14 それぞれの役目

ー/ー



「アーテル帝国……?」

 法皇だの、独立宗教国家だの。転移術だの、魔術統制だの。小難しい話題でミチルの脳は飽和状態になりかけていた。
 そこへ最後に、爆弾のように投下された知らない国の名前。ミチルのゲーム脳では、「帝国」とつく国はだいたいワルモノである。

「そこはどういう国なんだ?」

 発展途上の大陸にあるルブルム出身のアニーも、ミチル同様、知識がパンクしそうな顔をしていた。
 そんな二人の様子に溜息を吐きながら、エリオットはギャル男特有の言葉で説明してやる。

「アーテルは、今一番ノリノリでイケイケの独裁国家だよ。今の皇帝が帝位についてからは急激に領地を拡大して、近隣諸国を次々に属国化してる」

「おお……怖そうだし、悪そうだね」

 ミチルは自分のゲーム常識にある印象を述べただけだったが、エリオットはそれに大いに頷いた。

「まあ、侵略された国にとっちゃ悪いし、アーテルに近いアルブスやフラーウムなんかにしたら怖い国ではあるな」

「そんなに近いの?」

アルブス(うち)はまだ他の国を隔ててるからマシだけど、フラーウムは国境を接してるよな?」

 エリオットがそう聞くと、ジンは今までで一番険しい顔で答えた。

「うむ。ほんの僅かだが。そして、その境の街こそ……カレンデュラだ」

「ええっ!?」

 そこまで聞けば、ミチルにも何故エリオットやジンが怖い顔をしているかわかる。
 アニーも閃いたような顔をして手を打った。

「そうか! このガキがいた街はアーテル帝国の息がかかってて、そこを拠点にしている鐘馗(しょうき)会も然りって事だな?」

「……確証はねえけど、状況がそう物語ってんな」

 慎重に思考するエリオット。それは王族ならではの理性と俯瞰に満ちた物言いだった。
 
「確かにそう考えると、全ての辻褄が合う。合いすぎて気味が悪いくらいだが」

 ジンの言葉に、エリオットは更に慎重さを込めて言った。

「そうだよ、これはまだおれ達の想像の域を出ていない。符号しすぎるものは逆に怪しまないとならねえ。そこのところを念頭において、調べる必要がある」

「ふむ。儂らの思考をそこに誘導しているかもしれぬ、という事だな。先入観を持ちすぎては真実が曇るばかりだ」

 ええ、何この二人。軍師の会議みたいじゃん。
 頭の良過ぎる会話に、ミチルはついていかれない代わりに、ちょっと興奮する。


 
「殿下」

 二人の間を割って、本日冴えているぽんこつナイトが手を挙げた。

「なんだ、ジェイ?」

「飛躍し過ぎかもしれないが、ベスティアの増加もアーテル帝国が関わっているだろうか」

 すると、エリオットは眉をひん曲げて唸るように言った。

「んん……そこまでは考え過ぎだな。でも実際、ガキがベスティアを吐き出してるんだ。関連づけて調べるのは悪くない」

「なるほど。つまり、アーテル帝国まわりを調べると色々わかるかもしれないな」

 ジェイの発言が、今までの内容を総括しているように思えた。だが、エリオットの表情は暗い。

「それが一番近道ではある。だけど、一番危険でもある」

「ああ、相手は悪の帝国だもんな!」

 楽観的なアニーの思考を、エリオットは黙って睨み、ジンが溜息混じりに嗜めた。

()だとは誰も言っておらん。アーテルは自国の発展に熱心なだけだ。勝手にそう決めつけては真実が曇ると言っただろうが」

「にゅにゅ……」

「そういうこと。アーテルは確かに法皇に逆らってる。でも、法皇だって正義なんかじゃねえ。何が悪いとか、正しいとかはまだ誰にもわかんねえよ」
 
「だが、ベスティアの存在は悪だ」

 エリオットの発言を簡単には飲み込めないジェイが、語気を強めて言った。
 
「我がカエルレウムでは、ベスティアに殺された者が多数いる。あれの存在を許してはならない。そしてそれを操っている者も」

「……だな。おれは、ベスティアっていうのはこの世界の大きな意思によって、超自然的に発生してるんだと思ってた。だけどそうじゃないかもしれない。ひょっとしたら人為的な何かが関係してるのかも。そうだとしたら、それを起こしている存在は()()()()()()()()悪なんだろう」

「む……どういうことだ?」

 戸惑うジェイに、王子が与えた命令はシンプルだった。

「ぽんこつのお前は、自分が思う悪──ベスティアを斬って斬って斬りまくれ。その背後に何があるかは、おれとジンが探ってやる」

「ふむ、承知した!」

 ジェイの表情は晴れていた。
 そう。ぽんこつナイトはいつだってシンプルでなくっちゃ。
 百パーセントの善意でミチルのそばにいてくれたように。

「あのー、俺は?」

 おずおずと手を挙げるアニーにも、エリオットは口端を上げながら言った。

「お前も顔に似合わず脳筋だからな、好きにしろよ。ただし、私怨に囚われ過ぎんなよ」

「ははっ、耳が痛いけどわかった。じゃあ、俺はミチルの身辺警護だな! 絶対にミチルを護ってみせる!」

 やだあ、それって噂のセ〇ム彼氏ってやつじゃない?
 アニーの弾ける笑顔に、ミチルはやっぱりちょっと興奮した。


 
「それで、これから我らはどう動くのだ?」

 ジェイの質問に、エリオットはうーんと伸びをしてからその予定を考える。

「そうだなあ。当初の目的通り、ミチルのこととベスティアのことを調べにカエルレウムを目指すのがいいだろうな。そのついでにカレンデュラに寄り道して、アーテルか鐘馗会のことを少し探れたらいいかもしんねえ」

「あのぉ、先生は……?」

 ミチルは恐る恐るジンの様子を伺った。第四のイケメンとか認定されても、本人にその意思があるかどうか。
 行かないなんて言われたらどうしよう。どSでどスケベな師範でも、すでにジンとも離れがたい。

「その行程に、都も加えてくれ。まずは皇帝陛下に謁見して、ことの次第など報告したい。上手くいけば船くらいは貸してもらえるかもしれん」

「マジで! さすが元官僚だな!」

 ジンの申し出に、エリオットは指をパチンと鳴らして喜んだ。

「じゃあ、先生も来てくれるの?」

 ミチルの確認に、毒舌師範はこの上ない慈愛の微笑みで答えた。

「当然だ。もはや儂とシウレンは一心同体。死すらも我らを分つことはできぬ」

 ほぎゃああ! カッコイイー!!
 熟した男の熱視線に射抜かれてしまったあ!

「では、出発は明日の朝だ」

 ミチルが暢気に興奮していると、ジンの言葉で三人のイケメン達が急にピリついた。

「……なるほど」

「そうか」

「勝負だな」


 
 今夜は誰がミチルと同衾するのか!?
 血で血を洗う大抗争が、再び繰り広げられようとしていた!

 きええええっ!
 ちょっと、今夜くらいはちゃんと寝ない!?


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次のエピソードへ進む 15 くしゃみ、いつたび


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「アーテル帝国……?」
 法皇だの、独立宗教国家だの。転移術だの、魔術統制だの。小難しい話題でミチルの脳は飽和状態になりかけていた。
 そこへ最後に、爆弾のように投下された知らない国の名前。ミチルのゲーム脳では、「帝国」とつく国はだいたいワルモノである。
「そこはどういう国なんだ?」
 発展途上の大陸にあるルブルム出身のアニーも、ミチル同様、知識がパンクしそうな顔をしていた。
 そんな二人の様子に溜息を吐きながら、エリオットはギャル男特有の言葉で説明してやる。
「アーテルは、今一番ノリノリでイケイケの独裁国家だよ。今の皇帝が帝位についてからは急激に領地を拡大して、近隣諸国を次々に属国化してる」
「おお……怖そうだし、悪そうだね」
 ミチルは自分のゲーム常識にある印象を述べただけだったが、エリオットはそれに大いに頷いた。
「まあ、侵略された国にとっちゃ悪いし、アーテルに近いアルブスやフラーウムなんかにしたら怖い国ではあるな」
「そんなに近いの?」
「|アルブス《うち》はまだ他の国を隔ててるからマシだけど、フラーウムは国境を接してるよな?」
 エリオットがそう聞くと、ジンは今までで一番険しい顔で答えた。
「うむ。ほんの僅かだが。そして、その境の街こそ……カレンデュラだ」
「ええっ!?」
 そこまで聞けば、ミチルにも何故エリオットやジンが怖い顔をしているかわかる。
 アニーも閃いたような顔をして手を打った。
「そうか! このガキがいた街はアーテル帝国の息がかかってて、そこを拠点にしている|鐘馗《しょうき》会も然りって事だな?」
「……確証はねえけど、状況がそう物語ってんな」
 慎重に思考するエリオット。それは王族ならではの理性と俯瞰に満ちた物言いだった。
「確かにそう考えると、全ての辻褄が合う。合いすぎて気味が悪いくらいだが」
 ジンの言葉に、エリオットは更に慎重さを込めて言った。
「そうだよ、これはまだおれ達の想像の域を出ていない。符号しすぎるものは逆に怪しまないとならねえ。そこのところを念頭において、調べる必要がある」
「ふむ。儂らの思考をそこに誘導しているかもしれぬ、という事だな。先入観を持ちすぎては真実が曇るばかりだ」
 ええ、何この二人。軍師の会議みたいじゃん。
 頭の良過ぎる会話に、ミチルはついていかれない代わりに、ちょっと興奮する。
「殿下」
 二人の間を割って、本日冴えているぽんこつナイトが手を挙げた。
「なんだ、ジェイ?」
「飛躍し過ぎかもしれないが、ベスティアの増加もアーテル帝国が関わっているだろうか」
 すると、エリオットは眉をひん曲げて唸るように言った。
「んん……そこまでは考え過ぎだな。でも実際、ガキがベスティアを吐き出してるんだ。関連づけて調べるのは悪くない」
「なるほど。つまり、アーテル帝国まわりを調べると色々わかるかもしれないな」
 ジェイの発言が、今までの内容を総括しているように思えた。だが、エリオットの表情は暗い。
「それが一番近道ではある。だけど、一番危険でもある」
「ああ、相手は悪の帝国だもんな!」
 楽観的なアニーの思考を、エリオットは黙って睨み、ジンが溜息混じりに嗜めた。
「|悪《・》だとは誰も言っておらん。アーテルは自国の発展に熱心なだけだ。勝手にそう決めつけては真実が曇ると言っただろうが」
「にゅにゅ……」
「そういうこと。アーテルは確かに法皇に逆らってる。でも、法皇だって正義なんかじゃねえ。何が悪いとか、正しいとかはまだ誰にもわかんねえよ」
「だが、ベスティアの存在は悪だ」
 エリオットの発言を簡単には飲み込めないジェイが、語気を強めて言った。
「我がカエルレウムでは、ベスティアに殺された者が多数いる。あれの存在を許してはならない。そしてそれを操っている者も」
「……だな。おれは、ベスティアっていうのはこの世界の大きな意思によって、超自然的に発生してるんだと思ってた。だけどそうじゃないかもしれない。ひょっとしたら人為的な何かが関係してるのかも。そうだとしたら、それを起こしている存在は|お《・》|れ《・》|達《・》|に《・》|と《・》|っ《・》|て《・》|の《・》悪なんだろう」
「む……どういうことだ?」
 戸惑うジェイに、王子が与えた命令はシンプルだった。
「ぽんこつのお前は、自分が思う悪──ベスティアを斬って斬って斬りまくれ。その背後に何があるかは、おれとジンが探ってやる」
「ふむ、承知した!」
 ジェイの表情は晴れていた。
 そう。ぽんこつナイトはいつだってシンプルでなくっちゃ。
 百パーセントの善意でミチルのそばにいてくれたように。
「あのー、俺は?」
 おずおずと手を挙げるアニーにも、エリオットは口端を上げながら言った。
「お前も顔に似合わず脳筋だからな、好きにしろよ。ただし、私怨に囚われ過ぎんなよ」
「ははっ、耳が痛いけどわかった。じゃあ、俺はミチルの身辺警護だな! 絶対にミチルを護ってみせる!」
 やだあ、それって噂のセ〇ム彼氏ってやつじゃない?
 アニーの弾ける笑顔に、ミチルはやっぱりちょっと興奮した。
「それで、これから我らはどう動くのだ?」
 ジェイの質問に、エリオットはうーんと伸びをしてからその予定を考える。
「そうだなあ。当初の目的通り、ミチルのこととベスティアのことを調べにカエルレウムを目指すのがいいだろうな。そのついでにカレンデュラに寄り道して、アーテルか鐘馗会のことを少し探れたらいいかもしんねえ」
「あのぉ、先生は……?」
 ミチルは恐る恐るジンの様子を伺った。第四のイケメンとか認定されても、本人にその意思があるかどうか。
 行かないなんて言われたらどうしよう。どSでどスケベな師範でも、すでにジンとも離れがたい。
「その行程に、都も加えてくれ。まずは皇帝陛下に謁見して、ことの次第など報告したい。上手くいけば船くらいは貸してもらえるかもしれん」
「マジで! さすが元官僚だな!」
 ジンの申し出に、エリオットは指をパチンと鳴らして喜んだ。
「じゃあ、先生も来てくれるの?」
 ミチルの確認に、毒舌師範はこの上ない慈愛の微笑みで答えた。
「当然だ。もはや儂とシウレンは一心同体。死すらも我らを分つことはできぬ」
 ほぎゃああ! カッコイイー!!
 熟した男の熱視線に射抜かれてしまったあ!
「では、出発は明日の朝だ」
 ミチルが暢気に興奮していると、ジンの言葉で三人のイケメン達が急にピリついた。
「……なるほど」
「そうか」
「勝負だな」
 今夜は誰がミチルと同衾するのか!?
 血で血を洗う大抗争が、再び繰り広げられようとしていた!
 きええええっ!
 ちょっと、今夜くらいはちゃんと寝ない!?