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第29話 青年は新しい必殺技を編み出したけどちょっと欠点が大きすぎる

ー/ー



 ソフィアがビルヒーたちを連れて戻ってきた。
 武具防具を抱えているあたりに冒険者いや、騎士の矜持を感じられる。

「これはひどい……」

 しばし絶句したビルヒーだったけれど、そこは幼くとも聖女だ。
 手を組み心を落ち着かせると、少年の傷口に手を当てて祈りの言葉を唱え始める。
 長い祈りは重篤の治癒(キュアシリアス)のものだ。
 治癒の魔法には三種類ある。
 軽傷の治癒(キュアライト)重篤の治癒(キュアシリアス)瀕死の完治(キュアオール)
 祈りの言葉は聖職者なら誰でも知っている。
 しかし、お題目を唱えるだけでは魔法は発動しない。
 僧侶魔法は言葉に力が宿り神が応えてくれて初めて神の奇跡を顕現させる。
 この国で瀕死の完治が使えたのはビルヒーの母アデルグンティスただ一人。
 その血を継いでいて聖女と呼ばれているとはいえ彼女はまだその奇跡を体現したことがない。
 だからこそ彼女は確実に発動する重篤の治癒を選択したのだ。
 しかし、少年の傷はふさがらない。

「神よ私に……いえ、この少年に加護と祝福をお与えください」

 深く息を吐き、大きく息を吸ったビルヒーは普段の小さな鈴のような声ではない凛とした響きをたたえた発声で長い長い祈りの言葉を紡ぎだす。
 僧侶魔法は想いの発露だ。
 彼女の祈りは神に届き、今奇跡がもたらされた。
 傷口が見る間にふさがり、傷痕一つ残らず文字通り完全に治ったのだ。
 大きくため息をついたビルヒーの肩から力が抜ける。

「よくやったな、聖女様!」

 バンバンとヴァネッサがビルヒーの背中を叩く。

「痛い、痛い」

「ホッと一息つきたいだろうが、そうもいかない」

「ソフィアの言う通りだ。襲ってきたのはただのモンスターじゃないそうなんだ」

 レイトは少年から聞き出した話を手短に説明する。

「それは魔族か、あるいは魔族が使役する何かに違いないわ」

 アシュレイの頭の中にはいくつかの名前が浮かんでいるようだ。

「少年の家族が心配だ。行こう」

 魔王を倒し、クリスティーンを救い出そうとしているのだ、こんなところで尻込みしているわけにはいかない。
 四人の仲間はレイトに頷くと戦闘準備に取りかかる。

「親父さん、その子を頼みます」

「任せとけ」

 レイトとソフィアがヴァネッサとアシュレイに手伝ってもらって鎧を身につけている間にビルヒーが鍛冶屋の親父から道行きを詳しく聞き出す。
 焦る気持ちが自然に彼らの足を早める。
 街道から外れた林の中に拓かれた小さな開墾地。
 そこで彼らは異形のモンスターから娘を守る絶望の戦いを続けている夫婦を見つけた。

「よかった、まだ生きている」

 ソフィアの言葉にはしかし安堵のニュアンスは微塵もない。

「ミサイル!」

 アシュレイの唱えたのは魔力を直接的にぶつける絶対命中の魔法だ。
 立て続けに五発。
 それによってモンスターの注意がこちらに向く。

「よくやった」

 ソフィアはこちらを向いたモンスターの注意をさらにひくため両腕をクロスして打ち鳴らす。

「ビルヒー、ヴァネッサ、隙を見て親子を」

「あいよ」

 魔力を充溢させたアシュレイが再びミサイルを放つ。
 今度も五発、どうやら一度に撃てる数のようだ。
 モンスターはうがいのようなゴボコボとした叫びをあげてゴリラのように突っ込んでくる。

「レイト、ソフィア、気をつけて。ガーゴイルよ!」

 剣で迎え撃とうとしていたレイトは瞬時に剣を引いてフリーズの魔法に切り替える。
 わずかに突進力が弱まり、三人はなんなくガーゴイルを避けることができた。

「なぜ剣で戦わない?」

「いえ、レイトの判断は正しいわ。ガーゴイルはゴーレムの一種なの。それも魔法の武器でなければ傷もつけられない」

(やっぱり)

 さすが、ゲームオタクだ。

「そんな……こんなモンスターが次々と現れては我が国はどうなる!?」

 ソフィアの表情が険しくなった。
 無理もない。
 鍛冶屋の親父が言っていた通り、レイトの持つ「鋭利な鋼鉄の剣」でさえ王国では十本のうちに数えられるだろう国宝級の剣なのだ。
 槍や斧といった他の武器にも魔法の武具はあるだろうが、何十本と揃えられるような代物じゃあない。
 しかも、その剣が度重なる戦闘で寿命を迎えようとしている。
 そんな状況でなおビルヒーの護衛にヴァネッサをつけているため、現在一人でパーティの盾となっているソフィアは撃ち合う剣から伝わる衝撃に体力以上に精神力が削られていく。
 もちろんアシュレイもレイトも魔法で応戦しているけれど、属性的な相性なのかダメージが通っているのか判らない状況なのだ。

「ミサイルもアイススピアもあまりダメージにつながっていないみたい」

「ファイヤーボールもライトニングボルトもダメージが通ってる気がしない。むしろウォーターショットの一点集中の方が効いてる気がするくらいだ」

 アシュレイもレイトも少しでも有効な魔法を見つけるべく様々な魔法を繰り出しているのだけどこれといった決め手にかけるようだ。
 それ以上にゴーレム系モンスターとは思えない素早さと、空を飛べることによる攻撃レンジの広さによって、思うように魔法を発動させられないのが問題だった。
 そのせいで防戦一方のソフィアが攻撃に転じられない。
 ソフィアには()(れつ)(ざん)、岩(がん)()(とつ)という対ゴーレムに有効な武技があるのにその技を繰り出すことができずにいた。
 レイトも魔法と剣戟を併せ持つトラッシュサイクロンという武技を持っているけれど、あの技は風魔法で剣を包み相手に突き込むと同時に旋風が体内で暴れるというもので、ゴーレム系のモンスターとは相性が悪い。

(風魔法は有効そうなんだけどなぁ……)

 確かにブラストカッターは確実にガーゴイルの体に傷をつけている。
 けれど、破壊力があるという感じでもない。

「バーサークラッシュ!」

 戦線にヴァネッサが戻ってきた。
 それも初っ端から必殺技でだ。

 派手だね。

 しかも後ろからの不意打ちときた。
 ヴァネッサのラッシュによって羽がズタズタになり、ガーゴイルがのけぞる。
 ゴーレム系のモンスターのくせに。
 おかげで防戦一方だったソフィアに反撃のチャンスが訪れた。

「地裂斬!」

 ガーゴイルの左手首が切り落とされる。

「チッ」

 もっとも、ソフィアは腕を狙っていたようだがね。

(なるほど!)

 何かを閃いたレイトはアシュレイに顔を近づける。

 なに赤くなってんの? アシュレイ。

「マイクロウェーブって魔法あったよね?」

「どうするつもり?」

「説明すると長くなりそうだから後でするよ。使い方教えて」

 そう言われたアシュレイは頬を赤らめたまま後ろからレイトの手を取る。

(鎧が邪魔だなぁ……)

 この非常時になに(よこしま)なこと考えてんだ、おい!

 主人公補正のかかっているレイトがアシュレイの補助を受けて発動させたマイクロウェーブ。
 彼はそれを自らの剣に纏わせる。
 赤熱した剣を振り上げて猛然と駆け出すレイト。

「必殺! バイブレーションクラーッシュ!!」

 某メタルヒーローのように浴びせた一撃は粘土のようにガーゴイルを真っ二つに斬り伏せる。
 しかし、その代償は大きかった。
 そもそも耐久限界を迎えていた剣に超振動を与えた結果、跡形もなく砕け散ってしまったのだ。

(残念。かっこいい必殺技なのに)

 使うたびに剣が壊れるんじゃ必殺技としてはアレだよね。


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 ソフィアがビルヒーたちを連れて戻ってきた。
 武具防具を抱えているあたりに冒険者いや、騎士の矜持を感じられる。
「これはひどい……」
 しばし絶句したビルヒーだったけれど、そこは幼くとも聖女だ。
 手を組み心を落ち着かせると、少年の傷口に手を当てて祈りの言葉を唱え始める。
 長い祈りは|重篤の治癒《キュアシリアス》のものだ。
 治癒の魔法には三種類ある。
 |軽傷の治癒《キュアライト》、|重篤の治癒《キュアシリアス》、|瀕死の完治《キュアオール》。
 祈りの言葉は聖職者なら誰でも知っている。
 しかし、お題目を唱えるだけでは魔法は発動しない。
 僧侶魔法は言葉に力が宿り神が応えてくれて初めて神の奇跡を顕現させる。
 この国で瀕死の完治が使えたのはビルヒーの母アデルグンティスただ一人。
 その血を継いでいて聖女と呼ばれているとはいえ彼女はまだその奇跡を体現したことがない。
 だからこそ彼女は確実に発動する重篤の治癒を選択したのだ。
 しかし、少年の傷はふさがらない。
「神よ私に……いえ、この少年に加護と祝福をお与えください」
 深く息を吐き、大きく息を吸ったビルヒーは普段の小さな鈴のような声ではない凛とした響きをたたえた発声で長い長い祈りの言葉を紡ぎだす。
 僧侶魔法は想いの発露だ。
 彼女の祈りは神に届き、今奇跡がもたらされた。
 傷口が見る間にふさがり、傷痕一つ残らず文字通り完全に治ったのだ。
 大きくため息をついたビルヒーの肩から力が抜ける。
「よくやったな、聖女様!」
 バンバンとヴァネッサがビルヒーの背中を叩く。
「痛い、痛い」
「ホッと一息つきたいだろうが、そうもいかない」
「ソフィアの言う通りだ。襲ってきたのはただのモンスターじゃないそうなんだ」
 レイトは少年から聞き出した話を手短に説明する。
「それは魔族か、あるいは魔族が使役する何かに違いないわ」
 アシュレイの頭の中にはいくつかの名前が浮かんでいるようだ。
「少年の家族が心配だ。行こう」
 魔王を倒し、クリスティーンを救い出そうとしているのだ、こんなところで尻込みしているわけにはいかない。
 四人の仲間はレイトに頷くと戦闘準備に取りかかる。
「親父さん、その子を頼みます」
「任せとけ」
 レイトとソフィアがヴァネッサとアシュレイに手伝ってもらって鎧を身につけている間にビルヒーが鍛冶屋の親父から道行きを詳しく聞き出す。
 焦る気持ちが自然に彼らの足を早める。
 街道から外れた林の中に拓かれた小さな開墾地。
 そこで彼らは異形のモンスターから娘を守る絶望の戦いを続けている夫婦を見つけた。
「よかった、まだ生きている」
 ソフィアの言葉にはしかし安堵のニュアンスは微塵もない。
「ミサイル!」
 アシュレイの唱えたのは魔力を直接的にぶつける絶対命中の魔法だ。
 立て続けに五発。
 それによってモンスターの注意がこちらに向く。
「よくやった」
 ソフィアはこちらを向いたモンスターの注意をさらにひくため両腕をクロスして打ち鳴らす。
「ビルヒー、ヴァネッサ、隙を見て親子を」
「あいよ」
 魔力を充溢させたアシュレイが再びミサイルを放つ。
 今度も五発、どうやら一度に撃てる数のようだ。
 モンスターはうがいのようなゴボコボとした叫びをあげてゴリラのように突っ込んでくる。
「レイト、ソフィア、気をつけて。ガーゴイルよ!」
 剣で迎え撃とうとしていたレイトは瞬時に剣を引いてフリーズの魔法に切り替える。
 わずかに突進力が弱まり、三人はなんなくガーゴイルを避けることができた。
「なぜ剣で戦わない?」
「いえ、レイトの判断は正しいわ。ガーゴイルはゴーレムの一種なの。それも魔法の武器でなければ傷もつけられない」
(やっぱり)
 さすが、ゲームオタクだ。
「そんな……こんなモンスターが次々と現れては我が国はどうなる!?」
 ソフィアの表情が険しくなった。
 無理もない。
 鍛冶屋の親父が言っていた通り、レイトの持つ「鋭利な鋼鉄の剣」でさえ王国では十本のうちに数えられるだろう国宝級の剣なのだ。
 槍や斧といった他の武器にも魔法の武具はあるだろうが、何十本と揃えられるような代物じゃあない。
 しかも、その剣が度重なる戦闘で寿命を迎えようとしている。
 そんな状況でなおビルヒーの護衛にヴァネッサをつけているため、現在一人でパーティの盾となっているソフィアは撃ち合う剣から伝わる衝撃に体力以上に精神力が削られていく。
 もちろんアシュレイもレイトも魔法で応戦しているけれど、属性的な相性なのかダメージが通っているのか判らない状況なのだ。
「ミサイルもアイススピアもあまりダメージにつながっていないみたい」
「ファイヤーボールもライトニングボルトもダメージが通ってる気がしない。むしろウォーターショットの一点集中の方が効いてる気がするくらいだ」
 アシュレイもレイトも少しでも有効な魔法を見つけるべく様々な魔法を繰り出しているのだけどこれといった決め手にかけるようだ。
 それ以上にゴーレム系モンスターとは思えない素早さと、空を飛べることによる攻撃レンジの広さによって、思うように魔法を発動させられないのが問題だった。
 そのせいで防戦一方のソフィアが攻撃に転じられない。
 ソフィアには地《ち》裂《れつ》斬《ざん》、岩《がん》破《は》突《とつ》という対ゴーレムに有効な武技があるのにその技を繰り出すことができずにいた。
 レイトも魔法と剣戟を併せ持つトラッシュサイクロンという武技を持っているけれど、あの技は風魔法で剣を包み相手に突き込むと同時に旋風が体内で暴れるというもので、ゴーレム系のモンスターとは相性が悪い。
(風魔法は有効そうなんだけどなぁ……)
 確かにブラストカッターは確実にガーゴイルの体に傷をつけている。
 けれど、破壊力があるという感じでもない。
「バーサークラッシュ!」
 戦線にヴァネッサが戻ってきた。
 それも初っ端から必殺技でだ。
 派手だね。
 しかも後ろからの不意打ちときた。
 ヴァネッサのラッシュによって羽がズタズタになり、ガーゴイルがのけぞる。
 ゴーレム系のモンスターのくせに。
 おかげで防戦一方だったソフィアに反撃のチャンスが訪れた。
「地裂斬!」
 ガーゴイルの左手首が切り落とされる。
「チッ」
 もっとも、ソフィアは腕を狙っていたようだがね。
(なるほど!)
 何かを閃いたレイトはアシュレイに顔を近づける。
 なに赤くなってんの? アシュレイ。
「マイクロウェーブって魔法あったよね?」
「どうするつもり?」
「説明すると長くなりそうだから後でするよ。使い方教えて」
 そう言われたアシュレイは頬を赤らめたまま後ろからレイトの手を取る。
(鎧が邪魔だなぁ……)
 この非常時になに邪《よこしま》なこと考えてんだ、おい!
 主人公補正のかかっているレイトがアシュレイの補助を受けて発動させたマイクロウェーブ。
 彼はそれを自らの剣に纏わせる。
 赤熱した剣を振り上げて猛然と駆け出すレイト。
「必殺! バイブレーションクラーッシュ!!」
 某メタルヒーローのように浴びせた一撃は粘土のようにガーゴイルを真っ二つに斬り伏せる。
 しかし、その代償は大きかった。
 そもそも耐久限界を迎えていた剣に超振動を与えた結果、跡形もなく砕け散ってしまったのだ。
(残念。かっこいい必殺技なのに)
 使うたびに剣が壊れるんじゃ必殺技としてはアレだよね。