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5.商業施設で過ごす(前編)

ー/ー



 複合商業施設に来た。

 いわゆるショッピングモールと呼ばれるところだ。特に用事があるわけじゃないけど、時間を潰すのには手頃なのでフラッと来たりする。

 それになんといっても、ここは数多のパニックホラー映画や漫画で舞台になることが多い聖地である。どうやって逃げるか、食料や武器を調達するか、標的を倒すか、隠れるか、手段は様々で、付随する人間の感情表現や関係性に至るまでバリエーション豊かに描かれることが多い。

 今日訪れたここは、もう何度も来ているから頭に入っているが、最初はまずマップを覚えるようにしている。どこに何を売っている店があるかはもちろん、どこに階段やエスカレーターがあって、どこから外に出られるか、出た先はどこになるか、そういうことを全部覚える。

 各階適当に移動しながら、位置関係や死角になる場所も確認していく。考えられるゾンビの侵入経路を思い描きながら、最短でここを脱出できるルートと必要物資を最短で揃えられるルートを脳内でシミュレーションする。

 香港映画のジャッキー・チェンみたいに、階段やエスカレーターの手すりを滑り落ちたり、空間照明や季節の飾り付けにぶら下がって階下に降りるのは物凄く憧れる。が、僕にそんな身体能力がないのが心底悔しい。受け身も取れずに無様に着地するか、どこかをケガして動けなくなるに違いない。そんなアクロバティックでかっこいいアクションは、本当のほんとうにいざという時、捨て身にならなくちゃいけない時の最終手段にしておく。

 パンデミックが起きた時はだいたいが世界は非常事態になっていて、長期戦の生存戦略を考えなくちゃいけない。だから僕はまず必要な物資を運ぶための、丈夫なリュックと小さめの使いやすいポーチを取りに行く。次に食料とサバイバル用品と医薬品。自分の体力や筋力も計算に入れながら、速やかに行動できる最大の量を調達したら、あとは逃げるだけだ。

 外に出て近くにある車でも運転して逃げられたらいいのだけど、ここ数年のスマートキータイプの車の普及で、その選択肢はかなり難しくなった。アメリカ映画みたいに、運転席の下側の配線を雑にいじってエンジンをかけたり、カギを差し込むところにマイナスドライバーを突っ込んでエンジンをかけられた古き良き時代は、残念ながら終わってしまった。

 貨物用のトラックやバイクも選択肢にあるにはあるが、僕は免許を持っていない。よく感覚で運転してしまう映画や漫画が多いが、あれは大きな間違いだと声を大にして言いたい。AT車ならまだしも、MT車を感覚で運転するのは不可能に近いだろう。ゲーセンで鍛えた運転技術と実際に動かしてみるのは雲泥の差のはずだ。

 バイクだって機動性は高いが、野外に露出していることと、ゾンビに接触した時の車体と操縦者のダメージを考えると、運転に自信がない限りはあまり選びたくはない選択肢だ。

 そうなると、ショッピングモール脱出後の選択肢は所有している移動手段がない限り、自分の足が一番無難に思える。


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 複合商業施設に来た。
 いわゆるショッピングモールと呼ばれるところだ。特に用事があるわけじゃないけど、時間を潰すのには手頃なのでフラッと来たりする。
 それになんといっても、ここは数多のパニックホラー映画や漫画で舞台になることが多い聖地である。どうやって逃げるか、食料や武器を調達するか、標的を倒すか、隠れるか、手段は様々で、付随する人間の感情表現や関係性に至るまでバリエーション豊かに描かれることが多い。
 今日訪れたここは、もう何度も来ているから頭に入っているが、最初はまずマップを覚えるようにしている。どこに何を売っている店があるかはもちろん、どこに階段やエスカレーターがあって、どこから外に出られるか、出た先はどこになるか、そういうことを全部覚える。
 各階適当に移動しながら、位置関係や死角になる場所も確認していく。考えられるゾンビの侵入経路を思い描きながら、最短でここを脱出できるルートと必要物資を最短で揃えられるルートを脳内でシミュレーションする。
 香港映画のジャッキー・チェンみたいに、階段やエスカレーターの手すりを滑り落ちたり、空間照明や季節の飾り付けにぶら下がって階下に降りるのは物凄く憧れる。が、僕にそんな身体能力がないのが心底悔しい。受け身も取れずに無様に着地するか、どこかをケガして動けなくなるに違いない。そんなアクロバティックでかっこいいアクションは、本当のほんとうにいざという時、捨て身にならなくちゃいけない時の最終手段にしておく。
 パンデミックが起きた時はだいたいが世界は非常事態になっていて、長期戦の生存戦略を考えなくちゃいけない。だから僕はまず必要な物資を運ぶための、丈夫なリュックと小さめの使いやすいポーチを取りに行く。次に食料とサバイバル用品と医薬品。自分の体力や筋力も計算に入れながら、速やかに行動できる最大の量を調達したら、あとは逃げるだけだ。
 外に出て近くにある車でも運転して逃げられたらいいのだけど、ここ数年のスマートキータイプの車の普及で、その選択肢はかなり難しくなった。アメリカ映画みたいに、運転席の下側の配線を雑にいじってエンジンをかけたり、カギを差し込むところにマイナスドライバーを突っ込んでエンジンをかけられた古き良き時代は、残念ながら終わってしまった。
 貨物用のトラックやバイクも選択肢にあるにはあるが、僕は免許を持っていない。よく感覚で運転してしまう映画や漫画が多いが、あれは大きな間違いだと声を大にして言いたい。AT車ならまだしも、MT車を感覚で運転するのは不可能に近いだろう。ゲーセンで鍛えた運転技術と実際に動かしてみるのは雲泥の差のはずだ。
 バイクだって機動性は高いが、野外に露出していることと、ゾンビに接触した時の車体と操縦者のダメージを考えると、運転に自信がない限りはあまり選びたくはない選択肢だ。
 そうなると、ショッピングモール脱出後の選択肢は所有している移動手段がない限り、自分の足が一番無難に思える。