@ 30話 勉己の力
ー/ー
「お前、教えるの上手いな! 母ちゃんより上手いよ」
「え? お母さん?」
「間違えた、勉己だ勉己。昔勉己に勉強教わったことがあるんだ」
「あたしも横チンくんたちみたいに『カッちゃん』って呼んでいい? 勉己くんは『カツくん』にするから」
「横チンたちは今、みんな動チンって呼んでるわよ」
「そうだ、お前が『カッちゃん』なんて言うから間違えた。俺、母ちゃんいねーし」
「え? 動チンお母さん居ないの? ゴメンね、前変なこと言っちゃって」
小夜香が勝人に勉強を教えてるのがずっと気になっていた綾美。このタイミングを機に会話に割って入る。
「いい加減『動チン』止めてくんない? 自分だって恥ずかしいだろ?!」
「でもクインテッドだって横チンが……」
「来年、古川か古山が入部したら、『古チン』がまた増えるかも知れないだろ?」
「…………」
「ごめん……あたしが『カッちゃん』なんて呼んだから……」
「気にすんな、間違えたの俺だし」
「ね、横チンくんたちってみんな綾美さんに惹かれてカーリング部に入ったんでしょ? すごいね」
「サルの群れみたいってディスってない?」
「サルのお母さん?」
「ボスザルでしょ」
「サルは母系社会なのよ、知ってる?」
「なんの話だ、これ……」
「俺は違うぞ? オリンピックに出るんだ」
突然勝人が話を戻して否定する、期待していたわけではないけど、綾美は胸を押さえる。女心は更に繊細だ。
「口から生まれたのか? オリンピック選手なんて簡単になれるわけもない」
優理がまた逆なでする。
「……サルだって口から生まれるわけないだろ。お前のいる、常ノ呂高校が天下取ってんなら、まずそこに殴り込みに行くまでだ」
「花果山の石から生まれた孫悟空の方が合ってるな」
横から香月が皮肉たっぷりに口を挟む。
「かけざんの3×5=9? 知ってるよそれくらい」
「勝人くん……算数……もう一度やり直すわよ……」
小夜香は大きく息を吐いた……。
「動チンじゃなくてバカチンだな……」
思ったより勉強会は時間を費やした。それは間違いなく勝人の所為のはずだ。
* * *
年が明けた。いつの間に約束されたのか、勉強会の時の9人で初詣に出かけている。元旦早朝の初詣は人で溢れていて、長い列に並び参拝を待っている9人はかれこれ一時間にもなる。
小夜香は機嫌が悪い。しかしそれは待ち時間の所為ではない、原因は綾美だ。綾美は梅の花をあしらった着物で寒そうに勝人の腕にまとわりついている。
(混雑してるの分かってんだから、動きやすい服装で来なさいよ)
小夜香は薄紫のニットにスリムパンツ、ショートブーツ。隣を歩く勝人は薄手のジャージに素足でサンダル。何故にこの格好で来たのかは謎だが、やはり寒いのだろう、鼻が垂れている。
「お前のそれ、温かそうだな」
「でしょ……ニット、温かいよ。雪花もニットのワンピだね」
雪花はニットワンピにタイツの組み合わせ。ニットは傍目からも温かそうに見える。小夜香はニットがくっつけば勝人も少しは温かいだろうと勝人に近づく。
バチッ!
「うぉっ! 痛てっ!」 「痛っ」
二人に静電気が走る。
「何だよ、痛てーから近寄んな」
勝人にそう言われて、ずいぶん凹んだ。綾美の勝ち誇った顔が癪に障る。
勝人は雪花の後姿をなんとなしに見つめながら動き出した列に倣い、二、三、歩を進めた。その雪花はグレーのタートルネックのセーターにカルゼ生地のコート、カーゴパンツという少し大人びた優理と談笑している。
鼻水が垂れてきた……勝人はそっと袖で鼻を拭いた。
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「え? お母さん?」
「間違えた、勉己だ勉己。昔勉己に勉強教わったことがあるんだ」
「あたしも横チンくんたちみたいに『カッちゃん』って呼んでいい? 勉己くんは『カツくん』にするから」
「横チンたちは今、みんな動チンって呼んでるわよ」
「そうだ、お前が『カッちゃん』なんて言うから間違えた。俺、母ちゃんいねーし」
「え? 動チンお母さん居ないの? ゴメンね、前変なこと言っちゃって」
小夜香が勝人に勉強を教えてるのがずっと気になっていた綾美。このタイミングを機に会話に割って入る。
「いい加減『動チン』止めてくんない? 自分だって恥ずかしいだろ?!」
「でもクインテッドだって横チンが……」
「来年、古川か古山が入部したら、『古チン』がまた増えるかも知れないだろ?」
「…………」
「ごめん……あたしが『カッちゃん』なんて呼んだから……」
「気にすんな、間違えたの俺だし」
「ね、横チンくんたちってみんな綾美さんに惹かれてカーリング部に入ったんでしょ? すごいね」
「サルの群れみたいってディスってない?」
「サルのお母さん?」
「ボスザルでしょ」
「サルは母系社会なのよ、知ってる?」
「なんの話だ、これ……」
「俺は違うぞ? オリンピックに出るんだ」
突然勝人が話を戻して否定する、期待していたわけではないけど、綾美は胸を押さえる。女心は更に繊細だ。
「口から生まれたのか? オリンピック選手なんて簡単になれるわけもない」
優理がまた逆なでする。
「……サルだって口から生まれるわけないだろ。お前のいる、常ノ呂高校が天下取ってんなら、まずそこに殴り込みに行くまでだ」
「|花果山《かかざん》の石から生まれた孫悟空の方が合ってるな」
横から香月が皮肉たっぷりに口を挟む。
「かけざんの|3×5=9《サンゴキュー》? 知ってるよそれくらい」
「勝人くん……算数……もう一度やり直すわよ……」
小夜香は大きく息を吐いた……。
「動チンじゃなくてバカチンだな……」
思ったより勉強会は時間を費やした。それは間違いなく勝人の所為のはずだ。
* * *
年が明けた。いつの間に約束されたのか、勉強会の時の9人で初詣に出かけている。元旦早朝の初詣は人で溢れていて、長い列に並び参拝を待っている9人はかれこれ一時間にもなる。
小夜香は機嫌が悪い。しかしそれは待ち時間の所為ではない、原因は綾美だ。綾美は梅の花をあしらった着物で寒そうに勝人の腕にまとわりついている。
(混雑してるの分かってんだから、動きやすい服装で来なさいよ)
小夜香は薄紫のニットにスリムパンツ、ショートブーツ。隣を歩く勝人は薄手のジャージに素足でサンダル。何故にこの格好で来たのかは謎だが、やはり寒いのだろう、鼻が垂れている。
「お前のそれ、温かそうだな」
「でしょ……ニット、温かいよ。雪花もニットのワンピだね」
雪花はニットワンピにタイツの組み合わせ。ニットは傍目からも温かそうに見える。小夜香はニットがくっつけば勝人も少しは温かいだろうと勝人に近づく。
バチッ!
「うぉっ! 痛てっ!」 「痛っ」
二人に静電気が走る。
「何だよ、痛てーから近寄んな」
勝人にそう言われて、ずいぶん凹んだ。綾美の勝ち誇った顔が癪に障る。
勝人は雪花の後姿をなんとなしに見つめながら動き出した列に倣い、二、三、歩を進めた。その雪花はグレーのタートルネックのセーターにカルゼ生地のコート、カーゴパンツという少し大人びた優理と談笑している。
鼻水が垂れてきた……勝人はそっと袖で鼻を拭いた。