第26話 青年は新たな旅の仲間と旅に出る
ー/ー「まずはどうするんだ?」
王城を出て貴族街を北上しながらレイトが訊ねる。
「魔王に囚われた姫君を助けるのですから、魔王の根拠地に行くことになります」
「だろうね」
重武装の女剣士ソフィアの話に胸当て程度で露出の多いアマゾネス・ヴァネッサが相槌を打つ。
「当然、その道中は王国内とは比較にならないほど危険なものとなりましょう」
レイトはこれまでの冒険を思い返して「あれよりか」と思ってしまう。
「時間がない中でも十分な準備が必要です」
話がまどろっこしいのは騎士という職業がなせる業か兄譲りの性格なのか?
「我々に今一番足りないものは魔法です」
「魔法?」
「はい。ということでまずは大聖堂に向かいます」
何がということでなのかは置いといて、どうやら三人は大聖堂というところへ向かっているらしい。
その大聖堂、国教の聖地に建てられた宗教施設で最高司祭が祈りを捧げているらしい。
だどりついた聖堂はどこが大聖堂なのかと疑いたくなるほどこじんまりとした建物だった。
もちろん神や天使を模したレリーフなど荘厳な意匠は凝らされている。
決して質素とは言えないがそこに華美さは微塵もなく、この国の宗教のあり方が体現されているようだ。
ソフィアたちは、応対に出てきた僧侶に来訪意図を告げて聖堂の中に案内される。
礼拝室に通されると、そこには聖像の前で祈りを捧げている女性が一人。
祈りが終わるのを待っていた三人に振り向いたのは歳の頃で三十前後、肉付きの良いふっくら美人だった。
「最高司祭様」
と、ソフィアが腰をかがめて礼の姿勢を取るので二人も見様見真似で礼をする。
「旅に出るのですね?」
開口一番のそれは、正直レイトの度肝を抜いた。
「やはりご存知でしたか」
「ご存知って?」
そりゃあ、問いただしたくなるってもんだ。
「伊達に最高司祭はしておりません」
と、穏やかに応える最高司祭アデルグンティス。
「十五歳で神の娘を懐胎してからは、人々に危機が訪れるたびに神からの啓示を授かっているのです」
「では、此度のことも」
「ええ、ことは王国のみならず人類全体の問題です。わたくしにはこの国と民を守る責務があります」
「では、一緒に行ってはいただけないのですか?」
「残念ながら……」
その返答でがっくりと肩を落とすソフィアにアデルグンティスは慈母の微笑みで語りかける。
「ご安心なさい。わたくしはいけませんが、娘がお供いたしましょう。当年とって十四歳とまだ年若い娘ですが、この人類の試練のために神が使わした聖女です。きっとあなたたちの力になることでしょう」
「ありがとうございます」
礼拝室に案内してくれた僧侶が、最高司祭の意を汲んで連れてきたのは幼い顔立ちの美少女だった。
本当にこのふっくら美人から生まれてきたのか? と、疑問に思うくらい長い手足の華奢な少女は、目をキラッキラと輝かせて錫杖を両手で胸の前に握りしめている。
「お母様、ついにその日が来たのですね」
小さな鈴がシャリシャリと鳴るような快活な声はレイトの聖女イメージとはちょっと遠い。
「ビルヒルティス。あなたにはこの国の、ひいては人類の存亡がかかっているのです。そのことだけは忘れないでくださいね」
「もちろんです! お母様」
聖女を仲間に加えた一行は、一路北東に進路をとる。
「まだ仲間を募るのか?」
馬車の御者席に座るレイトはその先を行く騎馬のソフィアに声をかける。
「当然だ。このパーティはバランスが悪すぎる。お前は魔法も使えるらしいが、基本は剣士だろう?」
「ああ」
「ヴァネッサも剣士、私も騎士だ」
「なるほど、魔法使いが必要ってことだな」
うん、話が早くていいね、レイト。
RPG的に考えればそうなるさ。
「アテがあるのか?」
「うむ、これから行くのは大賢者バガナス様のお住まいだ」
「お、いいね。すげー魔法をバシバシ使ってくれそうだ」
「そうだといいんですけどね」
ビルヒルティスは手持ち無沙汰なのか馬車の中で手遊びしながら割って入ってきた。
「なにか問題でも? あ、すげー偏屈とか?」
よくある大賢者のキャラだな、それは。
「偏屈なのは事実だが、それより大きな問題があるのだ」
大賢者バガナスの住む塔を訪うと、埃っぽいローブを着た弟子が「どこまで登らせるんだ?」ってほどの螺旋階段を先導する。
「バガナス様は御歳一〇四歳。旅に出るのは難しい」
案内されたその先には枯れ木のような肌色のしわくちゃな老人が、目だけは煌々と輝かせて座っていた。
「弟子との会話は聞いておったぞ」
(盗聴かよ)
いやいや、そういう言い方は野暮だわ、ここは剣と魔法のファンタジー世界だぞ。
「まったく、わしを誘いにくるのが十年遅いわ!」
(十年!? 五十年の間違いじゃないのか?)
レイト、それを言っちゃあおしめぇよ。
「頭はまだまだ冴えておる。この塔を出ないですむならどんな魔法でもいくらでも使ってやっても良いが……魔王討伐の旅など足腰立たんわ」
「そりゃ困ったねぇ」
他人事みたいな言い方をするヴァネッサにバガナスは息が抜けるような笑い方で答える。
「わしの代わりが務まるものではないが、そこの弟子なら旅につけてやってもよいぞ」
「お、お師匠!?」
「これも修行じゃ、行ってこい。魔王ごときに負けて死んで帰ってきたら承知せんぞ」
いやはや、すごいスパルタですな。
ローブをまぶかにかぶっていたお弟子さんは二の句も継げずうなだれるしかない。
そのまま旅支度に追い立てられて放り出されるように塔からパーティごと締め出されてしまう。
五人はしばし呆然と塔を見上げるしかない。
放心状態からようやく醒めたレイトは、パンと柏手を一つ打ってみんなの正気を取り戻す。
「さ、こんなところにいつまでもいるわけにはいかないんだから、出発しよう」
「あ、ああ。そうだな」
よろよろと騎乗しようとするソフィアを引き止めたのはヴァネッサだ。
「改めて自己紹介といこうじゃないか。お互い名前くらいは知っとかないと。だろ?」
と、視線を大賢者の弟子に向ける。
「そうだな。俺はレイト。魔法戦士だ」
「私は女騎士ソフィア。ついでに言えば、このレイトは次元の回廊を越えてきた救世主であり、魔王に『光の巫女の守護者』と呼ばれていた男だ」
「あたしはヴァネッサ。神殿遺跡のダンジョンに暮らしていたアマゾネスさ。ダンジョンの中は退屈だったってのもあるんだけどさ、レイト結構いい男だろ? だから一緒にいるってわけ」
そういや、最初の出会いからずっとそんなこと言ってたな。
物言いがあまりにもストレートすぎてレイトはどうとっていいものやらイマイチ計りかねているみたいだけれど。
「私は最高司祭アデルグンティスの娘ビルヒルティス。名前長いんでビルヒーって呼んでね」
「聖女様……なのか?」
「そうだ」
と答えたのはソフィア。
そこらへん、やっぱり律儀だな、騎士だけに。
「……わたしはアシュレイ。大賢者バガナスの弟子だ。…………わたしは……」
長く沈黙した後、意を決してまぶかにかぶったローブを脱いでこういった。
「わたしはハーフエルフだ」
「キレイ」
最初に漏れた感想がビルヒーからのそれだったことにアシュレイはかなり戸惑ったようだ。
実際、レイトの感想も同等以上のものだった。
長く艶やかなシルクのような髪はこんな文明レベルの低めな世界でサラサラと風になびくし、透き通るような白磁のようなきめの細かい肌に切長の目、スッと通った鼻筋とふっくらと柔らかそうな唐紅色の唇。
美人揃いのこのパーティーでも群を抜く美形っぷりだ。
特徴的な先の尖った耳でさえ愛らしい。
「と、とにかく……よろしく」
なにがとにかくなんだか判らんけれど、レイトの一言で出発することが決まった。
王城を出て貴族街を北上しながらレイトが訊ねる。
「魔王に囚われた姫君を助けるのですから、魔王の根拠地に行くことになります」
「だろうね」
重武装の女剣士ソフィアの話に胸当て程度で露出の多いアマゾネス・ヴァネッサが相槌を打つ。
「当然、その道中は王国内とは比較にならないほど危険なものとなりましょう」
レイトはこれまでの冒険を思い返して「あれよりか」と思ってしまう。
「時間がない中でも十分な準備が必要です」
話がまどろっこしいのは騎士という職業がなせる業か兄譲りの性格なのか?
「我々に今一番足りないものは魔法です」
「魔法?」
「はい。ということでまずは大聖堂に向かいます」
何がということでなのかは置いといて、どうやら三人は大聖堂というところへ向かっているらしい。
その大聖堂、国教の聖地に建てられた宗教施設で最高司祭が祈りを捧げているらしい。
だどりついた聖堂はどこが大聖堂なのかと疑いたくなるほどこじんまりとした建物だった。
もちろん神や天使を模したレリーフなど荘厳な意匠は凝らされている。
決して質素とは言えないがそこに華美さは微塵もなく、この国の宗教のあり方が体現されているようだ。
ソフィアたちは、応対に出てきた僧侶に来訪意図を告げて聖堂の中に案内される。
礼拝室に通されると、そこには聖像の前で祈りを捧げている女性が一人。
祈りが終わるのを待っていた三人に振り向いたのは歳の頃で三十前後、肉付きの良いふっくら美人だった。
「最高司祭様」
と、ソフィアが腰をかがめて礼の姿勢を取るので二人も見様見真似で礼をする。
「旅に出るのですね?」
開口一番のそれは、正直レイトの度肝を抜いた。
「やはりご存知でしたか」
「ご存知って?」
そりゃあ、問いただしたくなるってもんだ。
「伊達に最高司祭はしておりません」
と、穏やかに応える最高司祭アデルグンティス。
「十五歳で神の娘を懐胎してからは、人々に危機が訪れるたびに神からの啓示を授かっているのです」
「では、此度のことも」
「ええ、ことは王国のみならず人類全体の問題です。わたくしにはこの国と民を守る責務があります」
「では、一緒に行ってはいただけないのですか?」
「残念ながら……」
その返答でがっくりと肩を落とすソフィアにアデルグンティスは慈母の微笑みで語りかける。
「ご安心なさい。わたくしはいけませんが、娘がお供いたしましょう。当年とって十四歳とまだ年若い娘ですが、この人類の試練のために神が使わした聖女です。きっとあなたたちの力になることでしょう」
「ありがとうございます」
礼拝室に案内してくれた僧侶が、最高司祭の意を汲んで連れてきたのは幼い顔立ちの美少女だった。
本当にこのふっくら美人から生まれてきたのか? と、疑問に思うくらい長い手足の華奢な少女は、目をキラッキラと輝かせて錫杖を両手で胸の前に握りしめている。
「お母様、ついにその日が来たのですね」
小さな鈴がシャリシャリと鳴るような快活な声はレイトの聖女イメージとはちょっと遠い。
「ビルヒルティス。あなたにはこの国の、ひいては人類の存亡がかかっているのです。そのことだけは忘れないでくださいね」
「もちろんです! お母様」
聖女を仲間に加えた一行は、一路北東に進路をとる。
「まだ仲間を募るのか?」
馬車の御者席に座るレイトはその先を行く騎馬のソフィアに声をかける。
「当然だ。このパーティはバランスが悪すぎる。お前は魔法も使えるらしいが、基本は剣士だろう?」
「ああ」
「ヴァネッサも剣士、私も騎士だ」
「なるほど、魔法使いが必要ってことだな」
うん、話が早くていいね、レイト。
RPG的に考えればそうなるさ。
「アテがあるのか?」
「うむ、これから行くのは大賢者バガナス様のお住まいだ」
「お、いいね。すげー魔法をバシバシ使ってくれそうだ」
「そうだといいんですけどね」
ビルヒルティスは手持ち無沙汰なのか馬車の中で手遊びしながら割って入ってきた。
「なにか問題でも? あ、すげー偏屈とか?」
よくある大賢者のキャラだな、それは。
「偏屈なのは事実だが、それより大きな問題があるのだ」
大賢者バガナスの住む塔を訪うと、埃っぽいローブを着た弟子が「どこまで登らせるんだ?」ってほどの螺旋階段を先導する。
「バガナス様は御歳一〇四歳。旅に出るのは難しい」
案内されたその先には枯れ木のような肌色のしわくちゃな老人が、目だけは煌々と輝かせて座っていた。
「弟子との会話は聞いておったぞ」
(盗聴かよ)
いやいや、そういう言い方は野暮だわ、ここは剣と魔法のファンタジー世界だぞ。
「まったく、わしを誘いにくるのが十年遅いわ!」
(十年!? 五十年の間違いじゃないのか?)
レイト、それを言っちゃあおしめぇよ。
「頭はまだまだ冴えておる。この塔を出ないですむならどんな魔法でもいくらでも使ってやっても良いが……魔王討伐の旅など足腰立たんわ」
「そりゃ困ったねぇ」
他人事みたいな言い方をするヴァネッサにバガナスは息が抜けるような笑い方で答える。
「わしの代わりが務まるものではないが、そこの弟子なら旅につけてやってもよいぞ」
「お、お師匠!?」
「これも修行じゃ、行ってこい。魔王ごときに負けて死んで帰ってきたら承知せんぞ」
いやはや、すごいスパルタですな。
ローブをまぶかにかぶっていたお弟子さんは二の句も継げずうなだれるしかない。
そのまま旅支度に追い立てられて放り出されるように塔からパーティごと締め出されてしまう。
五人はしばし呆然と塔を見上げるしかない。
放心状態からようやく醒めたレイトは、パンと柏手を一つ打ってみんなの正気を取り戻す。
「さ、こんなところにいつまでもいるわけにはいかないんだから、出発しよう」
「あ、ああ。そうだな」
よろよろと騎乗しようとするソフィアを引き止めたのはヴァネッサだ。
「改めて自己紹介といこうじゃないか。お互い名前くらいは知っとかないと。だろ?」
と、視線を大賢者の弟子に向ける。
「そうだな。俺はレイト。魔法戦士だ」
「私は女騎士ソフィア。ついでに言えば、このレイトは次元の回廊を越えてきた救世主であり、魔王に『光の巫女の守護者』と呼ばれていた男だ」
「あたしはヴァネッサ。神殿遺跡のダンジョンに暮らしていたアマゾネスさ。ダンジョンの中は退屈だったってのもあるんだけどさ、レイト結構いい男だろ? だから一緒にいるってわけ」
そういや、最初の出会いからずっとそんなこと言ってたな。
物言いがあまりにもストレートすぎてレイトはどうとっていいものやらイマイチ計りかねているみたいだけれど。
「私は最高司祭アデルグンティスの娘ビルヒルティス。名前長いんでビルヒーって呼んでね」
「聖女様……なのか?」
「そうだ」
と答えたのはソフィア。
そこらへん、やっぱり律儀だな、騎士だけに。
「……わたしはアシュレイ。大賢者バガナスの弟子だ。…………わたしは……」
長く沈黙した後、意を決してまぶかにかぶったローブを脱いでこういった。
「わたしはハーフエルフだ」
「キレイ」
最初に漏れた感想がビルヒーからのそれだったことにアシュレイはかなり戸惑ったようだ。
実際、レイトの感想も同等以上のものだった。
長く艶やかなシルクのような髪はこんな文明レベルの低めな世界でサラサラと風になびくし、透き通るような白磁のようなきめの細かい肌に切長の目、スッと通った鼻筋とふっくらと柔らかそうな唐紅色の唇。
美人揃いのこのパーティーでも群を抜く美形っぷりだ。
特徴的な先の尖った耳でさえ愛らしい。
「と、とにかく……よろしく」
なにがとにかくなんだか判らんけれど、レイトの一言で出発することが決まった。
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