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@ 40話 それぞれの素質を

ー/ー





 高校生が一番ズルい世代だ。我武者羅は若さのせいにできて、失敗だって守ってくれる環境もあるし、何よりまだ取り返せる。


『大人はズルい、大人は汚い、大人は嘘を吐く』と言える世界に身を置いていることに気付いていない。


 


 高校生は嘘を吐く……責任を逃れたくて言い訳をし、誰かのせいにする。高校生はズルい……大人に成り切らないグレーゾーンを利用して、したいこと(・・・・・)を遂行する。


 高校生は汚い……知識と無知の狭間を生きている……大人の権利をかざして子供の慈悲を請う。


 


 この素晴らしき我儘な(青春)時代に夢を追いかけないで何時それを手繰り寄せることができようか? 高校生はまだまだ夢へのset upの最中。


 


 だから私は望んでバレーの有る人生を選択する。


 


 


 


 やり切ったのなら後悔はない……そんなセリフは青春時代真っ只中の私に言えるはずもない。まだできることが残ってることを知っているから悔しくて、『何故にこの時までにやって来なかったのだろう』、と過去の自分に情けなくなる。


 やり切ったと思った瞬間に前進は止まる。やれることがあるから抗い掻き分けて目指す、その先に全力が待っている、立ち止まってる暇はない。


 きっと青春の時間は私が思っているより短い。


 


 


***


 


 


「そいえば睦美、あんた彼氏発言を試合中ぶっこんでたわね」


「そうです! 思い出しました」


 


「それは私も聞きたいな」


「ひッ!?」「ゔぇ~??」「キャッ」


 


 いつものように全員帰った後の部室。電気を消して扉を開くと同時にその声は襲ってきた。声の主が唯一パイセンだとは識別したはずなのに、誰の声か理解するのは予測と構えがない状態では、聴覚の速さに判断が全く追い付かないことを知る。


 私たちの悲鳴など完全スルーで唯一パイセンは話し出す。これから日は伸びていくのであろうけれども、まだ暗く、汗をかいた後では身体が冷えてしまう季節。


 


「今日も菜々たち3人が最後か……。今度から睦美は私が居残り練に付き合うよ。菜々と八千はサッカー部の練習に行ってほしい」


 


 やはり五感とは予測や構えの無い事柄に対して判断を鈍らせる効用があるようだ。これはセットアップに重要な要素ね、うん。


 反射神経の塊りとも言うべき八千ですら固まったままだ。


 


「どういうこと? ですか?」


「パイセン、サッカー部ってもしかして……」


「菜々たちに言ってなかったことがある……私たちと話した環希先輩の最後の話……」


 


 私の質問に、直球で答えを返すわけなく、パイセンの話は中学校まで遡るようであった。一番星であろうか? 煌めく星が一つ、私の目に留まった。


 


 


***


 


 


「年齢を重ねればそれに比例して知識を得て、経験を積んで、社会を知る。人生を過ごせば過ごした程プライドは高く固く、そして邪魔になっていくモノよ。私たちだけで考えると、唯たちは私たちの後輩であり、菜々ちゃんたちの先輩で真ん中に居る。私たちの代はプライドが高くって、偉そうに威張ってきつく当たったわ、ごめんなさい。あなたたちの素質が怖かったのよね、きっと……。でも唯たちは菜々ちゃんたちにそうしなかった……。例え何かの能力が有っても、人間としての才能がそれと両立してなければ、そんな人に誰も追いていか(憧れ)ない。だからあなたたちは人生で成長したらした分だけ謙虚に生きて欲しい、そう願うわ」


 


 


***


 


 


「環希先輩が亡くなる1週間前のあの日……環希先輩は私たちにそう言ったんだ……」


 


「それ、少しだけ分かります……お姉ちゃん、唯一パイセンを同じミドルブロッカーとして脅威に感じてたと思います。十色先輩とも親友だし」


「十色先輩も~零華先輩に~ライバル心剥き出しだったし~」


 


「多分きっと私たちもあんたたちの素質に怯えていたと思う……。零華(あいつ)がどう思ってたか、は分かんないけど、ね」


「私たちなんて、とても……」


「ポジションかぶってないし」


「唯一先輩~ずっと優しい~」


 


「コートにOHやMBは二人いてもセッターは二人要らない。リベロもオポジットも簡単にこなせるポジションではない。だから私は素質あるあんたたちを頼れる仲間として見れてただけなのよね、きっと」


(* ツーセッターという戦略もあり得ます」


 


 グラウンドの照明が落とされ、唯一パイセンの言葉は暗がりの勢力を強めた感覚に陥いらせた。




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 高校生が一番ズルい世代だ。我武者羅は若さのせいにできて、失敗だって守ってくれる環境もあるし、何よりまだ取り返せる。
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 高校生は嘘を吐く……責任を逃れたくて言い訳をし、誰かのせいにする。高校生はズルい……大人に成り切らないグレーゾーンを利用して、|したいこと《・・・・・》を遂行する。
 高校生は汚い……知識と無知の狭間を生きている……大人の権利をかざして子供の慈悲を請う。
 この素晴らしき|我儘な《青春》時代に夢を追いかけないで何時それを手繰り寄せることができようか? 高校生はまだまだ夢へのset upの最中。
 だから私は望んでバレーの有る人生を選択する。
 やり切ったのなら後悔はない……そんなセリフは青春時代真っ只中の私に言えるはずもない。まだできることが残ってることを知っているから悔しくて、『何故にこの時までにやって来なかったのだろう』、と過去の自分に情けなくなる。
 やり切ったと思った瞬間に前進は止まる。やれることがあるから抗い掻き分けて目指す、その先に全力が待っている、立ち止まってる暇はない。
 きっと青春の時間は私が思っているより短い。
***
「そいえば睦美、あんた彼氏発言を試合中ぶっこんでたわね」
「そうです! 思い出しました」
「それは私も聞きたいな」
「ひッ!?」「ゔぇ~??」「キャッ」
 いつものように全員帰った後の部室。電気を消して扉を開くと同時にその声は襲ってきた。声の主が唯一パイセンだとは識別したはずなのに、誰の声か理解するのは予測と構えがない状態では、聴覚の速さに判断が全く追い付かないことを知る。
 私たちの悲鳴など完全スルーで唯一パイセンは話し出す。これから日は伸びていくのであろうけれども、まだ暗く、汗をかいた後では身体が冷えてしまう季節。
「今日も菜々たち3人が最後か……。今度から睦美は私が居残り練に付き合うよ。菜々と八千はサッカー部の練習に行ってほしい」
 やはり五感とは予測や構えの無い事柄に対して判断を鈍らせる効用があるようだ。これはセットアップに重要な要素ね、うん。
 反射神経の塊りとも言うべき八千ですら固まったままだ。
「どういうこと? ですか?」
「パイセン、サッカー部ってもしかして……」
「菜々たちに言ってなかったことがある……私たちと話した環希先輩の最後の話……」
 私の質問に、直球で答えを返すわけなく、パイセンの話は中学校まで遡るようであった。一番星であろうか? 煌めく星が一つ、私の目に留まった。
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「年齢を重ねればそれに比例して知識を得て、経験を積んで、社会を知る。人生を過ごせば過ごした程プライドは高く固く、そして邪魔になっていくモノよ。私たちだけで考えると、唯たちは私たちの後輩であり、菜々ちゃんたちの先輩で真ん中に居る。私たちの代はプライドが高くって、偉そうに威張ってきつく当たったわ、ごめんなさい。あなたたちの素質が怖かったのよね、きっと……。でも唯たちは菜々ちゃんたちにそうしなかった……。例え何かの能力が有っても、人間としての才能がそれと両立してなければ、そんな人に誰も|追いていか《憧れ》ない。だからあなたたちは人生で成長したらした分だけ謙虚に生きて欲しい、そう願うわ」
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「環希先輩が亡くなる1週間前のあの日……環希先輩は私たちにそう言ったんだ……」
「それ、少しだけ分かります……お姉ちゃん、唯一パイセンを同じミドルブロッカーとして脅威に感じてたと思います。十色先輩とも親友だし」
「十色先輩も~零華先輩に~ライバル心剥き出しだったし~」
「多分きっと私たちもあんたたちの素質に怯えていたと思う……。|零華《あいつ》がどう思ってたか、は分かんないけど、ね」
「私たちなんて、とても……」
「ポジションかぶってないし」
「唯一先輩~ずっと優しい~」
「コートにOHやMBは二人いてもセッターは二人要らない。リベロもオポジットも簡単にこなせるポジションではない。だから私は素質あるあんたたちを頼れる仲間として見れてただけなのよね、きっと」
(* ツーセッターという戦略もあり得ます」
 グラウンドの照明が落とされ、唯一パイセンの言葉は暗がりの勢力を強めた感覚に陥いらせた。