11 大事な真実

ー/ー



 世界の創造神・チル神は、人類の危機に際して度々その眷属(カミ)を降臨させた。
 ある時は美しい男、またある時は美しい女。総称をプルケリマと言う。
 プルケリマは人の世界に交わり、人とともに世界を救う。
 交わった証であるプルケリマの子・チルチルは、人の世界に残り繁栄していった。
 
 中には人の世界に長くいすぎたプルケリマも存在する。伴侶と交わり続け、複数の子を成す者がいた。
 チル神は、天の血筋を多く人の世界に残すことを許さなかった。
 長子以外を残して、プルケリマは他の子とともに天界に送還される。

 人の血が混じったプルケリマの次子は、総じてチルクサンダーと呼ばれ、天界で迫害を受けた。
 カミの世界に人との雑種は存在するべきではないと、チルクサンダーは天界を追放される。

 チルクサンダーはひっそりと再び人の世界に降臨すれども、闇の中に閉じこもった。
 血をわけた長子、チルチルと呼ばれるその者は、人の世界でカミの子として光の中にある。

 生まれた順番が違うだけで、真逆の運命を背負ったチルチルとチルクサンダー。
 闇の中でチルクサンダーは思う。
 カミとは人の世界に「降臨」せし者。ならば、私にもカミたる資格があるはずだ……




 パオン司教は、そんな壮大な話を滔々とミチルとルークに語ってみせた。
 語られた二人は神妙な顔をしているけれど、言葉遣いが難しすぎて、実は半分も理解していない。

 ど、どうしよう……
 全然わかんない!!

 ミチルはとりあえずそれを悟られないように、真面目な顔のままルークの様子を窺った。
 するとルークも、真面目な顔をしつつ、超高速でまばたきをし続けている。

 あ、多分、ルーくんもわかってねえな……

「いかがですかな? 世界の真実をお話しいたしました。驚いたでしょう?」

 ドヤァ……という単語を背負って笑うパオン司教。
 坊さんのドヤ顔、キッツ! と思ったミチルだったが、もちろん口に出せる雰囲気ではなかった。

「えっと、今の話が世界の真実なんですか?」

 ミチルが恐る恐る確認すると、パオン司教は力強く頷く。

「左様。これが純然たる()()です!」

 あ、ヤッバイわ、これ。
 ミチルは司教の調子にドン引きしている。


 
 語られた話の深い意味はよくわからないけど、どう聞いてもそれって「伝説」の域を出ないよね?
 神とか、眷属とか、降臨とかさ。神話とか御伽話みたいなものじゃない?
 それを「事実」と言ってのけるこの坊さんは、ミチルから見ればはっきり言って激ヤバだ。
 地球の日本なら、迷わずカルト集団の烙印を押されるだろう。

 そんな人が語る話が、「真実」であるとは考えられない。
 だが、今、重要なのはそこではない。
 チルクサンダー魔教は「伝説」を「事実」として信じる宗教だと言うことである。

 対立するチルチル神教ではその辺をどう伝えているのか、是が非でも検証しなければならない。
 だが今はそれが叶わないので、ミチルはチルクサンダー魔教の情報をできるだけ引き出す方向に舵をとった。


 
「センセイ、質問よろしいでしょうか」

 モブとしてひっそりと学生生活をしていたミチルは、本物の教師にもそんな口を聞いたことはない。
 だが、ここではあえて優等生がしていたような態度を真似てみる。

「ふむ、結構な心構えですな。なんです?」

 ああ、やっぱり。そういう感じにノッてくると思った。
 エライ地位にいるおじさんなんて、下手に出ればチョロい。

「ええっと、結局、チルクサンダー魔教は何を目指しているんです?」

 名称からすれば、闇の子(※ミチルの印象)チルクサンダーを崇める宗教なのだろう。
 そして、ミチルとルークを魔教に改宗させることが光の子(※ミチルの印象)チルチルを崇める(と思われる)チルチル神教の妨げになると言った。
 そう考えると、チルクサンダー魔教は単に闇の子を崇めるだけでなく、最終的な目的があるのではないか。
 チルクサンダーを唯一神として崇めることは、魔教の中だけでやったっていい。しかし、それ以上に壮大な目的があるように思われた。

「もちろん、全世界をチルクサンダー魔教一色に染め上げることです」

「それは、えっと、チルチル神教がやろうとしていることみたいな?」

 世界でどっちの宗教にするか、チルチル神教VSチルクサンダー魔教の構図がミチルの頭に浮かぶ。
 どちらに軍配が上がるのか、どちらが勝つ方がいいのか、ミチルにはまだわからない。
 ただ、この宗教戦争の過程で血生臭いことが起きないように願うばかりである。

 しかし、それも平和ボケした国で育ったミチルの浅はかな願望だったことを、パオン司教の次の言葉で思い知る。

「セイソン様は、ベスティアをご存知でしょう?」

「ま、まあ……」

「チルチル神教はあれを魔物として討伐することに躍起になっていますが、とんでもないこと。ベスティアは聖なる獣です」

「えっ……」

 言い切ったパオン司教の言葉にミチルは絶句する。
 ベスティアは悪だと言っていたジェイの真剣な顔を思い出したからだ。

「セイソン様もベスティア討伐に加担したことがおありなら、今後はもうおやめください。あれは不浄な人間を選別するカミの化身」

「な……」

「ベスティアによって不浄なる者が一掃された世界に、我がカミ・チルクサンダーが降臨し、人の世界を統一するのです」

 それは壮大な話だ。
 そんなことが可能かどうか、ちっぽけなミチルでは理解できない。

 ミチルの頭にこびりついているのは、もっと身近な顔。



『我がカエルレウムでは、ベスティアに殺された者が多数いる。あれの存在を許してはならない。そしてそれを操っている者も』



 ジェイがそう表した、怒り。
 彼の言葉こそが、真実だ。

 大事な人の真実を踏みにじられて、ミチルはその胸に怒りを蓄え始めていた。


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 世界の創造神・チル神は、人類の危機に際して度々その|眷属《カミ》を降臨させた。
 ある時は美しい男、またある時は美しい女。総称をプルケリマと言う。
 プルケリマは人の世界に交わり、人とともに世界を救う。
 交わった証であるプルケリマの子・チルチルは、人の世界に残り繁栄していった。
 中には人の世界に長くいすぎたプルケリマも存在する。伴侶と交わり続け、複数の子を成す者がいた。
 チル神は、天の血筋を多く人の世界に残すことを許さなかった。
 長子以外を残して、プルケリマは他の子とともに天界に送還される。
 人の血が混じったプルケリマの次子は、総じてチルクサンダーと呼ばれ、天界で迫害を受けた。
 カミの世界に人との雑種は存在するべきではないと、チルクサンダーは天界を追放される。
 チルクサンダーはひっそりと再び人の世界に降臨すれども、闇の中に閉じこもった。
 血をわけた長子、チルチルと呼ばれるその者は、人の世界でカミの子として光の中にある。
 生まれた順番が違うだけで、真逆の運命を背負ったチルチルとチルクサンダー。
 闇の中でチルクサンダーは思う。
 カミとは人の世界に「降臨」せし者。ならば、私にもカミたる資格があるはずだ……
 パオン司教は、そんな壮大な話を滔々とミチルとルークに語ってみせた。
 語られた二人は神妙な顔をしているけれど、言葉遣いが難しすぎて、実は半分も理解していない。
 ど、どうしよう……
 全然わかんない!!
 ミチルはとりあえずそれを悟られないように、真面目な顔のままルークの様子を窺った。
 するとルークも、真面目な顔をしつつ、超高速でまばたきをし続けている。
 あ、多分、ルーくんもわかってねえな……
「いかがですかな? 世界の真実をお話しいたしました。驚いたでしょう?」
 ドヤァ……という単語を背負って笑うパオン司教。
 坊さんのドヤ顔、キッツ! と思ったミチルだったが、もちろん口に出せる雰囲気ではなかった。
「えっと、今の話が世界の真実なんですか?」
 ミチルが恐る恐る確認すると、パオン司教は力強く頷く。
「左様。これが純然たる|事《・》|実《・》です!」
 あ、ヤッバイわ、これ。
 ミチルは司教の調子にドン引きしている。
 語られた話の深い意味はよくわからないけど、どう聞いてもそれって「伝説」の域を出ないよね?
 神とか、眷属とか、降臨とかさ。神話とか御伽話みたいなものじゃない?
 それを「事実」と言ってのけるこの坊さんは、ミチルから見ればはっきり言って激ヤバだ。
 地球の日本なら、迷わずカルト集団の烙印を押されるだろう。
 そんな人が語る話が、「真実」であるとは考えられない。
 だが、今、重要なのはそこではない。
 チルクサンダー魔教は「伝説」を「事実」として信じる宗教だと言うことである。
 対立するチルチル神教ではその辺をどう伝えているのか、是が非でも検証しなければならない。
 だが今はそれが叶わないので、ミチルはチルクサンダー魔教の情報をできるだけ引き出す方向に舵をとった。
「センセイ、質問よろしいでしょうか」
 モブとしてひっそりと学生生活をしていたミチルは、本物の教師にもそんな口を聞いたことはない。
 だが、ここではあえて優等生がしていたような態度を真似てみる。
「ふむ、結構な心構えですな。なんです?」
 ああ、やっぱり。そういう感じにノッてくると思った。
 エライ地位にいるおじさんなんて、下手に出ればチョロい。
「ええっと、結局、チルクサンダー魔教は何を目指しているんです?」
 名称からすれば、闇の子(※ミチルの印象)チルクサンダーを崇める宗教なのだろう。
 そして、ミチルとルークを魔教に改宗させることが光の子(※ミチルの印象)チルチルを崇める(と思われる)チルチル神教の妨げになると言った。
 そう考えると、チルクサンダー魔教は単に闇の子を崇めるだけでなく、最終的な目的があるのではないか。
 チルクサンダーを唯一神として崇めることは、魔教の中だけでやったっていい。しかし、それ以上に壮大な目的があるように思われた。
「もちろん、全世界をチルクサンダー魔教一色に染め上げることです」
「それは、えっと、チルチル神教がやろうとしていることみたいな?」
 世界でどっちの宗教にするか、チルチル神教VSチルクサンダー魔教の構図がミチルの頭に浮かぶ。
 どちらに軍配が上がるのか、どちらが勝つ方がいいのか、ミチルにはまだわからない。
 ただ、この宗教戦争の過程で血生臭いことが起きないように願うばかりである。
 しかし、それも平和ボケした国で育ったミチルの浅はかな願望だったことを、パオン司教の次の言葉で思い知る。
「セイソン様は、ベスティアをご存知でしょう?」
「ま、まあ……」
「チルチル神教はあれを魔物として討伐することに躍起になっていますが、とんでもないこと。ベスティアは聖なる獣です」
「えっ……」
 言い切ったパオン司教の言葉にミチルは絶句する。
 ベスティアは悪だと言っていたジェイの真剣な顔を思い出したからだ。
「セイソン様もベスティア討伐に加担したことがおありなら、今後はもうおやめください。あれは不浄な人間を選別するカミの化身」
「な……」
「ベスティアによって不浄なる者が一掃された世界に、我がカミ・チルクサンダーが降臨し、人の世界を統一するのです」
 それは壮大な話だ。
 そんなことが可能かどうか、ちっぽけなミチルでは理解できない。
 ミチルの頭にこびりついているのは、もっと身近な顔。
『我がカエルレウムでは、ベスティアに殺された者が多数いる。あれの存在を許してはならない。そしてそれを操っている者も』
 ジェイがそう表した、怒り。
 彼の言葉こそが、真実だ。
 大事な人の真実を踏みにじられて、ミチルはその胸に怒りを蓄え始めていた。