37 ぼくのホコリは君
ー/ー ミチル達の前に形作られた影の獣、それはルークだったものだ。
狼型のベスティアは、何も映さない虚ろな瞳のまま、そこに佇んでいた。
「ルーク、狂化が……?」
マグノリアの表現は違う、とミチルは直感していた。
「ルーク? いつものヤツだよな? ミチルっこ、治せるんだろ?」
希望を込めて言うルードに、ミチルは頷けなかった。
ミチルは一度だけ、「狂化」と表現されるルークの姿を見たことがある。
ベスティアそっくりの真っ黒な狼犬だった。けれど、それは存在感があった。
目の前の獣にはそれがない。
真っ黒い体に、エメラルド色に光る瞳があった。
目の前の獣は、すでにどこが瞳なのかわからない。
「狂化」状態のルークはベスティアそっくりだけど、ベスティアとは似て非なるもの。
今、ミチルの目の前にいるのは、これまで遭遇してきたベスティアそのものだ。
「ふっふっふ……これは見もの。ベスティルークよ、親も兄も、仲間も! その牙で殺せっ!」
パオンは得意満面で影の獣に命令した。
ルークだった獣は、ミチル達を見据えて低く唸る。
「やれえ! ベスティルーク!」
「そんな名前で呼ぶな!!」
けしかけようとしたパオンの声は、ミチルの大声でかき消された。
「ミチル!?」
ジェイとアニーの手を振り解いて、ミチルは一歩前に出る。
様子、いや、気迫がいつものミチルではなかった。
「あれはルークだ! 変な名前で呼んでんじゃねえ!」
怒りながら叫ぶ、その瞳が蒼く輝いている。
「ミチル……?」
ジェイもアニーもエリオットもジンも。
その蒼い輝きに目を見張る。全てを投げ出して跪きたくなる、そんな感覚で動けなくなった。
「ルーク……オレだよ、ミチル」
「ウウゥ……」
ミチルはベスティア化したルークに近づいて声をかける。
昂った気持ちを懸命に抑えて、できるだけいつものように。
「ねえ、ルーク。わかるよね? ミチルだよ」
「ウ、ウグァ……ガァッ!」
黒い獣は戸惑いを見せるも、ミチルに敵意を向けていた。
「ミチル、戻れ!」
「危険だ、ミチル!」
口々に叫ぶイケメン達の制止を振り切って、ミチルは叫んだ。
「危険なんかない! あれはルーくんだから!」
その瞳がいっそう眩い蒼の光を放つ。
「サ、サケル・プピラ……」
その迫力に、司教パオンは思わず膝をついた。
「魔教会がルークにしたこと、オレは絶対許さない!」
ミチルはそう叫んだ後、黒い獣に向かって駆け寄った。
ルーク!
ルーくん!
「ガァアアッ!」
影の魔物は大きく口を開けて牙を剥いていた。
「ミチルー!!」
イケメン達の声が遠く聞こえる。
ごめんね、みんな。心配かけて。
でも危険なんてない。だってこれはルークなんだから。
「ルークゥ!!」
ミチルは手を伸ばす。
暗闇の中、迷子になってしまったルークに向けて。
「一緒に行こう!」
これはさっきの続き。ルークはあの時、手を伸ばしてくれた。
これからはずっと一緒だよって手を繋ぐはずだったんだ。
「ずっと、一緒だよ……」
こんなちっぽけなオレでも、キミの光になれるなら。
いつだってキミを抱きしめるよ。
「ルーくん……っ!」
ミチルは夢中でその首元にしがみついた。
その体は影でなく、そこに実体がちゃんとあった。
あったかい……
ルークと同じ、あったかさだ。
「まさか……影であるベスティアに触れた、だと……?」
パオンは膝をつきながら、その光景を見ていた。
確かにミチルが狼型ベスティアにしっかりと抱きついている。
「クゥン……」
ルークだった獣は大人しくなってミチルに鼻先を寄せる。
ミチルの腕は金色の首輪をも抱え込んでいた。
首輪の数カ所にヒビが入る。ピシ、ピシと音を立てて割れ始めた。
やがてそれは砕け、金色の砂になって獣とミチルを包んだ。
ラーウスの砂漠の、誇り高き風がその粒を運ぶように、風に乗って舞い上がる。
ミチルは風の中、砂が目に入らないようにぎゅっと閉じていた。
腕の中に、よく知っている温かさが戻った気がした。
「……ミチル」
耳元でも、よく知っている声が聞こえる。
「ルーク……?」
ミチルはゆっくりと目を開けた。そこには元の姿に戻ったルークがミチルの手を取っていた。
「ミチル、見つけてくれて、ありがとう」
優しい笑顔も、元の通り、すぐ側にある。
「ルー……くぅん……!」
涙が滲む。砂が目に入ったかな。
そんなミチルの涙をルークはその指先でそっと拭った。
それから、頬に唇を寄せて囁くように口付ける。
「ミチル、大好き……」
「にゃあぁ……!」
待って、腰砕けちゃう!
ピンチを乗り越えたカラダが熱いのぉ!
ラブラブの熱を発する二人を遠巻きに見つめる他四人の心中は察するに余りある。
「おい、今、おれ達は何歩リードされたんだ?」
「むむ、胸が焦げるが、今は致し方ない……」
「シウレン、立派だ。立派だが、儂は寂しいッ!」
「くっそぉ、次は俺が闇堕ちしてやるんだからなぁ!」
おかえり、ルーク……♡
狼型のベスティアは、何も映さない虚ろな瞳のまま、そこに佇んでいた。
「ルーク、狂化が……?」
マグノリアの表現は違う、とミチルは直感していた。
「ルーク? いつものヤツだよな? ミチルっこ、治せるんだろ?」
希望を込めて言うルードに、ミチルは頷けなかった。
ミチルは一度だけ、「狂化」と表現されるルークの姿を見たことがある。
ベスティアそっくりの真っ黒な狼犬だった。けれど、それは存在感があった。
目の前の獣にはそれがない。
真っ黒い体に、エメラルド色に光る瞳があった。
目の前の獣は、すでにどこが瞳なのかわからない。
「狂化」状態のルークはベスティアそっくりだけど、ベスティアとは似て非なるもの。
今、ミチルの目の前にいるのは、これまで遭遇してきたベスティアそのものだ。
「ふっふっふ……これは見もの。ベスティルークよ、親も兄も、仲間も! その牙で殺せっ!」
パオンは得意満面で影の獣に命令した。
ルークだった獣は、ミチル達を見据えて低く唸る。
「やれえ! ベスティルーク!」
「そんな名前で呼ぶな!!」
けしかけようとしたパオンの声は、ミチルの大声でかき消された。
「ミチル!?」
ジェイとアニーの手を振り解いて、ミチルは一歩前に出る。
様子、いや、気迫がいつものミチルではなかった。
「あれはルークだ! 変な名前で呼んでんじゃねえ!」
怒りながら叫ぶ、その瞳が蒼く輝いている。
「ミチル……?」
ジェイもアニーもエリオットもジンも。
その蒼い輝きに目を見張る。全てを投げ出して跪きたくなる、そんな感覚で動けなくなった。
「ルーク……オレだよ、ミチル」
「ウウゥ……」
ミチルはベスティア化したルークに近づいて声をかける。
昂った気持ちを懸命に抑えて、できるだけいつものように。
「ねえ、ルーク。わかるよね? ミチルだよ」
「ウ、ウグァ……ガァッ!」
黒い獣は戸惑いを見せるも、ミチルに敵意を向けていた。
「ミチル、戻れ!」
「危険だ、ミチル!」
口々に叫ぶイケメン達の制止を振り切って、ミチルは叫んだ。
「危険なんかない! あれはルーくんだから!」
その瞳がいっそう眩い蒼の光を放つ。
「サ、サケル・プピラ……」
その迫力に、司教パオンは思わず膝をついた。
「魔教会がルークにしたこと、オレは絶対許さない!」
ミチルはそう叫んだ後、黒い獣に向かって駆け寄った。
ルーク!
ルーくん!
「ガァアアッ!」
影の魔物は大きく口を開けて牙を剥いていた。
「ミチルー!!」
イケメン達の声が遠く聞こえる。
ごめんね、みんな。心配かけて。
でも危険なんてない。だってこれはルークなんだから。
「ルークゥ!!」
ミチルは手を伸ばす。
暗闇の中、迷子になってしまったルークに向けて。
「一緒に行こう!」
これはさっきの続き。ルークはあの時、手を伸ばしてくれた。
これからはずっと一緒だよって手を繋ぐはずだったんだ。
「ずっと、一緒だよ……」
こんなちっぽけなオレでも、キミの光になれるなら。
いつだってキミを抱きしめるよ。
「ルーくん……っ!」
ミチルは夢中でその首元にしがみついた。
その体は影でなく、そこに実体がちゃんとあった。
あったかい……
ルークと同じ、あったかさだ。
「まさか……影であるベスティアに触れた、だと……?」
パオンは膝をつきながら、その光景を見ていた。
確かにミチルが狼型ベスティアにしっかりと抱きついている。
「クゥン……」
ルークだった獣は大人しくなってミチルに鼻先を寄せる。
ミチルの腕は金色の首輪をも抱え込んでいた。
首輪の数カ所にヒビが入る。ピシ、ピシと音を立てて割れ始めた。
やがてそれは砕け、金色の砂になって獣とミチルを包んだ。
ラーウスの砂漠の、誇り高き風がその粒を運ぶように、風に乗って舞い上がる。
ミチルは風の中、砂が目に入らないようにぎゅっと閉じていた。
腕の中に、よく知っている温かさが戻った気がした。
「……ミチル」
耳元でも、よく知っている声が聞こえる。
「ルーク……?」
ミチルはゆっくりと目を開けた。そこには元の姿に戻ったルークがミチルの手を取っていた。
「ミチル、見つけてくれて、ありがとう」
優しい笑顔も、元の通り、すぐ側にある。
「ルー……くぅん……!」
涙が滲む。砂が目に入ったかな。
そんなミチルの涙をルークはその指先でそっと拭った。
それから、頬に唇を寄せて囁くように口付ける。
「ミチル、大好き……」
「にゃあぁ……!」
待って、腰砕けちゃう!
ピンチを乗り越えたカラダが熱いのぉ!
ラブラブの熱を発する二人を遠巻きに見つめる他四人の心中は察するに余りある。
「おい、今、おれ達は何歩リードされたんだ?」
「むむ、胸が焦げるが、今は致し方ない……」
「シウレン、立派だ。立派だが、儂は寂しいッ!」
「くっそぉ、次は俺が闇堕ちしてやるんだからなぁ!」
おかえり、ルーク……♡
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