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第7話

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 一人の青年が、アージュの森を馬で進んでいく。
 浅黒い肌に、太い腕。竜の里では見慣れない柄の衣をまとっている。
 葉が落ちて裸になった木々の間を抜けると、一気に視界が開けた。広大な大地の中に、集落が見える。
 青年は、好奇の目で里を見渡した。それから、地図を片手に、馬に揺られながら進んでいく。
 里の大通りを抜け、一軒の家の前で立ち止まった。

「ここか……」

 つぶやくと、こんこん、と戸をたたいた。

 中から「はあい」と返事が聞こえ、すぐにがっしりとした体躯の女性が出てきた。

「どちら様?」

「鍛冶職人のデミルと申します。父トクマクに代わり、こちらへ……。あの、ラティーフさんとカラル君はいらっしゃいますか?」

 その名前を聞き、女性は納得したといった表情を浮かべた。

「はいはい、主人から聞いております。でもごめんなさいねぇ。今ちょうど二人とも竜舎に行ってて……。よかったら、ここで待っておきます?」

 女性の言葉に、デミルは少し首を振ってから答えた。

「あの、もしよろしければ竜舎までの道のりを教えていただけませんか? 例の足を無くした駆竜、リーハにも会っておきたいんです」

 女性は頷くと、竜舎への行き方を伝えた。

「竜舎はそこの道をまっすぐ。あぁそれと、リーハの房は、一番奥だから、そこに行けば会えるはずだよ」

「ありがとうございます」

 デミルは一礼すると、竜舎に向かって進み始めた。
 ひゅう、と乾いた風が頬を撫でた。冬も終わりが近づいているが、高地の風は町よりもひんやりと冷たい。思わず身体を震わせた。

 馬を繋ぎ、大きな引き戸を開ける。むわっと中から漂ってきた獣臭に、デミルは顔をしかめた。
 薄暗い竜舎の中へ足を踏み入れると、左右から視線を感じた。ぎろり、と黄色く光る眼がデミルをじっと見つめる。
 駆竜の視線を肌に受けながら、奥へ奥へ進んでいくと、一番奥の房から二人の人影が現れた。
 デミルは小走りにその人影に近寄る。

「ラティーフさん……ですか?」

 名前を呼ばれて振り向いた男は、デミルの顔を見るや、大きな笑みを浮かべた。

「デミル! 大きくなったなぁ!」

 デミルはぺこりとお辞儀をする。

「ご無沙汰しております。父からお話は伺っています。……あなたがカラル君ですね?」

 ラティーフの隣に佇む少年に目をやると、彼は静かに頷いた。

「はい。ということは、あなたが鍛冶職人の……」

「デミルです。まだまだ父には及ばないかもしれませんが、必ず力になってみせますよ」

 そう言いながら、逞しい腕を胸の前で組んで見せた。ラティーフはふっと目を細める。

「なんだか、トクマクに似てきたなぁ。雰囲気も、体格も……」

 デミルは気恥ずかしそうに顔を赤らめ、視線をそらすように房の中を覗き込んだ。

「……この駆竜が、リーハ?」

 左足の無い駆竜は、動く気配がない。まるで真っ黒な石像のようだ。

「足を無くしてからずっとこんな感じで……。元気のないリーハを見るのは、とても辛いです……」

 逆光が、カラルの顔に暗い影を落としている。

「俺は、リーハを走らせたい……。あの頃みたいに、風を切って走るリーハを見たいんです……!」

 カラルはデミルの方を振り返った。

「デミルさん、お願いします……。 リーハの義足を作ってほしいんです……!」

 その目は静かに、力強くデミルを見つめていた。人に有無を言わせぬ熱が、その瞳に宿っている。
 デミルの答えは決まっていた。

「もちろんです。必ず、リーハを走らせます」

 カラルの想いを受けて、デミルは確かな調子で言った。
 決意の言葉が、竜舎に響いた。


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 一人の青年が、アージュの森を馬で進んでいく。
 浅黒い肌に、太い腕。竜の里では見慣れない柄の衣をまとっている。
 葉が落ちて裸になった木々の間を抜けると、一気に視界が開けた。広大な大地の中に、集落が見える。
 青年は、好奇の目で里を見渡した。それから、地図を片手に、馬に揺られながら進んでいく。
 里の大通りを抜け、一軒の家の前で立ち止まった。
「ここか……」
 つぶやくと、こんこん、と戸をたたいた。
 中から「はあい」と返事が聞こえ、すぐにがっしりとした体躯の女性が出てきた。
「どちら様?」
「鍛冶職人のデミルと申します。父トクマクに代わり、こちらへ……。あの、ラティーフさんとカラル君はいらっしゃいますか?」
 その名前を聞き、女性は納得したといった表情を浮かべた。
「はいはい、主人から聞いております。でもごめんなさいねぇ。今ちょうど二人とも竜舎に行ってて……。よかったら、ここで待っておきます?」
 女性の言葉に、デミルは少し首を振ってから答えた。
「あの、もしよろしければ竜舎までの道のりを教えていただけませんか? 例の足を無くした駆竜、リーハにも会っておきたいんです」
 女性は頷くと、竜舎への行き方を伝えた。
「竜舎はそこの道をまっすぐ。あぁそれと、リーハの房は、一番奥だから、そこに行けば会えるはずだよ」
「ありがとうございます」
 デミルは一礼すると、竜舎に向かって進み始めた。
 ひゅう、と乾いた風が頬を撫でた。冬も終わりが近づいているが、高地の風は町よりもひんやりと冷たい。思わず身体を震わせた。
 馬を繋ぎ、大きな引き戸を開ける。むわっと中から漂ってきた獣臭に、デミルは顔をしかめた。
 薄暗い竜舎の中へ足を踏み入れると、左右から視線を感じた。ぎろり、と黄色く光る眼がデミルをじっと見つめる。
 駆竜の視線を肌に受けながら、奥へ奥へ進んでいくと、一番奥の房から二人の人影が現れた。
 デミルは小走りにその人影に近寄る。
「ラティーフさん……ですか?」
 名前を呼ばれて振り向いた男は、デミルの顔を見るや、大きな笑みを浮かべた。
「デミル! 大きくなったなぁ!」
 デミルはぺこりとお辞儀をする。
「ご無沙汰しております。父からお話は伺っています。……あなたがカラル君ですね?」
 ラティーフの隣に佇む少年に目をやると、彼は静かに頷いた。
「はい。ということは、あなたが鍛冶職人の……」
「デミルです。まだまだ父には及ばないかもしれませんが、必ず力になってみせますよ」
 そう言いながら、逞しい腕を胸の前で組んで見せた。ラティーフはふっと目を細める。
「なんだか、トクマクに似てきたなぁ。雰囲気も、体格も……」
 デミルは気恥ずかしそうに顔を赤らめ、視線をそらすように房の中を覗き込んだ。
「……この駆竜が、リーハ?」
 左足の無い駆竜は、動く気配がない。まるで真っ黒な石像のようだ。
「足を無くしてからずっとこんな感じで……。元気のないリーハを見るのは、とても辛いです……」
 逆光が、カラルの顔に暗い影を落としている。
「俺は、リーハを走らせたい……。あの頃みたいに、風を切って走るリーハを見たいんです……!」
 カラルはデミルの方を振り返った。
「デミルさん、お願いします……。 リーハの義足を作ってほしいんです……!」
 その目は静かに、力強くデミルを見つめていた。人に有無を言わせぬ熱が、その瞳に宿っている。
 デミルの答えは決まっていた。
「もちろんです。必ず、リーハを走らせます」
 カラルの想いを受けて、デミルは確かな調子で言った。
 決意の言葉が、竜舎に響いた。