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【第八十話 ガニメデカップ 二年ぶりの栄光】

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 木星圏特有の橙色の空が広がるガニメデ競技場。その巨大スタンドを埋め尽くす観客たちの歓声が、開戦を告げるファンファーレとともに轟き渡った。

「D2中距離、ガニメデカップ。いよいよスタートや!」

 ミオはフリアノンの背後、コックピットでシートベルトを締め直し、小型タブレットを操作しながら緊張した面持ちでモニターに見入っていた。その背後では調教師兼マネージャーの村瀬が無線越しに二人を見守っている。

(……わたし、負けられない……)

 ゲートに収まったフリアノンは小さく震えていた。緊張ではなく、気温の低さでもない。これは期待と不安が入り混じった震えだ。

 ゲートの向こう、中団外目の枠にはクロエが立っていた。烈風ジムのエース、一昨年のクイーンズカップ覇者。その少し内側、最内枠にはアスティオンがいた。鋼牙ジム所属、二年前の二冠王者。ナビゲーターは再びユリウス・フェイダー。

(ユリウスさん……アスティオンさんと、また組むんだ……)

 フリアノンが視線を送ると、ユリウスはスタート前の最終確認をしていた。

「アスティオン、呼吸整えて。最初のコーナー、無理してポジション上げなくていい。最内をぴったり回って、省エネでいこう。」

「了解しました。省エネ走行モード、開始。」

 アスティオンの声音はいつも通り冷静沈着だった。その淡々とした返答に、ユリウスは僅かに微笑んだ。

「君は無駄がないのが一番の武器だ。焦らず、勝ちに行こう。」

 そしてスタートの合図が鳴る。ゲートが一斉に開かれ、サイドールたちが飛び出した。

「行くで、ノンちゃん!!」

「はいっ、ミオさん!」

 フリアノンはいつも通り最後尾に位置取り、集団後方でじっと様子を窺っていた。

 先頭争いは他のジム所属のサイドールたちで形成され、中団外目にクロエ、最内にアスティオンが控える。クロエのナビゲーター、ヴェルナー・クロイツが静かに声をかけた。

「クロエ、落ち着け。焦らなくていい。最終コーナーで外に持ち出して、一気に抜け。」

「……わかりました、ヴェルナーさん。」

 クロエは冷たい銀髪を揺らし、淡々と答える。決して慌てない。まるでフリアノンと同じ、だが異質な静けさ。

 一方でアスティオンは最内に張り付き、僅かな空気抵抗も無駄にしないように進んでいた。

「いいぞ、そのまま。最終コーナーまでインで我慢だ。」

「はい。」

 ユリウスとアスティオンのやり取りは、感情を抑えた冷静さの中に、確かな信頼関係が滲んでいた。

 そしてレースは最終コーナーへ。クロエが指示通り外へ持ち出し、アスティオンが最内からスパートを開始する。

「アスティオン、いけ!」

「了解。」

 静かな返答と同時に、アスティオンは加速を開始。最短距離を選び、インを突くと一気に前を抜き去る。

「クロエ! 負けるな!」

「わかっています!」

 クロエもスパートをかけた。外から一気に被せるように伸びてくる。その二人の前方争いを、最後尾からフリアノンが猛追していた。

「ノンちゃん、行け! ここしかないで!!」

「はいっ……!」

 フリアノンは感情を推進に変換する。念動力推進が悲鳴を上げるように火花を散らす。最終直線で、クロエの外からフリアノンが並びかけた。

「クロエさん……抜く……!」

「フリアノン……っ!」

 だがその二人の内側、最短距離を回ったアスティオンは誰にも届かない位置でゴール板を駆け抜けた。

「ゴールイン! 勝ったのはアスティオン! 二年ぶりの勝利です!」

 場内実況の絶叫が響く。アスティオンは一切ガッツポーズを取らず、淡々とブレーキモードに入った。

「……勝ったんですね、僕。」

「ああ。おめでとう、アスティオン。」

 ユリウスの声には、いつになく温かな響きがあった。

 その後方では、クロエがゴールを駆け抜けると同時に振り返り、フリアノンを見据えていた。わずかに敗れた悔しさを滲ませながらも、鋭い瞳は再戦を誓っているようだった。

(……また、負けちゃった……)

 フリアノンは大きく息を吐き、悔しさに滲む涙を必死でこらえていた。だが、その悔しさが、次へと繋がる糧になることを、彼女自身が一番よく知っていた。


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次のエピソードへ進む 第八十一話 イオカップ前夜


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 木星圏特有の橙色の空が広がるガニメデ競技場。その巨大スタンドを埋め尽くす観客たちの歓声が、開戦を告げるファンファーレとともに轟き渡った。
「D2中距離、ガニメデカップ。いよいよスタートや!」
 ミオはフリアノンの背後、コックピットでシートベルトを締め直し、小型タブレットを操作しながら緊張した面持ちでモニターに見入っていた。その背後では調教師兼マネージャーの村瀬が無線越しに二人を見守っている。
(……わたし、負けられない……)
 ゲートに収まったフリアノンは小さく震えていた。緊張ではなく、気温の低さでもない。これは期待と不安が入り混じった震えだ。
 ゲートの向こう、中団外目の枠にはクロエが立っていた。烈風ジムのエース、一昨年のクイーンズカップ覇者。その少し内側、最内枠にはアスティオンがいた。鋼牙ジム所属、二年前の二冠王者。ナビゲーターは再びユリウス・フェイダー。
(ユリウスさん……アスティオンさんと、また組むんだ……)
 フリアノンが視線を送ると、ユリウスはスタート前の最終確認をしていた。
「アスティオン、呼吸整えて。最初のコーナー、無理してポジション上げなくていい。最内をぴったり回って、省エネでいこう。」
「了解しました。省エネ走行モード、開始。」
 アスティオンの声音はいつも通り冷静沈着だった。その淡々とした返答に、ユリウスは僅かに微笑んだ。
「君は無駄がないのが一番の武器だ。焦らず、勝ちに行こう。」
 そしてスタートの合図が鳴る。ゲートが一斉に開かれ、サイドールたちが飛び出した。
「行くで、ノンちゃん!!」
「はいっ、ミオさん!」
 フリアノンはいつも通り最後尾に位置取り、集団後方でじっと様子を窺っていた。
 先頭争いは他のジム所属のサイドールたちで形成され、中団外目にクロエ、最内にアスティオンが控える。クロエのナビゲーター、ヴェルナー・クロイツが静かに声をかけた。
「クロエ、落ち着け。焦らなくていい。最終コーナーで外に持ち出して、一気に抜け。」
「……わかりました、ヴェルナーさん。」
 クロエは冷たい銀髪を揺らし、淡々と答える。決して慌てない。まるでフリアノンと同じ、だが異質な静けさ。
 一方でアスティオンは最内に張り付き、僅かな空気抵抗も無駄にしないように進んでいた。
「いいぞ、そのまま。最終コーナーまでインで我慢だ。」
「はい。」
 ユリウスとアスティオンのやり取りは、感情を抑えた冷静さの中に、確かな信頼関係が滲んでいた。
 そしてレースは最終コーナーへ。クロエが指示通り外へ持ち出し、アスティオンが最内からスパートを開始する。
「アスティオン、いけ!」
「了解。」
 静かな返答と同時に、アスティオンは加速を開始。最短距離を選び、インを突くと一気に前を抜き去る。
「クロエ! 負けるな!」
「わかっています!」
 クロエもスパートをかけた。外から一気に被せるように伸びてくる。その二人の前方争いを、最後尾からフリアノンが猛追していた。
「ノンちゃん、行け! ここしかないで!!」
「はいっ……!」
 フリアノンは感情を推進に変換する。念動力推進が悲鳴を上げるように火花を散らす。最終直線で、クロエの外からフリアノンが並びかけた。
「クロエさん……抜く……!」
「フリアノン……っ!」
 だがその二人の内側、最短距離を回ったアスティオンは誰にも届かない位置でゴール板を駆け抜けた。
「ゴールイン! 勝ったのはアスティオン! 二年ぶりの勝利です!」
 場内実況の絶叫が響く。アスティオンは一切ガッツポーズを取らず、淡々とブレーキモードに入った。
「……勝ったんですね、僕。」
「ああ。おめでとう、アスティオン。」
 ユリウスの声には、いつになく温かな響きがあった。
 その後方では、クロエがゴールを駆け抜けると同時に振り返り、フリアノンを見据えていた。わずかに敗れた悔しさを滲ませながらも、鋭い瞳は再戦を誓っているようだった。
(……また、負けちゃった……)
 フリアノンは大きく息を吐き、悔しさに滲む涙を必死でこらえていた。だが、その悔しさが、次へと繋がる糧になることを、彼女自身が一番よく知っていた。