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第二部・第3章〜カワイくてゴメン〜③

ー/ー



 鳳花センパイの言う『本番』とは、放送部が始めようとしている校内放送のことだ。

 ワタシたちの通う山の手(やまのて)中学校の放送部は、これまでも、給食の時間などに、生徒のリクエストに応じて、音楽を流したりしていたが、部長を務める鳳花センパイが考えた企画で、今年から、ラジオ放送のような形式で出演者二名のトークを中心とした番組にしよう、という計画が立ち上がっていた。

 そのラジオ形式の出演者として候補に上がっているのが、黒田センパイとワタシだった。

 今日は、自分たち二人が、放送を担うに相応しいか、最終判断をしてもらうリハーサルを兼ねた収録練習が行われることになっている。

 小学生の頃から、FMラジオの音楽番組や声優さんの出演するネットラジオにハマっていたワタシは、中学校に入学し、クラブ紹介のときに、放送部が新しい校内放送を企画している、と聞いたときから、

「その番組に出演してみたい――――――!」

と、いう想いを強くしていた。

 そんなわけで、(彼らに申し訳ないという気持ちが、まったく無いわけではないけど)入学直後から続いた男子からの交際の申込み、というのは、いまの自分にとって、時間と気持ちを妨げられる迷惑な行為でしかなかった。

(まったく……ワタシだけじゃなく、センパイたちの貴重な時間も無駄にして……)

 最後の『時間を取ってもらってゴメン』の一言がなければ、あの谷口とかいう男子の背中に、ケリの一つでも入れなければ気が済まないところだ。
 それでも、部活と自分のプライベートなことは別だと考え、気持ちを切り替える。

「リハーサルの流れは、これまでと同じだから……二人とも、もう頭に入ってるわね?」

 鳳花センパイの問いかけに、黒田センパイとワタシは、無言でうなずいた。

 ミキサーやデスク型アンプなどの機材が設置された部屋から、ガラス越しの音声収録を行うためのブースに移動し、マイクの前の座席に腰掛けると、それまでのイライラしていた気持ちが、ス〜ッと収まっていき、これから始まるリハーサルに、ワクワクする気持ちが抑え
られなくなってくる。

 そんな想いが表情に出てしまったのか、正面の席に座る黒田センパイが声をかけてきた。

「すいぶん、楽しそうだな、佐倉! 準備はイイか?」

 不意をつかれるカタチで話しかけられたので、「ハッ!?」と声を上げてしまったワタシは、照れ隠しに、思わず悪態をついてしまう。

「ナンですか、センパイ? 後輩女子の顔をジロジロと見て……普通にキモいんですけど……」

「おいおい……相変わらずのクチの悪さだな……」

 苦笑しながらも、ワタシの準備が整っていることを察してくれたのか、黒田センパイは、

「壮馬、こっちは準備オーケーだ!」

と、親指をあげて黄瀬センパイに合図を送る。

 実を言うと、ワタシは、知り合った頃の黒田センパイが、少し苦手だった。

 優秀で、後輩にも気をかけてくれる頼りになる鳳花センパイ、何事も無難に応対してソツのない黄瀬センパイに比べると、一見、周囲の男子と同じように無神経なタイプに見えるんだけど……。
 実際の彼は、いまのように、時おり、こちらの気持ちや感情を見透かしているかのように話しかけてくることがあるので、この上級生には、どこか気を許せない、と感じさせるところがあったのだ。

 そんなことを考えていると、黒田センパイからのサインを受け取った黄瀬センパイから、合図がかかった。

「よ〜し! それじゃ、二人とも、収録練習いくよ〜! 五秒前! 四・三・二……」

 ヘッドホンから聞こえる声に、心地よい緊張感が全身を覆う。
 黄瀬センパイの発した、キューの合図とともに、放送スタートのジングルが鳴り響き、

「山の手中学放送部プレゼンツ」

という黒田センパイが語ると、次はワタシの発声の番だ。

「桃華と!」

「黒田の!」

「「『ももクロ・ミュージックカウントダウン!』」」

 放送番組のタイトルコールは、これまでのリハーサルと同じように、二人で声を合わせることができた。

 ・

 ・

 ・

「はい、オッケ〜!」

 ガラス越しに、黄瀬センパイから声がかかる。
 十五分の間、語り通しだった自分の中のスイッチをオフにして、

「フ〜」

と、大きく息を吐きだすと、正面からも声をかけられた。

「おつかれ、佐倉」

「はい! おつかれ様です、黒田センパイ!」
 
 話し終えたあとの高揚感と心地よい疲労感のなか、お互いをねぎらいあっていると、

「はい、お疲れさま、二人とも」

鳳花センパイが、わざわざ収録ブースに入って、語りかけてくれた。
 彼女に声をかけられたことで、楽しく語り終えることができた、この収録練習が、放送出演の最終的な試験を兼ねていることを思い出し、急に身体がこわばる。

「あの……部長さん……最終試験の結果は……?」


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 鳳花センパイの言う『本番』とは、放送部が始めようとしている校内放送のことだ。
 ワタシたちの通う|山の手《やまのて》中学校の放送部は、これまでも、給食の時間などに、生徒のリクエストに応じて、音楽を流したりしていたが、部長を務める鳳花センパイが考えた企画で、今年から、ラジオ放送のような形式で出演者二名のトークを中心とした番組にしよう、という計画が立ち上がっていた。
 そのラジオ形式の出演者として候補に上がっているのが、黒田センパイとワタシだった。
 今日は、自分たち二人が、放送を担うに相応しいか、最終判断をしてもらうリハーサルを兼ねた収録練習が行われることになっている。
 小学生の頃から、FMラジオの音楽番組や声優さんの出演するネットラジオにハマっていたワタシは、中学校に入学し、クラブ紹介のときに、放送部が新しい校内放送を企画している、と聞いたときから、
「その番組に出演してみたい――――――!」
と、いう想いを強くしていた。
 そんなわけで、(彼らに申し訳ないという気持ちが、まったく無いわけではないけど)入学直後から続いた男子からの交際の申込み、というのは、いまの自分にとって、時間と気持ちを妨げられる迷惑な行為でしかなかった。
(まったく……ワタシだけじゃなく、センパイたちの貴重な時間も無駄にして……)
 最後の『時間を取ってもらってゴメン』の一言がなければ、あの谷口とかいう男子の背中に、ケリの一つでも入れなければ気が済まないところだ。
 それでも、部活と自分のプライベートなことは別だと考え、気持ちを切り替える。
「リハーサルの流れは、これまでと同じだから……二人とも、もう頭に入ってるわね?」
 鳳花センパイの問いかけに、黒田センパイとワタシは、無言でうなずいた。
 ミキサーやデスク型アンプなどの機材が設置された部屋から、ガラス越しの音声収録を行うためのブースに移動し、マイクの前の座席に腰掛けると、それまでのイライラしていた気持ちが、ス〜ッと収まっていき、これから始まるリハーサルに、ワクワクする気持ちが抑え
られなくなってくる。
 そんな想いが表情に出てしまったのか、正面の席に座る黒田センパイが声をかけてきた。
「すいぶん、楽しそうだな、佐倉! 準備はイイか?」
 不意をつかれるカタチで話しかけられたので、「ハッ!?」と声を上げてしまったワタシは、照れ隠しに、思わず悪態をついてしまう。
「ナンですか、センパイ? 後輩女子の顔をジロジロと見て……普通にキモいんですけど……」
「おいおい……相変わらずのクチの悪さだな……」
 苦笑しながらも、ワタシの準備が整っていることを察してくれたのか、黒田センパイは、
「壮馬、こっちは準備オーケーだ!」
と、親指をあげて黄瀬センパイに合図を送る。
 実を言うと、ワタシは、知り合った頃の黒田センパイが、少し苦手だった。
 優秀で、後輩にも気をかけてくれる頼りになる鳳花センパイ、何事も無難に応対してソツのない黄瀬センパイに比べると、一見、周囲の男子と同じように無神経なタイプに見えるんだけど……。
 実際の彼は、いまのように、時おり、こちらの気持ちや感情を見透かしているかのように話しかけてくることがあるので、この上級生には、どこか気を許せない、と感じさせるところがあったのだ。
 そんなことを考えていると、黒田センパイからのサインを受け取った黄瀬センパイから、合図がかかった。
「よ〜し! それじゃ、二人とも、収録練習いくよ〜! 五秒前! 四・三・二……」
 ヘッドホンから聞こえる声に、心地よい緊張感が全身を覆う。
 黄瀬センパイの発した、キューの合図とともに、放送スタートのジングルが鳴り響き、
「山の手中学放送部プレゼンツ」
という黒田センパイが語ると、次はワタシの発声の番だ。
「桃華と!」
「黒田の!」
「「『ももクロ・ミュージックカウントダウン!』」」
 放送番組のタイトルコールは、これまでのリハーサルと同じように、二人で声を合わせることができた。
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「はい、オッケ〜!」
 ガラス越しに、黄瀬センパイから声がかかる。
 十五分の間、語り通しだった自分の中のスイッチをオフにして、
「フ〜」
と、大きく息を吐きだすと、正面からも声をかけられた。
「おつかれ、佐倉」
「はい! おつかれ様です、黒田センパイ!」
 話し終えたあとの高揚感と心地よい疲労感のなか、お互いをねぎらいあっていると、
「はい、お疲れさま、二人とも」
鳳花センパイが、わざわざ収録ブースに入って、語りかけてくれた。
 彼女に声をかけられたことで、楽しく語り終えることができた、この収録練習が、放送出演の最終的な試験を兼ねていることを思い出し、急に身体がこわばる。
「あの……部長さん……最終試験の結果は……?」