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6.なんちゃってエプロン

ー/ー



 店休日に部屋に居たら、スマホにシノさんから呼び出しのメールが着信した。
 外への呼び出しではなく、5階のペントハウスに来いと書いてある。
 なんだろうと思いつつ顔を出すと、シノさんと敬一クン、それに白砂サンとホクトが、応接セット(ふう)のグリーンのソファの所に居た。

「レン、コレがセイちゃんの提案するユニフォームだって」

 いつもはコーヒーテーブルが置いてある所を空けて、ホクトが白いシャツに黒いカマーベストと黒のロングエプロンという、ギャルソン・スタイルで立っていた。
 窓側のソファにシノさんと敬一クンが、手前側で俺に背中を向ける位置に白砂サンが座っている。

「うっわ、すごくカッコいいね。だけどそれ、一揃え用意すると高くない? 着替えんのも大変そうだし……」
「多聞さんも、試してみますか?」

 スタイリッシュなギャルソン姿が似合い過ぎのホクトが、エプロンの腰の留め具を外す。
 そしてエプロンと一緒に、カマーベストをスポッと首から外した。

「えっ、なにそれ? 全部エプロンなの?」
「面白いよなぁ。見掛けは全然ちゃうのに、オマエがいつも使ってるエプロンと同じなんだもんなぁ」
「このエプロンに、ドレスシャツと黒のパンツと靴も揃えたいところだが。更衣室が無いので、そこまでは無理だろう」
「白砂サンと一緒に合羽橋で見てきた服なら、フルセットで人数分揃えても予算範囲です」
「それなら俺、自分のマンションの部屋で着替えて来ますよ」
「だがいくら近所といっても、荒天の日もある。パンツの裾や靴が、汚れてしまっても困る」
「え〜、せっかくじゃもの、全身コーデでバッチリ決めよーよ! 1階のレコード部屋とか、奥の空いてる部屋かなんかを更衣室にすりゃ、問題カイケツじゃろ」
「マエストロがそう言ってくれるなら、ぜひお願いしたい」
「うっひっひ、エビちゃんとアマホクとケイちゃんがコレ着て店に出たら、またまた女性客が増えるナ〜!」
「制服を揃えただけで、そんなに集客が上がるでしょうか?」
「ケイちゃんは、本当にピュアじゃのう」

 ウケケと笑うシノさんを見て、敬一クンは訝しそうに首を傾げている。
 手渡されたベスト付きエプロンを俺が試着しようとしたところで、にゃあと猫の鳴き声がした。

「なんだよ、レン。なにをキョロキョロしてんの?」
「今、猫の鳴き声がしなかった?」
「猫の鳴き声くらいするよ。そこにいるんじゃから」

 シノさんが指差す(ほう)をよく見たら、ソファに座った白砂サンの膝の上に、まんじゅうみたいにまんまるな顔をした、小さな猫が二匹居た。

「どうしたのそれ?」
「合羽橋からの帰りに、拾ったのだ」

 そこで「ちちち」とか言いながら猫を撫でている白砂サンは、よほどの猫好きのようだ。

「白砂サンには申しわけないですが、俺はこのビルで動物を飼うことには、賛成出来ません」
「どうして?」
「飲食店としての責任があると思うので。白砂さんがきちんと飼育していても、アレルギー体質の客などに対処するのは難しいです。本当は、連れ帰るのもどうかと思ったんですが、あのままには出来なかったから」
「あんな蓋を閉めたダンボールに(ほう)っておいたら、死んでしまうからな」
「うええ? イマドキそこまで古典的な方法(ほうほう)で、猫を捨てるヒトがいるんだ……」

 むしろそのことの(ほう)に俺は驚いた。

「でぃも、セイちゃんはそれでええの? 猫、カワイイんじゃろ?」
「可愛いは可愛いが、敬一の言っていることは正論だ。厨房の責任者である私が、部屋で猫を飼うのは、良いことでは無い」
「んじゃ、手放すとして。仔猫の里親大募集って、店に貼り紙でもするかいな?」
「きちんと面倒を見てくれる相手じゃなければ、譲りたくない」
「猫なら南に言えば、喜んで引き取ると思いますけど」
「南さんは、猫を欲しがってるのか?」
「欲しがってるなんてもんじゃない、アイツは猫バカだ。二世帯型を分離して住んでるから、あっちの部屋がどうなってるのか見てないけど。朝から晩までドタバタ音がしてるから、多頭飼いしてると思う」
「そりゃえーわ。アマミーんちなら近所じゃから、セイちゃんも休みの日に猫を見に行けるじゃん」
「しかし、ミナミに譲渡した猫を見に行くのは、向こうが迷惑ではないのかね?」
「その辺りの細けぇことは、本人と相談すればいーんじゃね?」
「そうだな。ここでそれを言い立てたところで、解決はしない」
「おおっ! 思ったよりカッコいいな!」

 猫への興味がみじんこも無いらしいシノさんは、着替えた俺に向かって歓声を上げた。


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 店休日に部屋に居たら、スマホにシノさんから呼び出しのメールが着信した。
 外への呼び出しではなく、5階のペントハウスに来いと書いてある。
 なんだろうと思いつつ顔を出すと、シノさんと敬一クン、それに白砂サンとホクトが、応接セット|風《ふう》のグリーンのソファの所に居た。
「レン、コレがセイちゃんの提案するユニフォームだって」
 いつもはコーヒーテーブルが置いてある所を空けて、ホクトが白いシャツに黒いカマーベストと黒のロングエプロンという、ギャルソン・スタイルで立っていた。
 窓側のソファにシノさんと敬一クンが、手前側で俺に背中を向ける位置に白砂サンが座っている。
「うっわ、すごくカッコいいね。だけどそれ、一揃え用意すると高くない? 着替えんのも大変そうだし……」
「多聞さんも、試してみますか?」
 スタイリッシュなギャルソン姿が似合い過ぎのホクトが、エプロンの腰の留め具を外す。
 そしてエプロンと一緒に、カマーベストをスポッと首から外した。
「えっ、なにそれ? 全部エプロンなの?」
「面白いよなぁ。見掛けは全然ちゃうのに、オマエがいつも使ってるエプロンと同じなんだもんなぁ」
「このエプロンに、ドレスシャツと黒のパンツと靴も揃えたいところだが。更衣室が無いので、そこまでは無理だろう」
「白砂サンと一緒に合羽橋で見てきた服なら、フルセットで人数分揃えても予算範囲です」
「それなら俺、自分のマンションの部屋で着替えて来ますよ」
「だがいくら近所といっても、荒天の日もある。パンツの裾や靴が、汚れてしまっても困る」
「え〜、せっかくじゃもの、全身コーデでバッチリ決めよーよ! 1階のレコード部屋とか、奥の空いてる部屋かなんかを更衣室にすりゃ、問題カイケツじゃろ」
「マエストロがそう言ってくれるなら、ぜひお願いしたい」
「うっひっひ、エビちゃんとアマホクとケイちゃんがコレ着て店に出たら、またまた女性客が増えるナ〜!」
「制服を揃えただけで、そんなに集客が上がるでしょうか?」
「ケイちゃんは、本当にピュアじゃのう」
 ウケケと笑うシノさんを見て、敬一クンは訝しそうに首を傾げている。
 手渡されたベスト付きエプロンを俺が試着しようとしたところで、にゃあと猫の鳴き声がした。
「なんだよ、レン。なにをキョロキョロしてんの?」
「今、猫の鳴き声がしなかった?」
「猫の鳴き声くらいするよ。そこにいるんじゃから」
 シノさんが指差す|方《ほう》をよく見たら、ソファに座った白砂サンの膝の上に、まんじゅうみたいにまんまるな顔をした、小さな猫が二匹居た。
「どうしたのそれ?」
「合羽橋からの帰りに、拾ったのだ」
 そこで「ちちち」とか言いながら猫を撫でている白砂サンは、よほどの猫好きのようだ。
「白砂サンには申しわけないですが、俺はこのビルで動物を飼うことには、賛成出来ません」
「どうして?」
「飲食店としての責任があると思うので。白砂さんがきちんと飼育していても、アレルギー体質の客などに対処するのは難しいです。本当は、連れ帰るのもどうかと思ったんですが、あのままには出来なかったから」
「あんな蓋を閉めたダンボールに|放《ほう》っておいたら、死んでしまうからな」
「うええ? イマドキそこまで古典的な|方法《ほうほう》で、猫を捨てるヒトがいるんだ……」
 むしろそのことの|方《ほう》に俺は驚いた。
「でぃも、セイちゃんはそれでええの? 猫、カワイイんじゃろ?」
「可愛いは可愛いが、敬一の言っていることは正論だ。厨房の責任者である私が、部屋で猫を飼うのは、良いことでは無い」
「んじゃ、手放すとして。仔猫の里親大募集って、店に貼り紙でもするかいな?」
「きちんと面倒を見てくれる相手じゃなければ、譲りたくない」
「猫なら南に言えば、喜んで引き取ると思いますけど」
「南さんは、猫を欲しがってるのか?」
「欲しがってるなんてもんじゃない、アイツは猫バカだ。二世帯型を分離して住んでるから、あっちの部屋がどうなってるのか見てないけど。朝から晩までドタバタ音がしてるから、多頭飼いしてると思う」
「そりゃえーわ。アマミーんちなら近所じゃから、セイちゃんも休みの日に猫を見に行けるじゃん」
「しかし、ミナミに譲渡した猫を見に行くのは、向こうが迷惑ではないのかね?」
「その辺りの細けぇことは、本人と相談すればいーんじゃね?」
「そうだな。ここでそれを言い立てたところで、解決はしない」
「おおっ! 思ったよりカッコいいな!」
 猫への興味がみじんこも無いらしいシノさんは、着替えた俺に向かって歓声を上げた。