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第3章~第10話 スタンフォード監獄実験⑩~

ー/ー



 7月31日〜再実験開始前日〜

 再実験の開始前日に行われた準備作業を終えて、合宿所には、引き続き小さな模擬刑務所の監房が設置されている。
 前回の実験と同じく囚人役に割り当てられた生徒は、実験開始日に登校するように言われて解散となり、看守役に割り当てられた参加者はその後、オリエンテーションに出席して説明を受けて、制服とサングラスが手渡された。

 その際、ネコ先輩は看守役となった生徒たちに、

「前回の実験で、ワタシは、看守役を務めた生徒たちに、キミたちの任務は、この刑務所の秩序を守り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ、と伝えた。しかし、どうやら、彼ら彼女らは、ワタシの意図を上手く汲み取ってはくれなかった。そこで、今度の実験で看守をと務めてくれるキミたちには、あらためて、お願いしたい。今回は、()()()()()()()()()()()()刑務所の秩序を守ってほしい。また、囚人への対処に困ったら、いつでも、ワタシに相談してくれたまえ。監察官であるワタシの命令は絶対だ」

と説明を行った。

 今回、看守役に選ばれた猿野先輩と鳥居先輩から、

「それは、囚人がオレたちの言うことを聞かなかったら、ふん縛っても良いってことか?」

という質問が上がり、その問いかけに対して、ネコ先輩は、

「それは、その都度、ワタシに指示をあおいでくれて構わない。反抗的な囚人は、『担当抗弁』という秩序を乱す行為として取り締まってくれたまえ」

と返答していた。

 8月1日〜再実験1日目〜

 これまた前回と同じく、囚人役に割り当てられた生徒たちが集合場所として指定された第二理科室に集まると、警察官に扮した生徒たちが一斉に室内になだれ込み、こう告げた。

「ここにいる生徒は、反乱準備罪で拘束することになった! 我々の指示に従い、大人しく、移動の準備をしろ!」

 警察官の役を演じている演劇部のメンバーが、警察官のように、囚人役になった生徒たちを拘束する。
 ネコ先輩は、事前に囚人役の生徒たちに逮捕されることを意図的に知らせていなかったけれど、先日も同じような光景が見られたため、前回ほどの緊迫感はない。

 外国映画でおなじみのミランダ権利の警告、指紋採取、顔写真の撮影などの行為を経て、監獄となる合宿所に移動した囚人たちは、警察官役の演劇部のメンバーから看守に引き渡されて全身検査を受け、新しい生徒証明書(囚人識別番号)と粗末な制服を与えられた。

 囚人役のメンバー総勢9人は、今回も不快で体に合わないスモックとストッキングキャップを着用させられている。看守は囚人を名前ではなく、制服に縫い付けられた番号で呼ぶように指示され、囚人たちの人間性を奪った。その後、囚人たちは看守長に迎えられ、罪の重大さと囚人としての新たな地位を告げられる。刑務所の規則が提示された後、囚人たちは実験初日の残りの時間を三人ずつに割り振られた監房で過ごすことになった。

 ここまでは、前回の実験とまったく同じ流れだと言って良いと思う。 
 そして、メンバーは変わっても、看守役が、交代勤務のために休息とリラクゼーションを行えるリラックスルームに集まったのもまた、前回と同じだった。

 ここにも監視カメラが置かれ、看守たちがどんな会話を行うのかモニタリングできるようになっている。

 ここで、今回の看守役の最初のシフトを務める猿野先輩と鳥居先輩、そして佳衣子が、緊張したような表情で口を開く。
 
「ふう〜。なんか緊張したな〜。囚人役のときは、いきなり第二理科室で警官に捕まったから焦ったけど、今回は今回で、プレッシャーを感じるって言うか」

「あぁ、そうだな。なんか、『監察官の命令は絶対だ』とか言ってたけど、前回の看守もそんな風に言われてたのかな?」

「それは、どうでしょうか? 前の看守のメンバーには、結構、迷いみたいなものがあったような気がするんですよね。自分たちでも、どうして良いかわからない……みたいな?」

「まあ、なんにしても、オレたち看守の役目は、この監獄だか刑務所だかの秩序を守ることだ。そのためには、生意気な囚人を大人しくさせないとな」

 猿野さんが、ニヤリと笑みを浮かべると、鳥居さんは、つられるように苦笑いする。

「おいおい! それを態度の悪い囚人だったおまえが言うのか?」

「でも、実際、どうすれば良いんでしょうか? やっぱり、囚人を管理したり監視したりすることが大事なんでしょうか? たしか、先輩……じゃなくて監察官さんは、この刑務所の秩序を守って、監獄の運営をスムーズに進めろ、と言ってましたよね……? アタシたち看守でルールを決めて、囚人たちに守らせると良いんじゃないですか?」

 そんな佳衣子の提案に、二人の上級生が賛同した。

「そうだな! 『()()()()()()()()()()()()刑務所の秩序を守ってほしい』って、監察官も言ってたし」

「だな! 囚人と看守の立場ってヤツをわからせてやらないと。オレたちは、前の看守たちは違うんだってことを見せてやらないとな!」

 鳥居先輩は、猿野先輩に同調して、気合いを入れているようだ。
 ただ、

「う〜ん、でも、それだと囚人の人から恨みを買いませんか? 一度、看守同士で集まって話し合いません?」

という佳衣子の提案は、

「いや、監察官に許可をもらえば良いだろう?」

と、あっさりと否定された。

 そして、佳衣子たちのシフトが終わり、再実験の2日目になる直前に、合宿所では早くも異様な光景が見られることとなった。


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 7月31日〜再実験開始前日〜
 再実験の開始前日に行われた準備作業を終えて、合宿所には、引き続き小さな模擬刑務所の監房が設置されている。
 前回の実験と同じく囚人役に割り当てられた生徒は、実験開始日に登校するように言われて解散となり、看守役に割り当てられた参加者はその後、オリエンテーションに出席して説明を受けて、制服とサングラスが手渡された。
 その際、ネコ先輩は看守役となった生徒たちに、
「前回の実験で、ワタシは、看守役を務めた生徒たちに、キミたちの任務は、この刑務所の秩序を守り、|監《・》|獄《・》|の《・》|運《・》|営《・》|が《・》|ス《・》|ム《・》|ー《・》|ズ《・》|に《・》|進《・》|む《・》|よ《・》|う《・》|に《・》|注《・》|力《・》|す《・》|る《・》|こ《・》|と《・》だ、と伝えた。しかし、どうやら、彼ら彼女らは、ワタシの意図を上手く汲み取ってはくれなかった。そこで、今度の実験で看守をと務めてくれるキミたちには、あらためて、お願いしたい。今回は、|囚《・》|人《・》|の《・》|横《・》|暴《・》|を《・》|許《・》|す《・》|こ《・》|と《・》|な《・》|く《・》刑務所の秩序を守ってほしい。また、囚人への対処に困ったら、いつでも、ワタシに相談してくれたまえ。監察官であるワタシの命令は絶対だ」
と説明を行った。
 今回、看守役に選ばれた猿野先輩と鳥居先輩から、
「それは、囚人がオレたちの言うことを聞かなかったら、ふん縛っても良いってことか?」
という質問が上がり、その問いかけに対して、ネコ先輩は、
「それは、その都度、ワタシに指示をあおいでくれて構わない。反抗的な囚人は、『担当抗弁』という秩序を乱す行為として取り締まってくれたまえ」
と返答していた。
 8月1日〜再実験1日目〜
 これまた前回と同じく、囚人役に割り当てられた生徒たちが集合場所として指定された第二理科室に集まると、警察官に扮した生徒たちが一斉に室内になだれ込み、こう告げた。
「ここにいる生徒は、反乱準備罪で拘束することになった! 我々の指示に従い、大人しく、移動の準備をしろ!」
 警察官の役を演じている演劇部のメンバーが、警察官のように、囚人役になった生徒たちを拘束する。
 ネコ先輩は、事前に囚人役の生徒たちに逮捕されることを意図的に知らせていなかったけれど、先日も同じような光景が見られたため、前回ほどの緊迫感はない。
 外国映画でおなじみのミランダ権利の警告、指紋採取、顔写真の撮影などの行為を経て、監獄となる合宿所に移動した囚人たちは、警察官役の演劇部のメンバーから看守に引き渡されて全身検査を受け、新しい生徒証明書(囚人識別番号)と粗末な制服を与えられた。
 囚人役のメンバー総勢9人は、今回も不快で体に合わないスモックとストッキングキャップを着用させられている。看守は囚人を名前ではなく、制服に縫い付けられた番号で呼ぶように指示され、囚人たちの人間性を奪った。その後、囚人たちは看守長に迎えられ、罪の重大さと囚人としての新たな地位を告げられる。刑務所の規則が提示された後、囚人たちは実験初日の残りの時間を三人ずつに割り振られた監房で過ごすことになった。
 ここまでは、前回の実験とまったく同じ流れだと言って良いと思う。 
 そして、メンバーは変わっても、看守役が、交代勤務のために休息とリラクゼーションを行えるリラックスルームに集まったのもまた、前回と同じだった。
 ここにも監視カメラが置かれ、看守たちがどんな会話を行うのかモニタリングできるようになっている。
 ここで、今回の看守役の最初のシフトを務める猿野先輩と鳥居先輩、そして佳衣子が、緊張したような表情で口を開く。
「ふう〜。なんか緊張したな〜。囚人役のときは、いきなり第二理科室で警官に捕まったから焦ったけど、今回は今回で、プレッシャーを感じるって言うか」
「あぁ、そうだな。なんか、『監察官の命令は絶対だ』とか言ってたけど、前回の看守もそんな風に言われてたのかな?」
「それは、どうでしょうか? 前の看守のメンバーには、結構、迷いみたいなものがあったような気がするんですよね。自分たちでも、どうして良いかわからない……みたいな?」
「まあ、なんにしても、オレたち看守の役目は、この監獄だか刑務所だかの秩序を守ることだ。そのためには、生意気な囚人を大人しくさせないとな」
 猿野さんが、ニヤリと笑みを浮かべると、鳥居さんは、つられるように苦笑いする。
「おいおい! それを態度の悪い囚人だったおまえが言うのか?」
「でも、実際、どうすれば良いんでしょうか? やっぱり、囚人を管理したり監視したりすることが大事なんでしょうか? たしか、先輩……じゃなくて監察官さんは、この刑務所の秩序を守って、監獄の運営をスムーズに進めろ、と言ってましたよね……? アタシたち看守でルールを決めて、囚人たちに守らせると良いんじゃないですか?」
 そんな佳衣子の提案に、二人の上級生が賛同した。
「そうだな! 『|囚《・》|人《・》|の《・》|横《・》|暴《・》|を《・》|許《・》|す《・》|こ《・》|と《・》|な《・》|く《・》刑務所の秩序を守ってほしい』って、監察官も言ってたし」
「だな! 囚人と看守の立場ってヤツをわからせてやらないと。オレたちは、前の看守たちは違うんだってことを見せてやらないとな!」
 鳥居先輩は、猿野先輩に同調して、気合いを入れているようだ。
 ただ、
「う〜ん、でも、それだと囚人の人から恨みを買いませんか? 一度、看守同士で集まって話し合いません?」
という佳衣子の提案は、
「いや、監察官に許可をもらえば良いだろう?」
と、あっさりと否定された。
 そして、佳衣子たちのシフトが終わり、再実験の2日目になる直前に、合宿所では早くも異様な光景が見られることとなった。