25 世界の教会

ー/ー



 独立宗教国家ペルスピコーズ。チルチル神教の総本山である。その頂点にいるのが、世界の宗教観統一を勧めている法皇だ。

「あのさあ、そのペルピッ……法皇の国はさあ、カエルラ=プルーマで一番偉いってこと?」

 ミチルが舌を噛みそうになりながら聞くと、エリオットはまたも複雑な顔で答える。

「政治的な意味なら、権力はほとんどない。あそこは諸外国に対して政治を一切しないし、立場も完全に中立。国なんて言っちゃあいるが、ばかでかい教会だと思った方がいいぜ」

「世界の教会、いうことですか?」

 ルークがそう聞くと、エリオットは大きく頷いた。

「そうだな、ペルスピコーズは世界の教会になろうとしてる団体だ。アルブスやカエルレウム周辺の西大陸はだいたいが法皇の信者になってる。だから、その国に対してなら、法皇は絶大な発言権を持ってんだ」

「フラーウムではあまりペルスピコーズの影響がまだない。文化も生活様式も西とはだいぶ違うから、チルチル神教という教えは浸透しにくいのだろう」

 ジンが自国の現状を述べると、すっかり興奮しているルードが付け足した。

「それもあるけど、フラーウムにモーションかけるにはアーテル帝国を飛び越えなくちゃならない。ペルスピコーズとアーテルは水と油だからな。邪魔されて東側の国にはなかなか布教できないようだ」

「……貴様、詳しいな」

 ジンが顔を上げてそう言うと、ルードはニヤリと笑って更に言った。

「これでも色んな国を飛び回ってるんでね。フラーウムは、ペルスピコーズからの使者とアーテル帝国からの圧力に挟まれて、皇帝サンはだいぶ参ってるって噂だ」

「何、それは本当か?」

 ジンはらしくない焦りの表情を見せた。元々、皇帝謁見のために皆で旅に出たのだから当然だ。順当に行けば、皇帝の所でそのような現状を教えられたはずである。

「先生、ごめんなさい。オレがくしゃみしちゃったから……」

 ミチルがシュンと落ち込んでいると、ジンは顔を上げて真面目な顔で言った。

「何を言う、シウレンのせいではない。お前はきっとこの世界の運命に導かれているのだろう。我らはその運命共同体なのだ」

 話が大きいなあ……
 ミチルは自分がそんな存在だと思いたくはないのだけれど、ジンが気を遣って言ってくれた事をまぜっ返すことは出来なかった。


 
「あのさあ、ルブルムは法皇とか帝国とか、どっちも知らないけど?」

 アニーが聞くと、ルードが薄く笑いながら答えた。

「南の大陸は広い海を隔ててるからな。そんな田舎まではまだ手が伸びてないんだろ。まあ、時間の問題って気もするが」

「田舎だと!? ぐぬぬ……」

 悔しがるアニーを置いて、エリオットが持論を交えながら付け足した。

「仮にルブルムに布教していくなら、チルクサンダー魔教が帝国の力を借りて乗り込む方が早いだろうな。法皇はさ、一応平和主義だから性急なことはしねえんだ。ゆっくりチルチル神教を世界に広めていく──それこそ、何千年とかの範囲で考えてる気が長い連中だからさ」

「それなら帝国が先にルブルムを掌握してしまうのでは?」

 ジェイがそう聞くと、エリオットは溜息混じりに頷いた。

「まあな。だから法皇は、いっそうアーテル帝国に睨みをきかせて牽制してると思うぜ。その睨み合いがだいぶ煮詰まってきちまったから、帝国側がベスティアを西大陸に送り込んでるのかもな」

「そうなんだよ! 粗暴な王子かと思ったら、ヤルじゃねえか!」

 するとルードが更に興奮してエリオットに迫った。革命家を語る男の熱は強く、さすがの小悪魔プリンスも少し怯む。

「な、なんだよ……」

「ペルスピコーズに対抗して、アーテル帝国はベスティアを、特にチルチル神教の教えに厚い国に送り込んでる! それで西大陸を混乱させながら動けなくして、まだチルチル神教に染まっていない東や南の大陸に侵攻するつもりなんだ!」

「へえー、そうなのか。よく調べたな。裏は取れてるんだろうな?」

 わざと棒読みでエリオットがそう聞くと、意外にもルードはキョトンとして首を振った。

「いや? 証拠とかはないけど」

「……だと思った。ふざけんなよ、オメー」

 エリオットが予定調和で怒る。冷静に考えて、たいした権力がない区長の息子にそんな事がわかるはずがないと思っていたら案の定だったのだ。

「だが、世界を飛び回って見た状況がそれを物語ってる! 何より、シャントリエリだったら絶対そうするに決まってんだ!」

 胸を張って断言するルードに、エリオットは呆れてしまっていた。こんな適当な革命に手を貸してしまっていいのか、と考える。


 
「シャントリ……?」

 また出てきた知らない単語。ミチルがルークに聞くと、ルークも神妙な顔で答えた。

「アーテルの、皇帝の名前だよ。ラーウスの人間なら、今の兄さんの話、頷ける。シャントリエリなら、やりかねない」

「そうなんだ……めっちゃ悪の親玉っぽいじゃん」

「その通りだ、弟嫁よ!」

 ミチルの呟きに、ルードが大袈裟に反応する。更に「弟嫁」というワードにイケメン四人が過剰反応して、場の空気は一気にどす黒くなった。

「シャントリエリこそ、悪の根源! あいつが皇帝になってから、我がラーウスは隷属の辛酸を舐め続けている! 我々は今こそ立ち上がり、帝国から脱却するんだ! その前哨戦として、帝国の知恵袋たるチルクサンダー魔教をぶっ潰す!!」

「おお、ではまず、魔教会に戦闘を仕掛けると言うのだな、我が息子よ!」

 長男の堂々とした演説に、父親だけがノリノリだった。
 その陰で、ジンとエリオットが顔を寄せ合って相談していた。

「……王子よ、どう思う?」

「んー、地元民の闘争なんて知らねえよ。俺たちは後ろで見学しながら、魔教会と帝国の情報だけもらおうぜ」

「だな。それがいい」

 しかし、そんな二人の目論見は泡と消える。

「何てったって、こっちにはカリシムス(仮)が五人もいて、セイソン様(仮)もついてるからなあ! 聖人が六人も揃った聖戦なんだ、勝ちは既に見えてるっ!」

 高らかに笑うルードに、エリオットもジンも焦った。

「ハア!? おれ達を旗頭にするつもりか?」

「ふざけるな、何が聖戦だ! 危険過ぎる!」

 えーっと、なんか、カリカリ言うてましたけども。
 ……結局、どういうこと?

 ミチルは自分が置かれつつある危機的状況が、まだよくわからなかった。


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「あのさあ、そのペルピッ……法皇の国はさあ、カエルラ=プルーマで一番偉いってこと?」
 ミチルが舌を噛みそうになりながら聞くと、エリオットはまたも複雑な顔で答える。
「政治的な意味なら、権力はほとんどない。あそこは諸外国に対して政治を一切しないし、立場も完全に中立。国なんて言っちゃあいるが、ばかでかい教会だと思った方がいいぜ」
「世界の教会、いうことですか?」
 ルークがそう聞くと、エリオットは大きく頷いた。
「そうだな、ペルスピコーズは世界の教会になろうとしてる団体だ。アルブスやカエルレウム周辺の西大陸はだいたいが法皇の信者になってる。だから、その国に対してなら、法皇は絶大な発言権を持ってんだ」
「フラーウムではあまりペルスピコーズの影響がまだない。文化も生活様式も西とはだいぶ違うから、チルチル神教という教えは浸透しにくいのだろう」
 ジンが自国の現状を述べると、すっかり興奮しているルードが付け足した。
「それもあるけど、フラーウムにモーションかけるにはアーテル帝国を飛び越えなくちゃならない。ペルスピコーズとアーテルは水と油だからな。邪魔されて東側の国にはなかなか布教できないようだ」
「……貴様、詳しいな」
 ジンが顔を上げてそう言うと、ルードはニヤリと笑って更に言った。
「これでも色んな国を飛び回ってるんでね。フラーウムは、ペルスピコーズからの使者とアーテル帝国からの圧力に挟まれて、皇帝サンはだいぶ参ってるって噂だ」
「何、それは本当か?」
 ジンはらしくない焦りの表情を見せた。元々、皇帝謁見のために皆で旅に出たのだから当然だ。順当に行けば、皇帝の所でそのような現状を教えられたはずである。
「先生、ごめんなさい。オレがくしゃみしちゃったから……」
 ミチルがシュンと落ち込んでいると、ジンは顔を上げて真面目な顔で言った。
「何を言う、シウレンのせいではない。お前はきっとこの世界の運命に導かれているのだろう。我らはその運命共同体なのだ」
 話が大きいなあ……
 ミチルは自分がそんな存在だと思いたくはないのだけれど、ジンが気を遣って言ってくれた事をまぜっ返すことは出来なかった。
「あのさあ、ルブルムは法皇とか帝国とか、どっちも知らないけど?」
 アニーが聞くと、ルードが薄く笑いながら答えた。
「南の大陸は広い海を隔ててるからな。そんな田舎まではまだ手が伸びてないんだろ。まあ、時間の問題って気もするが」
「田舎だと!? ぐぬぬ……」
 悔しがるアニーを置いて、エリオットが持論を交えながら付け足した。
「仮にルブルムに布教していくなら、チルクサンダー魔教が帝国の力を借りて乗り込む方が早いだろうな。法皇はさ、一応平和主義だから性急なことはしねえんだ。ゆっくりチルチル神教を世界に広めていく──それこそ、何千年とかの範囲で考えてる気が長い連中だからさ」
「それなら帝国が先にルブルムを掌握してしまうのでは?」
 ジェイがそう聞くと、エリオットは溜息混じりに頷いた。
「まあな。だから法皇は、いっそうアーテル帝国に睨みをきかせて牽制してると思うぜ。その睨み合いがだいぶ煮詰まってきちまったから、帝国側がベスティアを西大陸に送り込んでるのかもな」
「そうなんだよ! 粗暴な王子かと思ったら、ヤルじゃねえか!」
 するとルードが更に興奮してエリオットに迫った。革命家を語る男の熱は強く、さすがの小悪魔プリンスも少し怯む。
「な、なんだよ……」
「ペルスピコーズに対抗して、アーテル帝国はベスティアを、特にチルチル神教の教えに厚い国に送り込んでる! それで西大陸を混乱させながら動けなくして、まだチルチル神教に染まっていない東や南の大陸に侵攻するつもりなんだ!」
「へえー、そうなのか。よく調べたな。裏は取れてるんだろうな?」
 わざと棒読みでエリオットがそう聞くと、意外にもルードはキョトンとして首を振った。
「いや? 証拠とかはないけど」
「……だと思った。ふざけんなよ、オメー」
 エリオットが予定調和で怒る。冷静に考えて、たいした権力がない区長の息子にそんな事がわかるはずがないと思っていたら案の定だったのだ。
「だが、世界を飛び回って見た状況がそれを物語ってる! 何より、シャントリエリだったら絶対そうするに決まってんだ!」
 胸を張って断言するルードに、エリオットは呆れてしまっていた。こんな適当な革命に手を貸してしまっていいのか、と考える。
「シャントリ……?」
 また出てきた知らない単語。ミチルがルークに聞くと、ルークも神妙な顔で答えた。
「アーテルの、皇帝の名前だよ。ラーウスの人間なら、今の兄さんの話、頷ける。シャントリエリなら、やりかねない」
「そうなんだ……めっちゃ悪の親玉っぽいじゃん」
「その通りだ、弟嫁よ!」
 ミチルの呟きに、ルードが大袈裟に反応する。更に「弟嫁」というワードにイケメン四人が過剰反応して、場の空気は一気にどす黒くなった。
「シャントリエリこそ、悪の根源! あいつが皇帝になってから、我がラーウスは隷属の辛酸を舐め続けている! 我々は今こそ立ち上がり、帝国から脱却するんだ! その前哨戦として、帝国の知恵袋たるチルクサンダー魔教をぶっ潰す!!」
「おお、ではまず、魔教会に戦闘を仕掛けると言うのだな、我が息子よ!」
 長男の堂々とした演説に、父親だけがノリノリだった。
 その陰で、ジンとエリオットが顔を寄せ合って相談していた。
「……王子よ、どう思う?」
「んー、地元民の闘争なんて知らねえよ。俺たちは後ろで見学しながら、魔教会と帝国の情報だけもらおうぜ」
「だな。それがいい」
 しかし、そんな二人の目論見は泡と消える。
「何てったって、こっちにはカリシムス(仮)が五人もいて、セイソン様(仮)もついてるからなあ! 聖人が六人も揃った聖戦なんだ、勝ちは既に見えてるっ!」
 高らかに笑うルードに、エリオットもジンも焦った。
「ハア!? おれ達を旗頭にするつもりか?」
「ふざけるな、何が聖戦だ! 危険過ぎる!」
 えーっと、なんか、カリカリ言うてましたけども。
 ……結局、どういうこと?
 ミチルは自分が置かれつつある危機的状況が、まだよくわからなかった。