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第32話 青年のゲーム思考は王道展開を的中させる

ー/ー



 亀裂の先は深い洞窟になっていた。
 自然の裂け目はやがて下へ下へとくだっていく。
 十分もくだると洞窟内が湿ってきて、三十分を過ぎた頃には鍾乳洞に変わった。鍾乳洞になると浸食作用で空間が広がる。
 人一人がやっと通れるほどだった入口と違ってこの辺りは

「戦闘もできそうな空間だな」

 お、おいヴァネッサ、それはなんていうか……

「フラグだな」

 レイトの直感どおり、彼らの前に現れたのは巨大なコウモリだった。
 体は黒く翼は血のように赤い。
 剥き出しの牙は一本一本がレイトの親指くらいもありそうだ。

「オリティアウ!」

 さすがは大賢者バガナスの弟子アシュレイ、博識ですこと。
 レイトがコウモリと戦うのは久しぶりだった。
 あれはまだ16bitパソコンの3Dダンジョンみたいな視覚だった頃のことだ。
 まだ数週間前のことなのに遠い昔のことのようだと感慨に浸りたいところだったが、オリティアウとの戦いはそんなレイトを嘲笑うかのような強さだった。
 いや、本来のコウモリはこうだったのかもしれない。
 どうやら反響定位(エコーロケーション)を利用しているようで、物理攻撃が全くと言っていいほど当たらない。

(コマンド選択だった頃はそこそこ当てられたのにっ!)

 そんなこと言ってもねぇ。
 ソフィアもヴァネッサもまったくと言っていいほど攻撃を当てることができなかった。
 翼を広げると3mはあろうかという巨体だと言うのになんたる機動力!

「俺も反響定位能力欲しくなるなぁ」

 なんて軽口いってみても始まらない。
 結局、アシュレイのミサイルとレイトの範囲攻撃魔法フレイムウェーブを連発することでなんとか倒すことができた。
 できたわけだが、結果として魔力が尽きてしまった。

「私、もう魔法使えないわ」

「俺も魔力が残ってない」

「体力的にもここらで休憩した方がいいな」

 ソフィアの提案で冒険者は野営の準備をすることにした。
 不意を打たれないように洞窟内でもっとも守りやすそうな場所を選んでビルヒーの生み出したホーリーウォーターで周辺を清める。

「交代で仮眠を取ろう」

 言い出しっぺのソフィアとビルヒーが最初に見張りを担当し、次いでヴァネッサとアシュレイ、最後にレイトが見張りに立つと取り決めて毛布にくるまる。
 いつものように一瞬で睡眠を終えたレイトは形ばかりアシュレイに揺り起こされた。

「あ、もう交代か」

 すごく実感こもってるよね、レイト。
 こんな洞窟内でそんなに頻繁に接敵するわけもなく、冒険者はふたたび奥へ奥へと探検を続ける。
 やがて低い音が聞こえてきた。

「出口が近いのでしょうか?」

「下へ下へと降りてきたのに出口かい? そりゃないんじゃないかね?」

「確かにそうね。定期的に音が止むみたいだし、一体なんの音かしら」

「規則正しく音が止むな。……どうした?」

 ソフィアの発言で音の正体に思い当たってしまうレイトの作った表情が、並んで歩くソフィアの視界の端に止まったようだ。

「あー……音の正体に見当がついたというか、なんというか……」

「すごいじゃないか! で、音の正体ってなんなんだ?」

「呼吸音だと思う」

「呼吸音?」

「この音が呼吸音だとしたら、相当大きな生き物ってことになりますよ?」

「なるだろうね」

「じゃあ、この漂ってくる生臭い臭いは口臭なの!?」

 途端に顔をしかめるアシュレイ。
 しかめっ面さえ可愛いかよ。
 するいぞハーフエルフ。
 一緒に鼻をつまむビルヒーもめんこいな。

「ただ呼吸しているだけでこれかい? いびきであって欲しいね」

 レイトはヴァネッサに意見の賛成したいと思った。

「この先になにかがいると言うのならこの先慎重に進まなければいけないな」

 先に進むと言う選択以外にないのか、ソフィアよ。
 レイトを見てみろ。
 全身から行きたくない感を出してるぞ。
 きっとあれだな、音の正体どころかどんなヤツが出している音なのかも見当つけているんだろう。

「明かりはどうしましょう?」

 真っ暗闇の広がる洞窟に煌々と輝く魔法の灯り。
 これがないとなにも見えないわけだが、これをつけていると言うことは相手に自分たちの存在を知られてしまうと言うことに他ならない。
 暗闇に適応している洞窟内の生き物が、光を嫌って近づいてこなかったのか?
 はたまたそもそも生き物がほとんどいないのか?
 真相は判らないものの洞窟の中での接敵はこれまでオリティアウとの遭遇一度だけだった。
 しかし今、この先に間違いなくなにかがいると気づいたからには何か対策を立てた方がいいのはビルヒーに言われなくてもみんな理解できていただろう。

「冒険道具の中にカンテラがあったはずだから、カンテラの中に光源を移そう」

 冒険者用のカンテラにはシャッターがついているので光量の調節や拡散範囲の調整ができるのだ。
 しかも、光源が魔法の灯りだとなればどんなに傾けても油が漏れるなどの事故は起きない。
 明かりをカンテラに仕舞い込んでシャッターで足元だけを照らせるように調整すると、冒険者たちはより一層慎重に洞窟内を進む。
 最初はかすかだった呼吸音と思われる規則正しい音は、やがて耳をつんざくほどの轟音になる。

(もうこれ間違いないでしょ)

 暗闇の先が仄かに明かるく見えてくる。
 道の先はどうやらさらに広い空間になっているようだ。
 視界が開けていくと道の先が判るようになってくる。
 淡く光っているのは光苔の類か?
 無造作に積まれているのは財宝といいえる品々だ。
 貴金属や道具など、見るからに素晴らしい品々だとレイトでさえ判る。
 そのうずたかく積まれた文字通りの宝の山に寝そべっているのがこの轟音を立てている主。

(ああ、やっぱり……)

「こ、こいつは……」

「ド、」

「よくきた人間よ」

(しゃべった。いや、ドラゴンがしゃべれるなんてRPGではある種の常識だけど、寝てもいなかった)

「なにをしに来た」

 みんなが怖気(おじけ)づいて一歩後退りしかけたところで、ヴァネッサが声を張る。

「魔族から逃げてきただけさ。ここを通してもらえりゃそれでいいんだ」

 さすがにレイトと共に一度ドラゴンと戦っただけのことがある。
 大した胆力だ。

「ほぅ、通してほしい、か」

 ドラゴンはまるで鼻で笑うようなニュアンスでつぶやくと、のっそりと立ち上がった。

「ここを通りたければ我を倒すことだな」

「散れっ!」

 レイトの鋭い叫びに冒険者は弾けるように散開する。
 さすがは魔王からクリスティーン王女を奪還する任務を受けた者たちだ。
 その誰もいなくなった場所に砂煙のようなブレスが吹きつけられる。

(あれはなにタイプなんだ!?)

 竜の(ドラゴン)息吹(ブレス)は竜種によって効果が違う。
 以前戦った赤い竜は炎を吐いていたのでレイトは勝手にファイヤードラゴンとカテゴライズしている。
 それはともかく

(まぁ、シナリオ的には前回同様避けられないよな)

 ま・そう言うことだ。
 レディ・ゴー!!


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次のエピソードへ進む 第33話 青年は再びドラゴンに挑む


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 亀裂の先は深い洞窟になっていた。
 自然の裂け目はやがて下へ下へとくだっていく。
 十分もくだると洞窟内が湿ってきて、三十分を過ぎた頃には鍾乳洞に変わった。鍾乳洞になると浸食作用で空間が広がる。
 人一人がやっと通れるほどだった入口と違ってこの辺りは
「戦闘もできそうな空間だな」
 お、おいヴァネッサ、それはなんていうか……
「フラグだな」
 レイトの直感どおり、彼らの前に現れたのは巨大なコウモリだった。
 体は黒く翼は血のように赤い。
 剥き出しの牙は一本一本がレイトの親指くらいもありそうだ。
「オリティアウ!」
 さすがは大賢者バガナスの弟子アシュレイ、博識ですこと。
 レイトがコウモリと戦うのは久しぶりだった。
 あれはまだ16bitパソコンの3Dダンジョンみたいな視覚だった頃のことだ。
 まだ数週間前のことなのに遠い昔のことのようだと感慨に浸りたいところだったが、オリティアウとの戦いはそんなレイトを嘲笑うかのような強さだった。
 いや、本来のコウモリはこうだったのかもしれない。
 どうやら反響定位《エコーロケーション》を利用しているようで、物理攻撃が全くと言っていいほど当たらない。
(コマンド選択だった頃はそこそこ当てられたのにっ!)
 そんなこと言ってもねぇ。
 ソフィアもヴァネッサもまったくと言っていいほど攻撃を当てることができなかった。
 翼を広げると3mはあろうかという巨体だと言うのになんたる機動力!
「俺も反響定位能力欲しくなるなぁ」
 なんて軽口いってみても始まらない。
 結局、アシュレイのミサイルとレイトの範囲攻撃魔法フレイムウェーブを連発することでなんとか倒すことができた。
 できたわけだが、結果として魔力が尽きてしまった。
「私、もう魔法使えないわ」
「俺も魔力が残ってない」
「体力的にもここらで休憩した方がいいな」
 ソフィアの提案で冒険者は野営の準備をすることにした。
 不意を打たれないように洞窟内でもっとも守りやすそうな場所を選んでビルヒーの生み出したホーリーウォーターで周辺を清める。
「交代で仮眠を取ろう」
 言い出しっぺのソフィアとビルヒーが最初に見張りを担当し、次いでヴァネッサとアシュレイ、最後にレイトが見張りに立つと取り決めて毛布にくるまる。
 いつものように一瞬で睡眠を終えたレイトは形ばかりアシュレイに揺り起こされた。
「あ、もう交代か」
 すごく実感こもってるよね、レイト。
 こんな洞窟内でそんなに頻繁に接敵するわけもなく、冒険者はふたたび奥へ奥へと探検を続ける。
 やがて低い音が聞こえてきた。
「出口が近いのでしょうか?」
「下へ下へと降りてきたのに出口かい? そりゃないんじゃないかね?」
「確かにそうね。定期的に音が止むみたいだし、一体なんの音かしら」
「規則正しく音が止むな。……どうした?」
 ソフィアの発言で音の正体に思い当たってしまうレイトの作った表情が、並んで歩くソフィアの視界の端に止まったようだ。
「あー……音の正体に見当がついたというか、なんというか……」
「すごいじゃないか! で、音の正体ってなんなんだ?」
「呼吸音だと思う」
「呼吸音?」
「この音が呼吸音だとしたら、相当大きな生き物ってことになりますよ?」
「なるだろうね」
「じゃあ、この漂ってくる生臭い臭いは口臭なの!?」
 途端に顔をしかめるアシュレイ。
 しかめっ面さえ可愛いかよ。
 するいぞハーフエルフ。
 一緒に鼻をつまむビルヒーもめんこいな。
「ただ呼吸しているだけでこれかい? いびきであって欲しいね」
 レイトはヴァネッサに意見の賛成したいと思った。
「この先になにかがいると言うのならこの先慎重に進まなければいけないな」
 先に進むと言う選択以外にないのか、ソフィアよ。
 レイトを見てみろ。
 全身から行きたくない感を出してるぞ。
 きっとあれだな、音の正体どころかどんなヤツが出している音なのかも見当つけているんだろう。
「明かりはどうしましょう?」
 真っ暗闇の広がる洞窟に煌々と輝く魔法の灯り。
 これがないとなにも見えないわけだが、これをつけていると言うことは相手に自分たちの存在を知られてしまうと言うことに他ならない。
 暗闇に適応している洞窟内の生き物が、光を嫌って近づいてこなかったのか?
 はたまたそもそも生き物がほとんどいないのか?
 真相は判らないものの洞窟の中での接敵はこれまでオリティアウとの遭遇一度だけだった。
 しかし今、この先に間違いなくなにかがいると気づいたからには何か対策を立てた方がいいのはビルヒーに言われなくてもみんな理解できていただろう。
「冒険道具の中にカンテラがあったはずだから、カンテラの中に光源を移そう」
 冒険者用のカンテラにはシャッターがついているので光量の調節や拡散範囲の調整ができるのだ。
 しかも、光源が魔法の灯りだとなればどんなに傾けても油が漏れるなどの事故は起きない。
 明かりをカンテラに仕舞い込んでシャッターで足元だけを照らせるように調整すると、冒険者たちはより一層慎重に洞窟内を進む。
 最初はかすかだった呼吸音と思われる規則正しい音は、やがて耳をつんざくほどの轟音になる。
(もうこれ間違いないでしょ)
 暗闇の先が仄かに明かるく見えてくる。
 道の先はどうやらさらに広い空間になっているようだ。
 視界が開けていくと道の先が判るようになってくる。
 淡く光っているのは光苔の類か?
 無造作に積まれているのは財宝といいえる品々だ。
 貴金属や道具など、見るからに素晴らしい品々だとレイトでさえ判る。
 そのうずたかく積まれた文字通りの宝の山に寝そべっているのがこの轟音を立てている主。
(ああ、やっぱり……)
「こ、こいつは……」
「ド、」
「よくきた人間よ」
(しゃべった。いや、ドラゴンがしゃべれるなんてRPGではある種の常識だけど、寝てもいなかった)
「なにをしに来た」
 みんなが怖気《おじけ》づいて一歩後退りしかけたところで、ヴァネッサが声を張る。
「魔族から逃げてきただけさ。ここを通してもらえりゃそれでいいんだ」
 さすがにレイトと共に一度ドラゴンと戦っただけのことがある。
 大した胆力だ。
「ほぅ、通してほしい、か」
 ドラゴンはまるで鼻で笑うようなニュアンスでつぶやくと、のっそりと立ち上がった。
「ここを通りたければ我を倒すことだな」
「散れっ!」
 レイトの鋭い叫びに冒険者は弾けるように散開する。
 さすがは魔王からクリスティーン王女を奪還する任務を受けた者たちだ。
 その誰もいなくなった場所に砂煙のようなブレスが吹きつけられる。
(あれはなにタイプなんだ!?)
 |竜の《ドラゴン》息吹《ブレス》は竜種によって効果が違う。
 以前戦った赤い竜は炎を吐いていたのでレイトは勝手にファイヤードラゴンとカテゴライズしている。
 それはともかく
(まぁ、シナリオ的には前回同様避けられないよな)
 ま・そう言うことだ。
 レディ・ゴー!!