11.視界不良の惨事
ー/ー
雨に降られた。
午後からは雨になると天気予報で知っていたのに、立ち寄った本屋で思いのほか長居してしまったのが原因だ。本降りになってきて、しばらくは止みそうにない。どこかでさらに時間を潰すか、強硬手段でこの雨の中帰るか、選択肢は二つに一つだ。
僕は傘を持ち歩かない主義だ。
傘というのは悪天候の中も、濡れることなく行動できるようにする道具だ。足元まではカバーできないが、上半身部分は不快になることが少ないのが最大の利点だろう。
だがその反面、自由が制限される。片方の手は傘を持つことで拘束されてしまうし、視界も狭まるので咄嗟の判断が遅れがちだ。
通りを眺めると黒やビニールなど味気ない傘に交じって、赤や青など思い思いの傘を差した人たちが歩いている。すれ違うのが非常に邪魔そうで、一人一人の歩みは遅い。
傘を差していない人はそれだけで目立つ。ちょうど2、30m向こうの路地から傘を持たない人がゆらゆらと出てきた。どうも様子がおかしい。覚束ない足取りで、両手を力なく前方へ上げたまま歩いている。
あれはゾンビだ。
通行人は気がついていない様子だ。
尻ポケットに入れていたZガンへ手をかけるが、傘と人の群れが邪魔をして確実に当てられる自信がない。
クソッ。間に合え。
「ゾンビだ!!!」
叫びながら走った。
通行人は怪訝そうにこちらを見るがなりふり構っていられない。
雨に濡れたアスファルトが滑って走りにくい。
ガッッッ。
勢いがついたままゾンビにタックルをかました。
衝撃でメガネが吹っ飛ぶ。
視界がぼやける。
だがゼロ距離だ。この近さなら見えてなくても問題ない。
立ち上がってZガンを構える。
「ちょっと!!!何してくれてんの!!!」
怒鳴り声と共に肩を強く掴まれ、身体が反転した。
声のトーンからして男だろう。こいつも傘を差していない。
「大丈夫ですか?」
誰かが倒れたゾンビに近寄っていく。
「やめろ!そいつはゾンビだ!逃げろ!」
僕の言葉は聞き入れられずゾンビを介抱しようとする人。
「だから言ったんですよ!ちゃんと許可取って、スタッフも確保しないとこういうバカが出るって」
路地から数人が歩いて出てくるが、ぼやけてよく見えない。事態が飲み込めないでいると、誰かが僕のメガネを手渡してくれた。通行人に踏まれたのか、レンズにヒビが入っていた。
「あのねぇ、今、映画の撮影中なの。わかったら早くどっか行ってくれる?」
クリアになった視界で周囲を見ると、合羽を着たスタッフらしき人が数人いて、僕がさっきタックルした人を抱き起しているところだった。
こうやって近くで見てみれば、お粗末なメイクだ。B級映画のゾンビのような、どこか安っぽさが漂うゾンビ役の人がこちらを睨んでいた。
「はい!仕切り直し!路地から出るシーンから撮り直し!」
この雨の中、サングラスをかけたいかにもと言った男が声を上げている。こいつが監督だろうか。
ゲリラ的な撮影だったのか。
僕はまんまと騙されてしまった。
「撮影の邪魔になるから、早くどいてくれる?」
うんざりした顔でスタッフらしき若い男に再度言われた。
惨めな気持ちでいっぱいになって、トボトボと帰路についた。
メガネはだめだ。コンタクトを検討するか。
その夜、僕は風邪を引いた。
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僕は傘を持ち歩かない主義だ。
傘というのは悪天候の中も、濡れることなく行動できるようにする道具だ。足元まではカバーできないが、上半身部分は不快になることが少ないのが最大の利点だろう。
だがその反面、自由が制限される。片方の手は傘を持つことで拘束されてしまうし、視界も狭まるので咄嗟の判断が遅れがちだ。
通りを眺めると黒やビニールなど味気ない傘に交じって、赤や青など思い思いの傘を差した人たちが歩いている。すれ違うのが非常に邪魔そうで、一人一人の歩みは遅い。
傘を差していない人はそれだけで目立つ。ちょうど2、30m向こうの路地から傘を持たない人がゆらゆらと出てきた。どうも様子がおかしい。覚束ない足取りで、両手を力なく前方へ上げたまま歩いている。
あれはゾンビだ。
通行人は気がついていない様子だ。
尻ポケットに入れていたZガンへ手をかけるが、傘と人の群れが邪魔をして確実に当てられる自信がない。
クソッ。間に合え。
「ゾンビだ!!!」
叫びながら走った。
通行人は怪訝そうにこちらを見るがなりふり構っていられない。
雨に濡れたアスファルトが滑って走りにくい。
ガッッッ。
勢いがついたままゾンビにタックルをかました。
衝撃でメガネが吹っ飛ぶ。
視界がぼやける。
だがゼロ距離だ。この近さなら見えてなくても問題ない。
立ち上がってZガンを構える。
「ちょっと!!!何してくれてんの!!!」
怒鳴り声と共に肩を強く掴まれ、身体が反転した。
声のトーンからして男だろう。こいつも傘を差していない。
「大丈夫ですか?」
誰かが倒れたゾンビに近寄っていく。
「やめろ!そいつはゾンビだ!逃げろ!」
僕の言葉は聞き入れられずゾンビを介抱しようとする人。
「だから言ったんですよ!ちゃんと許可取って、スタッフも確保しないとこういうバカが出るって」
路地から数人が歩いて出てくるが、ぼやけてよく見えない。事態が飲み込めないでいると、誰かが僕のメガネを手渡してくれた。通行人に踏まれたのか、レンズにヒビが入っていた。
「あのねぇ、今、映画の撮影中なの。わかったら早くどっか行ってくれる?」
クリアになった視界で周囲を見ると、合羽を着たスタッフらしき人が数人いて、僕がさっきタックルした人を抱き起しているところだった。
こうやって近くで見てみれば、お粗末なメイクだ。B級映画のゾンビのような、どこか安っぽさが漂うゾンビ役の人がこちらを睨んでいた。
「はい!仕切り直し!路地から出るシーンから撮り直し!」
この雨の中、サングラスをかけたいかにもと言った男が声を上げている。こいつが監督だろうか。
ゲリラ的な撮影だったのか。
僕はまんまと騙されてしまった。
「撮影の邪魔になるから、早くどいてくれる?」
うんざりした顔でスタッフらしき若い男に再度言われた。
惨めな気持ちでいっぱいになって、トボトボと帰路についた。
メガネはだめだ。コンタクトを検討するか。
その夜、僕は風邪を引いた。