3 幻想桃尻伝

ー/ー



 師範代のお兄さんは、拳大の青い石を、一同が座るテーブルの上にコトリと置いた。
 ジェイも、アニーも、エリオットも。それからミチルでさえも、その石が持つ重大な意味を瞬時に悟る。

「なんだ、これは」

 事情を知らないジンは、怪訝な顔でその石を見ていた。
 すると師範代のお兄さんが静かな声で報告する。

「は。先生が鐘馗(しょうき)会と思われる人影を追って行った後、我々は大会の会場を片付けておりました。すると先生達が戦っていた付近にこれが落ちていたのです。その場の誰にも覚えがありませんでしたので、町長様の許可をいただいて預かって参りました」

「うん? だが儂にも覚えはないぞ、こんなもの」

 ヒョイと石を手に取って、ジンはそれをゆっくり眺めた。青い石は、部屋の緩い照明を受けたためか鈍く光っている。


 
「いや、それ、デスティニー・ストーンだろ!」

「です……何だって?」

 アニーが派手な声を上げて、その手の石を指さしても、ジンは眉をひそめて首を傾げていた。
 ちなみに、その中二全開の名称は、アニーの個人的なセンスである。

「……今のは正式な名前じゃねえ。忘れろ」

 その隣で、エリオットは苦虫を噛み潰したような顔をしており、更に悔しそうに続ける。

「その石は、特殊なベスティアを倒すと現れる正体不明の石だ。その石があるという事は、てめえが特殊なベスティアに遭遇し、更にはミチルの力を借りて倒したってことを物語ってる。どうだ?」

 ジンとミチルに起こった出来事について、澱みなく語ってみせたエリオットに、ミチルは感心してしまった。

「さすがエリオット! 頭いいっ!」

 いつもならミチルが褒めれば調子に乗るような性格だが、今のエリオットは真面目な顔を崩さずに、ジンだけを睨んでいた。
 その様子に、ミチルは思わず肩を竦めて黙る。


 
「ふむ、ベスティアとは黒獣(こくじゅう)のことだったな。確かにその通りだ、驚いたぞ」

「こくじゅう?」

 素直に驚きながら答えたジンの言葉に、エリオットが少し首を傾げるので、ミチルはおずおずと付け足した。

「先生はベスティアのことをそう呼んでたんだ。多分、黒い獣って意味だと思うけど……」

「ふうん、所変われば、ってことか」

 難しい顔のままで考え続けるエリオットの表情は、少し怖い。ミチルはやや不安になった。


 
「何故貴様は、儂とシウレンに起こった出来事をそんなに正確にわかったのだ?」

 ジンの疑問は当然で、ミチルがどう答えようか考えている間に、エリオットはジェイとアニーにも目配せをする。
 そして三人のイケメン達は揃って各々が持つ青い石を、テーブルの上に出した。

「なっ……! それは、同じ石か?」

 更に驚くジンを見据えて、エリオットは尚も憎らしそうに顔を歪めて言う。

「そうだよ。おれ達は全員、特殊なベスティアと戦い、ミチルに武器を再生成してもらってそれを倒してる。この石は、おれ達とミチルを繋ぐ『絆』だ」

「……」

 ジンが言葉を見失っていると、アニーがまた派手な声で項垂れた。

「勘弁してくれよお! 第四の男じゃねえかあ! 俺達が目を離してる隙に新しいライバル出来ちゃってるじゃあん!」

「なんだと? どういう事だ?」

 突っ伏して足をバタバタさせて悔しがるアニーの横で、ジェイがくそ真面目な顔でジンに言う。

「つまり、貴殿と我ら三人──この四人は、今、この場からミチルに対して対等だと言うことだ」

 あれ? そういう結論で良かったんだっけ?
 もっとさあ、チル一族とか、ベスティアとか、世界の危機とか、そういう事の方が大事じゃない?

 ミチルはそんな疑問を浮かべていたけれど、本当の重大さの方で議論するのは怖いので、つい黙ってしまった。
 
「クソ魔ジジイの言ってたことが、本当になりやがった……」

 唯一事態を正確に把握していたように見えたエリオットも、新たな恋敵の出現を悔しがるだけ。
 ミチルはますます、考えるべき話題を言えなくなっていた。
 
 だって、結局、オレって何者なのってことになるんでしょ。そんなの怖いよ。


 
「なるほど。そういう事か……」

 ミチルの隣でジンは少し考えた後、対面する若者三人を見比べて不敵に笑う。

「ふ。儂の敵がこのような若造だとはな、これでは勝負にならん」

 それは遥か高みから見下ろす百戦錬磨の強者(スーパー・テクニシャン)の余裕の笑みだった!

「なな、何だとぉ!? てめえ、おれがミチルにキス30回で上書きしたのを知らねえな!?」

「おおい、エリオットぉ!」

 負けじと反論する小悪魔プリンスのエロ発言に、ミチルは慌てて釘を刺そうとした。
 だがしかし。

「ふざけんなよ! 俺だってミチルを毎晩抱いて寝てたからなあ!?」

「アニィイ!」

 ホストアサシンも参戦し、ミチルは羞恥で真っ赤になって叫んだ。
 だが更に。

「毎晩抱くのは当然だ」

「それはデフォルトだろ、アニー」

 ジンもエリオットもしれっと言ってのける。そこでアニーは追撃を試みた。

「お、おお、俺なんか、ミチルの腰のきわどーい所まで触ったからなあ!」

「キャアアアア!」

 苦し紛れに物凄い告白をするなあ! 思い出してムズムズするぅ!
 その前に、毎晩同衾がデフォとか言わないでえ!

「ふっ、ぬるいな、小僧ども」

 アニーの負け惜しみを一笑に付して、高みを極めしスーパー・テクニシャンはその美しい指先を見せつけ、トドメの一言を放った。

「シウレンは儂のマッサージで毎晩ヨがっていたぞ」

「え……」

 アニーもエリオットも、揃って石化したように固まった。

「儂の指に翻弄されて、朝まで××まくりだ」

「コラアァア!!」

 オレだけじゃなくて、イケメンにまで伏せ字を披露するなぁ!
 あながち間違いでもないから始末が悪く、ミチルの顔はマグマのように燃え上がる。

「ミチルゥ! おしりは、おしりは守ったよね!? 俺のために守ってくれたんだよね!?」

 アニーは号泣の果てに大混乱!

「ミチル! 我が妻よ! 心配するな、すぐにおれがNTRで清めてやるからな!」

 エリオットもサレ夫気分に酔いしれる!

「もう、やだあ! 助けてえ、ジェイ!」

 こうなったらエロ思考などに左右されない、鉄壁のアホだけが頼りだ。
 だが、彼も。

「むうぅう……! 胸が、胸が焦げるッ!」

 苦悶してブルブル震えるぽんこつナイトに、ミチルは思わずしがみついた。

「せめてジェイはしっかりしてぇ!」



「ミチルゥ! おしりの具合だけでも教えてえ!」

 泣き叫ぶアニーの問いに、ミチルは思わず大声で答えてしまった。



 

「オレのおしりは無傷に決まってんだろぉおお!!」


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次のエピソードへ進む 4 深窓のミチル!?


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 師範代のお兄さんは、拳大の青い石を、一同が座るテーブルの上にコトリと置いた。
 ジェイも、アニーも、エリオットも。それからミチルでさえも、その石が持つ重大な意味を瞬時に悟る。
「なんだ、これは」
 事情を知らないジンは、怪訝な顔でその石を見ていた。
 すると師範代のお兄さんが静かな声で報告する。
「は。先生が|鐘馗《しょうき》会と思われる人影を追って行った後、我々は大会の会場を片付けておりました。すると先生達が戦っていた付近にこれが落ちていたのです。その場の誰にも覚えがありませんでしたので、町長様の許可をいただいて預かって参りました」
「うん? だが儂にも覚えはないぞ、こんなもの」
 ヒョイと石を手に取って、ジンはそれをゆっくり眺めた。青い石は、部屋の緩い照明を受けたためか鈍く光っている。
「いや、それ、デスティニー・ストーンだろ!」
「です……何だって?」
 アニーが派手な声を上げて、その手の石を指さしても、ジンは眉をひそめて首を傾げていた。
 ちなみに、その中二全開の名称は、アニーの個人的なセンスである。
「……今のは正式な名前じゃねえ。忘れろ」
 その隣で、エリオットは苦虫を噛み潰したような顔をしており、更に悔しそうに続ける。
「その石は、特殊なベスティアを倒すと現れる正体不明の石だ。その石があるという事は、てめえが特殊なベスティアに遭遇し、更にはミチルの力を借りて倒したってことを物語ってる。どうだ?」
 ジンとミチルに起こった出来事について、澱みなく語ってみせたエリオットに、ミチルは感心してしまった。
「さすがエリオット! 頭いいっ!」
 いつもならミチルが褒めれば調子に乗るような性格だが、今のエリオットは真面目な顔を崩さずに、ジンだけを睨んでいた。
 その様子に、ミチルは思わず肩を竦めて黙る。
「ふむ、ベスティアとは|黒獣《こくじゅう》のことだったな。確かにその通りだ、驚いたぞ」
「こくじゅう?」
 素直に驚きながら答えたジンの言葉に、エリオットが少し首を傾げるので、ミチルはおずおずと付け足した。
「先生はベスティアのことをそう呼んでたんだ。多分、黒い獣って意味だと思うけど……」
「ふうん、所変われば、ってことか」
 難しい顔のままで考え続けるエリオットの表情は、少し怖い。ミチルはやや不安になった。
「何故貴様は、儂とシウレンに起こった出来事をそんなに正確にわかったのだ?」
 ジンの疑問は当然で、ミチルがどう答えようか考えている間に、エリオットはジェイとアニーにも目配せをする。
 そして三人のイケメン達は揃って各々が持つ青い石を、テーブルの上に出した。
「なっ……! それは、同じ石か?」
 更に驚くジンを見据えて、エリオットは尚も憎らしそうに顔を歪めて言う。
「そうだよ。おれ達は全員、特殊なベスティアと戦い、ミチルに武器を再生成してもらってそれを倒してる。この石は、おれ達とミチルを繋ぐ『絆』だ」
「……」
 ジンが言葉を見失っていると、アニーがまた派手な声で項垂れた。
「勘弁してくれよお! 第四の男じゃねえかあ! 俺達が目を離してる隙に新しいライバル出来ちゃってるじゃあん!」
「なんだと? どういう事だ?」
 突っ伏して足をバタバタさせて悔しがるアニーの横で、ジェイがくそ真面目な顔でジンに言う。
「つまり、貴殿と我ら三人──この四人は、今、この場からミチルに対して対等だと言うことだ」
 あれ? そういう結論で良かったんだっけ?
 もっとさあ、チル一族とか、ベスティアとか、世界の危機とか、そういう事の方が大事じゃない?
 ミチルはそんな疑問を浮かべていたけれど、本当の重大さの方で議論するのは怖いので、つい黙ってしまった。
「クソ魔ジジイの言ってたことが、本当になりやがった……」
 唯一事態を正確に把握していたように見えたエリオットも、新たな恋敵の出現を悔しがるだけ。
 ミチルはますます、考えるべき話題を言えなくなっていた。
 だって、結局、オレって何者なのってことになるんでしょ。そんなの怖いよ。
「なるほど。そういう事か……」
 ミチルの隣でジンは少し考えた後、対面する若者三人を見比べて不敵に笑う。
「ふ。儂の敵がこのような若造だとはな、これでは勝負にならん」
 それは遥か高みから見下ろす|百戦錬磨の強者《スーパー・テクニシャン》の余裕の笑みだった!
「なな、何だとぉ!? てめえ、おれがミチルにキス30回で上書きしたのを知らねえな!?」
「おおい、エリオットぉ!」
 負けじと反論する小悪魔プリンスのエロ発言に、ミチルは慌てて釘を刺そうとした。
 だがしかし。
「ふざけんなよ! 俺だってミチルを毎晩抱いて寝てたからなあ!?」
「アニィイ!」
 ホストアサシンも参戦し、ミチルは羞恥で真っ赤になって叫んだ。
 だが更に。
「毎晩抱くのは当然だ」
「それはデフォルトだろ、アニー」
 ジンもエリオットもしれっと言ってのける。そこでアニーは追撃を試みた。
「お、おお、俺なんか、ミチルの腰のきわどーい所まで触ったからなあ!」
「キャアアアア!」
 苦し紛れに物凄い告白をするなあ! 思い出してムズムズするぅ!
 その前に、毎晩同衾がデフォとか言わないでえ!
「ふっ、ぬるいな、小僧ども」
 アニーの負け惜しみを一笑に付して、高みを極めしスーパー・テクニシャンはその美しい指先を見せつけ、トドメの一言を放った。
「シウレンは儂のマッサージで毎晩ヨがっていたぞ」
「え……」
 アニーもエリオットも、揃って石化したように固まった。
「儂の指に翻弄されて、朝まで××まくりだ」
「コラアァア!!」
 オレだけじゃなくて、イケメンにまで伏せ字を披露するなぁ!
 あながち間違いでもないから始末が悪く、ミチルの顔はマグマのように燃え上がる。
「ミチルゥ! おしりは、おしりは守ったよね!? 俺のために守ってくれたんだよね!?」
 アニーは号泣の果てに大混乱!
「ミチル! 我が妻よ! 心配するな、すぐにおれがNTRで清めてやるからな!」
 エリオットもサレ夫気分に酔いしれる!
「もう、やだあ! 助けてえ、ジェイ!」
 こうなったらエロ思考などに左右されない、鉄壁のアホだけが頼りだ。
 だが、彼も。
「むうぅう……! 胸が、胸が焦げるッ!」
 苦悶してブルブル震えるぽんこつナイトに、ミチルは思わずしがみついた。
「せめてジェイはしっかりしてぇ!」
「ミチルゥ! おしりの具合だけでも教えてえ!」
 泣き叫ぶアニーの問いに、ミチルは思わず大声で答えてしまった。
「オレのおしりは無傷に決まってんだろぉおお!!」