40 3バカが生んだ怪獣?

ー/ー



「我請おう、偉大なる始祖の御力をここに!」

 エリオットは威勢よくセプターを振り上げて叫んだ。

「狂嵐の渓谷、走り落つ御身の加護を欲す!」

 ベスティンクスの頭上だけ、空が暗くなった。雨雲がゴロゴロと音を立てて現れる。


 
 むひょっ!?



 異変を察知したのかベスティンクスの動きがギクッと止まる。
 エリオットはその一瞬を見逃さなかった。

神鳴鳥の交響曲(サンダーバード・シンフォニー)!!」

 その雷鳴は、バリバリとかドカンとかそんなレベルではなくて。


 
 ズドゴッシャーン!!
 
 天候の力も借りたエリオットの雷魔法はもはや災害級だった。


 
 ひょおーうおうおう……


 
 ベスティンクスは大きく鳴いていた。その衝撃に懸命に耐えるように。

「あれっ? ちょっと小さくなった!?」

 ミチルはベスティンクスの変化に気づく。
 三階建のコンクリートビルから出来たベスティンクスが、今は二階建住宅くらいになっていた。

「へっへっへー! どうだ、おれの魔法は? ものすげえだろっ!」

 得意顔で自慢するけれど、エリオットの息は上がっていた。
 あれだけの魔法をぶっ放せば、そりゃそうだろう。この世界の魔法について知識がないミチルでも想像できる。

「ふむ。独学でこれだけの事が出来るとは、さすが魔法大国の王族だ」

 めったに言わないジンの褒め言葉がちょっと気色悪いものの、他者からも同じような視線を受けてエリオットは疲れながら有頂天。

「ナーッハッハ! あー、スッキリしたあ!」

 ルードのアジトをぶっ壊せなかったフラストレーションをここで発散したのだろう。逆に結果オーライかもしれない。



 むっひょ、むっひょ、むっひょおう……



 一回り小さくなったベスティンクスは鳴くばかりで、こちらを攻撃する素振りも見せない。
 その様子を見て、ジェイはある考察を口にする。

「むむ。もしや、あの巨大ベスティアは攻撃手段を持たないのでは?」

「うん? そんなことある?」

 ミチルが聞くと、やはり戦時中のぽんこつナイトは冴えていた。明解な論理を展開する。

「私の知るベスティアと言えば、形は違えど皆、獣のようなものだ。その攻撃手段は自ら襲いかかって、爪や牙などを使う。しかし、あの巨大ベスティアはあそこから微動だにしていない。あの手足で潰されたら我々などひとたまりもないが、そんな仕草も見られない」

 そう。ベスティンクスは、ミチルの知っているスフィンクス同様、飼い猫のような座り方のまま動いていなかった。
 ただ、うひょうひょと鳴くばかり。アルブスで見たベスティフォンは口から衝撃波を放ったが、その兆候も感じられなかった。

「あー……ピエンがやる気なかったから、かなあ?」

 ミチルの冗談みたいな感想が当たっているかはわからないが、ジェイの推論を聞いて、アニーが颯爽と前面に出た。


 
「ってことは、殴り放題ってことだな? それならとっととやっちまおう!」

 言いながらアニーは青いナイフを取り出した。それをひょいっと空に放ると、バラッと散って十六本に増える。

「申し訳ありません、お客様っ!」

 アニーの力が込められたナイフは規則正しい三角形の列を作って、浮きながら青い光を放っていた。

「定員オーバーです! 事前に人数をお知らせください!!」

 ナイフが形取る三角形が、まっすぐベスティンクスへ向かい、ぶっ刺さる。



 むっ、むっひょぉ……っ!



 ベスティンクスは悲しげな声で鳴いていた。
 一本に戻ったアニーのナイフがその手に戻る頃には、大きさがまた小さくなり、平家家屋ほどになっていた。

「ヒュー! やったぜ、また小さくなったじゃーん!」

 強がって喜んでいるけれど、アニーの顔にも疲労が色濃く出ていた。

「ふむ……ちょっと、身軽になってきていないか?」

 ジンの見立ては正しかった。ベスティンクスは質量を失った代わりに、それまで動かなかった手足がモゾモゾと伸ばせるようになっている。

「まさか、先生? このまま小さくしていったら、逆に危険ってこと……?」



 うひょぉ……
 うひょひょお……



 鳴き声も少し変わった気がした。今まではアホみたいな感じだったが、今は知性を感じる……ような気がする。

「ならば一気にケリをつけるッ!!」

 その様子を見たジェイはすぐさま青い大剣を振りかぶって、ベスティンクスへと走り出した。ジンの「あ、バカ!」という声は聞こえていない。



「うおおおおおッ!!」



 誉高きカエルラ・ベラトール(蒼き戦士)の重たい一閃が、ベスティンクスを脳天から両断!
 あいつすげえジャンプ力だな、とかそんなことは言っていられない。



 ぎゃおおおっ!



 今までで一番「怪獣らしい」声が響いた。
 それは即ち、目の前の獣が「怪獣」レベルに達したということ。

 ベスティンクスは体から鱗が剥がれ落ちるように、外側がガラガラと崩れていった。その破片はすぐに黒い霧になって消える。



 うひょっ
 うぎょっ
 ギョギョッ!

 発する声もなんだか鋭くなっていくような……



 ギョ……ギュ……ギャ……
 ギャオオオオオッ!!



「うわぁああ!」

 ミチルは自分の予想が当たってしまったことに驚いて悲鳴をあげた。
 路線バスを立てたくらいの重量感。そんな感じの黒い獣……猫が立ったらこんなポーズかな? という物体が雄叫びを上げていた。



 ギニャオオオ!!



「むう……少し足りなかったか、無念」

 ベスティンクスを消し去り切れなかったジェイは残念そうに反省している。

「馬鹿者ォ! 余計に機動力と知能が増したではないかっ!」

 ニャーオニャーオと鳴きながら、短い後ろ足でジタバタ進もうとしているベスティンクスを見て、ジンが怒鳴った。
 結局、エリオット→アニー→ジェイの攻撃によって、ベスティンクスは立ち回れる体と知性を手に入れてしまった。

「だから貴様らは3バカなのだっ!!」

 慌てるジンの文句に、エリオットとアニーはぶうぶう反論する。

「なんだよ! ジンだってノープランだったろ!」

「なんでも試せばいいって言ったじゃん!」

 それを綺麗に無視して、ジンは先にベスティンクスの方へ駆け出した。

「バカ共、疲れている暇はないぞ! 全力であれを抑え込め!」

「……承知!」

 頭も体力もバカのジェイはすぐにジンの後を追った。それから渋々アニーとエリオットもダラダラ合流する。



「シウレン!」

 駆けながらジンはミチルを振り返った。

「我らがあれを抑えているうちに、ルークに武器を!」

「えっ!?」

「頼んだぞ、シウレン!!」

 毒舌師範のスパルタ無茶ぶり!
 武器っつったって……ねえ?

「ミ、ミチル? ぼく、どうすれば……?」

「さ、さあ……?」

 取り残されたミチルとルークは顔を見合わせて途方に暮れた。


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「我請おう、偉大なる始祖の御力をここに!」
 エリオットは威勢よくセプターを振り上げて叫んだ。
「狂嵐の渓谷、走り落つ御身の加護を欲す!」
 ベスティンクスの頭上だけ、空が暗くなった。雨雲がゴロゴロと音を立てて現れる。
 むひょっ!?
 異変を察知したのかベスティンクスの動きがギクッと止まる。
 エリオットはその一瞬を見逃さなかった。
「|神鳴鳥の交響曲《サンダーバード・シンフォニー》!!」
 その雷鳴は、バリバリとかドカンとかそんなレベルではなくて。
 ズドゴッシャーン!!
 天候の力も借りたエリオットの雷魔法はもはや災害級だった。
 ひょおーうおうおう……
 ベスティンクスは大きく鳴いていた。その衝撃に懸命に耐えるように。
「あれっ? ちょっと小さくなった!?」
 ミチルはベスティンクスの変化に気づく。
 三階建のコンクリートビルから出来たベスティンクスが、今は二階建住宅くらいになっていた。
「へっへっへー! どうだ、おれの魔法は? ものすげえだろっ!」
 得意顔で自慢するけれど、エリオットの息は上がっていた。
 あれだけの魔法をぶっ放せば、そりゃそうだろう。この世界の魔法について知識がないミチルでも想像できる。
「ふむ。独学でこれだけの事が出来るとは、さすが魔法大国の王族だ」
 めったに言わないジンの褒め言葉がちょっと気色悪いものの、他者からも同じような視線を受けてエリオットは疲れながら有頂天。
「ナーッハッハ! あー、スッキリしたあ!」
 ルードのアジトをぶっ壊せなかったフラストレーションをここで発散したのだろう。逆に結果オーライかもしれない。
 むっひょ、むっひょ、むっひょおう……
 一回り小さくなったベスティンクスは鳴くばかりで、こちらを攻撃する素振りも見せない。
 その様子を見て、ジェイはある考察を口にする。
「むむ。もしや、あの巨大ベスティアは攻撃手段を持たないのでは?」
「うん? そんなことある?」
 ミチルが聞くと、やはり戦時中のぽんこつナイトは冴えていた。明解な論理を展開する。
「私の知るベスティアと言えば、形は違えど皆、獣のようなものだ。その攻撃手段は自ら襲いかかって、爪や牙などを使う。しかし、あの巨大ベスティアはあそこから微動だにしていない。あの手足で潰されたら我々などひとたまりもないが、そんな仕草も見られない」
 そう。ベスティンクスは、ミチルの知っているスフィンクス同様、飼い猫のような座り方のまま動いていなかった。
 ただ、うひょうひょと鳴くばかり。アルブスで見たベスティフォンは口から衝撃波を放ったが、その兆候も感じられなかった。
「あー……ピエンがやる気なかったから、かなあ?」
 ミチルの冗談みたいな感想が当たっているかはわからないが、ジェイの推論を聞いて、アニーが颯爽と前面に出た。
「ってことは、殴り放題ってことだな? それならとっととやっちまおう!」
 言いながらアニーは青いナイフを取り出した。それをひょいっと空に放ると、バラッと散って十六本に増える。
「申し訳ありません、お客様っ!」
 アニーの力が込められたナイフは規則正しい三角形の列を作って、浮きながら青い光を放っていた。
「定員オーバーです! 事前に人数をお知らせください!!」
 ナイフが形取る三角形が、まっすぐベスティンクスへ向かい、ぶっ刺さる。
 むっ、むっひょぉ……っ!
 ベスティンクスは悲しげな声で鳴いていた。
 一本に戻ったアニーのナイフがその手に戻る頃には、大きさがまた小さくなり、平家家屋ほどになっていた。
「ヒュー! やったぜ、また小さくなったじゃーん!」
 強がって喜んでいるけれど、アニーの顔にも疲労が色濃く出ていた。
「ふむ……ちょっと、身軽になってきていないか?」
 ジンの見立ては正しかった。ベスティンクスは質量を失った代わりに、それまで動かなかった手足がモゾモゾと伸ばせるようになっている。
「まさか、先生? このまま小さくしていったら、逆に危険ってこと……?」
 うひょぉ……
 うひょひょお……
 鳴き声も少し変わった気がした。今まではアホみたいな感じだったが、今は知性を感じる……ような気がする。
「ならば一気にケリをつけるッ!!」
 その様子を見たジェイはすぐさま青い大剣を振りかぶって、ベスティンクスへと走り出した。ジンの「あ、バカ!」という声は聞こえていない。
「うおおおおおッ!!」
 誉高き|カエルラ・ベラトール《蒼き戦士》の重たい一閃が、ベスティンクスを脳天から両断!
 あいつすげえジャンプ力だな、とかそんなことは言っていられない。
 ぎゃおおおっ!
 今までで一番「怪獣らしい」声が響いた。
 それは即ち、目の前の獣が「怪獣」レベルに達したということ。
 ベスティンクスは体から鱗が剥がれ落ちるように、外側がガラガラと崩れていった。その破片はすぐに黒い霧になって消える。
 うひょっ
 うぎょっ
 ギョギョッ!
 発する声もなんだか鋭くなっていくような……
 ギョ……ギュ……ギャ……
 ギャオオオオオッ!!
「うわぁああ!」
 ミチルは自分の予想が当たってしまったことに驚いて悲鳴をあげた。
 路線バスを立てたくらいの重量感。そんな感じの黒い獣……猫が立ったらこんなポーズかな? という物体が雄叫びを上げていた。
 ギニャオオオ!!
「むう……少し足りなかったか、無念」
 ベスティンクスを消し去り切れなかったジェイは残念そうに反省している。
「馬鹿者ォ! 余計に機動力と知能が増したではないかっ!」
 ニャーオニャーオと鳴きながら、短い後ろ足でジタバタ進もうとしているベスティンクスを見て、ジンが怒鳴った。
 結局、エリオット→アニー→ジェイの攻撃によって、ベスティンクスは立ち回れる体と知性を手に入れてしまった。
「だから貴様らは3バカなのだっ!!」
 慌てるジンの文句に、エリオットとアニーはぶうぶう反論する。
「なんだよ! ジンだってノープランだったろ!」
「なんでも試せばいいって言ったじゃん!」
 それを綺麗に無視して、ジンは先にベスティンクスの方へ駆け出した。
「バカ共、疲れている暇はないぞ! 全力であれを抑え込め!」
「……承知!」
 頭も体力もバカのジェイはすぐにジンの後を追った。それから渋々アニーとエリオットもダラダラ合流する。
「シウレン!」
 駆けながらジンはミチルを振り返った。
「我らがあれを抑えているうちに、ルークに武器を!」
「えっ!?」
「頼んだぞ、シウレン!!」
 毒舌師範のスパルタ無茶ぶり!
 武器っつったって……ねえ?
「ミ、ミチル? ぼく、どうすれば……?」
「さ、さあ……?」
 取り残されたミチルとルークは顔を見合わせて途方に暮れた。