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ずる休みの代償

ー/ー



 その日は、日曜日でもなければ祝日でもない。ましてや会社の創立記念日でもないごく普通の平日の朝だった。

 だというのに、ゆうべの酒がまだ残っているのか、午前10時を過ぎてもまだベッドから起きる様子を見せない、会社員『木村一平』25歳。

 その彼が目を覚ましたのは、枕元で突然けたたましく鳴りだしたスマホの音に驚いての事であった。


「うわっ!!」


 ベッドの上で夢見心地だった木村の環境は、一瞬にして最悪の状況へと様変わりした。時計を見れば、今頃は会社で朝のミーティングを終えとっくに営業活動に回っていなければならない時刻である。

 しかも、自分の右手でけたたましく鳴っているスマホの液晶には
『会社』の二文字。

「ヤバ……絶対課長だよな、コレ……」

 上司の丸山課長は、決して部下の心配をして電話をかけて来てくれるような優しいタマではない。その課長が何故電話をかけて来たのかは、容易に見当がつくというものだ。

「……………」

 木村は、いっその事このまま居留守を決め込もうかとも思ったが、いつまでも鳴り止まないスマホの威圧感に根負けして、渋々と通話のボタンを押した。

「あの……おはようございます……課長……」

『おはようございますじゃねぇぇええ~っ! 今何時だと思ってんだぁぁ~っ!』

 思わずスマートフォンの音量を三つ下げる木村。

『お前、先週か忘れていないだろうな?!』

 思えば、先週も寝坊で遅刻してしまった。

 その時、丸山課長の前で『もう二度と遅刻しません』と宣言した上での、この不始末である。

「いやっ! 課長。今回はのっぴきならない用事がございまして!」

 とっさに自己防衛本能が働いた木村は、課長に嘘をついた。

「実は課長…私、先週辺りから少し体調が思わしくありませんでして……今日は病院にて診断をしてもらおうと……」

『何?体調が…?』

 課長のテンションが少しやわらいだ。ここはこのまま一気に攻めるしかない。

「ええ! しかも、風邪とかそんな生易しいものでは無いんです! 何というか、その……胸がズキズキと痛むような……私、心臓でも悪いんですかね?」

『そうか、それは大変だな……』

 スマホから聴こえるその課長の意外な言葉に、木村は心の中で小さくガッツポーズを決めた。

(チョロイぜ!丸山!)

「ええ、そんな訳ですから……」

 しかし、喜んだのも束の間。木村は丸山課長の次の言葉によって、奈落の底へと堕とされる羽目になるのだった。




『それじゃ木村君、今日は休んで良いから。
その代わり明日、病院の『診断書』を私の所に必ず提出するように!』

「し、診断書ですか……」

 丸山課長は全てを見抜いていたのだろうか?いずれにしても、この丸山課長のひと言によって木村は窮地に立たされてしまった。

「診断書って……」

 生まれてからこの方、風邪はおろか虫歯にすらなった事の無い超健康優良児の木村には、診断書など無縁の物であった。

 しかも、心臓がズキズキ痛むなんて余計な事まで言ってしまった。

「とりあえず、病院行ってくるかぁ……ハァ…」

 ため息をついて、アパートを後にし、隣町の大学病院行きのバスを待つ木村。その様子は、すっかりしょげこみ、雰囲気だけはまるで病人のようである。

 そんな、超健康優良児でありながら病院で診断書を貰おうなどという無謀な考えの木村の身に、この後予想だにしない不幸な出来事が待っているとは、一体誰が想像できただろう。(つづく)


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 その日は、日曜日でもなければ祝日でもない。ましてや会社の創立記念日でもないごく普通の平日の朝だった。
 だというのに、ゆうべの酒がまだ残っているのか、午前10時を過ぎてもまだベッドから起きる様子を見せない、会社員『木村一平』25歳。
 その彼が目を覚ましたのは、枕元で突然けたたましく鳴りだしたスマホの音に驚いての事であった。
「うわっ!!」
 ベッドの上で夢見心地だった木村の環境は、一瞬にして最悪の状況へと様変わりした。時計を見れば、今頃は会社で朝のミーティングを終えとっくに営業活動に回っていなければならない時刻である。
 しかも、自分の右手でけたたましく鳴っているスマホの液晶には
『会社』の二文字。
「ヤバ……絶対課長だよな、コレ……」
 上司の丸山課長は、決して部下の心配をして電話をかけて来てくれるような優しいタマではない。その課長が何故電話をかけて来たのかは、容易に見当がつくというものだ。
「……………」
 木村は、いっその事このまま居留守を決め込もうかとも思ったが、いつまでも鳴り止まないスマホの威圧感に根負けして、渋々と通話のボタンを押した。
「あの……おはようございます……課長……」
『おはようございますじゃねぇぇええ~っ! 今何時だと思ってんだぁぁ~っ!』
 思わずスマートフォンの音量を三つ下げる木村。
『お前、先週《《俺になんて言った》》か忘れていないだろうな?!』
 思えば、先週も寝坊で遅刻してしまった。
 その時、丸山課長の前で『もう二度と遅刻しません』と宣言した上での、この不始末である。
「いやっ! 課長。今回はのっぴきならない用事がございまして!」
 とっさに自己防衛本能が働いた木村は、課長に嘘をついた。
「実は課長…私、先週辺りから少し体調が思わしくありませんでして……今日は病院にて診断をしてもらおうと……」
『何?体調が…?』
 課長のテンションが少しやわらいだ。ここはこのまま一気に攻めるしかない。
「ええ! しかも、風邪とかそんな生易しいものでは無いんです! 何というか、その……胸がズキズキと痛むような……私、心臓でも悪いんですかね?」
『そうか、それは大変だな……』
 スマホから聴こえるその課長の意外な言葉に、木村は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
(チョロイぜ!丸山!)
「ええ、そんな訳ですから……」
 しかし、喜んだのも束の間。木村は丸山課長の次の言葉によって、奈落の底へと堕とされる羽目になるのだった。
『それじゃ木村君、今日は休んで良いから。
その代わり明日、病院の『診断書』を私の所に必ず提出するように!』
「し、診断書ですか……」
 丸山課長は全てを見抜いていたのだろうか?いずれにしても、この丸山課長のひと言によって木村は窮地に立たされてしまった。
「診断書って……」
 生まれてからこの方、風邪はおろか虫歯にすらなった事の無い超健康優良児の木村には、診断書など無縁の物であった。
 しかも、心臓がズキズキ痛むなんて余計な事まで言ってしまった。
「とりあえず、病院行ってくるかぁ……ハァ…」
 ため息をついて、アパートを後にし、隣町の大学病院行きのバスを待つ木村。その様子は、すっかりしょげこみ、雰囲気だけはまるで病人のようである。
 そんな、超健康優良児でありながら病院で診断書を貰おうなどという無謀な考えの木村の身に、この後予想だにしない不幸な出来事が待っているとは、一体誰が想像できただろう。(つづく)