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001 私が真犯人である。沙汰はまだない。

ー/ー



 私が真犯人だ。

 いま目の前で冤罪が生まれようとしている。
 
 私は本懐を遂げたので捕まっても構わなかったのだが、自首をするのも癪なので「やってない」とだけ嘘をついた。
 何のアリバイも用意していない杜撰な嘘である。

 さっさと証拠を揃えて私を確保するといい。
 そう思い待機をしていたのに、まさかの冤罪である。

 しかも事もあろうに完璧なアリバイを崩してまで、冤罪を作った。

 正気か?


 たまたま同じホテルに探偵が寝泊まりしていた。
 そこで私が事件を起こした。
 事件を調べた探偵は泊まっていた13名をエントランスに集め、推理を披露し、完璧なアリバイをひとつ崩してから冤罪を作った。

 「犯人はあなたです!」と指まで向けて。

 ビシッとやらかしている。

 何だか申し訳ない。
 自首をする気はないのだが、そんなに難しい事件だっただろうか。

 名指しされた容疑者は膝から崩れ落ちた。
 まるで犯人のようだった。

 嫌疑をかけられている残り11名もホッとした空気をだしている。
 まるで犯人が特定されたかのようだった。

 漸く解放されると思ったに違いない。

 繰り返すが冤罪だ。
 犯人は私なのだから、それ以外は冤罪なのだ。
 つまり事件は終わっていない。

 犯行についても、その際に容疑者扱いされるであろう人々についても、私の中ではもう踏ん切りがついている。

 だからその辺りについては、青空の下にいるような清々しい気持ちしかない。
 詳細は教えられないが私の我儘に付き合ってくれてありがとう、と感謝の念すらある。

 だが探偵は別だ。
 私が想定したのはあくまで警察に捕まるという展開だけだ。

 探偵が探偵ムーブをしたあげく胸を張って冤罪をつくるだなんて望んでいない。

 私はミステリ小説が大好きなのだ。
 唯一の趣味といっても過言ではない。
 こんな探偵は嫌だ。
 
 そのとき探偵がハッとした顔をして「私は思い違いをしていたようだ」と口走った。
 聞こえてくる独り言から、どうやら推理の穴に気が付いたようだ。

 そうか。気が付いたか。
 大丈夫だ。まだ間に合うぞ。

 名指しした時点で冤罪が確定したのかと思ったが、まだ可能性はあったようだ。
 
 探偵は新たな推理を披露しながら、私達の前を横切っていく。
 そして足を止めた。

 犯人はあなたですね、と口走った探偵の姿を私はそこそこ離れた位置から眺めていた。

 こうして二人目の冤罪候補に探偵は指を突き付けて、確信をこめて名指しする。

 冤罪を受けた容疑者は泣き崩れた。
 まるで犯人のようだった。

 でもこれは犯行がバレた嘆きではなく、冤罪を受けた悲しみだと私には判る。

 本当に私しかこれ判っていないのか?
 探偵がこれなら優秀な助手とかいるんじゃないの?
 この探偵、普段からこうなのだろうか。

 私は胸が痛い。

 私が犯行を思いとどまってさえいたら、探偵による冤罪は起こらなかったのだろうか。

 重い罪悪感で潰されそうだ。

 探偵がまた何かに気が付いたようで、推理をやり直している。

 でもその内容はやっぱり見当違いだ。

 あぁ、なんてことだ。

 事件なんて起こすんじゃなかった。


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 私が真犯人だ。
 いま目の前で冤罪が生まれようとしている。
 私は本懐を遂げたので捕まっても構わなかったのだが、自首をするのも癪なので「やってない」とだけ嘘をついた。
 何のアリバイも用意していない杜撰な嘘である。
 さっさと証拠を揃えて私を確保するといい。
 そう思い待機をしていたのに、まさかの冤罪である。
 しかも事もあろうに完璧なアリバイを崩してまで、冤罪を作った。
 正気か?
 たまたま同じホテルに探偵が寝泊まりしていた。
 そこで私が事件を起こした。
 事件を調べた探偵は泊まっていた13名をエントランスに集め、推理を披露し、完璧なアリバイをひとつ崩してから冤罪を作った。
 「犯人はあなたです!」と指まで向けて。
 ビシッとやらかしている。
 何だか申し訳ない。
 自首をする気はないのだが、そんなに難しい事件だっただろうか。
 名指しされた容疑者は膝から崩れ落ちた。
 まるで犯人のようだった。
 嫌疑をかけられている残り11名もホッとした空気をだしている。
 まるで犯人が特定されたかのようだった。
 漸く解放されると思ったに違いない。
 繰り返すが冤罪だ。
 犯人は私なのだから、それ以外は冤罪なのだ。
 つまり事件は終わっていない。
 犯行についても、その際に容疑者扱いされるであろう人々についても、私の中ではもう踏ん切りがついている。
 だからその辺りについては、青空の下にいるような清々しい気持ちしかない。
 詳細は教えられないが私の我儘に付き合ってくれてありがとう、と感謝の念すらある。
 だが探偵は別だ。
 私が想定したのはあくまで警察に捕まるという展開だけだ。
 探偵が探偵ムーブをしたあげく胸を張って冤罪をつくるだなんて望んでいない。
 私はミステリ小説が大好きなのだ。
 唯一の趣味といっても過言ではない。
 こんな探偵は嫌だ。
 そのとき探偵がハッとした顔をして「私は思い違いをしていたようだ」と口走った。
 聞こえてくる独り言から、どうやら推理の穴に気が付いたようだ。
 そうか。気が付いたか。
 大丈夫だ。まだ間に合うぞ。
 名指しした時点で冤罪が確定したのかと思ったが、まだ可能性はあったようだ。
 探偵は新たな推理を披露しながら、私達の前を横切っていく。
 そして足を止めた。
 犯人はあなたですね、と口走った探偵の姿を私はそこそこ離れた位置から眺めていた。
 こうして二人目の冤罪候補に探偵は指を突き付けて、確信をこめて名指しする。
 冤罪を受けた容疑者は泣き崩れた。
 まるで犯人のようだった。
 でもこれは犯行がバレた嘆きではなく、冤罪を受けた悲しみだと私には判る。
 本当に私しかこれ判っていないのか?
 探偵がこれなら優秀な助手とかいるんじゃないの?
 この探偵、普段からこうなのだろうか。
 私は胸が痛い。
 私が犯行を思いとどまってさえいたら、探偵による冤罪は起こらなかったのだろうか。
 重い罪悪感で潰されそうだ。
 探偵がまた何かに気が付いたようで、推理をやり直している。
 でもその内容はやっぱり見当違いだ。
 あぁ、なんてことだ。
 事件なんて起こすんじゃなかった。