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第二部・第3章〜カワイくてゴメン〜⑭

ー/ー



〜佐倉桃華の見解〜

「なんでもわかる訳じゃないですよ……センパイのこと、だけです」

 中学生の頃から、ワタシを見守ってくれていたことへの感謝と、そのセンパイの気持ちが年上の女子に向いている淋しさ、そして、

(年上の男子は、こういう言い回しに弱いだろう)

という若干の期待を込めて、彼に自分の想いを伝える。

 ワタシが言い終わると、くろセンパイは、再び「そっか……」と言って、少しだけ表情を崩した。

 ただ、

「二人の女子に想いを寄せるなんて……浮気者」

と、思い切り低く作った声で、つぶやくと、「うっ……」と、声を上げて、センパイは気まずそうに顔をそらす。

 その仕草に、こころの中で苦笑しながら、できる限り穏やかな表情を作って、ワタシは付け加える。

「な〜んて、無慈悲なコトは言いませんから、安心してください。だいたい、センパイは、どちらとも付き合ってる訳じゃないんですから、そんなこと、気にする必要ないです」

「そ、そうなのかな……」

「はい! 交際前、タイプの違う複数の異性にときめく、なんてことは、きぃセンパイが、こっそり楽しんでる少女マンガでも、良くある話しじゃないですか」

 今度は、ニコッと笑って答えると、くろセンパイは真顔で返す。

「モモカ、それは壮馬に言わないでおけよ! あいつ、少女マンガのことをイジると、露骨に機嫌が悪くなるからな……」

「えぇ、わかってますよ! これは、くろセンパイとワタシの共通の秘密ってことにしておきましょう。あと、もちろん、誰かと付き合ってから、他の女子に目移りすることがあったら、極刑が待ってますけどね」

 中学校時代から変わらない会話の雰囲気に、ワタシは、懐かしさと愛おしさを感じる。
 それでも、くろセンパイは、思い悩みながら、次の言葉を言い淀んでいるようだ。

「センパイ、高校でも、同じクラブで活動できるようになりましたし……中学の時にお世話になったお返しに、くろセンパイが聞きたいこと、なんでも、相談にのりますよ!」

 つとめて明るく聞こえる口調で語りかけると、彼は、「そうか……」と、つぶやいたあと、意を決したように、ワタシにたずねてきた。

「シロ……クサからは、『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつけるとして……紅野に対しては、どんなふうに接したら良いと思う?」

 くろセンパイが口にした「『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつける」という言葉を耳にしたとき、ワタシは、

「ヨシッ!!」

と、思わず声に出して、拳を握りそうになる衝動を抑えるのに苦労した。期待した通りの言葉に、ニヤリと口角が上がりそうになるのを我慢しながら、冷静な口調で答える。

「そうですね……()()セ《・》ン《・》パ《・》イ《・》のことは、その判断で問題ないと思います。紅野センパイについては……なるべく、今までと変わらない態度で接するようにしておけば良いんじゃないでしょうか? 紅野センパイに申し訳ない、という想いがあるなら、誠意を持って、クラス委員の仕事を一緒に進めるのが良いと思いますよ」

 ワタシの言葉ひとつひとつに、上級生は、真剣な眼差しで、うんうん、とうなずく。
 実際のところ、くろセンパイと紅野センパイを破局させたければ、罪悪感に囚われている彼に、彼女に対する誠意を示すため、

「白草センパイの恋愛アドバイスを実践しようとしたが、直前で心変わりしてしまった」

と、紅野センパイに告げるよう助言すれば良いのだろうけど……。

 我ながら、甘い性格だと思うが、二人の性格の良さを目の当たりにしているワタシは、その手段を取ることに、ためらいがあった。

 感染症の影響で入院が長引き、ワタシが登校できない間に進められたセンパイたちのサプライズ企画の存在に気がついたのは、オープン・スクールの前日のことだ。

 そして、オープン・スクールの当日、くろセンパイの告白を止めようとしたワタシに対して、献身的に接してくれた優しさにふれ、自分が憧れている男子が、彼女に惹かれた理由が理解できた。

(このヒトが、相手なら仕方ないか……)

 素直にそう思えるくらい、紅野センパイへの告白を阻止しようと試みたことに対して、ワタシは罪悪感を覚えていることに気づいた。

 そう……それだけで済んでいれば、まだ良かったんだけど――――――。


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〜佐倉桃華の見解〜
「なんでもわかる訳じゃないですよ……センパイのこと、だけです」
 中学生の頃から、ワタシを見守ってくれていたことへの感謝と、そのセンパイの気持ちが年上の女子に向いている淋しさ、そして、
(年上の男子は、こういう言い回しに弱いだろう)
という若干の期待を込めて、彼に自分の想いを伝える。
 ワタシが言い終わると、くろセンパイは、再び「そっか……」と言って、少しだけ表情を崩した。
 ただ、
「二人の女子に想いを寄せるなんて……浮気者」
と、思い切り低く作った声で、つぶやくと、「うっ……」と、声を上げて、センパイは気まずそうに顔をそらす。
 その仕草に、こころの中で苦笑しながら、できる限り穏やかな表情を作って、ワタシは付け加える。
「な〜んて、無慈悲なコトは言いませんから、安心してください。だいたい、センパイは、どちらとも付き合ってる訳じゃないんですから、そんなこと、気にする必要ないです」
「そ、そうなのかな……」
「はい! 交際前、タイプの違う複数の異性にときめく、なんてことは、きぃセンパイが、こっそり楽しんでる少女マンガでも、良くある話しじゃないですか」
 今度は、ニコッと笑って答えると、くろセンパイは真顔で返す。
「モモカ、それは壮馬に言わないでおけよ! あいつ、少女マンガのことをイジると、露骨に機嫌が悪くなるからな……」
「えぇ、わかってますよ! これは、くろセンパイとワタシの共通の秘密ってことにしておきましょう。あと、もちろん、誰かと付き合ってから、他の女子に目移りすることがあったら、極刑が待ってますけどね」
 中学校時代から変わらない会話の雰囲気に、ワタシは、懐かしさと愛おしさを感じる。
 それでも、くろセンパイは、思い悩みながら、次の言葉を言い淀んでいるようだ。
「センパイ、高校でも、同じクラブで活動できるようになりましたし……中学の時にお世話になったお返しに、くろセンパイが聞きたいこと、なんでも、相談にのりますよ!」
 つとめて明るく聞こえる口調で語りかけると、彼は、「そうか……」と、つぶやいたあと、意を決したように、ワタシにたずねてきた。
「シロ……クサからは、『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつけるとして……紅野に対しては、どんなふうに接したら良いと思う?」
 くろセンパイが口にした「『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつける」という言葉を耳にしたとき、ワタシは、
「ヨシッ!!」
と、思わず声に出して、拳を握りそうになる衝動を抑えるのに苦労した。期待した通りの言葉に、ニヤリと口角が上がりそうになるのを我慢しながら、冷静な口調で答える。
「そうですね……白《・》草《・》セ《・》ン《・》パ《・》イ《・》のことは、その判断で問題ないと思います。紅野センパイについては……なるべく、今までと変わらない態度で接するようにしておけば良いんじゃないでしょうか? 紅野センパイに申し訳ない、という想いがあるなら、誠意を持って、クラス委員の仕事を一緒に進めるのが良いと思いますよ」
 ワタシの言葉ひとつひとつに、上級生は、真剣な眼差しで、うんうん、とうなずく。
 実際のところ、くろセンパイと紅野センパイを破局させたければ、罪悪感に囚われている彼に、彼女に対する誠意を示すため、
「白草センパイの恋愛アドバイスを実践しようとしたが、直前で心変わりしてしまった」
と、紅野センパイに告げるよう助言すれば良いのだろうけど……。
 我ながら、甘い性格だと思うが、二人の性格の良さを目の当たりにしているワタシは、その手段を取ることに、ためらいがあった。
 感染症の影響で入院が長引き、ワタシが登校できない間に進められたセンパイたちのサプライズ企画の存在に気がついたのは、オープン・スクールの前日のことだ。
 そして、オープン・スクールの当日、くろセンパイの告白を止めようとしたワタシに対して、献身的に接してくれた優しさにふれ、自分が憧れている男子が、彼女に惹かれた理由が理解できた。
(このヒトが、相手なら仕方ないか……)
 素直にそう思えるくらい、紅野センパイへの告白を阻止しようと試みたことに対して、ワタシは罪悪感を覚えていることに気づいた。
 そう……それだけで済んでいれば、まだ良かったんだけど――――――。