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第4章・第3話

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「そ、その……コーヨー建設が博覧会に絡んでいることと、ボクたちの学校の生徒にどんな関係が……?」

 口の中が乾くのを感じながら、そして、なかばその答えが頭をよぎりながらも、ボクはジョンソンと呼ばれる男に問い返す。すると、彼は面倒なことを聞くな、と言った感じで頭をかきながら答える。

「今回の博覧会で未払い業者が、のらりくらりと責任を回避しているのは、博覧会協会が、元請けの業者に対して毅然とした態度を取らないからなんだ。状況を改善できなければ、以後の行政からの発注はないと建設会社に言ってれば、こんなことにはならない。海外の業者は、一度きりの受注だから、どこ吹く風だろうが……国内の建設業者については、協会の人間に差し出すものが必要だろう?」

 予想どおりの回答に、胃の中から吐き気が込み上げてくるのがわかった。
 
 まさか、自分たちのクラスメートが、そんなことに加担させられているなんて――――――。

 と、同時に先ほどの古溝さんの目配せの意味と意図が、ようやく理解できた。

(友人や同級生の女子生徒が、こんな事件に巻き込まれているなんて、湯舟敏羽には聞かせられない)

 古溝さんは、ある程度の事情を把握していた上で、そう判断したのだろう、とボクは考えた。

「この話、博覧会協会の人間から証言を得ないと、本当のことかどうか判断できないと思うんですけど……ジョンソンさん、心当たりはありませんか?」

「ウチの太客の姫から、博覧会関係の話しは色々と聞くからな……心当たりが無いわけじゃないが……」

「教えてください! お願いします」

「おいおい、そんなことを知ってどうするんだよ? 仮に法に触れる行為を見つけることができたとしても、それは、警察の仕事だろう?」

「もちろん、そうですけど……同級生を事件に巻き込んだ人間がどんな顔をしているのか一目見てやないと気が済まないんですよ」

「――――――気持ちはわからなくはないが、な……今後、ナニを聞かれても、俺の名前を出さないと誓えるか?」

「ボクは、人の顔を覚えるのが苦手だから……誰かに証言者のことを聞かれたら、ジョンソンと呼ばれていた名前につられて、西洋人っぽい顔立ちだったと返答すると思う」

「まあ、満点とは言い難いが、ギリギリ合格点ってところだ。イイだろう。ウチの常連客が、博覧会協会の石井という名前を出していた。その名刺がコレだ。なんでも、最近になって金回りが良くなった上に、未成年と関係を持ったことを言い回っているらしい」

 通称・ジョンソンが差し出した名刺には、博覧会協会・施設維持管理局の肩書きの他に、地方自治体の都市整備部職員という本来の業務の役職と思われる名称が記されていた。
 その名刺を財布に仕舞うと同時に、湯舟敏羽が古溝さんとともに、スタッフルームから出てきた。

「もう、そんなことでわざわざ呼び出さないでよ、(かっ)ちゃん!」

「でもね、ヒメ。コレは、夫婦関係ひいては、ユフネ・グループの将来に関わる大事なことですよ?」

「結婚記念日のプレゼントなんて、二人で話し合えば良いじゃない? こんなことで、娘を巻き込むなって言うの!」

 彼女たちのやり取りで、二人の会話の内容がなんとなく想像できた。

「ボクの方は、ジョンソンさんから情報を聞き出すことができた。そっちの方も話しが終わったなら、外の店で情報共有をしないか?」

 ボクの提案に彼女も同意したてくれたので、古溝さんのバーを離れ、近くの喫茶店に入って、先ほど聞き取った情報の中から、クラスメートの女子の耳に入れても問題ない箇所だけを伝える。

「――――――それで、わたしは、これからどうすれば良いの? その石井ってヒトに一緒に会いに行けばいいの?」

「いや、このヒトには、ボク一人で会いに行く。()()()()()()、キミには自宅で大人しく過ごしておいて欲しいんだ」

「どうして? イヤよ、このまま一人でジッとしているなんて!」

「理由が気になるなら、まず、そこから答えよう。一度しか言わないから、良く聞いてくれ」

「なによ?」

「キミに自宅で大人しく過ごして欲しい理由は、キミのことを愛しているからだ。犯人は、ボクたちのクラスメートを二人も襲った可能性がある。もしも、キミの身に何か起きたら――――――ボクはお寺か教会に出家して、一生を懺悔することに捧げる人生を送るだろう。キミは、ボクにそんな人生を送らせたいか?」

「はっ? えっ? 愛って? えぇ!? もう一回、もう一回ちゃんと言ってみて!」

「一度しか言わないと言っただろう? それと、ボクが何を言ったところで、キミが自宅で大人しく状況報告を待っているような性格でないことくらい、わかっているつもりだ。だから、キミには他にしてもらいたいことがある」

 努めて冷静にそう告げると、ボクが愛を告げた女子生徒は、顔を紅く染めながらも、「な、なによ、して欲しいことって……」と、たずね返してきた。そんな彼女にボクは、耳打ちして、これからの作戦を授ける。

「この作戦でうまく行くの?」

「これで、学校側の関係者が洗い出されるハズだ。なるべく、危険の及ばない方法を考えたつもりだけど、キミを巻き込むことになることに変わりはない。夏季限定の探偵事務所の業務は強制ではないから、いつでも降りてくれて構わない」

「そんな言い方されたら、やらない訳にはいかないでしょう? この代償は高くつくからね?」

「あぁ、事件が解決したら、お互いにして欲しいことを伝え合うってのはどうだい?」

「わかった、そうしよう!」

 こうして、ボクと探偵事務所の相棒は、それぞれ別行動を取ることになった。


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「そ、その……コーヨー建設が博覧会に絡んでいることと、ボクたちの学校の生徒にどんな関係が……?」
 口の中が乾くのを感じながら、そして、なかばその答えが頭をよぎりながらも、ボクはジョンソンと呼ばれる男に問い返す。すると、彼は面倒なことを聞くな、と言った感じで頭をかきながら答える。
「今回の博覧会で未払い業者が、のらりくらりと責任を回避しているのは、博覧会協会が、元請けの業者に対して毅然とした態度を取らないからなんだ。状況を改善できなければ、以後の行政からの発注はないと建設会社に言ってれば、こんなことにはならない。海外の業者は、一度きりの受注だから、どこ吹く風だろうが……国内の建設業者については、協会の人間に差し出すものが必要だろう?」
 予想どおりの回答に、胃の中から吐き気が込み上げてくるのがわかった。
 まさか、自分たちのクラスメートが、そんなことに加担させられているなんて――――――。
 と、同時に先ほどの古溝さんの目配せの意味と意図が、ようやく理解できた。
(友人や同級生の女子生徒が、こんな事件に巻き込まれているなんて、湯舟敏羽には聞かせられない)
 古溝さんは、ある程度の事情を把握していた上で、そう判断したのだろう、とボクは考えた。
「この話、博覧会協会の人間から証言を得ないと、本当のことかどうか判断できないと思うんですけど……ジョンソンさん、心当たりはありませんか?」
「ウチの太客の姫から、博覧会関係の話しは色々と聞くからな……心当たりが無いわけじゃないが……」
「教えてください! お願いします」
「おいおい、そんなことを知ってどうするんだよ? 仮に法に触れる行為を見つけることができたとしても、それは、警察の仕事だろう?」
「もちろん、そうですけど……同級生を事件に巻き込んだ人間がどんな顔をしているのか一目見てやないと気が済まないんですよ」
「――――――気持ちはわからなくはないが、な……今後、ナニを聞かれても、俺の名前を出さないと誓えるか?」
「ボクは、人の顔を覚えるのが苦手だから……誰かに証言者のことを聞かれたら、ジョンソンと呼ばれていた名前につられて、西洋人っぽい顔立ちだったと返答すると思う」
「まあ、満点とは言い難いが、ギリギリ合格点ってところだ。イイだろう。ウチの常連客が、博覧会協会の石井という名前を出していた。その名刺がコレだ。なんでも、最近になって金回りが良くなった上に、未成年と関係を持ったことを言い回っているらしい」
 通称・ジョンソンが差し出した名刺には、博覧会協会・施設維持管理局の肩書きの他に、地方自治体の都市整備部職員という本来の業務の役職と思われる名称が記されていた。
 その名刺を財布に仕舞うと同時に、湯舟敏羽が古溝さんとともに、スタッフルームから出てきた。
「もう、そんなことでわざわざ呼び出さないでよ、|克《かっ》ちゃん!」
「でもね、ヒメ。コレは、夫婦関係ひいては、ユフネ・グループの将来に関わる大事なことですよ?」
「結婚記念日のプレゼントなんて、二人で話し合えば良いじゃない? こんなことで、娘を巻き込むなって言うの!」
 彼女たちのやり取りで、二人の会話の内容がなんとなく想像できた。
「ボクの方は、ジョンソンさんから情報を聞き出すことができた。そっちの方も話しが終わったなら、外の店で情報共有をしないか?」
 ボクの提案に彼女も同意したてくれたので、古溝さんのバーを離れ、近くの喫茶店に入って、先ほど聞き取った情報の中から、クラスメートの女子の耳に入れても問題ない箇所だけを伝える。
「――――――それで、わたしは、これからどうすれば良いの? その石井ってヒトに一緒に会いに行けばいいの?」
「いや、このヒトには、ボク一人で会いに行く。|本《・》|音《・》|を《・》|言《・》|え《・》|ば《・》、キミには自宅で大人しく過ごしておいて欲しいんだ」
「どうして? イヤよ、このまま一人でジッとしているなんて!」
「理由が気になるなら、まず、そこから答えよう。一度しか言わないから、良く聞いてくれ」
「なによ?」
「キミに自宅で大人しく過ごして欲しい理由は、キミのことを愛しているからだ。犯人は、ボクたちのクラスメートを二人も襲った可能性がある。もしも、キミの身に何か起きたら――――――ボクはお寺か教会に出家して、一生を懺悔することに捧げる人生を送るだろう。キミは、ボクにそんな人生を送らせたいか?」
「はっ? えっ? 愛って? えぇ!? もう一回、もう一回ちゃんと言ってみて!」
「一度しか言わないと言っただろう? それと、ボクが何を言ったところで、キミが自宅で大人しく状況報告を待っているような性格でないことくらい、わかっているつもりだ。だから、キミには他にしてもらいたいことがある」
 努めて冷静にそう告げると、ボクが愛を告げた女子生徒は、顔を紅く染めながらも、「な、なによ、して欲しいことって……」と、たずね返してきた。そんな彼女にボクは、耳打ちして、これからの作戦を授ける。
「この作戦でうまく行くの?」
「これで、学校側の関係者が洗い出されるハズだ。なるべく、危険の及ばない方法を考えたつもりだけど、キミを巻き込むことになることに変わりはない。夏季限定の探偵事務所の業務は強制ではないから、いつでも降りてくれて構わない」
「そんな言い方されたら、やらない訳にはいかないでしょう? この代償は高くつくからね?」
「あぁ、事件が解決したら、お互いにして欲しいことを伝え合うってのはどうだい?」
「わかった、そうしよう!」
 こうして、ボクと探偵事務所の相棒は、それぞれ別行動を取ることになった。