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11話 迷子

ー/ー




 エンジェリアは嫌な予感がする道を避け歩いていると、人が多い大通りへ出た。

 ちょうど昼時だからだろう。人気そうな食事店には行列ができている。

 エンジェリアは行列を興味津々に眺めながら歩いていると何もないところで躓いて転んだ。

「ふきゃ⁉︎ これで十回目なの」

 ここまで来るまでにエンジェリアは九回転んでいる。これでちょうど十回目。
 一時間も歩いていないのに多すぎると疑問に思うエンジェリアだが、別の疑問でかき消された。

「……ここどこ? 」

 目の前には大きなレストランがある。エンジェリアに迷子という自覚はない。

「お嬢さん、お昼はまだカイ? 」

 エンジェリアはシェフの格好をした体格の良い男性に声をかけられた。

「……まだなの」

「なら、ワタシの店でお昼にシナイ? 」

 エンジェリアは幾らか金を渡されているため、ゼノン達はもう昼食を済ませているかもしれない。エンジェリアを探してまだかもしれない。

 この後連絡魔法具を買う予定でまだ持っていないエンジェリアは、ゼノン達と連絡を取る手段がない。

 エンジェリアは少し考えてから

「いきましゅ」

 と答えた。

 シェフの格好をした男性の店は目の前の店で、エンジェリアは中へ入った。

      **********

 広く、豪華な装飾が施された店内。明らかに高級レストランのような雰囲気にエンジェリアは萎縮している。
 ちらっと店内の様子を見ると、客はエンジェリアを入れて二人だけだ。

「あの、やっぱやめときましゅ。お金そんなに持ってないから」

「ワタシから頼んダんだからお金要らないヨ。困ってイルみたいだったカラ。今日開店でお客少ないカラ遠慮しなイデ。好きな所座っテ」

「ありがとうございます」

 エンジェリアは近くにあった席に座った。

 エンジェリアが座るとシェフの格好をした男性が奥へ行き水を持ってきた。

「これ、この店の自慢の水。料理が出る前に飲むのがオススメ」

 見た目は透明で普通の水だ。

「メニューこれ。決まったら呼ンデ」

 シェフの格好をした男性が奥へ戻って行った。エンジェリアは優しさを噛みしめながら一人でメニューを眺めている。

 だが、優柔不断なのか中々決まらない。一旦メニューを見るのをやめてエンジェリアはコップを両手で持った。

 近くでじっくり見ても普通の水にしか見えない。エンジェリアはコップを傾けて水を飲んだ。

 味も普通の水と変わらない。どこまでも普通の水だ。

「ふぁぁ」

 エンジェリアは水を飲む直前までは眠気などなかったが、水を飲んだ直後から突然激しい眠気に襲われる。

「……なんでこんなとこに」

 エンジェリア以外にいたもう一人の客がエンジェリアの側にきた。顔を隠しているが、初めて会ったあの日と声と匂いが同じだ。

「……フォル? 」

 エンジェリアは確認する間もなく、重い瞼を閉じた。

      **********

 顔を隠していたが、エンジェリアはフィルの名を呼んだ。一度管理者の格好で会っているからすぐに気づいたのだろう。

「……計画には支障ない、か」

 フォルは右手でエンジェリアの頬に触れた。手袋越しに伝わる体温は少し高い。エンジェリアであれば正常の範囲内だ。

 エンジェリアが飲んだ水には大量の睡眠薬が入れられている。それに気づかずに一気に飲んで眠っている。

「何故⁉︎ 何故まだ起きてイル⁉︎ あの水を飲んでイルノニ⁉︎ 」

 エンジェリアが寝たのを見計らったかのようにシェフの格好をした男性が客席へ出てきた。

 フォルがいた席の水も無くなっている。仕事前の確認時間に睡眠薬が入っていると知っていながら飲んでいた。

「……睡眠薬を盛り、眠らせて奴隷商に売る。その過程に禁止指定魔法を使ったのは失敗だったな。それがなければ管理者に目をつけられる事はなかったというのに」

 フォルは淡々と告げた。

「管理者っ⁉︎ 見つかってしまったなら仕方ナイ。管理者だろうとなんだろうと消すダケダ! 」

 シェフの格好をした男性が青龍刀のような形の武器を握る。

 エンジェリアが怪我しないようにフォルはエンジェリアに防御魔法をかけた。

「シェフは表向きの姿。ワタシの真の姿は奴隷商の護衛を務める傭兵ダ! キサマもあの魔物共のように刃のサビにしてくレル! 」

 シェフの格好をした男性がフォルに襲いかかる。

「甘く見られたものだな。この程度で太刀打ちできると思われていたなんて」

 シェフの格好をした男性に黒色の花の茎が絡まる。

「……今回の仕事はギュレーヴォ様からだったか」

「っ⁉︎ 何故、そんな大物が動いてイル⁉︎ あり得ナイ! 」

 ギュレーヴォはヴァリジェーシル本家の三男。普段は本家にいて表舞台には立たないが、重要度が高い仕事以外も引き受けている。それを知る人物は少数で、それを教える必要はない。

「禁止指定魔法の使用は重要案件として本家が主となって取り締まっている。本家の神獣直の命令は珍しくなんてない。そんな事すら知らずに安全だとでも思っていたのか。彼がくるまでせいぜい良い夢でも見ている事だな」

 フォルはそう言って、悪夢を見せる花をシェフの格好をした男性の側に創った。

 実際は、禁止指定魔法に関しては対応できるだけの実力を持つ黄金蝶が主となっている。本家の神獣は全員黄金蝶のため全てが嘘というわけではないだろう。

「ふみゅぅ……すゃぁ……すゃぁ」

 フォルは眠っているエンジェリアを抱き上げてレストランを出た。

      **********

 眠っているエンジェリアを今すぐにゼノンと会わせる事はできない。エンジェリアとの約束で前回の記憶を戻させる必要がある。

 ゼノンがいればエンジェリアは記憶を取り戻せない。フォルはゼノンに見つからない場所として魔の森を選んだ。

 魔の森と括られる場所は魔物が大量に生息するだけでなく、一部の森では気候も荒い。

「……」

 木々で灯りが遮られて薄暗い。見える範囲にはいないが近くには何匹も魔物がいる。

 フォル一人であれば放っておくが、魔物に狙われやすいエンジェリアがいるため、フォルは浄化の花で魔物を近づけば浄化されるようにする。

「フォル……エレの」

 エンジェリアが寝言を言いながら身じろぎする。

「うん。そうだよ。僕はずっと君の……」

 それ以上を言えば今以上に迷う。今でさえ、あの魔法の影響もあり迷う始めているのに。

 それに気づき、フォルは言葉を止めた。

 本来はエンジェリア一人でいる間に人攫いにあいその間に記憶を取り戻す予定だった。それが、エンジェリアの直感が働きフォルのいる場所へと導いたのだろう。

 その導きで後もう一歩で奴隷にされていたという事を知らないエンジェリアは嬉しそうに眠っている。

「……ちゅき……ちゅく……の」

 エンジェリアは今、前回の記憶を夢で見ている所だろう。好き、エレが救うの。途切れ途切れの寝言だが、聞き取った言葉だけでフォルはエンジェリアの想いを理解した。

「……エレ、僕のとこへこないでよ。僕は、君らが御巫の運命から逃れられて生きられるなら、どっちでも良いから」

 エンジェリアとの約束もあったが、フォルにはそっちの方が大きかった。悲しげな瞳をエンジェリアに向けてフォルはエンジェリアを守るための加護を与える。

 場合によってはこれで最後になるだろうから、できるだけ長く持つように調整する。

「……そろそろか」

 ゼノンがタイミング良くエンジェリアを見つけられるようにしなければ予期せぬ人攫いにでも会うだろう。

 フォルはエンジェリアの様子を見つつ、転移魔法を使いノキェットの王都へ戻った。

 ノキェットの王都へ戻ると、フォルはゼノンが見つけやすく、人通りが多い安全性の高い場所のベンチを選びエンジェリアを座らせた。風邪を引かないようにと着ていたケープをエンジェリアに羽織らせておく。

「……ごめん」

 これで最後だからとフォルはエンジェリアの頬に口付けをする。そして、計画実行へと移るため転移魔法を使った。


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 エンジェリアは嫌な予感がする道を避け歩いていると、人が多い大通りへ出た。
 ちょうど昼時だからだろう。人気そうな食事店には行列ができている。
 エンジェリアは行列を興味津々に眺めながら歩いていると何もないところで躓いて転んだ。
「ふきゃ⁉︎ これで十回目なの」
 ここまで来るまでにエンジェリアは九回転んでいる。これでちょうど十回目。
 一時間も歩いていないのに多すぎると疑問に思うエンジェリアだが、別の疑問でかき消された。
「……ここどこ? 」
 目の前には大きなレストランがある。エンジェリアに迷子という自覚はない。
「お嬢さん、お昼はまだカイ? 」
 エンジェリアはシェフの格好をした体格の良い男性に声をかけられた。
「……まだなの」
「なら、ワタシの店でお昼にシナイ? 」
 エンジェリアは幾らか金を渡されているため、ゼノン達はもう昼食を済ませているかもしれない。エンジェリアを探してまだかもしれない。
 この後連絡魔法具を買う予定でまだ持っていないエンジェリアは、ゼノン達と連絡を取る手段がない。
 エンジェリアは少し考えてから
「いきましゅ」
 と答えた。
 シェフの格好をした男性の店は目の前の店で、エンジェリアは中へ入った。
      **********
 広く、豪華な装飾が施された店内。明らかに高級レストランのような雰囲気にエンジェリアは萎縮している。
 ちらっと店内の様子を見ると、客はエンジェリアを入れて二人だけだ。
「あの、やっぱやめときましゅ。お金そんなに持ってないから」
「ワタシから頼んダんだからお金要らないヨ。困ってイルみたいだったカラ。今日開店でお客少ないカラ遠慮しなイデ。好きな所座っテ」
「ありがとうございます」
 エンジェリアは近くにあった席に座った。
 エンジェリアが座るとシェフの格好をした男性が奥へ行き水を持ってきた。
「これ、この店の自慢の水。料理が出る前に飲むのがオススメ」
 見た目は透明で普通の水だ。
「メニューこれ。決まったら呼ンデ」
 シェフの格好をした男性が奥へ戻って行った。エンジェリアは優しさを噛みしめながら一人でメニューを眺めている。
 だが、優柔不断なのか中々決まらない。一旦メニューを見るのをやめてエンジェリアはコップを両手で持った。
 近くでじっくり見ても普通の水にしか見えない。エンジェリアはコップを傾けて水を飲んだ。
 味も普通の水と変わらない。どこまでも普通の水だ。
「ふぁぁ」
 エンジェリアは水を飲む直前までは眠気などなかったが、水を飲んだ直後から突然激しい眠気に襲われる。
「……なんでこんなとこに」
 エンジェリア以外にいたもう一人の客がエンジェリアの側にきた。顔を隠しているが、初めて会ったあの日と声と匂いが同じだ。
「……フォル? 」
 エンジェリアは確認する間もなく、重い瞼を閉じた。
      **********
 顔を隠していたが、エンジェリアはフィルの名を呼んだ。一度管理者の格好で会っているからすぐに気づいたのだろう。
「……計画には支障ない、か」
 フォルは右手でエンジェリアの頬に触れた。手袋越しに伝わる体温は少し高い。エンジェリアであれば正常の範囲内だ。
 エンジェリアが飲んだ水には大量の睡眠薬が入れられている。それに気づかずに一気に飲んで眠っている。
「何故⁉︎ 何故まだ起きてイル⁉︎ あの水を飲んでイルノニ⁉︎ 」
 エンジェリアが寝たのを見計らったかのようにシェフの格好をした男性が客席へ出てきた。
 フォルがいた席の水も無くなっている。仕事前の確認時間に睡眠薬が入っていると知っていながら飲んでいた。
「……睡眠薬を盛り、眠らせて奴隷商に売る。その過程に禁止指定魔法を使ったのは失敗だったな。それがなければ管理者に目をつけられる事はなかったというのに」
 フォルは淡々と告げた。
「管理者っ⁉︎ 見つかってしまったなら仕方ナイ。管理者だろうとなんだろうと消すダケダ! 」
 シェフの格好をした男性が青龍刀のような形の武器を握る。
 エンジェリアが怪我しないようにフォルはエンジェリアに防御魔法をかけた。
「シェフは表向きの姿。ワタシの真の姿は奴隷商の護衛を務める傭兵ダ! キサマもあの魔物共のように刃のサビにしてくレル! 」
 シェフの格好をした男性がフォルに襲いかかる。
「甘く見られたものだな。この程度で太刀打ちできると思われていたなんて」
 シェフの格好をした男性に黒色の花の茎が絡まる。
「……今回の仕事はギュレーヴォ様からだったか」
「っ⁉︎ 何故、そんな大物が動いてイル⁉︎ あり得ナイ! 」
 ギュレーヴォはヴァリジェーシル本家の三男。普段は本家にいて表舞台には立たないが、重要度が高い仕事以外も引き受けている。それを知る人物は少数で、それを教える必要はない。
「禁止指定魔法の使用は重要案件として本家が主となって取り締まっている。本家の神獣直の命令は珍しくなんてない。そんな事すら知らずに安全だとでも思っていたのか。彼がくるまでせいぜい良い夢でも見ている事だな」
 フォルはそう言って、悪夢を見せる花をシェフの格好をした男性の側に創った。
 実際は、禁止指定魔法に関しては対応できるだけの実力を持つ黄金蝶が主となっている。本家の神獣は全員黄金蝶のため全てが嘘というわけではないだろう。
「ふみゅぅ……すゃぁ……すゃぁ」
 フォルは眠っているエンジェリアを抱き上げてレストランを出た。
      **********
 眠っているエンジェリアを今すぐにゼノンと会わせる事はできない。エンジェリアとの約束で前回の記憶を戻させる必要がある。
 ゼノンがいればエンジェリアは記憶を取り戻せない。フォルはゼノンに見つからない場所として魔の森を選んだ。
 魔の森と括られる場所は魔物が大量に生息するだけでなく、一部の森では気候も荒い。
「……」
 木々で灯りが遮られて薄暗い。見える範囲にはいないが近くには何匹も魔物がいる。
 フォル一人であれば放っておくが、魔物に狙われやすいエンジェリアがいるため、フォルは浄化の花で魔物を近づけば浄化されるようにする。
「フォル……エレの」
 エンジェリアが寝言を言いながら身じろぎする。
「うん。そうだよ。僕はずっと君の……」
 それ以上を言えば今以上に迷う。今でさえ、あの魔法の影響もあり迷う始めているのに。
 それに気づき、フォルは言葉を止めた。
 本来はエンジェリア一人でいる間に人攫いにあいその間に記憶を取り戻す予定だった。それが、エンジェリアの直感が働きフォルのいる場所へと導いたのだろう。
 その導きで後もう一歩で奴隷にされていたという事を知らないエンジェリアは嬉しそうに眠っている。
「……ちゅき……ちゅく……の」
 エンジェリアは今、前回の記憶を夢で見ている所だろう。好き、エレが救うの。途切れ途切れの寝言だが、聞き取った言葉だけでフォルはエンジェリアの想いを理解した。
「……エレ、僕のとこへこないでよ。僕は、君らが御巫の運命から逃れられて生きられるなら、どっちでも良いから」
 エンジェリアとの約束もあったが、フォルにはそっちの方が大きかった。悲しげな瞳をエンジェリアに向けてフォルはエンジェリアを守るための加護を与える。
 場合によってはこれで最後になるだろうから、できるだけ長く持つように調整する。
「……そろそろか」
 ゼノンがタイミング良くエンジェリアを見つけられるようにしなければ予期せぬ人攫いにでも会うだろう。
 フォルはエンジェリアの様子を見つつ、転移魔法を使いノキェットの王都へ戻った。
 ノキェットの王都へ戻ると、フォルはゼノンが見つけやすく、人通りが多い安全性の高い場所のベンチを選びエンジェリアを座らせた。風邪を引かないようにと着ていたケープをエンジェリアに羽織らせておく。
「……ごめん」
 これで最後だからとフォルはエンジェリアの頬に口付けをする。そして、計画実行へと移るため転移魔法を使った。