29 イケメン達のミチル談義−暗鬼

ー/ー



 ミチルのために、最善を尽くす。
 それはこの場にいる全員一致の気持ちである。

 では、ミチルのための最善とは?
 ジンの場合は脅威を取り除くことだ。それがたとえミチルを傷つけるとしても。


 
「……おおよその話は先日聞いたが、貴様は我らに比べて決定的なものがない」

「何ですか、それ?」

 ルークは細心の注意を払ってジンと対峙していた。
 弱みを見せたら、この年長者にはあっという間に論破されてしまう。
 何を言われても、ミチルに対して引くわけにはいかないのだ。

「おい、3バカ。あれを出せ」

 まだすったもんだしているジェイ、アニー、エリオットにジンが命じた。

「あれとは何だ?」

 ジェイの察しが悪いのは当然として。

「このぽんこつが。あれっつったら、あの石だろ」

「そうか! デスティニー・ストーン!」

「そんな恥ずかしい名前で呼ぶな! 妄想癖つよつよホストめ!」

 石ひとつ出すにもこの調子であるので、3バカの形容は正しい。
 エリオットに突っ込まれながら、ジェイとアニーはポケットから各自の持つ青い石を取り出した。

「この石が、何ですか?」

 ルークの問いに、自らの青い石を取り出して見せてからジンは答えた。

「我らは皆、シウレンと出会って特殊なベスティアと戦った。これはそのベスティアを倒した際に残された、シウレンとの絆を象徴する石だ」

「そんな、石が……?」

 ルークは驚きながら、ジンの手の中の青い石を凝視した。

「なんだか、見ていると、心がザワザワします……」

 その発言に、ジンは人知れず注目した。何かを感じたという事は、少なからず「見込みがある」という事だ。
 だが、まだだ。決定的なものが、ルークには足りない。

「更に、我らはベスティアと戦った時、己の武器をシウレンによって再生、強化されている。それによって通常の武器では倒せない影の魔物を倒すことが出来たのだ」

 ジンはそう言って、袖をまくって青く光る腕輪をルークに見せた。

「儂は、この腕輪だ」

 ジンに倣って、イケメン三人もそれぞれ己の武器を取り出す。
 ジェイは青い大剣、アニーは青い刃のナイフ、エリオットは青い宝珠のセプターをルークに見せた。

「青い武器と、青い石。これらが揃ってはじめて、シウレンと絆を結んだ男であると言えるのだ」

「そんなものが、あったんですね……」

 消沈するルークに、エリオットは少し得意げに聞く。

「お前は? あるのか、これが?」

「ぼく、ないです。ベスティア、見たことも、ない……」

「ふっふぅ! それじゃあ、『ミチルのオトコ』は名乗れないぜえ?」
 
 優位な立場を見せることで、新たなライバルを潰すことに舵を切ったエリオットに、空気の読めないジェイが反論した。

「だが、すでにミチルは彼をかなり信用している様だが」

「んだと、ジェイ! 邪魔すんな!」

 振り返ってガルルと唸るエリオットに、アニーも釘を刺すように言う。

「そうだなあ。武器とか石とかよりもさあ、ミチルの気持ちが大事なんじゃないの? ミチルがこのお坊ちゃんに何かを感じたって言うなら、可能性はかなり高いだろ。悔しいけどさあ」

「アニーまで! ああ、そうかよ、お前達二人はミチルと付き合いが長いもんなあ! チッキショー!」

 どこに怒りをぶちまけたらいいのか。エリオットは天井を仰いで悔しがっていた。
 しかし、百戦錬磨のジンはまだ食い下がる。

「……儂は、貴様らのように楽観はしていない」

 努めて冷静な声で、ジンが己に課した厳しい理念に基づいた意見を披露する。

「我らはこれからチルクサンダー魔教会とやらの拠点に殴り込むのだ。ルードの見立てによれば、帝国は魔教会の入れ知恵によってベスティアを操っている。つまり魔教会と戦うことは、ベスティアと戦うという事だ。その力を持たないコイツを前線に出してどうする。死ぬぞ。一緒に戦う我らもな。そんな事をシウレンが望むか?」

「ええ? 作戦だと俺達は後方支援だろ?」

 アニーが首を傾げていると、ジンはジロリと睨んで言った。

「確かにあの場では王子の提案は悪くなかった。だが、貴様らは戦を知らないだろう。我らが参戦するのは軍隊同士の正式な戦争ではない。反乱軍は軍隊ほどの統制は見込めない、必ず乱戦になる。ルードは恐らくそれに気づいている。だから快諾したのだ。出してしまえばこっちのものだとな」

「では、どうすると? こっそり私達だけでミチルを連れて逃げるのか?」

 ジェイがそう聞くと、ジンは軽く首を振って答えた。

「いや、シウレン本人がその気になっているから、参戦は避けられない。ただ、不安分子……力のない邪魔者はここに置いていくべきだろう」

「嫌です! ぼくも、戦います!」

 声を張り上げたルークに向かって、ジンは冷酷な言葉を投げた。

「何の訓練も受けていない、御曹司の貴様がか?」

「……!」

 図星を刺されたルークは、何も言えなくなってしまった。
 しかしそこに一筋の光? アニーの一声が届く。

「ふうん、で? それをミチルにどう説明すんの?」

「今言ったままを言うしかなかろう」

 ジンが目を閉じてそう言うと、アニーはニヤと笑って言った。

「ミチルは納得しないだろうなあ。だってこの反乱はこいつの家が起こすんだぜ? 弱かろうがなかろうが、こいつは戦う義務がある」

「だから、こいつを我らの陣に加えたら総崩れになると言ったろうが。シウレンの身を守るためだ」

 そこにミチルの同意がなくても、ジンはミチルの安全のためと説く。たとえミチルが嫌がろうとも。
 ジンは己を律し、憎まれてもそうするつもりだった。

「そんなこと言ったらミチルに嫌われんぞ? 『ルークを仲間外れにするなんて、先生、キライ!』って言われちゃうんじゃない?」

「ぐ……」

 アニーにミチルの言うであろう言葉を具体化されて、ジンの決心が揺らいだ。

「確かに言いそうだ」

「絶対言うな。ああ見えてミチルは怒ると怖いからなあ」

 ジェイとエリオットも続けてそんな事を言った。
 それでジンの脳裏には、ミチルに嫌われる妄想が生々しく駆け巡る。

「ぬぬぬ……」

『先生なんてキライ! もう、おしり触らせてあげないっ!』

「イヤだあああ! シウレンに嫌われたら儂は生きていけなぃいい!!」

 ミチルのあらぬ妄想に、毒舌師範は完全敗北した。

「──ほらな」

 アニーは呆れて、その場で泣き崩れる年長者を眺めていた。

「出来もしないことを考えるから……」

 ぽんこつのジェイにまで呆れられたら、もう終わりである。

「大丈夫、ぼく、いざとなったら、戦える方法、あります!」

 両腕を構えてやる気を見せるルークだったが、エリオットの不安は消えなかった。
 ルークがミチルの直感通り、自分達と同等の存在だったなら。
 逆説的に考えると、そうなる瞬間が今後必ず訪れるという事だ。

 ケルベロスティア、ワイルドボアーティア、ベスティフォン、ベスティガー、いずれも強力な特殊タイプのベスティアだった。
 そんな新たなベスティアが、目の前に現れるのではないか……

 エリオットはその不安を、まだ皆に言えずにいた。


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次のエピソードへ進む 30 決戦前夜〜温もりが欲しい


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 ミチルのために、最善を尽くす。
 それはこの場にいる全員一致の気持ちである。
 では、ミチルのための最善とは?
 ジンの場合は脅威を取り除くことだ。それがたとえミチルを傷つけるとしても。
「……おおよその話は先日聞いたが、貴様は我らに比べて決定的なものがない」
「何ですか、それ?」
 ルークは細心の注意を払ってジンと対峙していた。
 弱みを見せたら、この年長者にはあっという間に論破されてしまう。
 何を言われても、ミチルに対して引くわけにはいかないのだ。
「おい、3バカ。あれを出せ」
 まだすったもんだしているジェイ、アニー、エリオットにジンが命じた。
「あれとは何だ?」
 ジェイの察しが悪いのは当然として。
「このぽんこつが。あれっつったら、あの石だろ」
「そうか! デスティニー・ストーン!」
「そんな恥ずかしい名前で呼ぶな! 妄想癖つよつよホストめ!」
 石ひとつ出すにもこの調子であるので、3バカの形容は正しい。
 エリオットに突っ込まれながら、ジェイとアニーはポケットから各自の持つ青い石を取り出した。
「この石が、何ですか?」
 ルークの問いに、自らの青い石を取り出して見せてからジンは答えた。
「我らは皆、シウレンと出会って特殊なベスティアと戦った。これはそのベスティアを倒した際に残された、シウレンとの絆を象徴する石だ」
「そんな、石が……?」
 ルークは驚きながら、ジンの手の中の青い石を凝視した。
「なんだか、見ていると、心がザワザワします……」
 その発言に、ジンは人知れず注目した。何かを感じたという事は、少なからず「見込みがある」という事だ。
 だが、まだだ。決定的なものが、ルークには足りない。
「更に、我らはベスティアと戦った時、己の武器をシウレンによって再生、強化されている。それによって通常の武器では倒せない影の魔物を倒すことが出来たのだ」
 ジンはそう言って、袖をまくって青く光る腕輪をルークに見せた。
「儂は、この腕輪だ」
 ジンに倣って、イケメン三人もそれぞれ己の武器を取り出す。
 ジェイは青い大剣、アニーは青い刃のナイフ、エリオットは青い宝珠のセプターをルークに見せた。
「青い武器と、青い石。これらが揃ってはじめて、シウレンと絆を結んだ男であると言えるのだ」
「そんなものが、あったんですね……」
 消沈するルークに、エリオットは少し得意げに聞く。
「お前は? あるのか、これが?」
「ぼく、ないです。ベスティア、見たことも、ない……」
「ふっふぅ! それじゃあ、『ミチルのオトコ』は名乗れないぜえ?」
 優位な立場を見せることで、新たなライバルを潰すことに舵を切ったエリオットに、空気の読めないジェイが反論した。
「だが、すでにミチルは彼をかなり信用している様だが」
「んだと、ジェイ! 邪魔すんな!」
 振り返ってガルルと唸るエリオットに、アニーも釘を刺すように言う。
「そうだなあ。武器とか石とかよりもさあ、ミチルの気持ちが大事なんじゃないの? ミチルがこのお坊ちゃんに何かを感じたって言うなら、可能性はかなり高いだろ。悔しいけどさあ」
「アニーまで! ああ、そうかよ、お前達二人はミチルと付き合いが長いもんなあ! チッキショー!」
 どこに怒りをぶちまけたらいいのか。エリオットは天井を仰いで悔しがっていた。
 しかし、百戦錬磨のジンはまだ食い下がる。
「……儂は、貴様らのように楽観はしていない」
 努めて冷静な声で、ジンが己に課した厳しい理念に基づいた意見を披露する。
「我らはこれからチルクサンダー魔教会とやらの拠点に殴り込むのだ。ルードの見立てによれば、帝国は魔教会の入れ知恵によってベスティアを操っている。つまり魔教会と戦うことは、ベスティアと戦うという事だ。その力を持たないコイツを前線に出してどうする。死ぬぞ。一緒に戦う我らもな。そんな事をシウレンが望むか?」
「ええ? 作戦だと俺達は後方支援だろ?」
 アニーが首を傾げていると、ジンはジロリと睨んで言った。
「確かにあの場では王子の提案は悪くなかった。だが、貴様らは戦を知らないだろう。我らが参戦するのは軍隊同士の正式な戦争ではない。反乱軍は軍隊ほどの統制は見込めない、必ず乱戦になる。ルードは恐らくそれに気づいている。だから快諾したのだ。出してしまえばこっちのものだとな」
「では、どうすると? こっそり私達だけでミチルを連れて逃げるのか?」
 ジェイがそう聞くと、ジンは軽く首を振って答えた。
「いや、シウレン本人がその気になっているから、参戦は避けられない。ただ、不安分子……力のない邪魔者はここに置いていくべきだろう」
「嫌です! ぼくも、戦います!」
 声を張り上げたルークに向かって、ジンは冷酷な言葉を投げた。
「何の訓練も受けていない、御曹司の貴様がか?」
「……!」
 図星を刺されたルークは、何も言えなくなってしまった。
 しかしそこに一筋の光? アニーの一声が届く。
「ふうん、で? それをミチルにどう説明すんの?」
「今言ったままを言うしかなかろう」
 ジンが目を閉じてそう言うと、アニーはニヤと笑って言った。
「ミチルは納得しないだろうなあ。だってこの反乱はこいつの家が起こすんだぜ? 弱かろうがなかろうが、こいつは戦う義務がある」
「だから、こいつを我らの陣に加えたら総崩れになると言ったろうが。シウレンの身を守るためだ」
 そこにミチルの同意がなくても、ジンはミチルの安全のためと説く。たとえミチルが嫌がろうとも。
 ジンは己を律し、憎まれてもそうするつもりだった。
「そんなこと言ったらミチルに嫌われんぞ? 『ルークを仲間外れにするなんて、先生、キライ!』って言われちゃうんじゃない?」
「ぐ……」
 アニーにミチルの言うであろう言葉を具体化されて、ジンの決心が揺らいだ。
「確かに言いそうだ」
「絶対言うな。ああ見えてミチルは怒ると怖いからなあ」
 ジェイとエリオットも続けてそんな事を言った。
 それでジンの脳裏には、ミチルに嫌われる妄想が生々しく駆け巡る。
「ぬぬぬ……」
『先生なんてキライ! もう、おしり触らせてあげないっ!』
「イヤだあああ! シウレンに嫌われたら儂は生きていけなぃいい!!」
 ミチルのあらぬ妄想に、毒舌師範は完全敗北した。
「──ほらな」
 アニーは呆れて、その場で泣き崩れる年長者を眺めていた。
「出来もしないことを考えるから……」
 ぽんこつのジェイにまで呆れられたら、もう終わりである。
「大丈夫、ぼく、いざとなったら、戦える方法、あります!」
 両腕を構えてやる気を見せるルークだったが、エリオットの不安は消えなかった。
 ルークがミチルの直感通り、自分達と同等の存在だったなら。
 逆説的に考えると、そうなる瞬間が今後必ず訪れるという事だ。
 ケルベロスティア、ワイルドボアーティア、ベスティフォン、ベスティガー、いずれも強力な特殊タイプのベスティアだった。
 そんな新たなベスティアが、目の前に現れるのではないか……
 エリオットはその不安を、まだ皆に言えずにいた。