@ 36話 科学とスポーツ
ー/ー
「チクショー!! 大恥かいたっつーの!」
現地で4日目を見届けた勝人が、空き缶を蹴りつける。他の4人のチンたちも黙って悔しさを噛みしめている。
「仕方がないよ、まだカーリングを始めてまだ1年も経ってないんだから」
綾美が慰める。こう言うシーンに良く似合う夕陽が綾美を照らす。
「これじゃ、あの日と同じじゃねーか……」
勝人は長くなった自身の影に向かって呟いた。
* * *
勉強会のあの日……。あの日綾美がそれを言い出したのは意図がある。優理・大晴・学佳・勝人vs香月・勉己・雪花・小夜香で試合形式でカーリングを楽しむためだ。
「ヒャホー」
勉強から解放された勝人が氷の上で小躍りする。勝人の肩掛け鞄から丸めた手袋が零れ落ちる。勝人が鞄のショルダーストラップ部分を握って振り回し、氷の上に落ちた手袋を打つ。
「止めろッ!」
香月が勝人に向かって大きな声を出す。驚いた全員が動きを止める。
「あ、ごめん……びっくりさせっちゃったよね」
「あ……大丈夫……動チ……勝人くん、カーリングホールでそんなホッケーみたいなことしちゃだめだよ」
「悪ぃ悪ぃ。ついはしゃいじまってさ」
綾美の窘みに素直に応じる勝人。真面目な空気感になったそのままの流れで、チーム分けに入った。
「いつも思ってたんだけど、何で綾美はやらないんだ? カーリング詳しいのに」
「あたしは……」
「綾美は先天性心疾患なんだ。運動は制限されている」
勝人の問いに優理が答える。
「言ったでしょ?! 優ちゃんを負かせてほしいの。でもあたしじゃできないの。あたし運動できないから……」
「じゃあ、任せとけ!」
そう言ったはいいが……。
「なんだよ、お前、スイープまともにできないのかよ」
「だってスキップの言うこと聞いて掃き掃除係なんて、社長と平社員みたいじゃないか」
言うことが小学生だ。
「やっぱミラクルショットだろ、カーリングの華は。俺に投げさせろ」
ここで雪花が聞こえるくらい長いため息を吐く。その白い息が後を引いてしばらく消えない程に。
「ミラクルショットはスイーパーのスイープ技術とスキップの指示で完成するのよ……大会で恥かくわよ?!」
今度は小首を傾げて短く吐かれた吐息、雪花の唇から離れるとすぐに弾けて消えた。それに合わせた仕草は身体の前で手の平を前に組んで腕を伸ばす。
「スイープを知らないスローワーなんて三流もいいとこ、だってさ。うちのマネージャーが言うんだから間違いない」
香月も呆れているようだ。雪花も香月も明星キャプテンのスイープや先輩・朋正のスイープを知っているからこそ良く分かる。
「スイープを制する者はカーリングを制す……」
「かっこいいな、それ」
「そんな言葉は無いけど、ね」
単純な勝人は綾美の誘いに乗ってきた。それを流し目で見届ける綾美は妙に色っぽい。
「スイープするとしないとでは2m以上距離が変わる。スイープする摩擦熱に寄っては普通にスイープするよりもさらに4.5mも伸びる結果もあるわ」
綾美の言葉を引き継いだのは雪花。冷たい空気が雪花の美しさを引き締める。スイープの大切さ、それを分からせるのが綾美の意図だ。
28メートル先のハウス付近でのストーンの曲がり幅は、0.5~1.5m程度と言われている。そしてスピードがゆっくりの方が曲がる。
直進してきたストーンの速度が落ちてきて曲がり出すポイントをブレークポイントという。
「スイープを止めて、ストーンのスピードを落とすことで曲がるポイントを変えることも可能なのよ」
これがミラクルショットを生み出すスキップとのコンビネーションだ。
スウィーピングは、もともとはストーンの前にあるゴミや氷屑を除くために行われていた。
しかし、氷表面をこすると摩擦熱による温度上昇で氷がより滑りやすくなることが認識されてからは、意図的にストーンの動きをコントロールする重要なテクニックとなった。
つまり、スウィーピングすると、温度上昇によってストーンの減速の度合いは減り、より遠くまで滑る、その結果、ストーンの曲がりを減らすこともできる。
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「仕方がないよ、まだカーリングを始めてまだ1年も経ってないんだから」
綾美が慰める。こう言うシーンに良く似合う夕陽が綾美を照らす。
「これじゃ、あの日と同じじゃねーか……」
勝人は長くなった自身の影に向かって呟いた。
* * *
勉強会のあの日……。あの日綾美がそれを言い出したのは意図がある。優理・大晴・学佳・勝人vs香月・勉己・雪花・小夜香で試合形式でカーリングを楽しむためだ。
「ヒャホー」
勉強から解放された勝人が氷の上で小躍りする。勝人の肩掛け鞄から丸めた手袋が零れ落ちる。勝人が鞄のショルダーストラップ部分を握って振り回し、氷の上に落ちた手袋を打つ。
「止めろッ!」
香月が勝人に向かって大きな声を出す。驚いた全員が動きを止める。
「あ、ごめん……びっくりさせっちゃったよね」
「あ……大丈夫……動チ……勝人くん、カーリングホールでそんなホッケーみたいなことしちゃだめだよ」
「悪ぃ悪ぃ。ついはしゃいじまってさ」
綾美の窘みに素直に応じる勝人。真面目な空気感になったそのままの流れで、チーム分けに入った。
「いつも思ってたんだけど、何で綾美はやらないんだ? カーリング詳しいのに」
「あたしは……」
「綾美は先天性心疾患なんだ。運動は制限されている」
勝人の問いに優理が答える。
「言ったでしょ?! 優ちゃんを負かせてほしいの。でもあたしじゃできないの。あたし運動できないから……」
「じゃあ、任せとけ!」
そう言ったはいいが……。
「なんだよ、お前、スイープまともにできないのかよ」
「だって|スキップ《おまえ》の言うこと聞いて掃き掃除係なんて、社長と平社員みたいじゃないか」
言うことが小学生だ。
「やっぱミラクルショットだろ、カーリングの華は。俺に投げさせろ」
ここで雪花が聞こえるくらい長いため息を吐く。その白い息が後を引いてしばらく消えない程に。
「ミラクルショットはスイーパーのスイープ技術とスキップの指示で完成するのよ……大会で恥かくわよ?!」
今度は小首を傾げて短く吐かれた吐息、雪花の唇から離れるとすぐに弾けて消えた。それに合わせた仕草は身体の前で手の平を前に組んで腕を伸ばす。
「スイープを知らないスローワーなんて三流もいいとこ、だってさ。うちのマネージャーが言うんだから間違いない」
香月も呆れているようだ。雪花も香月も明星キャプテンのスイープや先輩・朋正のスイープを知っているからこそ良く分かる。
「スイープを制する者はカーリングを制す……」
「かっこいいな、それ」
「そんな言葉は無いけど、ね」
単純な勝人は綾美の誘いに乗ってきた。それを流し目で見届ける綾美は妙に色っぽい。
「スイープするとしないとでは2m以上距離が変わる。スイープする摩擦熱に寄っては普通にスイープするよりもさらに4.5mも伸びる結果もあるわ」
綾美の言葉を引き継いだのは雪花。冷たい空気が雪花の美しさを引き締める。スイープの大切さ、それを分からせるのが綾美の意図だ。
28メートル先のハウス付近でのストーンの曲がり幅は、0.5~1.5m程度と言われている。そしてスピードがゆっくりの方が曲がる。
直進してきたストーンの速度が落ちてきて曲がり出すポイントをブレークポイントという。
「スイープを止めて、ストーンのスピードを落とすことで曲がるポイントを変えることも可能なのよ」
これがミラクルショットを生み出すスキップとのコンビネーションだ。
スウィーピングは、もともとはストーンの前にあるゴミや氷屑を除くために行われていた。
しかし、氷表面をこすると摩擦熱による温度上昇で氷がより滑りやすくなることが認識されてからは、意図的にストーンの動きをコントロールする重要なテクニックとなった。
つまり、スウィーピングすると、温度上昇によってストーンの減速の度合いは減り、より遠くまで滑る、その結果、ストーンの|曲がり《カール》を減らすこともできる。