた。
 今は未成年でかつ学生だから無理だが、卒業したら一緒に酒を飲むのもいいかもしれない。
 正直、どんな風に酔うのか気になる。

「ね、ナギって子供……欲しい?」
 帰り道に脇の公園で遊んでいる子供たちを横目に、みやびがふと聞いてきた。
 質問の意図が分からない。
 欲しいだと言ったら――その、俺たちの関係は先に進むというのだろうか。
 そして、もしいらないと言ったら、まだお預けなのだろうか。
 俺個人は子供自体は好きでも嫌いでもないが、みやびとの子供なら正直欲しい。
 男でも女でも構わないが、もし彼女そっくりな女の子が生まれたら溺愛する自信がある。
 彼女が不遇な子供時代を過ごした分、思う存分その子を可愛がりたい。

 それに、俺は一人息子だから両親からは世継ぎを望まれるだろう。
 将来的に子供を持たなければいけない。
 もしみやびが子供を望まないのなら御厨の家が俺の代で絶えてもいいとすら思ってるが。
 彼女以外の女を娶るなんて考えられない。
 だがみやびに重責を負わせたくはない。
「今まで深く考えたことはないかな。あまり接点もなかったし」
 わざとあいまいに答える。
「私はね、子供――苦手かな。ゴメン」
 ゴメン、というのは将来子供を産むつもりはないということなのか、それとも今はまだそういう関係にもなりたくないということなのだろうか。
「謝らなくていいよ」
 隣り合わせで歩く彼女の頭を軽く撫でる。
 子供時代にあまりいい思い出が無いと零していたこともあるし、それは仕方がないだろう。
 実際に彼女が受けた心の傷はわからないが。

「ナギは一人っ子だよね。――だから親御さんからしてみたら、子供を望まない私は……きっと嫌がられるんじゃないかな」
 なんて小声で言う。
 そっちへの懸念か。
「親とか関係ない。どちらにしても俺は君以外と結婚する気はない」
 俺の言葉を受けて、みやびが何かを呟いたが、ちょうど子供たちの笑い声があたりに響き、聞き取れなかった。
「みやび?」
「ん~。別に? ナギがそう言ってくれて嬉しいな、って」
 これは、何かをごまかされたな……。
 俺の探るような視線を受け、みやびはにっこりとほほ笑むと、俺の腕を組んできた。
「ありがとう。――好きだよ、ナギ」
「ああ」
 はぐらかされた気がしないでもないが、まぁいいか。

 性急に進めて彼女の微笑みに影が差すのは嫌だし、俺たちは俺たちのペースでゆっくり進んでいけばいい。
 俺にとって、なによりも大事なのは彼女なのだから。



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 みやびと駄菓子屋に入ったが、こういった店に入るのは久しぶりだ。
 子供の頃は親や祖父、そして友達らとよく来ていた。
 友達とは違う菓子を買って互いに交換しあって食べていた記憶がある。
 子供の時には友達が居なかったと言っていたみやびにもそういう思い出があるらしく、年上の男の子との話を少し聞いた。
 もっともその子の事は名前すらも覚えてないらしいが。
 若干嫉妬に駆られる。
 俺の知らないみやびを知っている男か。
 幾ら子供の時とはいえ、羨ましいな。
 その後、彼女の顔が曇ったのでもしかしたらあまり思い出したくない記憶も思い出してしまったのかもしれない。
 彼女の茶色の髪の毛は生まれ持った地毛だ。
 同年代の子供たちにとってはそれは奇異に映っただろう。
 父親のしれない、自分たちとは違う見た目の女の子に対してどういう態度をとったのかは察することが出来る。
 俺がその時傍に居たらそいつらから守れたのにと思いながらみやびの様子を伺う。
 そんな視線に気づいてないようで、尚も物思いにふけってるようだ。
 時折、眉間に皺が寄っている。
 ……この話題には、あまり触れない方がいいな。
 店内には所狭しと色々な種類があるが、俺が子供時代に食べていた菓子の内数種類がすでに販売終了となってるらしく見当たらない。
 そういえば以前ニュースで見たな。
 俺が好きだった駄菓子を彼女にも食べてもらいたかったんだが残念だ。
 若干の寂しさを抱きつつ、狭く歩きづらい店内を見て回るとプレミアムだというスナック菓子を見つけた。
 多彩な味が売りのコーンスナック菓子で、馴染みのある駄菓子だがプレミアムというのは初めて見たな。
「これ、ちょっと食べてみたいんだが、10本単位なんだな……」と手に取り呟く。
 子供の頃はともかく、今はもうあまり菓子は食わないので10本は多い。
 ざっと周辺の棚を見るが、これはばら売りされてないのか。
 俺が手にしたスナック菓子を見て「プレミアム味か。確かに気になるよね」とみやびも興味を持ったようだ。
「みやびも食べる?」
「1本くらいなら。せっかくだから普通の味と食べ比べてみたいかな」と、彼女はノーマル明太子味を籠に入れた。
 確かに、普通のものとどう違うのだろうか。
 俺も通常の味のものを1本籠に入れる。
「じゃあ買うか。残りは寮の多目的ルームに置いておけばすぐに無くなるだろ」
 うちの隊員らは飢えてるから、こういうのは即掃ける。
 共用の冷蔵庫に私物の食べ物を入れていても誰かに持っていかれるくらいだからな。
 名前を書いていてもまるで意味がない。
 みやびの作ったカレーを持っていかれた時には、流石に腹が立って「彼女の手料理」と大きく書いたらそれ以降は誰も持って行かなくなったが。
 そんなに食べたかったのなら一言言ってくれたら分けたのに。
 多分誰かが酒に酔った状態で、小腹が減ったからと持って行ったんだろうな。
 とはいえ、加賀宮とシオンのものには手を付けないでいたのは釈然としない。
「へ~、プレミアムって結構種類あるんだね。チーズ味もあるよ」
 みやびがコーンスナックが置かれているコーナーをぐるりと見渡して感心したようにつぶやく。
 自分はチーズ嫌いなのに、俺には勧めてくる。
 聞けば「蕩けるチーズとか見た目は美味しそうなんだよね。ピザとか」と言っていた。
 アレルギーではないと聞いていたのでダメ元で「ピザ食ってみるか?」と聞いたことがある。
 そうすると「やだよ。あ、でもチーズ使わないピザなら友達と食べたことある。ピザ初めて食べた、と言ったら「それはピザではない」と罵られたけどね」と返された。
 どんなピザだ。
 味の感想を聞いたら「トマトソースが乗った薄いパンみたいだった」らしい。
 うん、ピザじゃないな、それ。
 というか、他に具材が乗ってなかったのか? それ。
「チーズか、チーズは……ちょっとな」
 特別好きでも嫌いでもなく、普段なら問題なく食うが、みやびと一緒に居る時には食う気にはならない。
「あれ? 嫌いだったっけ?」
 記憶を探るように小首をかしげる。
 みやびのバイト先でチーズケーキを食ったのを思い出してるんだろう。
 嫌いではないが、切実な問題がある。
「みやびとキスできなくなるから。痛っ」
 言った途端に脇腹に軽く拳を入れられた。
 本気で殴られてはないから痛くはないが、思いっきり不意打ちをくらってしまった。
「こんな所で何言ってんの」と、やや怒ったように言われた。
「じゃあ、キスしていい?」
 他の誰にも聞かれないように、みやびの耳元で囁く。
「……チーズ食べた後はやだよ」
 ぷいっと音をたてるように横を向く。
 照れる姿も非常に可愛い。
 今この場で唇を奪ってしまいたくなる。
「ほら、やっぱりダメなんじゃないか」と茶化すように言うと脇腹をまた殴られた。
 さっきより力が入ってるようだが、気のせいだろうか。
「もう!」と軽く頬を膨らませている。
 そうかと思えば、本気で怒ったわけではないようで「ね、こっちは和風ステーキ味だって。最近の子供はこんなの食べてるんだ。なんかすごいね」と商品を手に取り、俺に見せつける。
「最近の子供」という言い方がなんだか面白い。
 みやびも俺と同じくまだ若いのに。
 彼女は2月生まれだから今は17歳。
 俺はこの間23歳になったから、俺とは6歳くらい違うか。
 そう考えると6歳差って大きいな。
「……その言い方、年寄りみたいだな」とわざと茶化すように言う。
「今日のナギはなんか意地悪だな。1週間接触禁止にするよ」
「すまない、俺が悪かった。それだけは許してほしい。一番辛い罰だ」
 最近はキスも抱擁も当たり前になっているので、彼女に触れられないなんて考えたくもない。
 必死に懇願すると、みやびは可愛らしくふふっと笑って俺の腕を取った。
 組まれた彼女の腕を通してじわりと体温が伝わってくる。
 暖かい。
 目が合うと満面の笑みを返してくれた。
 可愛い。
 結局、思い出の駄菓子や興味をそそられたものを数点購入した。
 魚肉シートを細かくカットした駄菓子を数種類勧められたが、みやびには酒飲みの資質でもあるのだろうか。
 聞けば子供の頃割と口にしていた記憶があるというが、なんだか記憶があいまいのようで昔の話をするたびに顔をしかめていた。
 今は未成年でかつ学生だから無理だが、卒業したら一緒に酒を飲むのもいいかもしれない。
 正直、どんな風に酔うのか気になる。
「ね、ナギって子供……欲しい?」
 帰り道に脇の公園で遊んでいる子供たちを横目に、みやびがふと聞いてきた。
 質問の意図が分からない。
 欲しいだと言ったら――その、俺たちの関係は先に進むというのだろうか。
 そして、もしいらないと言ったら、まだお預けなのだろうか。
 俺個人は子供自体は好きでも嫌いでもないが、みやびとの子供なら正直欲しい。
 男でも女でも構わないが、もし彼女そっくりな女の子が生まれたら溺愛する自信がある。
 彼女が不遇な子供時代を過ごした分、思う存分その子を可愛がりたい。
 それに、俺は一人息子だから両親からは世継ぎを望まれるだろう。
 将来的に子供を持たなければいけない。
 もしみやびが子供を望まないのなら御厨の家が俺の代で絶えてもいいとすら思ってるが。
 彼女以外の女を娶るなんて考えられない。
 だがみやびに重責を負わせたくはない。
「今まで深く考えたことはないかな。あまり接点もなかったし」
 わざとあいまいに答える。
「私はね、子供――苦手かな。ゴメン」
 ゴメン、というのは将来子供を産むつもりはないということなのか、それとも今はまだそういう関係にもなりたくないということなのだろうか。
「謝らなくていいよ」
 隣り合わせで歩く彼女の頭を軽く撫でる。
 子供時代にあまりいい思い出が無いと零していたこともあるし、それは仕方がないだろう。
 実際に彼女が受けた心の傷はわからないが。
「ナギは一人っ子だよね。――だから親御さんからしてみたら、子供を望まない私は……きっと嫌がられるんじゃないかな」
 なんて小声で言う。
 そっちへの懸念か。
「親とか関係ない。どちらにしても俺は君以外と結婚する気はない」
 俺の言葉を受けて、みやびが何かを呟いたが、ちょうど子供たちの笑い声があたりに響き、聞き取れなかった。
「みやび?」
「ん~。別に? ナギがそう言ってくれて嬉しいな、って」
 これは、何かをごまかされたな……。
 俺の探るような視線を受け、みやびはにっこりとほほ笑むと、俺の腕を組んできた。
「ありがとう。――好きだよ、ナギ」
「ああ」
 はぐらかされた気がしないでもないが、まぁいいか。
 性急に進めて彼女の微笑みに影が差すのは嫌だし、俺たちは俺たちのペースでゆっくり進んでいけばいい。
 俺にとって、なによりも大事なのは彼女なのだから。