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第九十六話「ディリークラウンカップ」

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 秋晴れの空の下、地球圏の広大なコースには爽やかな風が吹き抜けていた。

 D2中距離戦、ディリークラウンカップ。本格的な秋シーズン開幕戦とあって、スタンドには朝から多くの観客が詰めかけている。

 パドックではフリアノンとクロエが並んで歩いていた。白銀の髪を揺らすフリアノンに対し、金色の髪を結い上げたクロエは鋭い目つきで前を見据えている。

「ノンちゃん、気負わんでええからな? いつも通り、後ろから冷静に運んでや」

 ミオが小さく背中を叩いた。フリアノンは頷く。

「……はい。わたし、わたしの走りをします……」

 一方、クロエの横ではヴェルナーが静かな声で指示を送っていた。

「今日のレースはスローペースになる。先行有利だ。クロエ、向こう正面からじわりと前に上がっていけ」

「……わかってるわよ。今度こそ、あの子を捉える……!」

 クロエは唇を噛み、ちらりと隣を歩くフリアノンを睨む。去年も今年も、勝負所では何度もこの白いサイドールに先着を許してきた。

 (でも、今日は違う……!)

 ファンファーレが鳴り響き、ゲートインが始まった。フリアノンはゆっくりとゲートに入ると、深く息を吸った。

 ――勝ち負けよりも、自分の走りを。

 スタートの瞬間、静寂が場内を包む。

 ゲートが開き、一斉にサイドールたちが飛び出した。

「出遅れないで!」

 ミオの声が飛ぶが、フリアノンは慌てなかった。もともと追い込み型の彼女は、スタート後すぐに最後方に下げていく。隊列が整うころには、前から十馬身ほど離れた位置にポツンと一機、白い影があった。

「ノンちゃん、いつも通りでええよ。スローや、最後の直線一本勝負や」

 ミオの声がモニター越しに届く。フリアノンはじっと、前方の隊列を見つめていた。

 先頭は平均より遅めのペースで進んでいた。誰も行きたがらず、ゆったりとした流れが続く。

 その時、ヴェルナーが指示を出した。

「クロエ、ここで動け。先行集団の外に出して、向こう正面で一気にポジションを上げるんだ」

「了解……!」

 クロエは静かに反応した。するりと馬群の外に持ち出されると、淡々と加速を開始する。

「……クロエが動いた……」

 最後方のフリアノンは小さく呟いた。ペースが緩い分、前に行ったクロエには大きな利がある。

「ノンちゃん、慌てんといてや。クロエは早めに動いたけど、最後まで持つかはわからへん。あんたはあんたのタイミングで動くんやで」

「……はい……!」

 最終コーナーに差し掛かる頃には、クロエは先頭に並びかけていた。

「クロエ、ここで一気に突き放せ!」

 ヴェルナーの声に、クロエの目が鋭く光る。

「行くわよッ!」

 彼女は念動力スラスターを全開にした。先頭を走っていたサイドールを一瞬で置き去りにし、最後の直線へと飛び出していく。

「ノンちゃん、ここや! 行けッ!」

 ミオの叫びと同時に、フリアノンもスラスターを解放した。

 ゴォォォォ……!

 白い機体が、空気を裂くように加速する。最後尾から中団へ、中団から先頭集団へと一気に駆け上がる。

 直線半ばで、クロエとフリアノンの距離は四馬身。

「追い詰めたる……!」

 ミオが唇を噛む。

 クロエも、背後の気配に気付いていた。

「来るな……来るな……来るなああああ!!」

 必死に念動力を叩き込む。スラスターが悲鳴をあげる。ゴールまで、あと数十メートル。

「ノンちゃん!!」

「クロエ!!」

 二人のナビゲーターが同時に叫ぶ。

 ――あと、一馬身……!

 フリアノンがクロエのすぐ背後に迫る。ゴール板が目前に迫った。

 ――届かない……!

 最後の最後でクロエが半馬身差で押し切った。

 ゴール直後、クロエは荒い息を吐きながらも、勝利を確信した。

「勝った……勝った……! やっと……やっとあんたに勝ったんだからあああッ!!」

 モニター越しに、ヴェルナーも柔らかく笑っていた。

「よくやった。これが君の本来の走りだ」

 一方、フリアノンは肩で息をしながら、僅かな悔しさと安堵を胸に抱いていた。

 ――クロエちゃん……すごい……

 ミオも笑っていた。

「惜しかったなあ、ノンちゃん。でも、今日はクロエが強かったわ。次は負けへんようにな」

 フリアノンは小さく頷くと、クロエの背中を見つめながら、再び静かに闘志を燃やしていた。


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 秋晴れの空の下、地球圏の広大なコースには爽やかな風が吹き抜けていた。
 D2中距離戦、ディリークラウンカップ。本格的な秋シーズン開幕戦とあって、スタンドには朝から多くの観客が詰めかけている。
 パドックではフリアノンとクロエが並んで歩いていた。白銀の髪を揺らすフリアノンに対し、金色の髪を結い上げたクロエは鋭い目つきで前を見据えている。
「ノンちゃん、気負わんでええからな? いつも通り、後ろから冷静に運んでや」
 ミオが小さく背中を叩いた。フリアノンは頷く。
「……はい。わたし、わたしの走りをします……」
 一方、クロエの横ではヴェルナーが静かな声で指示を送っていた。
「今日のレースはスローペースになる。先行有利だ。クロエ、向こう正面からじわりと前に上がっていけ」
「……わかってるわよ。今度こそ、あの子を捉える……!」
 クロエは唇を噛み、ちらりと隣を歩くフリアノンを睨む。去年も今年も、勝負所では何度もこの白いサイドールに先着を許してきた。
 (でも、今日は違う……!)
 ファンファーレが鳴り響き、ゲートインが始まった。フリアノンはゆっくりとゲートに入ると、深く息を吸った。
 ――勝ち負けよりも、自分の走りを。
 スタートの瞬間、静寂が場内を包む。
 ゲートが開き、一斉にサイドールたちが飛び出した。
「出遅れないで!」
 ミオの声が飛ぶが、フリアノンは慌てなかった。もともと追い込み型の彼女は、スタート後すぐに最後方に下げていく。隊列が整うころには、前から十馬身ほど離れた位置にポツンと一機、白い影があった。
「ノンちゃん、いつも通りでええよ。スローや、最後の直線一本勝負や」
 ミオの声がモニター越しに届く。フリアノンはじっと、前方の隊列を見つめていた。
 先頭は平均より遅めのペースで進んでいた。誰も行きたがらず、ゆったりとした流れが続く。
 その時、ヴェルナーが指示を出した。
「クロエ、ここで動け。先行集団の外に出して、向こう正面で一気にポジションを上げるんだ」
「了解……!」
 クロエは静かに反応した。するりと馬群の外に持ち出されると、淡々と加速を開始する。
「……クロエが動いた……」
 最後方のフリアノンは小さく呟いた。ペースが緩い分、前に行ったクロエには大きな利がある。
「ノンちゃん、慌てんといてや。クロエは早めに動いたけど、最後まで持つかはわからへん。あんたはあんたのタイミングで動くんやで」
「……はい……!」
 最終コーナーに差し掛かる頃には、クロエは先頭に並びかけていた。
「クロエ、ここで一気に突き放せ!」
 ヴェルナーの声に、クロエの目が鋭く光る。
「行くわよッ!」
 彼女は念動力スラスターを全開にした。先頭を走っていたサイドールを一瞬で置き去りにし、最後の直線へと飛び出していく。
「ノンちゃん、ここや! 行けッ!」
 ミオの叫びと同時に、フリアノンもスラスターを解放した。
 ゴォォォォ……!
 白い機体が、空気を裂くように加速する。最後尾から中団へ、中団から先頭集団へと一気に駆け上がる。
 直線半ばで、クロエとフリアノンの距離は四馬身。
「追い詰めたる……!」
 ミオが唇を噛む。
 クロエも、背後の気配に気付いていた。
「来るな……来るな……来るなああああ!!」
 必死に念動力を叩き込む。スラスターが悲鳴をあげる。ゴールまで、あと数十メートル。
「ノンちゃん!!」
「クロエ!!」
 二人のナビゲーターが同時に叫ぶ。
 ――あと、一馬身……!
 フリアノンがクロエのすぐ背後に迫る。ゴール板が目前に迫った。
 ――届かない……!
 最後の最後でクロエが半馬身差で押し切った。
 ゴール直後、クロエは荒い息を吐きながらも、勝利を確信した。
「勝った……勝った……! やっと……やっとあんたに勝ったんだからあああッ!!」
 モニター越しに、ヴェルナーも柔らかく笑っていた。
「よくやった。これが君の本来の走りだ」
 一方、フリアノンは肩で息をしながら、僅かな悔しさと安堵を胸に抱いていた。
 ――クロエちゃん……すごい……
 ミオも笑っていた。
「惜しかったなあ、ノンちゃん。でも、今日はクロエが強かったわ。次は負けへんようにな」
 フリアノンは小さく頷くと、クロエの背中を見つめながら、再び静かに闘志を燃やしていた。