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第3章~第11話~

ー/ー



 センタープラザで購入してきた品の紙袋を広げた夕方の我が家では、華麗(?)なミニ・ファッションショーが開催された。

 ママス&パパスの「California Dreamin'」
 デヴィッド・ボウイの「Lady Grinning Soul」
 ルー・リードの「Berlin」

 など、何年か前のパリコレのショーで使われたという楽曲を三浦先生が、チョイスして教えてくれたので、動画サイトにアクセスしたボクが、タブレットPCから音楽を再生し、モデルの憲二さんは、困惑しながらもランウェイに見立てたリビングを何度も歩いたのだ。

「40近い年齢(トシ)のオッサンに、こんなことやらせるんじゃないよ……」

 慣れないモデル・ウォークをさせられたからだろう、すっかり辟易したといった感じで愚痴をこぼす叔父だったが、

「いいえ、野田さん。こうして胸を張って歩くと、若々しく見えますし、とても40歳が近いとは思えませんよ」

という、どう聞いても見え見えのお世辞を聞いて、すぐに表情を緩めてボクに小声で語りかけてくる。

「おい、聞いたか耕史? 三浦先生がオレのことを若々しく見えるだってよ!」

 若く(これは、ボク自身ではなく憲二さんの立場からの視点だ)、容姿の優れた(こちらは、おそらく叔父と甥の共通理解だ)女性から高い評価を受けたことで、すっかり舞い上がってしまった叔父の姿に、心のなかで苦笑しながらも、ボクは、こうした状況に陥ってしまった相手に対して、揶揄したり、からかったりするのではなく、キューピッド役に徹することを心に決めた。

「もちろん、聞いたよ。今日の服は、三浦先生が選んでくれたんだ。憲二さんが若く見える服をチョイスしてくれたってことはさ……先生と憲二さんは、相性が良いんじゃないの? 服を選んでくれたお礼に食事でも誘ってみたら?」

 まるで、主人公の恋をもり立てようとするラブコメ漫画の友達キャラのようなセリフを口走ってしまったボクに対して、叔父は、まんざらでもなさそうな表情で、

「いや〜、でもなあ……あんな綺麗なヒトがオレなんて相手をするわけが……」

などと、日和ったことを口にする。
 そのヘタレぶりに、また、心のなかでため息をつきながら、あきらめることなく、もう一度、アシストのパスを出す。

「先生! 叔父も今日の服が気に入ったみたいです。服を選んでくれたお礼に、『食事でもどうか?』と考えているみたいなんですが、先生の夏休みの中のご予定は、どんな感じでしょうか?」

 ボクの言葉に、一瞬だけ驚いた表情を見せる担任教師に対して、我が叔父は、狼狽したような表情で、

「おい、耕史! なに勝手なことを言ってるんだ? 先生にだって都合があるだろう?」

と、こちらをたしなめるように言ってくる。

「いえ、私は二年生の耕史くんのクラス担任をさせていただいているので、今年の夏休みは、比較的、時間があるんです。これが、受験を控えた三年生の担当となると、そうもいかなくなるんですけど……」

 ボクにとっても意外なことに、担任の先生もまた、こちらのやや強引なお誘いの仕方にまんざらでもなさそうな反応を示してきた。

(おいおい、ちょっと無理やりかと思ったけど、マジかよ?)

 思った以上にスムーズに話しが進み始め、かえって戸惑うボクに、我が家の男性二名を惑わせる美人教師は、予想もしなかったことを口にした。

「お食事という魅力的なお誘いも結構なのですが……今日は、野田くんにクラス運営や職員間の話しを聞いてもらって、ずい分と気持ちが楽になりました。そのお礼に、お宅のお台所を借りて、私の料理を振る舞っても構わないでしょうか?」

 三浦先生の手料理――――――!

 その魅力的な響きに、もう何年も男同士で暮らしてきたボクたち二人は、秒で答えを出すしかなかった。

「「もちろん、構いません!」」

 興奮気味に、ハモったように返答する叔父と甥の姿を交互に見ながら、担任教師は、クスクスと声をあげて、可笑しそうに笑う。

「二人は、本当に仲が良いんですね。羨ましくなるくらい……」

 それまでの朗らかな顔から一転して、最後に少し陰を感じさせるような素振りを見せた先生のことが気になりながらも、一瞬で表情を切り替えた彼女の、

「なにか、お好きな料理などはありますか?」

という問いかけに、ボクは即答する。

「魚料理が好物です! そうだよね、憲二さん?」

「あ、あぁ。そうだな……サカナは、煮ても焼いても刺し身でも、なんでも来いです」

 突然の無茶ぶりをした自分をさておいて、なかなかに、遠慮なしの返答をする叔父の厚かましさにヒヤヒヤとしながらも、微笑みを絶やさない先生の表情に救われた気持ちになる。

「それでは……いくつかあるレシピの中から、用意させてもらおうかと思います。申し訳ありませんが、近くのスーパーまで、案内していただけませんか?」

「それじゃ、オレがクルマを出しますよ。耕史は、料理前の準備をしておいてくれないか?」

 そんな叔父の提案に従うことにしたボクは、未来の叔父と担任教師の姿を想像しながら、夕食作りに向けて、キッチンの整理を始めることにした。

 ボクのスマホには、前日まで毎日のように顔を合わせていたクラスメートから、鬼のような着信が入っていたけど、我が家の状況を鑑みて、断腸の思いで、見なかったことにさせてもらった。


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 など、何年か前のパリコレのショーで使われたという楽曲を三浦先生が、チョイスして教えてくれたので、動画サイトにアクセスしたボクが、タブレットPCから音楽を再生し、モデルの憲二さんは、困惑しながらもランウェイに見立てたリビングを何度も歩いたのだ。
「40近い|年齢《トシ》のオッサンに、こんなことやらせるんじゃないよ……」
 慣れないモデル・ウォークをさせられたからだろう、すっかり辟易したといった感じで愚痴をこぼす叔父だったが、
「いいえ、野田さん。こうして胸を張って歩くと、若々しく見えますし、とても40歳が近いとは思えませんよ」
という、どう聞いても見え見えのお世辞を聞いて、すぐに表情を緩めてボクに小声で語りかけてくる。
「おい、聞いたか耕史? 三浦先生がオレのことを若々しく見えるだってよ!」
 若く(これは、ボク自身ではなく憲二さんの立場からの視点だ)、容姿の優れた(こちらは、おそらく叔父と甥の共通理解だ)女性から高い評価を受けたことで、すっかり舞い上がってしまった叔父の姿に、心のなかで苦笑しながらも、ボクは、こうした状況に陥ってしまった相手に対して、揶揄したり、からかったりするのではなく、キューピッド役に徹することを心に決めた。
「もちろん、聞いたよ。今日の服は、三浦先生が選んでくれたんだ。憲二さんが若く見える服をチョイスしてくれたってことはさ……先生と憲二さんは、相性が良いんじゃないの? 服を選んでくれたお礼に食事でも誘ってみたら?」
 まるで、主人公の恋をもり立てようとするラブコメ漫画の友達キャラのようなセリフを口走ってしまったボクに対して、叔父は、まんざらでもなさそうな表情で、
「いや〜、でもなあ……あんな綺麗なヒトがオレなんて相手をするわけが……」
などと、日和ったことを口にする。
 そのヘタレぶりに、また、心のなかでため息をつきながら、あきらめることなく、もう一度、アシストのパスを出す。
「先生! 叔父も今日の服が気に入ったみたいです。服を選んでくれたお礼に、『食事でもどうか?』と考えているみたいなんですが、先生の夏休みの中のご予定は、どんな感じでしょうか?」
 ボクの言葉に、一瞬だけ驚いた表情を見せる担任教師に対して、我が叔父は、狼狽したような表情で、
「おい、耕史! なに勝手なことを言ってるんだ? 先生にだって都合があるだろう?」
と、こちらをたしなめるように言ってくる。
「いえ、私は二年生の耕史くんのクラス担任をさせていただいているので、今年の夏休みは、比較的、時間があるんです。これが、受験を控えた三年生の担当となると、そうもいかなくなるんですけど……」
 ボクにとっても意外なことに、担任の先生もまた、こちらのやや強引なお誘いの仕方にまんざらでもなさそうな反応を示してきた。
(おいおい、ちょっと無理やりかと思ったけど、マジかよ?)
 思った以上にスムーズに話しが進み始め、かえって戸惑うボクに、我が家の男性二名を惑わせる美人教師は、予想もしなかったことを口にした。
「お食事という魅力的なお誘いも結構なのですが……今日は、野田くんにクラス運営や職員間の話しを聞いてもらって、ずい分と気持ちが楽になりました。そのお礼に、お宅のお台所を借りて、私の料理を振る舞っても構わないでしょうか?」
 三浦先生の手料理――――――!
 その魅力的な響きに、もう何年も男同士で暮らしてきたボクたち二人は、秒で答えを出すしかなかった。
「「もちろん、構いません!」」
 興奮気味に、ハモったように返答する叔父と甥の姿を交互に見ながら、担任教師は、クスクスと声をあげて、可笑しそうに笑う。
「二人は、本当に仲が良いんですね。羨ましくなるくらい……」
 それまでの朗らかな顔から一転して、最後に少し陰を感じさせるような素振りを見せた先生のことが気になりながらも、一瞬で表情を切り替えた彼女の、
「なにか、お好きな料理などはありますか?」
という問いかけに、ボクは即答する。
「魚料理が好物です! そうだよね、憲二さん?」
「あ、あぁ。そうだな……サカナは、煮ても焼いても刺し身でも、なんでも来いです」
 突然の無茶ぶりをした自分をさておいて、なかなかに、遠慮なしの返答をする叔父の厚かましさにヒヤヒヤとしながらも、微笑みを絶やさない先生の表情に救われた気持ちになる。
「それでは……いくつかあるレシピの中から、用意させてもらおうかと思います。申し訳ありませんが、近くのスーパーまで、案内していただけませんか?」
「それじゃ、オレがクルマを出しますよ。耕史は、料理前の準備をしておいてくれないか?」
 そんな叔父の提案に従うことにしたボクは、未来の叔父と担任教師の姿を想像しながら、夕食作りに向けて、キッチンの整理を始めることにした。
 ボクのスマホには、前日まで毎日のように顔を合わせていたクラスメートから、鬼のような着信が入っていたけど、我が家の状況を鑑みて、断腸の思いで、見なかったことにさせてもらった。